「会社は継いでもいい。でも、何億円もの借金の連帯保証人になるのは怖い」。事業承継の相談で、後継者の方から最もよく聞く言葉のひとつです。
中小企業の借入では、社長個人が会社の借入を保証する経営者保証が長く当たり前でした。事業承継では、この保証を「前の社長に残すのか」「後継者に付け替えるのか」「外すのか」が必ず問題になります。準備をしないまま代表を交代すると、前社長と後継者の両方が保証人になっているという状態も起こり得ます。
この記事では、経営者保証ガイドラインの「事業承継時に焦点を当てた特則」の中身、信用保証協会の事業承継特別保証、M&Aで会社を売るときの保証解除、さらに保証を実際に履行したときの税金の扱いを、公的資料と国税不服審判所の公表裁決に沿って整理します。
- 事業承継では、前経営者と後継者の双方から保証を取る「二重徴求」は原則として行わないというのが、経営者保証ガイドラインの特則(2020年4月適用)のルール
- 後継者への保証は「当然に引き継ぐ」ものではない。金融機関には、保証を求める理由と、外すための改善点を個別・具体的に説明することが求められている
- 前経営者の保証も、経営から離れれば「第三者保証」に近い位置づけになり、見直しの対象になる
- 保証を外す近道は、ガイドラインの3要件(法人と個人の分離・財務基盤の強化・情報開示)を代表交代の前に満たしておくこと
- 保証を履行して資産を売ったときの税金の特例(所得税法64条2項)は、求償権が本当に回収できないかが厳しく見られる
事業承継で経営者保証が問題になる理由
経営者保証は、会社が返済できなくなったときに、社長個人が代わりに返済する約束です。オーナー経営者にとっては「自分の会社だから当然」と受け止めてきたものでも、後継者にとっては事情が違います。
- 自分が作った借入ではないのに、個人で全額の責任を負う
- 株式をまだ十分に持っていない段階で、保証だけを先に求められることがある
- 家族(配偶者)が保証に反対し、承継の話そのものが止まる
経営者保証ガイドライン研究会が2019年12月に公表した特則の冒頭でも、経営者保証を理由に後継者候補が承継を拒否するケースが一定程度あることが課題として挙げられています。経営者保証は、事業承継の「入口」でつまずく典型的な原因なのです。
前社長の側にも問題があります。代表を退いて株式も手放したのに、保証だけが残っていると、経営に口を出せないまま会社の借入のリスクだけを負い続けることになります。前社長が亡くなれば、保証債務は相続人に引き継がれます(相続のときの扱いはオーナーが亡くなったときの口座・借入・経営者保証で解説しています)。
経営者保証ガイドラインと「事業承継時の特則」
ガイドラインの基本
「経営者保証に関するガイドライン」は、日本商工会議所と全国銀行協会が事務局となった研究会が2013年12月に公表し、2014年2月から適用されている自主的なルールです。法律ではありませんが、金融機関・信用保証協会はこれを尊重して対応することが期待されています。
保証を求めない対応を検討する前提として、会社側に求められるのが次の3要件です(詳しくは経営者保証を外す方法を参照)。
- 法人と経営者の資産・経理の明確な区分・分離
- 財務基盤の強化(会社の資産・収益力で返済できること)
- 財務状況の正確な把握と、適時適切な情報開示
特則で決まった4つのこと
これに加えて、事業承継の場面に絞った「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」が2019年12月に取りまとめられ、2020年4月1日から適用されています。金融機関に求めている対応は、大きく次の4つです。
| 項目 | 特則が金融機関に求めていること |
|---|---|
| 二重徴求 | 前経営者・後継者の双方から保証を取ることは原則として行わない |
| 後継者との保証契約 | 当然に引き継がせず、事業承継への影響も考えて慎重に判断する。要件を多く満たしていなくても、保証を求めない対応ができないか真摯かつ柔軟に検討する |
| 前経営者との保証契約 | 実質的な経営権・支配権がなければ「いわゆる第三者」に当たる可能性があるとして、保証の見直しを検討する |
| 説明 | どの要件が足りないのか、どう改善すれば外れる可能性が高まるのかを個別・具体的に説明する。法人の資産・収益力は、できる限り定量的な目線を示す |
二重徴求が例外的に認められる4つの場合
特則は、二重徴求が例外的に許される場面を4つに限っています。要約すると次のとおりです。
- 前経営者が亡くなり、相続が確定するまでの間など、手続きが終われば前経営者側の保証を外す予定で、一時的に二重になる場合
- 前経営者が経営から離れたが、会社から前経営者への多額の貸付金が残っていて、保証を外すと著しく公平を欠くとして、後継者が前経営者の保証を外さないよう求めている場合
- 返済条件の緩和などの金融支援を受けている会社で、前経営者から後継者への多額の資産移転などがあり、双方から保証を取らなければ支援の継続が難しい場合
- 前経営者・後継者の双方が、自分の事情で保証の提供を申し出て、説明を受けても意向が変わらない場合(書面で確認するなど、金融機関から求めたものではないことが必要)
あわせて特則は、単独代表から複数代表になっただけ、代表権は移ったが株式の大半は前経営者が持っている、といった事情だけで二重徴求を判断しないよう注意しています。逆に言えば、会社から社長への貸付金が残っている、返済条件の緩和を受けているといった状態は、二重徴求を招く材料になります。代表交代の前に片付けておきたいポイントです。
後継者に保証を求めない、または軽くするための選択肢
特則は、後継者への保証を検討する際の考え方と、保証がやむを得ない場合の代わりの方法も示しています。
| 段階 | 特則に挙げられている対応 |
|---|---|
| 保証の要否を判断するとき | 事業性評価、事業承継計画・事業計画の内容と成長可能性を考慮する/報告義務などを条件とする停止条件付保証契約を活用する/外部専門家の検証や改善計画、中小企業活性化協議会の確認結果を考慮する |
| 保証がやむを得ないとき | 資金使途に応じて保証金額を限定する(正常運転資金や保全の効いた設備資金を除くなど)/財務が改善したら効力を失う解除条件付保証契約を活用する/経営者保証を不要とする信用保証制度や政府系金融機関の融資制度の利用を検討する |
停止条件付保証契約は、決算書の提出などの約束(コベナンツ)を守っている限り保証の効力が生じない契約、解除条件付保証契約は、約束を満たせば保証の効力がなくなる契約です。「保証か、無保証か」の二択ではなく、条件付きの保証や金額の限定という中間の選択肢があることは、後継者と銀行の両方にとって話し合いの材料になります。
事業承継特別保証制度
信用保証協会には、事業承継時に経営者保証を不要とする「事業承継特別保証制度」があります(2020年4月取扱い開始)。全国信用保証協会連合会のリーフレット(2023年4月発行)による概要は次のとおりです。
- 対象:保証申込受付日から3年以内に事業承継を予定し、事業承継計画を持つ法人など
- 財務要件:①資産超過、②EBITDA有利子負債倍率((借入金・社債−現預金)÷(営業利益+減価償却費))が10倍以内(2022年8月から一時15倍以内に緩和され、2024年9月以降の申込みから10倍以内に戻っています)、③法人・個人の分離、④返済緩和している借入金がないこと
- 保証限度額:2億8,000万円(組合等は4億8,000万円)、保証人は徴求しない
- 経営者保証のある既存のプロパー借入(他の金融機関の分も含む)の借換えにも使える
対象期間や保証料率などの条件は改定されることがあるため、利用を考えるときは取引金融機関か信用保証協会で最新の条件を確認してください。EBITDA有利子負債倍率は、私の著書で紹介している債務償還年数((借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等))とよく似た物差しです。「借入を何年分の稼ぎで返せるか」が、保証を外せるかどうかの分かれ目になっているわけです。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る銀行は実際にどれくらい保証を外しているか
金融庁は、民間金融機関の経営者保証ガイドラインの活用実績を公表しています。2026年7月の「金融仲介機能の発揮に向けたプログレスレポート」によれば、2025年度の新規融資件数に占める「経営者保証に依存しない融資」の割合は、民間金融機関全体で55.7%でした。2024年度の52.9%から上がっています。
また、金融庁は2026年2月に監督指針を改正し(同年4月適用)、2023年3月以前に結ばれた既存の保証契約についても、新規の契約と同じように保証の必要性の説明と記録を求めることを、監督上の着眼点として明確にしました。同じ改正では、中小M&Aガイドライン(第3版)の趣旨を踏まえた経営者保証の取扱いも着眼点に加えられています。
金融庁は、代表者交代時に「保証を取らなかった」「新経営者のみ」「旧経営者のみ」「新旧両方」の割合も金融機関ごとに公表しています。取引銀行の数字を見ておくと、交渉の前にその銀行の傾向がわかります。
M&Aで会社を売るときの経営者保証
親族や社員への承継だけでなく、第三者に会社を売る場合も経営者保証は大きな論点です。株式を売って会社の持ち主が変わっても、売り手の社長の保証は自動的には外れません。
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」(2024年8月)は、この点について次のような考え方を示しています。
- 経営者保証は、M&Aの成立(クロージング)と同時に解除されるのが最優先。難しい場合も、成立後できるだけ早く解除する
- 保証の解除・移行を譲り受け側(買い手)の義務として最終契約に定め、クロージングの条件にする、解除されない場合の契約解除や補償の条項を入れる
- 保証を提供している金融機関への相談は、少なくとも最終契約後クロージング前までに始め、できれば最終契約より前が望ましい
M&Aでは、売却代金を受け取ったのに保証が残り、買い手の経営がうまくいかずに保証の履行を求められる、というトラブルが問題になってきました。売り手としては、株式譲渡契約の中で保証の扱いを詰めることが、価格交渉と同じくらい大切です。契約の要点は株式譲渡契約の表明保証・補償・前提条件で解説しています。
保証を履行したときの税金:公表裁決に見る特例の線引き
経営者保証は「外せるかどうか」だけでなく、会社が行き詰まって保証を履行することになったときの税金も知っておく必要があります。
保証人が自宅などの資産を売って会社の借入を返済した場合、本来は譲渡所得に税金がかかります。ただし所得税法64条2項の特例により、①会社がすでに返済できない状態で保証したものではない、②保証債務を履行するために資産を売った、③履行した分の全部または一部を会社から回収できなくなった、という要件を満たせば、回収できなくなった金額などを限度に、所得がなかったものとされます(国税庁タックスアンサーNo.3220)。
この特例は、「本当に回収できないのか」がよく争われます。国税不服審判所の公表裁決(要旨)から、事業承継に関係が深いものを整理します。
| 裁決 | 事案の要点 | 結論 |
|---|---|---|
| 昭和55年6月30日裁決(裁決事例集No.20) | 保証を履行した後、主たる債務者への求償権を放棄。債務者は事業を続け、毎期純利益を計上し、放棄の翌期には請求人に新たな貸付けまでしていた | 求償権が行使できないための放棄とは認めず、特例の適用なし |
| 昭和61年8月29日裁決(No.32) | 債務者は銀行の協力で事業を継続し、借入残高は年々減少、放棄直後の決算で利益を計上 | すぐには払えない状況でも、「回収の見込みがないことが確実」とまではいえず、適用なし |
| 平成元年4月13日裁決(No.37) | 物上保証人兼連帯保証人が債務を全額弁済。ほかの連帯保証人2名は名義だけだと主張 | ほかの連帯保証人に十分な支払能力があり、その負担部分の求償権は行使できるとして、その部分は適用なし |
| 平成2年11月19日裁決(No.40) | 大口債権者2社などとの覚書に基づいて求償権を放棄 | 法令の手続きによらない限られた当事者の覚書で、債務者は事業を継続し利益も計上しており、適用なし |
| 平成10年7月9日裁決(No.56) | 共同保証人の不動産に差押えがあり、ほかの不動産にも評価額を大きく超える抵当権 | 共同保証人の債務超過が著しく、求償権の行使は不可能として、全額に特例を認めた |
(出典:国税不服審判所「公表裁決事例要旨」所得税法関係・保証債務の履行。いずれも要旨による整理)
実務への示唆は3つです。
- 会社が事業を続けて利益を出しているのに求償権を放棄しても、特例は使えないことが多い。放棄の時期と会社の状況を記録で説明できるようにしておく
- 連帯保証人が複数いる場合は、ほかの保証人への求償も見られる。兄弟や前社長と後継者が並んで保証しているときは要注意
- 会社がすでに返済できない状態のときに保証したものは対象外。危機に陥ってから家族に保証を付けるのは、税務上も不利になり得る
保証債務は、相続税でも原則として債務控除できません。会社の借入の保証は、生前に整理しておくほど家族の負担が軽くなると考えてください。
代表交代までに準備しておきたいこと
最後に、経営者保証の観点から、事業承継の数年前から進めておきたい準備をまとめます。
| 時期の目安 | やること |
|---|---|
| 3〜5年前 | 全取引銀行の借入と保証契約(根保証・個別保証・担保)を一覧にする。社長への貸付金・仮払金を解消し、役員報酬が過大でないかを確認する |
| 2〜3年前 | 事業承継計画と事業計画をつくり、銀行と共有する。債務償還年数・純資産などの改善目標を決める。月次試算表を出す習慣をつける |
| 1年前 | 銀行ごとに、代表交代後の保証の扱い(後継者の保証の要否、前社長の保証解除)を相談する。事業承継特別保証や政府系金融機関の制度も比較する |
| 交代時 | 株式の移転や代表交代を速やかに銀行に報告し、保証の解除・変更の手続きを進める。二重徴求になった場合は、見直しの時期を確認しておく |
特則も、経営者側に対して、代表交代の前に3要件を満たすよう主体的に経営改善に取り組むことや、株式・経営権が移ったら速やかに金融機関に報告することを求めています。保証の交渉は、決算書の数字が整ってから始めるほど有利です。格付けの上げ方は銀行格付けを上げる方法、後継者と銀行の関係づくりは事業承継と銀行:後継者の信用をどうつくるか、社内の役員が継ぐ場合は社内後継者と経営者保証・借入の引継ぎもあわせてご覧ください。
まとめ
- 事業承継時の経営者保証は、ガイドラインの特則で二重徴求を原則として行わないことになっている。例外は4つの場面に限られる
- 後継者への保証は当然ではなく、金融機関には理由と改善点の説明が求められている。条件付き保証や金額の限定、事業承継特別保証などの選択肢もある
- 前経営者の保証も、経営から離れれば見直しの対象。代表交代のときに銀行ごとに確認する
- M&Aでは、保証の解除を買い手の義務・クロージング条件として最終契約に入れる
- 保証を履行したときの税金の特例は、求償権が本当に回収できないかが厳しく見られる。公表裁決でも否認例が多い
クレフティでは、借入と保証契約の棚卸し、事業承継計画と銀行への説明資料づくり、M&A時の契約条件の確認まで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
