賃貸物件を持っていた親が亡くなると、相続税の申告(10か月以内)より前に、被相続人の準確定申告(4か月以内)の期限が来ます。そのうえで、相続人は死亡の翌日以後の家賃を自分の確定申告で申告し、青色申告を続けるなら承認申請も必要です。店舗や事務所の家賃があれば、消費税の申告や届出も関係します。
この記事では、賃貸物件を相続した年の確定申告と準確定申告について、期限、家賃と経費の分け方、青色申告、減価償却の引継ぎ、消費税、法人オーナーとの違い、銀行の見え方を順に整理します。
- 準確定申告:1月1日〜死亡日の所得を、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に相続人が申告・納税
- 相続人の確定申告:死亡の翌日以後の家賃は相続人の所得。未分割の間は法定相続分で各相続人が申告
- 青色申告:承認は引き継がれない。被相続人が青色なら死亡日に応じて4か月以内/12月31日/翌年2月15日までに申請
- 減価償却:被相続人の取得価額・耐用年数・未償却残高を引き継ぐ。中古資産の見積耐用年数は使えない
- 消費税:被相続人の課税売上高で相続人の納税義務を判定。簡易課税などの届出の効力は引き継がれない
相続した年のスケジュール
国税庁のタックスアンサー(No.2022 確定申告を要する人が死亡したとき(準確定申告))などをもとに、2026年6月10日に賃貸オーナーが亡くなった場合の主な期限を並べると次のようになります(相続人が同日に死亡を知ったものとします)。
| 期限 | 手続 | 内容 |
|---|---|---|
| 2026年8月10日(承継日から2か月以内) | 青色申告承認申請 | 被相続人が白色申告者で、相続人が青色申告を始める場合 |
| 2026年10月10日(死亡から4か月以内) | 準確定申告・納税 | 被相続人の1月1日〜6月10日の所得 |
| 2026年10月10日 | 青色申告承認申請 | 被相続人が青色申告者だった場合(死亡日が1月1日〜8月31日) |
| 2026年10月10日 | 消費税の準確定申告 | 被相続人が消費税の課税事業者だった場合 |
| 2027年3月15日 | 相続人の確定申告 | 6月11日〜12月31日の不動産所得(相続人自身の他の所得と合わせて) |
| 2027年4月10日(10か月以内) | 相続税の申告・納税 | ― |
期限の末日が土日祝日の場合は翌日になります。準確定申告と相続税の申告は期限も提出先も別なので、別々に管理します。
準確定申告:被相続人の不動産所得
申告のしかた
準確定申告は、相続人が連署して1通の申告書を出すのが原則ですが、他の相続人の氏名を付記して各人が別々に出すこともできます(その場合は内容を他の相続人に通知)。申告書には「死亡した者の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表」を添付し、被相続人の死亡当時の納税地の税務署に提出します。
家賃と経費の分け方
| 項目 | 準確定申告(被相続人) | 相続人の確定申告 |
|---|---|---|
| 家賃収入 | 死亡日までに契約上の支払期日が来たもの | 死亡の翌日以後に支払期日が来るもの |
| 管理費・修繕費など | 死亡日までに債務が確定したもの | 死亡の翌日以後に債務が確定したもの |
| 減価償却費 | 1月から死亡時までの期間に対応する部分 | 死亡後の期間に対応する部分を各自の持分で(同じ月を二重に計上しないよう注意) |
| 借入金利子 | 死亡日までの期間に対応する部分 | 死亡の翌日以後の期間に対応する部分 |
死亡日までに支払期日が来ていたのに受け取っていない家賃(未収家賃)は、準確定申告の収入になり、相続税では相続財産になります。固定資産税のように年の途中で納期が分かれる税金は、どちらの申告で必要経費にするか、納期や納付の状況によって扱いが変わるため個別に確認してください。
医療費控除や社会保険料控除などは、死亡の日までに被相続人が支払った分が対象です。
準確定申告で納めた所得税は相続税の債務
準確定申告で納める所得税・住民税は、被相続人の債務として相続税の計算で債務控除できます。還付になった場合は、還付金が相続財産になります。
相続人の確定申告:未分割なら法定相続分
死亡の翌日以後の家賃は相続人の所得です。遺産分割が確定するまでは、実際に誰が家賃を管理していても、各相続人が法定相続分に応じて申告し、分割が決まっても未分割期間の申告はやり直せません(国税庁タックスアンサーNo.1376のQ&A)。考え方の根拠になった最高裁判決は遺産分割前の家賃は誰のものかで解説しています。
相続人が会社員で、相続した賃貸物件の不動産所得が加わると、給与以外の所得が20万円を超えて確定申告が必要になる人も多くなります。相続人の住民税も翌年から増えるため、納税資金の準備も必要です。
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不動産投資家向け税務・融資支援を見る青色申告:承認は引き継がれない
青色申告の承認は人ごとのものなので、被相続人が青色申告者でも、相続人が青色申告をするには自分で承認申請をします。国税庁のタックスアンサー(No.2070 青色申告制度)による期限は次のとおりです。
| 区分 | 青色申告承認申請書の提出期限 |
|---|---|
| 被相続人が白色申告者(その年の1月16日以後に業務を承継) | 業務を承継した日から2か月以内 |
| 被相続人が青色申告者(死亡日が1月1日〜8月31日) | 死亡の日から4か月以内 |
| 被相続人が青色申告者(死亡日が9月1日〜10月31日) | その年の12月31日 |
| 被相続人が青色申告者(死亡日が11月1日〜12月31日) | 翌年2月15日 |
期限を過ぎると、その年は白色申告になり、青色申告特別控除や純損失の繰越しが使えません。事業的規模(おおむね5棟10室以上)でなければ控除額は最大10万円で、65万円・55万円の控除は事業的規模であることなどが条件です。共有で相続した場合の事業的規模の考え方は共有名義の不動産の税金と注意点も参考にしてください。
あわせて、相続人は個人事業の開業届(業務を承継した日から1か月以内)を出し、被相続人については個人事業の廃業届を出すのが一般的です。
減価償却:被相続人のものを引き継ぐ
国税庁の質疑応答事例「相続により取得した減価償却資産の耐用年数」は、相続で取得した賃貸用建物について、中古資産の見積耐用年数を使うことは認められず、被相続人の取得価額・耐用年数・経過年数・未償却残高を引き継いで償却するとしています。
一方、「平成19年4月1日以降に相続により減価償却資産を取得した場合」では、償却方法の判定上の「取得」には相続も含まれるとしています。建物はもともと定額法ですが、建物附属設備や構築物は、相続の日を取得日として償却方法(平成28年4月1日以後の取得は定額法)を判定します。
| 項目 | 相続人の扱い |
|---|---|
| 取得価額 | 被相続人の取得価額を引き継ぐ(相続税評価額ではない) |
| 耐用年数 | 被相続人の耐用年数を引き継ぐ(中古資産の見積耐用年数は不可) |
| 未償却残高 | 被相続人の未償却残高を引き継ぐ |
| 償却方法 | 相続の日を取得日として判定 |
| 将来の売却時の取得日 | 被相続人の取得日を引き継ぐ(長期・短期の判定) |
被相続人の固定資産台帳や過去の青色申告決算書の減価償却明細は、相続人がその後何十年も使う資料です。必ず引き継いでおきましょう。
消費税:納税義務の判定と届出
住宅の家賃は非課税ですが、店舗・事務所・駐車場などの課税売上がある場合は、消費税の扱いも確認します。国税庁のタックスアンサー(No.6602 相続により事業を承継したときの納税義務の判定)のポイントは次のとおりです。
- 相続があった年:被相続人の基準期間の課税売上高が1,000万円を超えていれば、相続人は相続の翌日から年末まで課税事業者
- 翌年・翌々年:被相続人と相続人の基準期間の課税売上高の合計が1,000万円を超えれば課税事業者
- 未分割の場合:各相続人が共同で事業を承継したものとして、被相続人の課税売上高に相続分の割合を掛けて判定
- 届出の効力:被相続人が出していた課税事業者選択届出書・簡易課税制度選択届出書などの効力は相続人に及ばない。相続人が適用を受けるには新たに届出が必要
- インボイス:被相続人が適格請求書発行事業者だった場合、相続人は一定期間(最長で死亡の翌日から4か月を経過する日まで)適格請求書発行事業者とみなされる。引き続き登録が必要なら相続人が新たに登録申請をする
被相続人について「個人事業者の死亡届出書」を提出し、課税事業者だった場合は消費税の準確定申告も4か月以内に行います。
個人オーナーと法人オーナーの違い
| 項目 | 個人オーナーが死亡 | 法人の代表者が死亡 |
|---|---|---|
| 準確定申告 | 必要(4か月以内) | 代表者個人の所得(役員報酬など)について必要 |
| 家賃の申告 | 相続人が引き継ぐ。未分割なら法定相続分 | 法人の申告のまま |
| 青色申告 | 相続人が新たに承認申請 | 法人の承認は続く |
| 減価償却 | 被相続人のものを相続人が引き継ぐ | 法人の帳簿のまま |
| 消費税 | 相続人の納税義務を判定し直す。届出も出し直し | 法人の納税義務・届出のまま |
| 会計 | 相続人の帳簿を新たに作る | 法人の決算書は継続 |
法人で賃貸物件を持っていれば、オーナーが亡くなっても申告・届出の多くはそのまま続きます。個人で持つと、相続のたびに申告・届出・帳簿が人単位で切り替わり、手続の負担が大きくなります。
会計上の扱い:相続人の帳簿をどう始めるか
個人の不動産所得の帳簿は、相続人ごとに新たに作ります。被相続人の帳簿から、固定資産(取得価額・未償却残高)、預り敷金、未収家賃などを引き継ぎ、相続人の持分に応じて開始残高を設定します。
法人の決算書は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に従って作ります(会社法431条、法人税法22条4項)。オーナーの死亡で法人が受け取る生命保険金や、役員の死亡退職金の支払いがあれば、税務上の損金・益金の扱いとは別に、決算書のどの区分(営業外か特別損益か)に表示するかを取引の実態に沿って判断する必要があります。顧問税理士・会計の専門家と事前に検討しておくと安心です。
銀行からの見え方
- 準確定申告と決算書:相続人が借入れを引き継ぐ場合、銀行は被相続人の過去の申告書と、相続人の申告書の両方を確認する。準確定申告と相続人の確定申告の数字が整合していることが大切
- 相続人の返済能力:相続人が会社員なら給与と不動産所得の合計、資産管理法人を持っているならグループ全体で見られる。著書のモデルでは、返済能力(債務償還年数など)の配点が大きい
- 青色申告の継続:青色申告をやめてしまうと、決算書(青色申告決算書)の情報量が減り、融資の審査資料としても弱くなる。承認申請の期限を逃さないことが、銀行との関係の面でも重要
銀行は決算書や申告書を、単年ではなく数年分の推移で見ます。相続の年に申告が乱れると、その後の数年の審査に影響しかねません。
実務のチェックポイント
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 期限の一覧 | 準確定申告・青色申告承認申請・消費税・相続税の期限を一覧にしたか |
| 家賃と経費の区分 | 死亡日を境に、支払期日・債務確定日で準確定申告と相続人の申告に分けたか |
| 未分割の申告 | 各相続人が法定相続分で申告しているか |
| 青色申告 | 相続人ごとに承認申請を出したか。開業届は出したか |
| 減価償却 | 被相続人の固定資産台帳・未償却残高を引き継いだか |
| 消費税 | 相続人の納税義務を判定し、必要な届出(簡易課税・インボイス登録など)を出し直したか |
| 相続税との連携 | 準確定申告の所得税・住民税を債務控除に、未収家賃を相続財産に反映したか |
まとめ
- 賃貸オーナーが亡くなった年は、1月1日〜死亡日の所得を相続人が4か月以内に準確定申告する
- 死亡の翌日以後の家賃は相続人の所得で、未分割の間は法定相続分で各相続人が申告する
- 青色申告の承認は引き継がれない。死亡日に応じた期限までに相続人が承認申請をする
- 減価償却は被相続人の取得価額・耐用年数・未償却残高を引き継ぎ、中古資産の見積耐用年数は使えない
- 消費税は被相続人の課税売上高で相続人の納税義務を判定し、簡易課税などの届出は出し直す
- 法人オーナーなら、申告・届出・帳簿の多くはそのまま続く
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