「LBOは、ファンドや大企業がするものではないのか」。中小企業の経営者から、こう聞かれることがよくあります。
LBO(レバレッジド・バイアウト)は、買収した会社のキャッシュフローを返済原資にして借りる買収の方法です。仕組みとしては、中小企業のM&Aでも使えます。ただし、LBOはどの規模から使うものかという問いには、「金額の線引きはないが、手間とコストに見合う規模で、返せる会社であること」と答えることになります。
この記事では、LBOが成り立つ条件と規模の考え方、相談すべき金融機関とその役割、公庫や保証協会の上限額、銀行からの見え方を整理します。LBOの基本的な仕組み(SPC、配当、合併)は融資を使ったM&Aの仕組みで解説しています。
- LBOに法律上の金額の基準はない。判断の軸は「手間とコストに見合う借入額か」と「対象会社のキャッシュフローで無理なく返せるか」
- 契約・担保・コベナンツ・合併など、案件の大小にかかわらずかかる手間があるため、小さな案件では買い手本体での借入や公的制度が合理的なことが多い
- 相談先は、まず買い手のメインバンクと対象会社の取引銀行。規模が大きければ専門部署を持つ金融機関、公庫との協調融資も
- 保証協会の事業承継関連の保証は限度額2億8,000万円、公庫の事業承継・集約・活性化支援資金は国民生活事業7,200万円、中小企業事業14億4千万円
- 2026年5月25日に始まった企業価値担保権は、不動産や経営者保証に過度に頼らない借入の新しい選択肢
LBOが成り立つための3つの条件
規模の話の前に、LBOが成り立つ条件を確認します。LBOは「買収した会社の稼ぎで返す」借入なので、次の3つがそろっていることが前提です。
| 条件 | 内容 | 確認する資料 |
|---|---|---|
| キャッシュフローが安定している | 過去数年の利益が安定し、景気や特定の取引先に大きく左右されない | 決算書3〜5期分、月次の推移、取引先別の売上 |
| 借入を無理のない年数で返せる | 買収のための借入を、対象会社のキャッシュフローで何年で返せるか | 買収後の事業計画、資金繰り計画 |
| 大きな設備投資が当面いらない | 返済に回すお金が設備の更新で消えない | 設備の状況、更新計画 |
逆に、利益の振れ幅が大きい会社、設備投資が重い会社、社長個人の力で売上が立っている会社は、LBOには向きません。こうした会社を買うなら、買い手本体の信用で借りる形のほうが、銀行も貸しやすくなります。
「規模」はどう考えるか
金額の線引きはないが、固定的な手間がある
LBOを使うかどうかについて、法律や公的な基準で決まった金額はありません。ただ、LBOには、案件の大小にかかわらず発生する手間と費用があります。
- 受け皿会社(SPC)の設立と運営
- 融資契約、担保契約、株式への質権設定などの契約書の作成
- 財務制限条項(コベナンツ)の設計と、毎期の報告
- 買収後にSPCと対象会社を合併する場合の手続き(株主総会、債権者保護手続、登記)
- 金融機関がLBOとして審査するための詳細な事業計画とデューデリジェンス
これらは、借入額が5,000万円でも10億円でも、大きくは変わりません。借入額が小さいほど、手間とコストの比率が重くなります。中小企業の小規模なM&Aでは、LBOの形にこだわらず、買い手本体での借入や、公庫・保証協会の制度を使う形のほうが合理的なことが多いのはこのためです。
規模を測る3つの物差し
LBOが現実的かどうかは、次の3つで考えます。
- 対象会社のキャッシュフローの大きさ:返済に回せるお金が年にいくらあるか。小さければ、少しの業績の変化で返済が苦しくなる
- 借入額とキャッシュフローの倍率:買収のための借入を何年分のキャッシュフローで返すか。著書で紹介している債務償還年数(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、10年以内が健全、20年超は厳しいとされる目安
- 1つの金融機関で持てる金額か:持てない場合は、複数の金融機関による協調融資や、劣後ローンとの組み合わせが必要になり、手間はさらに増える
この3つを満たし、手間に見合う借入額であれば、中小企業でもLBOの形をとる意味があります。逆に、どれか一つでも欠けるなら、無理にLBOの形にせず、買い手本体の信用で借りる、売り手に代金の一部を分割払いにしてもらう、買い手の出資を増やす、といった方法と組み合わせて、借入額そのものを小さくすることを考えます。LBOは「借りられる額を大きくする道具」ではなく、「対象会社の稼ぎに見合った額を、買い手本体と切り離して借りる道具」と理解しておくと、判断を誤りにくくなります。
相談先の金融機関と、それぞれの役割
民間金融機関
| 相談先 | 役割と特徴 |
|---|---|
| 買い手のメインバンク | 買い手の財務を最もよく知る。買い手本体での借入や、買い手がSPCを保証する形なら、ここが中心になる |
| 対象会社の取引銀行 | 対象会社の業績や資金の流れを最もよく知る。株主が替わると融資の継続を見直すこともあるため、早めの説明が必要 |
| 買収ファイナンスの専門部署を持つ金融機関 | 規模の大きな案件や、劣後ローンを組み合わせる案件、複数行での協調融資を組成する場合に相談する |
| 信用金庫・信用組合 | 地域の小規模な案件で、保証協会付き融資や公庫との協調融資を組み合わせることが多い |
対象会社の取引銀行には、売り手の経営者の保証や、株主の変更を理由に契約を見直せる条項(チェンジオブコントロール条項)が付いた借入があることがあります。買収後も取引を続けてもらえるかどうかは、買収の資金計画そのものに関わります。詳しくは売り手の取引銀行は買収後もそのまま使えるかで解説しています。
政府系金融機関と信用保証協会
公的な制度には、それぞれ上限があります。全体像は次のとおりです。
| 制度 | 上限額 | 主な対象 |
|---|---|---|
| 公庫 事業承継・集約・活性化支援資金(国民生活事業) | 7,200万円(別枠) | 小規模事業者の事業承継・集約。設備資金20年以内、運転資金10年以内(据置5年以内) |
| 公庫 事業承継・集約・活性化支援資金(中小企業事業) | 直接貸付14億4千万円 | 事業承継・集約に必要な設備資金・長期運転資金など。株式等(のれん代を含む)の取得資金で担保を徴しない場合の利率引下げなどの特例 |
| 保証協会 経営承継準備関連保証(M&A向け) | 2億8,000万円 | 経営承継円滑化法の認定を受けた中小企業者の、他社の株式等・事業用資産等の取得資金 |
| 保証協会 事業承継サポート保証 | 2億8,000万円 | 新設の持株会社が事業会社の株式を買い取る資金 |
出典:日本政策金融公庫(中小企業事業)、日本政策金融公庫(国民生活事業)、全国信用保証協会連合会「事業承継をお考えの方」
中小企業庁のパンフレットによれば、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を受けると、保証協会の通常の保証枠(普通保険2億円、無担保保険8,000万円など)とは別に、同じ額の別枠が用意されます。保証協会の制度は、限度額の範囲で、小規模なSPC型の買収(持株会社による株式の買取り)にも使えるのが特徴です。
公庫は民間金融機関との協調融資の形をとることも多く、民間金融機関から見れば、1行あたりの負担を抑えられます。制度の要件と使い分けはM&A融資で使える公的制度で詳しく解説しています。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る足りない部分をどう埋めるか:劣後ローンと資本性ローン
LBOでは、銀行が通常の融資(シニアローン)で出せる金額には限りがあります。買収価格との差は、買い手の出資のほか、返済順位が劣る劣後ローンや優先株などで埋めることがあります。劣後ローンは銀行から見て資本に近い性格を持つため、シニアローンの審査を通りやすくする効果があります(劣後ローンとは)。
公的な制度では、日本政策金融公庫の挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)があります。公庫の案内では、事業承継・集約・活性化支援資金などの対象となる方が使える制度で、期限一括返済、無担保・無保証人、そして金融機関の資産査定上、自己資本とみなすことができるとされています(日本政策金融公庫「挑戦支援資本強化特別貸付」)。資本性ローンで純資産を補えば、民間金融機関から見た財務の安全性が上がり、シニアローンの条件交渉がしやすくなります。
企業価値担保権という新しい選択肢
2026年5月25日から、企業価値担保権の制度が始まりました(事業性融資の推進等に関する法律)。金融庁の案内では、不動産担保や経営者保証等に過度に依存しない、事業の将来性に着目した融資を後押しする制度とされ、事業承継などの局面での活用が想定されています。設定できるのは株式会社・持分会社で、設定は信託契約によって行います(金融庁「事業性融資の推進(企業価値担保権等)」)。
LBOはもともと「対象会社の事業そのもの」を返済の当てにする借入なので、事業全体を担保にできるこの制度とは考え方が近いといえます。ただし、始まったばかりの制度で、金融機関ごとの取組みにも差があります。M&Aで使えるかどうかは、案件ごとに取引金融機関と相談してください。
銀行はLBOのどこを見るか
LBOの審査では、通常の融資よりも次の点が細かく見られます。
| 銀行が見る点 | 内容 |
|---|---|
| 返済年数 | 買収のための借入を、対象会社のキャッシュフローで何年で返せるか。債務償還年数で10年以内に収まるか |
| 事業計画の確からしさ | 買収後の売上・利益の前提が、過去の実績と比べて無理がないか |
| コベナンツ | 純資産の維持、利益の維持、借入の倍率などの条件を守れるか。守れなかった場合の取扱い |
| 担保 | SPCが持つ株式、合併後の対象会社の資産 |
| 経営体制 | 買収後に誰が経営し、キーパーソンが残るか |
買収直後は、のれんの分だけ純資産が厚くならないまま借入が増えるため、著書で紹介している銀行格付けモデル(129点満点)でも、安全性と返済能力の点数は下がりがちです。だからこそ、買収前に、何年で債務償還年数が10年以内に戻るのかを示す計画が、LBOでもそうでない買収でも、融資を受ける前提になります。銀行が見るポイントの全体像はM&Aで融資をどう使うか、銀行はどこを見るか、返済期間の決め方はM&A融資の返済期間の考え方をご覧ください。
まとめ
- LBOに金額の基準はない。手間とコストに見合う借入額か、対象会社のキャッシュフローで無理なく返せるかで判断する
- キャッシュフローが安定し、設備投資が軽い会社ほどLBOに向く。社長依存や利益の振れが大きい会社は向かない
- 相談先は買い手のメインバンクと対象会社の取引銀行が基本。規模が大きければ専門部署を持つ金融機関や公庫との協調融資
- 保証協会の事業承継関連の保証は2億8,000万円、公庫は国民生活事業7,200万円・中小企業事業14億4千万円が上限の目安
- 不足分は劣後ローン・資本性ローンで補う方法がある。2026年5月に始まった企業価値担保権も選択肢になり得る
クレフティでは、LBOの形をとるべきかどうかの判断から、買収後の事業計画、金融機関の組み合わせ、公的制度の活用まで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士や金融機関出身のコンサルタントが対応します。
