アパートやマンションを、企業の社宅や学生寮として法人にまとめて貸す。空室リスクを抑えられる運営方法として、よく相談を受けるテーマです。このとき問題になるのが、「借主が法人なのに、住宅の貸付けとして消費税が非課税になるのか」という点です。
この記事では、学生寮・社宅として法人に一括貸しする場合の消費税を中心に、消費税法基本通達、国税庁のタックスアンサー、公表裁決をもとに整理します。オーナー側だけでなく借主法人側の処理、決算書と銀行からの見え方も確認します。
- 借主が法人でも、住宅として転貸することが契約書その他で明らかならオーナーの賃料は非課税(消費税法基本通達6-13-7)
- 契約に用途の記載がなくても、転借人との契約で居住用とされているなどの状況から明らかなら非課税(通達6-13-11)
- 平成28年9月7日裁決では、契約書の用途の定めと当事者の説明から、法人への転貸を含めて全額非課税とされた
- 食事付きの寮は、部屋代は非課税、食事代は課税に区分する。オーナー自身が食事を出すと個人の所得区分も変わる
- 一括貸しは収入が安定する一方、借主1社への依存として銀行に見られる。契約期間と解約条項を整理しておく
法人への一括貸しでも「住宅の貸付け」になる仕組み
社宅・寮も住宅に含まれる
消費税法別表第二第13号は、人の居住の用に供する家屋の貸付けを非課税としています。国税庁のタックスアンサー(No.6226)は、住宅には一戸建て、マンション、アパートのほか、社宅、寮、貸間なども含まれると説明しています。
転貸でも、住宅として転貸することが明らかなら非課税
社宅や学生寮の一括貸しでは、借主の法人や運営会社は自ら住むわけではなく、従業員や学生に転貸します。消費税法基本通達6-13-7は、賃借人が自ら使用しない場合でも、賃借人が住宅として転貸することが契約書その他において明らかな場合には、住宅の貸付けに含まれるとしています。同じ通達の注で、賃借人が行う転貸も住宅の貸付けに当たるとされています。
契約に用途が書かれていない場合
令和2年度の改正で、契約で用途が明らかにされていない場合でも、貸付け等の状況からみて人の居住の用に供されていることが明らかなら、非課税になりました(令和2年4月1日以後の貸付けから)。消費税法基本通達6-13-11は、例として次の場合を挙げています。
- 賃借人が個人で、住宅が居住用に使われていないことを賃貸人が把握していない場合
- 賃借人が転貸していて、賃借人と転借人の契約で居住の用に供することが明らかにされている場合
- 賃借人が転貸していて、転借人との契約で用途が明らかでないが、転借人が個人で、居住用に使われていないことを賃貸人が把握していない場合
ただし、通達6-13-10は、契約で居住用・事業用のどちらでも使えるとされている場合も「用途が明らかにされていない場合」に含まれるとしています。法人に貸す場合、最初から契約書に「社宅として従業員の住居に使用する」「学生寮として学生の住居に転貸する」と書いておくのが確実です。
| 契約・状況 | オーナーの賃料の消費税 |
|---|---|
| 契約書に「従業員の社宅として転貸する」と明記 | 非課税 |
| 契約書に用途の記載なし。転借人との契約で居住用と明記 | 非課税(通達6-13-11) |
| 契約で事務所・住居どちらにも使えるとし、居住用と明らかでない | 非課税にならないことがある |
| 契約で住宅として貸したが、契約変更で事務所用に変更 | 変更後は課税(通達6-13-8) |
| 借主が旅館業・民泊として運営する前提 | 課税 |
裁決事例:平成28年9月7日裁決(法人への転貸を含めて非課税)
国税不服審判所 平成28年9月7日裁決(裁決事例集No.104)は、転貸の場合の判断を具体的に示した公表裁決です。
事案の概要
審査請求人は、マンションの1室を売主の不動産会社から購入し、同じ会社にその部屋を賃貸しました(マスターリース)。会社はさらに、別の法人と定期建物賃貸借契約を結んで部屋を転貸しています。審査請求人は課税事業者選択届出書を提出し、会社への賃貸は住宅の貸付けではない課税取引だとして、取得時の消費税の還付を求めました。
審判所の判断
審判所は、次の事実から、会社が住宅として転貸することが契約書その他において明らかであり、賃貸借取引の全部が非課税取引に当たると判断しました。
- 賃貸借契約書に、会社の住宅賃貸事業のブランドの貸室として取り扱う旨の定めがあった
- 売買契約書に、部屋を居住の目的以外に使わない旨の定めがあり、賃貸借契約書には居住以外の用途を認める定めがなかった
- 会社の担当者が、契約時に、転貸する場合も住宅として賃貸することになると説明していた
審査請求人は「立地からオフィス的な利用も見込まれる」などと主張しましたが、認められませんでした。なお、認定された事実によれば、会社と転借人の法人との定期建物賃貸借契約書には、居室を住居専用として使用する旨の定めがありました。転借人が法人であっても、住宅として扱われる余地があることがわかります。
国税不服審判所 平成28年9月7日裁決 公表裁決事例(kfs.go.jp)
実務への示唆
この事例は、課税取引にしたい納税者の主張が退けられたものですが、裏返せば、非課税かどうかは契約書の用途の定めと当事者の説明でほぼ決まるということです。社宅・寮として貸す場合も、契約書の用途条項が判断の中心になります。
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不動産投資家向け税務・融資支援を見る食事付きの寮・サービス付きの場合
学生寮や社員寮では、食事の提供や管理人の常駐が付くことがあります。
消費税の区分
消費税法基本通達6-13-6は、一つの契約で非課税の住宅の貸付けと課税の役務の提供を約している場合、対価を合理的に区分するとし、例として食事付の寄宿舎を挙げています。国税庁のタックスアンサー(No.6226)も、まかない付きの下宿などでは、部屋代は非課税、サービス部分は課税と説明しています。
オーナーが建物だけを運営会社に貸し、運営会社が食事を提供する場合は、オーナーの賃料は非課税(住宅として転貸することが明らかな場合)で、食事代の区分は運営会社の問題です。オーナー自身が食事を提供する契約なら、オーナー側で区分が必要になります。
個人オーナーの所得区分
所得税基本通達26-4は、アパート・貸間のように食事を供さない場合は不動産所得、下宿のように食事を供する場合は事業所得または雑所得としています。建物を法人に一括で貸すだけなら、通常は不動産所得です。なお、事業を営む人が自分の従業員に寄宿舎を利用させて受ける使用料は、その事業の所得に含まれます(所得税基本通達26-8)。
借主法人側の処理
一括で借りる法人側の処理も、オーナーとして知っておくと契約交渉に役立ちます。
| 項目 | 借主法人の処理 |
|---|---|
| オーナーに払う賃料の消費税 | 非課税の住宅家賃なので、仕入税額控除の対象にならない |
| 従業員から受け取る家賃 | 住宅の転貸として非課税 |
| 従業員の給与課税 | 賃貸料相当額の50%以上を家賃として受け取っていれば、差額は給与課税されない(タックスアンサーNo.2597) |
| 賃貸料相当額の計算 | 建物・敷地の固定資産税の課税標準額などを使うため、借上げ社宅ではオーナーに課税標準額の確認を求めることがある |
| 役員に貸す場合 | 計算方法が異なる。役員社宅の賃料相当額と法人の処理を参照 |
借主から固定資産税の課税標準額の資料を求められることがあるのは、この賃貸料相当額の計算のためです。
法人と個人の違い(オーナー側)
| 項目 | 個人オーナー | 法人オーナー |
|---|---|---|
| 消費税の課税・非課税 | 同じ基準 | 同じ基準 |
| 所得区分 | 建物の貸付けだけなら不動産所得。食事を提供すれば事業所得・雑所得 | 区分なし |
| 事業的規模 | 一括貸しでも、貸与できる独立した室数などで判定 | 問題にならない |
| 建物の取得時の消費税 | 居住用賃貸建物として原則控除不可 | 同じ |
社宅・寮として貸す建物は住宅の貸付けに使うため、税抜1,000万円以上で取得すれば居住用賃貸建物に当たり、取得時の消費税は原則として控除できません。判定は居住用賃貸建物の判定実務で解説しています。一括借上げの適正賃料の考え方はサブリース方式の仕組みと適正賃料もご覧ください。
会計上の扱いと銀行からの見え方
決算書の表示
決算書は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って作ります。中小企業では「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」が拠り所です。一括貸しの賃料はオーナーの売上高です。契約で数か月分のフリーレントや賃料の段階的な改定がある場合は、契約内容に沿って期間ごとの収益を計上します。どの期にどう計上するかは契約の実態で判断することになり、顧問税理士・会計の専門家と確認してください。
銀行の見方
- 収入の安定性:企業や学校法人との一括契約は、空室の影響を受けにくい安定収入として評価されやすい
- 借主1社への依存:借主の業績や方針変更で一度に全室が空くリスクがある。借主の信用力、契約期間、中途解約条項、解約予告期間が見られる
- 契約更新時の賃料:一括借上げは賃料の見直し条項があることが多い。将来の減額を織り込んだ収支計画を求められることがある
- 返済能力:著書のモデルでは、銀行格付けの返済能力の配点が大きく、債務償還年数は10年以内を健全の目安としています。契約期間と借入期間のずれも確認されます
実務のチェックポイント
- 賃貸借契約書に、社宅・寮として住居に転貸する旨の用途条項があるか
- 契約で事務所など住居以外の用途を認めていないか
- 借主と転借人(従業員・学生)の契約で居住用と明記されているか
- 食事・清掃などのサービスを誰が提供するか。オーナーが提供するなら対価を区分しているか
- 借主が旅館業・民泊として運営する前提になっていないか
- 借主の信用力、契約期間、中途解約条項、賃料改定条項を確認したか
- 借主から固定資産税の課税標準額の資料を求められたときに提供できるか
まとめ
- 社宅・寮として法人に一括貸ししても、住宅として転貸することが契約上明らかなら非課税
- 用途の記載がなくても、状況から居住用が明らかなら非課税になり得るが、契約書に明記するのが確実
- 平成28年9月7日裁決では、契約書の用途条項と当事者の説明から全額非課税とされた
- 食事付きの寮は部屋代は非課税、食事代は課税。オーナーが食事を出すと所得区分も変わる
- 一括貸しは安定収入だが、銀行は借主1社への依存と解約条項を見る
法人向けの一括貸しは、契約書の作り方で税務の扱いがほぼ決まります。クレフティでは不動産投資家向けサポートの中で、契約条項の確認から、融資を見据えた決算書づくりまでご相談いただけます。
