M&Aの資金調達

M&A融資で使える公的制度|日本政策金融公庫の事業承継・集約・活性化支援資金と、信用保証協会の事業承継関連保証

M&Aや事業承継では、株式の買取りや事業用資産の取得に、まとまった資金が必要になります。民間金融機関のプロパー融資だけでは足りない、あるいは条件を良くしたいとき、検討したいのがM&A融資で使える公的制度です。

公的制度には、日本政策金融公庫の融資制度、信用保証協会の保証制度、そしてその前提となる経営承継円滑化法の認定があります。ただ、制度名が似ていて、どれが自分のケースに当たるのか分かりにくいのが実情です。

この記事では、日本政策金融公庫、全国信用保証協会連合会、中小企業庁の公式ページで確認した内容をもとに、制度の対象と要件を整理し、使い分けと銀行の見え方まで解説します。制度の内容や限度額は改定されることがあるため、利用前に必ず最新の案内を確認してください。

この記事の結論
  • 公庫の事業承継・集約・活性化支援資金は、事業承継・集約(M&Aを含む)の設備資金・運転資金に使える。限度額は国民生活事業7,200万円(別枠)、中小企業事業の直接貸付14億4千万円
  • 信用保証協会には事業承継関連の保証が7つあり、限度額はいずれも2億8,000万円。M&Aで他社株式を買う資金は経営承継準備関連保証、持株会社による買取りは事業承継サポート保証
  • 経営承継円滑化法の認定(都道府県知事)を受けると、公庫の個人向け融資や、保証協会の別枠が使えるようになる
  • 資本性ローンは金融機関の資産査定上自己資本とみなせるため、民間融資の条件交渉に効く
  • 公的制度を使っても、銀行は買収後のグループ全体の債務償還年数で返済力を見る

公的制度の全体像

区分制度主な役割
融資日本政策金融公庫「事業承継・集約・活性化支援資金」事業承継・集約に必要な設備資金・運転資金を直接貸す
融資日本政策金融公庫「挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)」期限一括返済の資本性資金。自己資本とみなせる
保証信用保証協会の事業承継関連保証(7制度)民間金融機関の融資に保証を付ける。経営者保証を不要とするものもある
前提となる認定経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定公庫の個人向け融資、保証協会の別枠の前提になる

沖縄県では、沖縄振興開発金融公庫が日本政策金融公庫に相当する役割を担います。都道府県や市区町村の制度融資にも、事業承継向けのメニューを設けているところがあります(制度融資の仕組みは都道府県の制度融資とは)。

日本政策金融公庫:事業承継・集約・活性化支援資金

国民生活事業と中小企業事業の違い

日本政策金融公庫には、小規模事業者向けの国民生活事業と、中小企業向けの中小企業事業があり、同じ名前の制度でも条件が違います。

項目国民生活事業中小企業事業
融資限度額7,200万円(他の融資制度の残高とは別枠)直接貸付14億4千万円
返済期間設備資金20年以内、運転資金10年以内(いずれも据置5年以内)設備資金20年以内、運転資金10年以内(いずれも据置5年以内)
利率対象区分や使いみち、返済期間、担保の有無により、基準利率・特別利率対象区分や金額に応じて基準利率から引下げ。株式等(のれん代を含む)の取得資金で担保を徴しない場合の利率引下げの特例
担保・保証人相談のうえ決定。経営者保証免除特例制度などと併用できる相談のうえ決定

出典:日本政策金融公庫「事業承継・集約・活性化支援資金(国民生活事業)」、同(中小企業事業)

対象となる方

両事業とも、対象は大きく次の5つの区分に分かれています(表現は公庫の案内を要約したものです)。

  1. 事業承継計画を策定している方:現経営者が後継者(候補者を含む)と事業承継計画を策定している
  2. 事業の承継・集約を行う方:経営権を安定的に確保するなどのため、事業を承継・集約する方、または承継・集約される方
  3. 経営承継円滑化法の認定を受けた方:認定を受けた中小企業者の代表者、認定を受けた個人の中小企業者、事業を営んでいない個人など
  4. 経営者保証の免除を申し入れた後に資金調達が困難になった方:事業承継時に取引金融機関に個人保証の免除を申し入れたことを契機に資金調達が難しくなり、公庫が経営者保証を免除する方
  5. 承継・集約を契機に新たな取組みを行う方:第二創業や新たな取組み、M&A後のPMI(買収後の統合)に取り組む方(一定期間内)

M&Aで会社を買う場合は、主に2番目の「事業の承継・集約を行う方」に当たるかどうかが入口になります。買収後のPMIに必要な資金が5番目の区分で対象になっている点も、見落とされがちなポイントです。PMIで何にお金がかかるかは買収後のPMIで一番苦労するところで解説しています。

資本性ローン

公庫の挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)は、事業承継・集約・活性化支援資金などの対象となる方が、地域経済の活性化にかかる事業を行う場合に使える制度です。返済期間は5年1か月以上20年以内の期限一括返済で、無担保・無保証人です。公庫の案内では、この債務は金融機関の資産査定上、自己資本とみなすことができるとされています(日本政策金融公庫「挑戦支援資本強化特別貸付」)。

買収で借入が増え、純資産が薄く見えるときに、資本性ローンで自己資本を補えば、民間金融機関から見た安全性が上がり、シニアの融資の条件交渉がしやすくなります。利率は業績に応じて毎年見直される仕組みなので、利息の負担も含めて計画します。

信用保証協会の事業承継関連保証

全国信用保証協会連合会の案内では、事業承継に関連する保証制度として次の7つが紹介されています。限度額はいずれも2億8,000万円です。

制度対象資金使途
事業承継特別保証3年以内に事業承継を予定する計画を持つ法人など。資産超過、EBITDA有利子負債倍率10倍以内、法人と個人の分離、返済緩和中の借入がないこと、をすべて満たすこと事業資金。経営者保証付きの既存のプロパー借入の借換えも可。経営者保証は不要
事業承継サポート保証新設持株会社持株会社が事業会社の株式を買い取る資金
経営承継関連保証経営承継円滑化法の認定を受けた中小企業者議決権株式・事業用資産の取得資金、相続税・贈与税の納税資金、遺留分侵害額の支払資金、運転資金など
特定経営承継関連保証認定を受けた、後継者である中小企業者の代表者株式等・事業用資産の取得資金、納税資金など
経営承継準備関連保証(M&A向け)認定を受けた中小企業者(これから他の中小企業者の経営を承継しようとする者)株式等の取得資金、事業用資産等の取得資金。一定の場合は連帯保証人を徴求しない
特定経営承継準備関連保証(EBO等向け)認定を受けた、事業を営んでいない個人株式等の取得資金、事業用資産等の取得資金
経営承継借換関連保証認定を受けた中小企業者経営者保証付きの借入を、経営者保証が不要な融資に借り換える資金

出典:全国信用保証協会連合会「事業承継をお考えの方」

M&Aで他社の株式を買う資金に直接関係するのは、経営承継準備関連保証(会社が買う場合)、特定経営承継準備関連保証(従業員などの個人が買う場合)、事業承継サポート保証(持株会社が買う場合)です。事業承継特別保証は、買収資金そのものではなく、承継を控えた会社が経営者保証なしで事業資金を借りるための制度だと理解しておくとよいでしょう。

このほか、2024年3月から、保証料率の上乗せを条件に経営者保証を提供しないことを選べる信用保証制度も始まっています(全国信用保証協会連合会の資料)。保証協会付き融資と民間のプロパー融資の違いは信用保証協会付き融資とプロパー融資の違いで解説しています。

株主構成の整理から、承継・売却まで一緒に考えます

M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。

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経営承継円滑化法の認定と「別枠」

認定を受けると何が変わるか

中小企業庁の「経営承継円滑化法による支援」のページとパンフレット「事業承継における融資・保証制度」によれば、金融支援の前提となる認定は都道府県知事が行います。認定を受けると、次の支援が受けられます。

  • 融資:会社の代表者や事業を営んでいない個人が、日本政策金融公庫または沖縄振興開発金融公庫の融資制度を利用できる
  • 信用保証:中小企業者(会社・個人事業主)や個人が金融機関から借り入れる場合、原則として信用保証協会の通常の保証枠とは別枠が用意される

パンフレットでは、通常枠(普通保険2億円、無担保保険8,000万円など)に対して、同額の別枠が示されています。すでに保証協会付きの借入が多い会社でも、認定を受ければ承継・買収の資金に別の枠を使える、というのが大きな意味です。

3つの類型

類型必要となる資金の例支援の対象者
経営を承継した後に必要となる資金後継者が自社の株式や事業用資産を買い取る資金、相続税・贈与税の納税資金、取引条件が厳しくなったことによる資金中小企業者、中小企業者の代表者
これから他の中小企業者の経営を承継するために必要となる資金(2018年7月新設)M&Aにより他社の株式や事業用資産を買い取るための資金などこれから他の中小企業者の経営を承継しようとする中小企業者、事業を営んでいない個人
認定日から承継の日までに、現経営者の保証が付いた借入を借り換える資金(2020年10月新設)経営者保証が不要な融資への借換え中小企業者(会社)

出典:中小企業庁「経営承継円滑化法による支援」

申請先は、申請者の主たる事務所の所在地(事業を営んでいない個人は住所地)の都道府県です。なお、パンフレットでも、都道府県知事の認定とは別に金融機関や保証協会の審査があると明記されています。認定を受ければ必ず借りられるわけではない点に注意してください。

制度の使い分けと組み合わせ方

状況検討する制度
小規模な会社を買う(買収額が数千万円規模)公庫(国民生活事業)、保証協会の経営承継準備関連保証、地域の金融機関の保証付き融資
中規模以上の会社を買う公庫(中小企業事業)と民間金融機関の協調融資、民間のプロパー融資
持株会社を作って株式を買い取る事業承継サポート保証、公庫
従業員・役員が個人で株式を買う(EBO・MBO)認定を受けたうえでの公庫の融資、特定経営承継準備関連保証
買収で純資産が薄くなる公庫の資本性ローンで自己資本を補う
承継を機に経営者保証を外したい事業承継特別保証、経営承継借換関連保証

事務所でご支援した、年商5,000万円規模の専門職のお客さまの9,000万円のM&Aでは、政府系金融機関と地方銀行の協調融資で、買収資金と統合後の運転資金を調達しました。公的制度は単独で使うよりも、民間金融機関の融資と組み合わせて使うことで、1行あたりの負担を抑え、全体の条件を整えやすくなります。

補助金や税制など、融資以外の公的支援は事業承継・M&Aの補助金と公的支援にまとめています。

公的制度を使っても、銀行は返済年数を見る

公的制度は、金利や保証、限度額の面で有利な条件を用意してくれますが、返済できる計画であることが前提である点は変わりません。私の著書で紹介している債務償還年数(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)は、10年以内が健全、20年超は厳しいとされる目安です。

保証協会の事業承継特別保証の要件にあるEBITDA有利子負債倍率((借入金・社債−現預金)÷(営業利益+減価償却費))の「10倍以内」も、借入を何年分の稼ぎで返せるかを測る物差しで、債務償還年数とよく似た考え方です。公的制度を組み合わせる場合も、買収後のグループ全体でこの年数が何年になり、何年で元の水準に戻るのかを、事業計画とあわせて示すことが大切です。銀行が見るポイントの全体像はM&Aで融資をどう使うか、銀行はどこを見るか、借入の形の違いは融資を使ったM&Aの仕組みをご覧ください。

まとめ

  • 公庫の事業承継・集約・活性化支援資金は、国民生活事業7,200万円(別枠)、中小企業事業直接貸付14億4千万円。返済期間は設備20年以内・運転10年以内(据置5年以内)
  • 資本性ローンは自己資本とみなせるため、買収で薄くなった純資産を補える
  • 保証協会の事業承継関連保証は7つ、限度額はいずれも2億8,000万円。M&Aの株式取得は経営承継準備関連保証、持株会社は事業承継サポート保証
  • 経営承継円滑化法の認定(都道府県知事)で、公庫の個人向け融資と、保証協会の別枠が使えるようになる。ただし審査は別にある
  • 公的制度は民間の融資と組み合わせて使い、買収後の債務償還年数で返せる計画にする

クレフティでは、公的制度の選び方と認定申請の準備、公庫と民間金融機関の協調融資の調整、買収後の事業計画の作成まで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士や金融機関出身のコンサルタントが対応します。

よくある質問

日本政策金融公庫の事業承継・集約・活性化支援資金は、M&Aで会社を買う資金に使えますか?
使える場合があります。公庫の案内では、事業の承継・集約を行う方(承継される側を含む)が対象に含まれており、中小企業事業では株式等(のれん代を含む)の取得資金について担保を徴しない場合の利率引下げなどの特例も設けられています。国民生活事業の限度額は7,200万円(別枠)、中小企業事業の直接貸付は14億4千万円です。対象になるかどうかは公庫の審査によるため、案件ごとに支店で確認してください。
経営承継円滑化法の認定を受けると、何が変わりますか?
中小企業庁の案内では、都道府県知事の認定を受けると、代表者個人や事業を営んでいない個人が日本政策金融公庫などの融資制度を利用できるようになり、中小企業者などが借り入れる場合には、信用保証協会の通常の保証枠とは別枠が用意されます。M&Aで他社の株式や事業用資産を買い取る資金も、認定の対象になる類型があります。認定とは別に、金融機関や保証協会の審査があります。
保証協会の事業承継特別保証は、M&Aの買収資金に使えますか?
事業承継特別保証は、事業承継を予定している法人などが、経営者保証なしで事業資金を借りたり、経営者保証付きの既存の借入を借り換えたりするための制度で、買収資金そのものを主な対象とするものではありません。M&Aで他社の株式などを取得する資金には、経営承継円滑化法の認定を前提とした経営承継準備関連保証などが用意されています。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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