資産管理法人や不動産会社を経営していると、「法人で買ったマンションに自分が住めないか」「借りている自宅を社宅にできないか」というご相談をよく受けます。役員社宅は正しく運用すれば認められる仕組みですが、役員社宅の賃料相当額と法人の処理を誤ると、役員への給与課税や源泉徴収漏れにつながります。
この記事では、所得税基本通達、国税庁のタックスアンサー(No.2600)と質疑応答事例をもとに、賃料相当額の計算方法と、法人税・消費税の処理、決算書と銀行からの見え方を整理します。
- 役員から通常の賃貸料の額(賃貸料相当額)以上を受け取れば、給与課税されない。下回れば差額が給与
- 小規模住宅(132㎡以下、耐用年数30年超の建物は99㎡以下)は、固定資産税の課税標準額と床面積の算式で計算するため、市場家賃より大幅に低くなることが多い
- 小規模住宅でなければ別の算式。借上げ社宅は会社が払う家賃の50%と比べて多い方
- 床面積240㎡超などの豪華社宅は算式を使えず、通常支払うべき使用料が基準
- 使用人の「50%以上で非課税」は役員には使えない。マンションは共用部分を含めて判定し、管理費込みの総額で計算してよい
役員社宅の考え方
法人が役員に住宅を貸し、市場の家賃より低い金額しか受け取らないと、その差額は役員が受けた経済的利益として給与になります。ただし、所得税基本通達36-40・36-41は、役員に貸した住宅の「通常の賃貸料の額」の計算方法を定めており、この額以上を受け取っていれば、給与として課税されない取扱いになっています。
計算は住宅の規模によって3つに分かれます。
| 区分 | 判定基準 | 賃貸料相当額(月額) |
|---|---|---|
| 小規模住宅 | 床面積132㎡以下(耐用年数30年超の建物は99㎡以下) | 固定資産税の課税標準額と床面積による算式(通達36-41) |
| 小規模住宅以外 | 上記を超える | 自社所有:課税標準額による算式。借上げ:会社の支払家賃の50%と比べて多い方(通達36-40) |
| 豪華社宅 | 床面積240㎡超で、取得価額・支払賃料・内外装などを総合勘案。240㎡以下でもプールなど特別な設備があれば該当 | 通常支払うべき使用料(算式は使えない) |
「耐用年数30年超の建物」とは、耐用年数省令別表第一の耐用年数が30年を超える住宅用の建物(鉄筋コンクリート造など)、「30年以下」は木造などをいいます(通達36-40の注2)。
小規模住宅の賃貸料相当額
小規模住宅の賃貸料相当額は、次の3つの合計です(タックスアンサーNo.2600)。自社所有でも借上げでも同じ式を使います。
計算例
鉄筋コンクリート造のマンションの1室(専有部分と共用部分の按分を合わせて70㎡)を、法人が所有して役員に貸す場合で考えます。この1室に対応する建物の課税標準額を600万円、敷地の課税標準額を400万円とします。
- 建物:600万円 × 0.2% = 12,000円
- 床面積:12円 ×(70㎡ ÷ 3.3㎡)≒ 255円
- 敷地:400万円 × 0.22% = 8,800円
- 合計:約21,055円(月額)
周辺の相場家賃が月20万円程度の部屋でも、賃貸料相当額は2万円台になることがあります。これは通達に定められた計算方法で、この額以上を受け取っていれば給与課税はされません。
マンションは共用部分を含めて判定する
国税庁の質疑応答事例「役員に貸与したマンションの共用部分の取扱い」は、マンションの1室を借り上げて役員に貸す場合、固定資産税の課税標準額も、小規模住宅に当たるかどうかの床面積も、共用部分を含めて判定するとしています。専有面積だけで99㎡以下と判断すると、判定を誤るおそれがあります。
また、建物1棟や土地1筆の課税標準額しかわからない場合は、建物や土地の状況に応じて合理的に按分します(通達36-42)。年の途中で新築された建物のように課税標準額がまだないものは、類似する住宅の課税標準額に準じた価額で計算します。
小規模住宅以外と借上げ社宅
自社所有の場合
小規模住宅に当たらない住宅を自社で所有して貸す場合は、次の式で計算します。
たとえば鉄筋コンクリート造で120㎡、建物の課税標準額2,000万円、敷地の課税標準額3,000万円なら、(2,000万円×10%+3,000万円×6%)÷12 = 380万円÷12 ≒ 316,667円(月額)です。小規模住宅とは桁が変わります。
借上げ社宅の場合
法人が家主から借りて役員に貸す場合、小規模住宅でなければ、次のいずれか多い方が賃貸料相当額になります。
- 会社が家主に支払う家賃の50%
- 自社所有の場合の算式で計算した額
上の例の住宅を月50万円で借り上げていれば、50万円×50%=25万円と316,667円を比べ、316,667円が賃貸料相当額です。
なお、国税庁の質疑応答事例「役員に貸与したマンションの管理費」は、家主に払う家賃にエレベーター保守料や共用部分の電気料などの管理費が含まれている場合でも、その総額で計算して差し支えないとしています。
豪華社宅
床面積が240㎡を超えるものは、取得価額、支払賃料、内外装の状況などを総合的に勘案して豪華社宅に当たるかを判定します。240㎡以下でも、一般の住宅にないプールなどの設備や、役員個人の嗜好を著しく反映した設備があれば豪華社宅になります。豪華社宅には算式が使えず、通常支払うべき使用料(市場の家賃水準)を受け取る必要があります。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る使用人の社宅との違い
従業員(使用人)に貸す社宅は、通常の賃貸料の額の計算方法がより簡単で、しかも実際に受け取る家賃がその50%以上なら、差額は給与課税されない取扱いがあります(通達36-45・36-47、タックスアンサーNo.2597)。
| 項目 | 役員 | 使用人 |
|---|---|---|
| 計算式 | 規模により小規模住宅・一般・豪華社宅の3区分 | 小規模住宅と同じ算式 |
| 非課税となる受取額 | 賃貸料相当額以上 | 賃貸料相当額の50%以上 |
| 公的使用部分がある住宅 | 計算額の70%以上を受け取れば、その額を賃貸料相当額としてよい(通達36-43) | — |
役員も兼ねる家族を従業員と同じ扱いにしてしまう誤りが見られます。役員かどうかは、法人税法上の役員の範囲で判断します。
法人の処理:法人税と消費税
法人税
| 項目 | 処理 |
|---|---|
| 自社所有の社宅 | 建物は減価償却、固定資産税・修繕費・管理費は損金 |
| 借上げ社宅の支払家賃 | 損金(地代家賃) |
| 役員から受け取る家賃 | 益金(受取家賃・雑収入など) |
| 賃貸料相当額に満たない部分 | 役員給与(経済的利益)。毎月おおむね一定なら定期同額給与として扱われるのが一般的。源泉徴収が必要 |
社宅を役員給与の代わりに使う設計は、役員報酬の決め方とセットで考える必要があります。役員報酬の決め方もご覧ください。
消費税
役員社宅の貸付けは住宅の貸付けで、役員から受け取る家賃は非課税です。借上げ社宅の場合、会社が家主に払う家賃も住宅家賃なので、仕入税額控除の対象になりません(消費税法基本通達6-13-7)。課税事業者の不動産会社では、非課税売上げが増えて課税売上割合がわずかに下がる点に注意します。社宅用に建物を取得する場合、税抜1,000万円以上なら居住用賃貸建物に当たり、取得時の消費税は原則として控除できません。
社会保険
社会保険料の算定では、住宅の現物給与は厚生労働大臣が定める価額(都道府県ごと)で評価されます。所得税の賃貸料相当額とは計算方法が異なるため、給与計算では別に確認してください。
個人と法人の違い
| 項目 | 個人事業・個人の大家 | 法人 |
|---|---|---|
| 自分の住まいの家賃 | 家事費で必要経費にならない。事業用部分のみ按分 | 社宅として役員に貸し、賃貸料相当額を受け取れば、法人側の家賃・減価償却費は損金 |
| 自宅を事務所として使う | 合理的な基準で家事按分 | 社宅部分と事務所部分を区分 |
| 判断の基準 | 所得税法の必要経費 | 所得税基本通達の賃貸料相当額と法人税の損金 |
個人の自宅兼事務所の考え方は、自宅兼事務所の家事按分で解説しています。
会計上の扱いと銀行からの見え方
決算書の表示
決算書は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って作ります。中小企業では「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」が拠り所です。役員から受け取る社宅の家賃は、賃貸を本業とする法人でも、外部の入居者への賃貸とは性格が違うため、売上高とするか営業外収益(雑収入)とするかを実態に応じて判断します。社宅の減価償却費や管理費も、賃貸事業の費用と区分して管理しておくと説明しやすくなります。どの区分にできるかは取引の実態次第なので、顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
銀行の見方
- 社宅として使う物件:賃貸用物件として融資を受けた物件を役員社宅に転用すると、融資の資金使途に反するおそれがあります。転用前に金融機関と相談してください
- 収益性:賃貸料相当額は市場家賃より低いことが多く、その物件の利回りは賃貸用より低く見えます。社宅であることを説明できるようにしておきます
- 役員との取引:役員関連の取引は、役員貸付金や未収金が残っていないかとあわせて見られます。家賃は毎月確実に精算し、未収のまま残さないことが大切です
- 返済能力:著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、10年以内を健全の目安としています。社宅の取得で借入が増える場合は、この指標への影響も確認してください
実務のチェックポイント
- 貸す相手は役員か使用人か(法人税法上の役員の範囲で判定)
- 床面積は共用部分を含めて計算し、小規模住宅・一般・豪華社宅のどれに当たるか判定したか
- 固定資産税の課税標準額を、毎年の評価替え・改訂にあわせて確認しているか
- 借上げ社宅は、法人名義で家主と契約しているか(役員が直接契約した住宅の家賃を法人が負担すると給与になる)
- 役員から家賃を毎月受け取り、賃貸料相当額との差額があれば源泉徴収しているか
- 賃貸用として融資を受けた物件を社宅に使っていないか
- 社会保険の現物給与の評価を別に確認したか
まとめ
- 役員から賃貸料相当額以上を受け取れば、給与課税されない
- 小規模住宅は固定資産税の課税標準額と床面積による算式で、市場家賃より大幅に低くなることが多い
- 小規模住宅以外は別の算式。借上げ社宅は支払家賃の50%と比べて多い方。豪華社宅は通常の使用料
- マンションは共用部分を含めて判定し、管理費込みの家賃総額で計算してよい(国税庁の質疑応答事例)
- 役員社宅の家賃は消費税非課税。銀行には、社宅の位置付けと資金使途を説明できるようにしておく
役員社宅は、役員報酬や法人の資金計画と一緒に設計すると効果的です。クレフティでは不動産投資家向けサポートの中で、社宅の計算から融資を見据えた決算書づくりまでご相談いただけます。資産管理法人全体の設計は資産管理法人のメリット・デメリットもご覧ください。
