「銀行から、来月から金利を見直したいと連絡が来た」「利息の支払いが、去年より明らかに増えている」。2026年に入り、こうしたご相談が増えています。
日本銀行は2026年6月と9月に政策金利を引き上げ、9月の会合で1.25%程度としました。大手銀行は6月の利上げを受けて8月に短期プライムレートを引き上げており、変動金利で借りている中小企業の返済負担はじわじわと増えています。金利上昇局面での借入対策は、慌てて全部を固定金利に替えることではありません。まず自社の借入の中身を把握し、影響を数字で試算し、銀行から見た評価を上げて上乗せ幅を抑える。この順番で進めることが大切です。
- まずは借入の棚卸し。金利の種類、基準金利、残り期間を一覧にする
- 「金利が1%上がったら利息はいくら増えるか」を試算し、利益と比べる
- 固定化・借り換え・繰り上げ返済は、手元資金を残すことを前提に判断する
- 金利は「基準金利+上乗せ幅」。上乗せ幅は決算書と格付け次第で変わる
金利上昇は中小企業の借入にどう効いてくるか
事業性の融資の金利は、多くの場合「基準金利+上乗せ幅(スプレッド)」で決まっています。
| 要素 | 中身 | 何で変わるか |
|---|---|---|
| 基準金利 | 短期プライムレート、TIBORなど | 日銀の政策金利や市場金利の動き |
| 上乗せ幅 | 会社ごとのリスクに応じた上乗せ | 格付け、担保・保証、取引状況 |
政策金利が上がると、まず基準金利が上がります。変動金利の借入は、契約で定めた見直しのタイミングで金利が上がります。固定金利の借入は契約期間中は変わりませんが、新規の借入や借り換えのときには、上がった金利水準が適用されます。
つまり、いま固定金利だから関係ない、とは言い切れません。次に借りるとき、借り換えるときには、必ず影響を受けます。
対策1:借入の棚卸しをして、影響を試算する
最初にやるべきは、すべての借入を一覧にすることです。金融機関ごと、契約ごとに次の項目を書き出します。
- 借入残高、毎月の返済額、残りの返済期間
- 金利の種類(変動か固定か)と、基準金利が何か
- 金利の見直し時期、固定期間の終了時期
- 担保・保証の有無(保証協会付きか、プロパー融資か)
そのうえで、「金利が1%上がったら、年間の利息はいくら増えるか」を計算します。
たとえば変動金利の借入残高が3億円なら、金利が1%上がると利息は年間おおよそ300万円増えます。経常利益が1,000万円の会社なら、利益の3割が消える計算です。これを数字で把握しておくだけで、どこから手をつけるべきかが見えてきます。
上昇幅ごとの試算表をつくる
1つの数字だけでなく、上昇幅を変えた表をつくっておくと、経営判断に使いやすくなります。変動金利の借入3億円、経常利益1,000万円の会社の例です。
| 金利の上昇幅 | 年間の利息増加 | 経常利益(ほかの条件が同じ場合) |
|---|---|---|
| +0.25% | 約75万円 | 約925万円 |
| +0.5% | 約150万円 | 約850万円 |
| +1.0% | 約300万円 | 約700万円 |
| +2.0% | 約600万円 | 約400万円 |
実際には返済によって残高が減っていくため、利息の増加はこれより小さくなります。それでも、どの程度の上昇までなら利益で吸収できるかという目安を持っておくことは重要です。物件ごと、事業ごとに借入を分けている場合は、それぞれで同じ表をつくると、弱いところが一目でわかります。
利息の増加は、銀行が重視する債務償還年数にも影響します。利益が減れば、返済にかかる年数は延びます。債務償還年数の計算方法は決算書を銀行に出す前にやるべき3つのチェックで紹介しています。
対策2:固定化・借り換え・繰り上げ返済を冷静に比べる
| 打ち手 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|
| 変動から固定への切り替え | 将来の金利上昇リスクを抑えられる | 切り替え時点の金利は高め。途中返済に手数料がかかる場合がある |
| 他行への借り換え | 条件の良い金融機関に移れる可能性 | 既存行との関係、手数料、担保の付け替えの手間 |
| 繰り上げ返済 | 利息が減る | 手元資金が減る。再び借りられる保証はない |
| 返済期間の見直し | 毎月の返済負担が軽くなる | 総利息は増えることが多い。条件変更の扱いに注意 |
固定化は「影響の大きい借入」から
すべてを固定にする必要はありません。残高が大きく、残り期間が長い変動金利の借入ほど、金利上昇の影響を強く受けます。こうした借入から優先して、固定化や金利スワップの利用を検討するのが現実的です。
繰り上げ返済で手元資金を削りすぎない
金利が上がると、「借金を早く返したほうが得」と考えがちです。しかし、手元資金は会社の生命線です。一度返したお金を、資金が必要になったときに同じ条件で借りられるとは限りません。銀行は現預金の厚みも評価しています。月商の数か月分など、自社なりの基準で手元資金を残したうえで判断してください。
借り換えの進め方と注意点は借り換えのメリットと注意点で解説しています。
対策3:上乗せ幅を抑えるために、格付けを上げる
基準金利は会社の努力では動かせません。しかし上乗せ幅は、銀行から見た会社の評価で変わります。同じ時期に同じ銀行から借りても、格付けの高い会社と低い会社では、金利に差がつきます。
金利上昇局面では、銀行も貸出金利の見直しを進めます。そのとき、格付けの高い会社は上乗せ幅を据え置いてもらえたり、他行との競争で条件を引き出せたりします。格付けの低い会社は、基準金利の上昇に加えて上乗せ幅の見直しも求められやすくなります。
格付けを上げるために経営者ができることは、次のようなものです。
- 利益を出し、税金を払って純資産を積み上げる
- 社長への貸付金や使っていない資産を整理し、資産の質を上げる
- 決算書と試算表を早めに出し、数字を説明できる状態にしておく
- 1行に依存せず、複数の金融機関と取引して比較できる状態をつくる
金利見直しの打診を受けたときの対応
銀行から金利の引き上げを打診されたら、まず契約書を確認し、基準金利の上昇による見直しなのか、上乗せ幅そのものの見直しなのかを切り分けます。基準金利に連動する部分は契約どおり上がりますが、上乗せ幅の引き上げであれば、理由を聞いたうえで交渉の余地があります。
交渉の材料になるのは、直近の決算や試算表で業績が改善していること、今後の資金需要の見通し、預金や決済など取引全体の状況です。感情的に断るのではなく、「この数字なら、上乗せ幅は据え置いていただけないか」と、根拠を示して相談する姿勢が大切です。複数の金融機関と取引していれば、条件を比べたうえで話ができます。
金利交渉の具体的な進め方は融資の金利を交渉して下げる方法、銀行との日頃の関係づくりは銀行員との付き合い方で解説しています。
対策4:価格転嫁と資金繰りの見直しもセットで
金利の上昇は、多くの場合、物価や人件費の上昇と同時に起こります。利息の増加だけを見ていると、全体を見誤ります。
- 原価や人件費の上昇分を、販売価格にどこまで転嫁できているか
- 売掛金の回収サイトが長すぎないか、在庫を持ちすぎていないか
- 利益に対する支払利息の比率が、無理のない水準に収まっているか
こうした点を、資金繰り表と合わせて定期的に見直すことが、金利上昇局面を乗り切る基本です。
新しい借入は「金利以外の条件」も比べる
金利が上がる局面では、どうしても金利の数字にばかり目が向きます。しかし、新しく借りるときに比べるべきなのは、金利だけではありません。返済期間の長さ、据置期間の有無、担保や保証の条件、固定か変動か、途中で返済するときの手数料など、条件全体で資金繰りへの影響は変わります。金利が少し高くても、返済期間が長く毎月の返済額が小さい借入のほうが、資金繰りは安定することもあります。
日本政策金融公庫などの政府系金融機関や、自治体の制度融資も選択肢になります。制度融資の仕組みは制度融資とはで解説しています。
私自身、不動産投資で多くの借入を抱えているため、金利の動きは毎月のキャッシュフローに直結します。物件ごとに「金利が何%まで上がれば手残りがゼロになるか」を計算し、現預金を厚めに持つことを徹底しています。金利の先行きは誰にも読めませんが、どこまで上がったら困るのかは、自分で計算できます。
まとめ
- 事業融資の金利は「基準金利+上乗せ幅」。政策金利の上昇はまず基準金利に表れる
- 借入を棚卸しし、金利が1%上がった場合の利息増加を試算する
- 固定化や繰り上げ返済は、影響の大きい借入から、手元資金を残す前提で検討する
- 上乗せ幅は格付けで変わる。決算書を強くすることが、最も効く金利対策
借入の一覧化や金利上昇のシミュレーション、銀行との条件交渉の準備は、融資・資金調達のご相談でお手伝いしています。
