M&Aの資金調達

買収後の銀行取引の整理|対象会社の借入の借換え、経営者保証の解除・移行、格付けと債務償還年数

M&Aで会社を買った後、意外に手間がかかるのが銀行取引の整理です。買収した会社にはもともとの借入があり、その多くに売り手社長の個人保証が付いています。買い手自身も買収資金を借りています。どの銀行の、どの借入を、誰の保証で続けるのか。整理を後回しにすると、売り手との約束(保証の解除)が守れず、買い手グループの格付けも分かりにくいままになります。

この記事では、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」と「中小PMIガイドライン」をもとに、買収後の銀行取引の整理を、対象会社の借入の借換え、経営者保証の解除・移行、格付けと債務償還年数、メインバンクの決め方の順に解説します。

この記事の結論
  • 買収直後に整理するのは、対象会社の既存借入、売り手の経営者保証、買い手グループの格付けの3つ
  • 既存借入は、続けるか借り換えるかを、金利・期間・担保・保証・チェンジ・オブ・コントロール条項で比べる。ガイドラインはグループファイナンスによる借換えも挙げている
  • 売り手の保証の解除・移行は買い手の義務。代表者の変更登記と同日に行う、買い手の資力で返済して借り換える、という方法がガイドラインに示されている
  • 格付けは、借入の増加とのれんで財務の指標が悪化し、利益の合算で返済能力の指標が改善する。債務償還年数で全体を示す
  • 銀行対応は、クロージング前の相談から100日までを一つの計画として進める

買収直後に整理する3つのこと

項目何が問題か誰と調整するか
対象会社の既存借入金利・期間・担保の条件は、売り手の時代の信用で決まっている。株主の変更が契約上の通知・承諾事項になっていることもある対象会社の取引金融機関
売り手の経営者保証売り手は保証の解除を最も強く望む。外れなければ売却後のトラブルになる対象会社の取引金融機関、売り手
買い手グループの格付け買収資金の借入で借入が増え、株式で買えば親会社の決算書には子会社株式が大きく載る買い手のメインバンク

中小M&Aガイドラインは、クロージング後の引継ぎ作業として、リース契約・賃貸借契約・金銭消費貸借契約等に関する名義変更・経営者保証解除・(連帯)保証人変更を挙げ、これらはクロージング前に取引金融機関などとの協議・交渉を始めることが多いとしています。銀行取引の整理は、買った後ではなく、買う前から始まっていると考えてください。

対象会社の借入:続けるか、借り換えるか

比べる項目

比べる項目確認すること
金利・手数料買い手の信用で借り換えた場合に下がるか。期限前返済の手数料
期間残りの返済期間と、借換え後の期間。返済額の月々の負担
担保対象会社や売り手個人の不動産に設定された担保を外せるか
保証売り手の保証を外せるか。買い手や新経営者の保証が求められるか
契約の条項株主・代表者の変更の通知・承諾の条項、財務制限条項(コベナンツ)の有無
銀行との関係対象会社の地元の金融機関との取引を残す必要があるか

グループファイナンスの考え方

中小PMIガイドラインは、会計・財務分野の取組の一つとして金融費用の削減を挙げ、譲受側の財務基盤や信用力を生かして、譲渡側の既存借入金の借換えや新規の資金調達を行うことで、より有利な条件で資金調達を行うこと、譲受側が譲渡側に代わって資金調達を行い、グループ内で資金を融通することで、グループ全体の有利子負債の低減や支払利息の抑制などのコストシナジー効果が期待できることを示しています。

ただし、すべてを買い手のメインバンクに寄せればよいわけではありません。対象会社が地域の金融機関と長く取引していて、その関係が取引先や採用にも効いている場合は、一部の取引を残すことも検討します。借換えの一般的な進め方は借換えで条件を良くする方法をご覧ください。

売り手の経営者保証:解除・移行の段取り

ガイドラインが示す方法

中小M&Aガイドラインは、売り手が経営者保証を確実に解除・移行したい場合の対応として、次のような方法を示しています。

方法中身
最終契約での位置付け保証の解除又は移行を買い手の義務とし、クロージングの条件に設定する。されなかった場合の解除条項や補償条項を入れる
クロージング前の手続買い手が、最終契約締結後・クロージング前に、金融機関から解除・移行が実行できるか組織的な意向表明を取得し、必要な書面を提出する。代表者の変更登記の書類も準備する
クロージング日の同時実施万全を期す場合、クロージング日に(必要に応じて金融機関の同席の下で)代表者の変更登記と保証の解除・移行の手続を同時に行う
返済と借換えクロージング時に、売り手の保証の対象となっている債務を買い手の資力で返済し、別途買い手が借り換える

ガイドラインは、正式な解除・移行はクロージングを経て登記簿上で代表者が変更された後に行う必要があり、秘密保持の観点から金融機関への相談がクロージング後になるケースもあること、その場合、買い手の信用力が著しく低いなどの事情があると円滑に解除・移行できないリスクがあることを指摘しています。また、売り手から金融機関への事前相談の申し出があった場合、買い手はその実施を拒むべきではないとしています。

事業承継時の特則

経営者保証に関するガイドラインの「事業承継時に焦点を当てた特則」は、前経営者に引き続き保証を求める場合には、前経営者の株式保有状況、代表権の有無、実質的な経営権・支配権の有無、既存債権の保全状況、法人の返済能力などを勘案して、保証の必要性を慎重に検討することが必要だとしています。特に、役員でも議決権の過半数を持つ株主でもない前経営者に保証の継続を求める場合は、より慎重な検討が求められるとされています(中小M&Aガイドラインでの引用)。株式をすべて売って役員も退いた売り手の保証を残す理由は、通常は乏しいということです。

買い手側の保証

金融機関から、買い手の代表者や買い手会社の保証を求められることもあります。経営者保証に関するガイドラインは、保証に依存しない融資のために、法人と経営者の関係の明確な区分・分離、財務基盤の強化、適時適切な情報開示による経営の透明性確保を求めています。買収後に対象会社の月次の数字をグループとして開示できる体制を作ることは、保証なしの融資を相談する土台になります。信用保証協会の事業承継向けの制度や、保証料の上乗せで経営者保証を提供しない制度もあります。詳しくは事業承継と経営者保証と経営者保証を外す方法をご覧ください。

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格付けはどう変わるか:債務償還年数で示す

買収で動く数字

指標買収による変化理由
借入金増える買収資金の借入
純資産厚くならない株式で買った場合、価格のうち純資産を超える部分(のれん相当額)は、銀行が実質的な資産として見ないことが多い
自己資本比率下がりやすい総資産と借入が増え、純資産は増えない
利益・キャッシュフローグループで見れば増える対象会社の利益が加わる。ただし株式で買った場合、親会社単体には配当などで移さないと入らない
債務償還年数案件次第借入の増加と、利益の上乗せのどちらが大きいか

銀行は、親会社単体の決算書だけでなく、子会社を含めたグループ全体で返済能力を見ようとします。中小企業には連結決算の義務はありませんが、親会社と子会社の決算を合算した表を自主的に作り、内部取引を除いた数字で説明すると、評価が安定します。

仮の数字で試算する

著書のモデルでは、債務償還年数を次の式で計算し、10年以内を健全、20年超は厳しい目安としています。

債務償還年数 =(借入金 − 現預金)÷(経常利益 + 減価償却費 − 法人税等)

例えば(仮の数字です)、買い手の借入金3億円・現預金1億円・年間キャッシュフロー(経常利益+減価償却費−法人税等)4,000万円なら、(3億円−1億円)÷4,000万円=5年。ここで、買収資金1億5,000万円を借りて、キャッシュフロー1,500万円の会社(借入金5,000万円・現預金2,000万円)を買うと、グループでは(3億円+1.5億円+0.5億円−1億円−0.2億円)÷(4,000万円+1,500万円)=3億8,000万円÷5,500万円≒6.9年です。健全の目安の内側に収まっていても、年数は伸びます。次の投資や買収の前に、何年でどこまで戻すかを計画しておくことが大切です。

著書のモデルの銀行格付けは129点満点(安全性34・収益性15・成長性25・返済能力55)で、正常先の目安は32点以上、プロパー融資の目安は「正常先+純資産1億円」です。買収は、返済能力の点数を上げうる一方、安全性の点数を下げやすい取引です。格付けの上げ方は銀行格付けを上げる方法、グループの見られ方はグループ会社を銀行はどう見るかをご覧ください。

メインバンクを決め、取引を整理する

複数の金融機関との付き合い方

買収後は、買い手の取引金融機関と、対象会社の取引金融機関が並ぶことになります。どこをグループのメインバンクにするかは、金額の大きさだけでなく、次の点で決めます。

  • 買収資金を出した金融機関か(買収の経緯と事業計画を最もよく知っている)
  • 対象会社の地域・業種に強いか
  • 次の設備投資や買収の資金を相談できるか

1行で負担しきれない金額の買収では、政府系金融機関と民間金融機関の協調融資を組むこともあります。事務所でも、専門職(年商5,000万円)のお客さまが、9,000万円のM&Aの資金を、政府系金融機関と地方銀行の協調融資(買収資金と統合後の運転資金)で調達された事例があります。協調融資の仕組みは協調融資の仕組み、買収資金の融資はM&Aの買収資金の融資で解説しています。

買収後100日の銀行対応

時期対応
最終契約の前対象会社の借入契約の条項(株主・代表者の変更の扱い、コベナンツ)を確認。売り手の保証の解除・移行について金融機関と事前相談
クロージング日代表者の変更登記と保証の解除・移行を同時に行う。または買い手の資力で返済し、借り換える
〜1か月対象会社の全取引金融機関に、新しい経営体制と事業方針を説明する。印鑑・口座の名義人などの変更
〜3か月借入の一覧(残高・金利・期限・担保・保証)をグループで作り、借換えの要否を判断する
最初の決算後親会社と子会社の合算表と、買収後の債務償還年数を示して、メインバンクと今後の資金計画を相談する

中小PMIガイドラインは、推進体制の確立や関係者との信頼関係の構築を、M&A成立後100日までを目途に集中的に実施するとしています。金融機関も、取引先・従業員と同じ「関係者」の一つです。最初の100日に、新しい経営者が直接あいさつし、数字で説明することが、その後の融資のしやすさを左右します。

まとめ

  • 買収直後に整理するのは、対象会社の既存借入、売り手の経営者保証、グループの格付け
  • 既存借入は、金利・期間・担保・保証・契約条項で比べ、グループファイナンスによる借換えも検討する
  • 売り手の保証の解除・移行は買い手の義務。変更登記と同日の手続、返済と借換えなどの方法で確実に外す
  • 格付けは、借入とのれんで悪化、利益の合算で改善。グループの債務償還年数で示す
  • 銀行対応は、最終契約の前から100日までを一つの計画として進める

クレフティでは事業承継・M&A支援として、買収後の借入の一覧化と借換えの検討、経営者保証の解除・移行に向けた金融機関との調整の支援、グループの合算表と事業計画の作成をお受けしています。資金調達部長は元地方銀行員です。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。

よくある質問

買収した会社の借入は、借り換えたほうがいいですか?
必ずしも借り換える必要はありませんが、検討する価値はあります。中小PMIガイドラインは、譲受側の財務基盤や信用力を生かして譲渡側の既存借入金の借換えや新規の資金調達を行い、より有利な条件で資金調達を行うことや、グループ内で資金を融通して有利子負債や支払利息を抑えることを挙げています。売り手の経営者保証を確実に外す方法として、クロージング時に買い手の資力で返済し、別途借り換える方法も中小M&Aガイドラインに示されています。
売り手の経営者保証は、買い手が引き継がなければいけませんか?
引き継ぐか、保証なしに切り替えるかは金融機関の判断ですが、中小M&Aガイドラインは、保証の解除又は移行を買い手の義務として最終契約に位置付け、クロージングの条件とすることなどを勧めています。買い手が自分の保証を求められる場合でも、経営者保証ガイドラインの要件(法人と個人の分離、財務基盤の強化、適時適切な情報開示)を満たせば、保証なしの融資を相談する余地があります。
買収すると、銀行の格付けは下がりますか?
買収資金を借りると借入が増え、株式で買った場合はのれん相当額の分だけ純資産が厚くならないため、一時的に財務の指標は悪化しやすくなります。一方で、対象会社の利益が加わるため、返済能力の指標は改善しえます。著書のモデルでは債務償還年数((借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等))10年以内を健全の目安としており、買収後のグループ全体でこの数字がどうなるかを銀行に示すことが大切です。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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