固定資産税は、市町村(東京23区は都)が評価した価格(評価額)を基に計算されます。所得税や法人税と違い、自分で申告する税金ではないため、評価が実態と合っていなくても気づきにくい税金です。賃貸物件を複数持つと、毎年の固定資産税は収支に大きく影響します。
評価額に不服があるときは、固定資産評価審査委員会への審査の申出という手続があります。この記事では、審査の申出ができる人・事項・期限、基準年度とそれ以外の年度の違い、手続の流れを東京都主税局の案内で確認し、「適正な時価」に関する最高裁判例、賃貸物件で確認したい評価の項目、税務・会計の処理と銀行からの見え方までまとめます。次の評価替え(基準年度)は令和9年度です。
- 審査の申出は、価格(評価額)とその算出に影響する事項(地目、地積、家屋の構造・床面積、補正など)が対象。住宅用地の認定や減免は審査請求の対象
- 期限は、価格の公示の日から納税通知書の交付を受けた日後3か月以内。申出をしても納期限は延びない
- 土地・家屋は、基準年度(次は令和9年度)ならすべて対象、それ以外の年度は新築・増改築・地目変更などの場合に限られる
- 最高裁は、登録価格が客観的な交換価値を上回れば違法、評価基準によって決定される価格を上回っても違法と判断している
- 期限を過ぎた過大評価でも、公務員の職務上の義務違反があれば国家賠償で過納分の回復を求められる場合がある(最高裁平成22年6月3日)
審査の申出の基本
東京都主税局の「東京都固定資産評価審査委員会 よくある質問」の内容を整理すると、次のとおりです(東京都主税局:東京都固定資産評価審査委員会 よくある質問)。根拠は地方税法432条です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申出先 | 固定資産評価審査委員会(東京23区は東京都固定資産評価審査委員会。市町村はそれぞれの委員会) |
| 申出できる人 | その年度の固定資産税の納税者(1月1日現在の所有者。共有者を含む)とその代理人。借地人・借家人はできない |
| 対象 | 固定資産課税台帳に登録された価格と、価格の算出に影響する事項 |
| 期限 | 価格の公示の日から、納税通知書の交付を受けた日後3か月以内(書面) |
| 代理人 | 委任状を添付。税理士・税理士法人は税務代理権限証書で代えられる |
| 納付 | 申出をしても納期限は延長されない。減額が認められれば納め過ぎの税額は還付される |
申出できる事項と、できない事項
| 申出できる(委員会) | 申出できない(別の手続) |
|---|---|
| 土地:地目、地積、路線価、画地の形状の認定、適用された画地計算法など | 評価制度そのものへの不服 |
| 家屋:構造、床面積の認定、評点数、経年減点・損耗減点・需給事情減点などの補正 | 住宅用地の認定など課税に関すること、減免が適用されなかったこと(審査請求の対象) |
| 償却資産の価格 | 窓口対応への不満など |
価格以外の不服を委員会に申し出ると、不適法として却下されます。住宅用地の特例の適用漏れは、行政不服審査法に基づく審査請求(東京23区は知事、市町村は市町村長)の対象です。課税明細書の読み方は固定資産税の課税明細書の読み方で解説しています。
基準年度とそれ以外の年度
固定資産税の土地・家屋の価格は、3年ごとの基準年度に評価替えが行われ、それ以外の年度は原則として据え置かれます。東京都の案内では、直近の基準年度は令和6年度、次は令和9年度です。
| 区分 | 基準年度 | 基準年度以外の年度 |
|---|---|---|
| 土地 | すべての土地が対象 | 分合筆などで新たに決定された価格、地目の変換などによる評価替え(またはすべきとの申立て)、地価の下落に伴う修正(または適用すべきとの申立て)に限る |
| 家屋 | すべての家屋が対象 | 新築などで新たに決定された価格、増改築などによる評価替え(またはすべきとの申立て)に限る |
| 償却資産 | 年度にかかわらず対象 | 同左 |
つまり、据置年度に「前から高いと思っていた」という理由だけで申し出ることはできません。令和9年度の評価替えは、所有する物件の評価をまとめて確認する機会です。令和9年度の納税通知書が届いたら、課税明細書の価格を前年度と比べ、期限内に検討できるよう準備しておきます。
審査の流れ
- 事前に説明を受ける:東京都は、申出の前に、資産の所在地を所管する都税事務所で価格の根拠について十分に説明を受けるよう案内しています
- 審査申出書の提出:「審査の申出の理由」欄に、価格が違法・不当と考える理由(主張・計算根拠)をできるだけ具体的に記載し、立証資料を添付する
- 弁明書と反論書:評価庁(都税事務所長など)から弁明書が出され、申出人は反論書を出せる
- 評価の資料の照会:申出人は、評価の基礎となった資料などについて評価庁に照会できる(申出人照会制度)
- 口頭意見陳述:希望すれば委員に口頭で意見を述べられる
- 審査の決定:認容されれば価格が減額修正され、納め過ぎの税額は還付される
委員会の決定に不服があれば、その取消しを求めて裁判所に訴えを起こすことができます(地方税法434条)。
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不動産投資家向け税務・融資支援を見る最高裁判例に見る「適正な時価」
固定資産税の価格は、地方税法上「適正な時価」とされ、総務大臣が定める固定資産評価基準に基づいて決定されます。最高裁は、この関係について次のように判断しています。
客観的な交換価値を上回れば違法(最高裁平成15年6月26日判決)
最高裁判所第一小法廷 平成15年6月26日判決(平成10年(行ヒ)第41号)は、基準年度の賦課期日における土地の登録価格が、その土地の客観的な交換価値を上回る場合には、その価格の決定は違法となると判断しました。平成6年度の宅地の価格について、算定の基礎となった標準宅地の価格が客観的な交換価値を上回っていたとして、違法とされた事例です。
評価基準による価格を上回っても違法、下回れば時価以下と推認(最高裁平成25年7月12日判決)
最高裁判所第二小法廷 平成25年7月12日判決(平成24年(行ヒ)第79号)は、登録価格が固定資産評価基準によって決定される価格を上回る場合には、適正な時価を上回るか否かにかかわらず違法になると判断しました。そのうえで、評価基準の評価方法が一般的な合理性を有し、登録価格がその方法による価格を上回らない場合には、その方法では適正な時価を適切に算定できない特別の事情がない限り、適正な時価を上回るものではないと推認されるとしています。
家屋の評価と「特別の事情」(最高裁平成15年7月18日判決)
最高裁判所第二小法廷 平成15年7月18日判決(平成11年(行ヒ)第182号)は、評価基準の再建築費評点数の付設方法や経年減点補正率などに一般的な合理性がある事情のもとで、評価基準の方法では再建築費を適切に算定できない特別の事情や、評価基準の減点補正を超える減価を要する特別の事情について十分な認定説示をしないまま、家屋の価格が適正な時価を超えるとした原審の判断を違法としました。
取消しの範囲(最高裁平成17年7月11日判決)
最高裁判所第二小法廷 平成17年7月11日判決(平成14年(行ヒ)第181号)は、委員会の決定の取消訴訟で、委員会の認定した価格が適正な時価等を上回る場合には、決定のうち適正な時価等を超える部分を取り消せば足りるとしています。
判例から言えること
- 審査の申出で争いやすいのは、「評価基準の当てはめの誤り」(床面積、構造、補正の適用漏れなど)。評価基準どおりの価格を上回っていれば違法になる
- 評価基準の方法そのものが不合理だという主張は、特別の事情を具体的に示す必要があり、ハードルは高い
- 鑑定評価書などで時価を示す場合も、評価基準の方法では適正な時価を算定できない事情と結び付けて主張する必要がある
期限を過ぎた過大評価:国家賠償(最高裁平成22年6月3日判決)
最高裁判所第一小法廷 平成22年6月3日判決(平成21年(受)第1338号)は、公務員が納税者に対する職務上の法的義務に違背して固定資産の価格を過大に決定したときは、その納税者は、審査の申出や取消訴訟の手続を経るまでもなく、国家賠償請求を行い得ると判断しました(破棄差戻し)。
審査の申出の期限を過ぎていても、評価の誤りが公務員の職務上の義務違反によるものであれば、損害賠償として過納分の回復を求める道があるということです。ただし、国家賠償が認められるには、評価の誤りだけでなく職務上の義務違反などの要件が必要で、すべての過大評価で認められるわけではありません。まずは期限内の審査の申出を検討するのが基本です。
賃貸物件で確認したい評価の項目
| 区分 | 確認したい項目 |
|---|---|
| 家屋 | 床面積が登記・図面と一致しているか。構造(鉄筋コンクリート造・鉄骨造・木造など)の認定。用途(住宅・店舗・事務所)。取り壊した附属建物が残っていないか |
| 家屋 | 経年減点や損耗減点の補正が実態に合っているか(災害による損傷など) |
| 土地 | 地目・地積が現況と合っているか。不整形・間口狭小・無道路・がけ地などの画地補正が適用されているか |
| 土地 | 私道部分や、公衆用道路として使われている部分の扱い |
| 課税 | 住宅用地の面積が戸数・用途と合っているか(こちらは審査請求や評価庁への申出の対象) |
まず課税明細書と登記事項証明書、建物図面を突き合わせ、疑問があれば評価庁(都税事務所・市町村の資産税課)に評価の内容の説明を求めます。誤りが明らかであれば、評価庁が修正に応じることもあります。
税務・会計の処理と、銀行からの見え方
還付を受けたときの処理
| 項目 | 個人 | 法人 |
|---|---|---|
| 支払った固定資産税 | 不動産所得の必要経費 | 損金(租税公課) |
| 審査の結果などで還付を受けた税額 | 必要経費に算入した税額が還付されれば、その年の所得の計算に反映する | 還付を受けた事業年度の益金(または租税公課の減額) |
| 還付加算金 | 雑所得 | 益金 |
法人の決算書は、会社法431条の「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」、すなわち一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に従って作ります。過年度分の固定資産税の還付は、金額や性質によって表示区分の検討が必要になることがあります。税務上の処理と決算書のどの区分に表示するかは別の問題ですから、顧問税理士と確認してください。
銀行からの見え方
| 銀行が見る点 | 影響 |
|---|---|
| 物件の収支 | 固定資産税は毎年の固定費。評価の誤りが正されれば、物件の実質的な収益が改善する |
| 債務償還年数 | 著書のモデルでは(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)。経常利益の改善と還付金で、わずかでも改善する |
| 担保評価 | 金融機関によっては固定資産税評価額を担保評価や物件把握の参考にすることがある。ただし評価額の正確性が優先で、過大な評価を放置する理由にはならない |
固定資産税の基本は不動産取得税・固定資産税・登録免許税、取得時の精算金は固定資産税の精算金は取得価額で解説しています。
実務のチェックポイント
- 毎年の課税明細書の価格を前年度と比較しているか(特に基準年度)
- 家屋の床面積・構造・用途が登記・図面・現況と一致しているか
- 取り壊した建物や附属建物が課税台帳に残っていないか
- 土地の地目・地積・画地補正が現況に合っているか
- 不服があれば、まず評価庁で評価の根拠の説明を受けたか
- 審査の申出の期限(納税通知書の交付後3か月)を管理しているか。申出中も納期限までに納付しているか
- 住宅用地の認定など価格以外の不服は、審査請求の手続と期限を確認したか
- 令和9年度の評価替えに向けて、物件ごとの資料(登記、図面、写真)をそろえているか
まとめ
- 固定資産税の価格に不服があれば、固定資産評価審査委員会への審査の申出ができる。期限は納税通知書の交付後3か月以内
- 対象は価格とその算出に影響する事項。住宅用地の認定や減免は審査請求
- 土地・家屋は基準年度ならすべて対象。次は令和9年度
- 最高裁は、登録価格が客観的な交換価値や評価基準による価格を上回れば違法とする一方、評価基準どおりの価格は特別の事情がない限り適正な時価以下と推認している
- 期限を過ぎた過大評価でも、職務上の義務違反があれば国家賠償の道がある。まずは毎年の課税明細書の確認から
固定資産税の評価の確認は、物件が増えるほど手間がかかりますが、毎年の固定費に直結します。クレフティでは不動産投資家向けサポートの中で、物件ごとの税負担の確認から、評価に疑問がある場合の進め方、融資を見据えた収支の整理までご相談をお受けしています。
