賃貸していたビルの主要テナントが撤退して長く空いたまま、周辺の相場も大きく下がった。こんなとき、決算書では減損損失を計上すべきか、そして税金はどうなるのかが問題になります。
結論から言うと、会計上の減損と、税務上の評価損は別のルールです。会計上は減損損失を計上しても、税務上は原則として損金になりません。この記事では、中小企業の会計での減損の要件、税務上の扱い(法人と個人)、裁決事例、決算書の表示と銀行の見え方を解説します。含み損益の全体像は含み益・含み損と銀行の実態BSで整理しています。
- 中小企業の会計に関する指針では、資産の使用状況に大幅な変更があった場合に減損を検討し、①将来使用の見込みが客観的にない、②用途を転用したが採算が見込めない、のいずれかで、かつ時価が著しく下落していれば減損損失を認識する
- 税務上、減損損失は原則として損金不算入。災害、1年以上の遊休、用途の変更、所在場所の状況の著しい変化など、施行令68条の事実がある場合に限り評価損として損金になる
- 建物の減損損失のうち損金不算入の部分は、償却費として損金経理した額として翌期以降に繰り越して損金算入される。土地は売却まで損金にならない
- 減損損失は原則として特別損失。損金算入の可否と表示区分を、顧問税理士・会計の専門家と検討する
会計上の減損:中小企業と大会社で基準が違う
会計上の判断は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って行います。減損については、会社の規模で拠るべき基準が違います。
| 項目 | 減損会計基準(大会社・上場会社など) | 中小企業の会計に関する指針 |
|---|---|---|
| 根拠 | 企業会計審議会「固定資産の減損に係る会計基準」 | 中小企業の会計に関する指針 第36項 |
| 検討のきっかけ | 減損の兆候(営業損益の継続的なマイナス、用途の変更、経営環境の著しい悪化、市場価格の著しい下落など) | 資産の使用状況に大幅な変更があった場合 |
| 認識の要件 | 割引前将来キャッシュフローの総額が帳簿価額を下回る | 将来使用の見込みが客観的にない、または用途を転用したが採算が見込めない、かつ時価が著しく下落 |
| 測定 | 回収可能価額(正味売却価額と使用価値のいずれか高い方)まで減額 | 相当の減額 |
中小企業の会計に関する指針(令和7年9月19日修正版)は、減損会計基準をそのまま適用する技術的な難しさを考慮し、使用状況に大幅な変更があった場合に検討する簡便な方法をとっています。相当期間遊休状態にあれば、通常、将来使用の見込みがないと判断されるとしています。また、減損損失は損益計算書の特別損失に計上し、減損損失累計額は減価償却累計額に準じて表示するとしています。
賃貸不動産で減損を検討する場面の例
- 主要テナントの退去後、長期間空室が続き、再募集の見込みが立たない
- 賃貸から自社利用や別用途に転用したが、採算が見込めない
- 建替え・取壊しを決め、使用を停止した
- 災害で建物が大きく損傷した
一方、相場が下がっていても、満室で賃貸を続けており、使用状況に大きな変化がない物件は、中小企業の会計に関する指針のもとでは通常は減損の対象になりません。
税務上の扱い:法人は原則損金不算入
評価損が損金になるのは限られた場合だけ
法人税法33条1項は、資産の評価換えで帳簿価額を減額しても、その減額部分は損金に算入しないとしています。例外は33条2項で、施行令68条1項3号は固定資産について次の事実を挙げています。
| 施行令68条1項3号の事実 | 不動産での例 |
|---|---|
| 災害により著しく損傷したこと | 地震・水害による建物の大きな損傷 |
| 1年以上にわたり遊休状態にあること | 取壊し予定で長期間使っていない建物 |
| 本来の用途に使用できないため他の用途に使用されたこと | 用途規制の変更などで店舗を倉庫として使うことになった |
| 所在する場所の状況が著しく変化したこと | 周辺環境の激変 |
| これらに準ずる特別の事実 | やむを得ない事情で取得から1年以上事業の用に供されない(法人税基本通達9-1-16) |
逆に、過度の使用や修理不足による損耗、償却不足、取得価額が同種の資産より高かったことなどによる価額の低下は、評価損の対象にならないとされています(同9-1-17)。
減損損失と減価償却の関係
建物などの減価償却資産で、減損損失のうち損金にならなかった部分は、「償却費として損金経理をした金額」に含まれます(法人税基本通達7-5-1(5)と注記)。つまり、申告では償却超過額として扱い、翌期以降、償却限度額に余裕がある範囲で損金に算入されていきます。土地は減価償却しないため、減損損失は売却などで処分するまで損金になりません。
| 資産 | 会計上 | 税務上(評価損の事実がない場合) |
|---|---|---|
| 建物・附属設備 | 減損損失を特別損失に計上し、以後は減額後の簿価で償却 | 損金不算入額は償却超過額として繰り越し、翌期以降の償却限度額の範囲で損金算入 |
| 土地 | 減損損失を特別損失に計上 | 申告で加算し、売却時に減算 |
税効果会計を適用している会社では、損金不算入の減損損失は一時差異になります。
数値例:建物の減損と申告調整
数字は説明のための仮のものです。帳簿価額6,000万円の建物について、会計上2,000万円の減損損失を計上したが、施行令68条の事実には当たらないとします。
| 項目 | 会計 | 税務 |
|---|---|---|
| 当期の減損損失 | 2,000万円(特別損失) | 当期の償却限度額を超える部分は損金不算入(申告で加算) |
| 減損後の帳簿価額 | 4,000万円 | 税務上の簿価は、損金算入された額だけ減る |
| 翌期以降の償却 | 4,000万円を残りの耐用年数で償却 | 会計の償却費が限度額に満たない年は、繰り越した償却超過額を限度額まで損金算入(申告で減算) |
会計と税務の簿価がずれる期間が長く続くため、固定資産台帳に会計上と税務上の簿価を並べて管理しておくことが欠かせません。
個人:減損という仕組みはない
個人の不動産所得には、時価の下落を必要経費にする仕組みはありません。取壊し・除却・滅失などで資産を失ったときは資産損失として扱われ、事業的規模の不動産貸付けなら損失額の全額、事業的規模でなければその年の不動産所得の金額を限度に必要経費になります(所得税法51条)。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る裁決事例:1年以上遊休でも評価損が認められなかった例
- 国税不服審判所 平成15年1月28日裁決(裁決事例集No.65・401頁)
- 事案:法人が、固定資産である土地が1年以上遊休状態にあり、価額も帳簿価額を下回っているとして、評価損を損金に算入した
- 判断:法人税法33条2項は「災害による著しい損傷その他の政令で定める事実が生じたことにより」価額が帳簿価額を下回った場合に適用される。本件土地は1年以上遊休状態にあるものの、遊休状態であることにより価額が帳簿価額を下回ったという事実は認められないため、評価損の損金算入は認められない
- 一次情報:国税不服審判所 公表裁決事例、公表裁決事例要旨「資産の評価損」
実務への示唆
この裁決は、施行令68条の事実に当たる状態があるだけでなく、その事実によって価額が下がったという因果関係が必要であることを示しています。市況全体の下落による値下がりを、遊休を理由に評価損として損金にすることはできません。会計上の減損は、遊休と時価の著しい下落がそろえば認識しますが、税務上の損金算入はより厳格です。両者がずれることを前提に、根拠資料(遊休の経緯、評価の資料)を残しておくことが大切です。
表示区分と銀行からの見え方
減損損失は特別損失
中小企業の会計に関する指針は、減損損失を特別損失に計上するとしています。そのため、減損損失を計上しても、営業利益・経常利益は変わりません。減ったのは当期純利益と純資産です。
税務上は損金算入が認められるかが論点になります。一方、決算書の表示区分(売上高か営業外収益か、販管費か特別損失か、資産計上か費用処理か)は、企業会計の基準(GAAP)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。減損に当たらない費用を「減損」として特別損失に回すことはできません。
銀行は「実態」との一致を見る
| 指標 | 減損の影響 |
|---|---|
| 営業利益・ICR | 当期は影響なし。翌期以降は減価償却費が減るため、営業利益はやや増える |
| 経常利益・債務償還年数 | 当期の経常利益は影響なし。分母の「経常利益+減価償却費」は翌期以降もほぼ変わらない |
| 純資産・自己資本比率 | 減損損失(税効果を考慮した後)の分だけ減る |
| 実態BS | 銀行がもともと低く評価していた物件なら、決算書と実態の差が縮まる |
著書では、上場企業が会計基準の枠内で、経営者交代の時期に合わせて前経営陣の投資に関する減損を計上し、「フレッシュスタート」のメッセージを打ち出すことがあると紹介しています。中小の不動産会社でも、実態に合った減損と、物件の今後の方針(保有・売却・用途変更)をセットで示せば、銀行は「問題を把握している会社」と受け止めます。著書のモデルでは安全性は34点の配点があり、純資産の減少は点数に響きますが、実態と乖離した簿価を抱え続けるより、説明できる決算書のほうが評価されやすいといえます。
災害で損傷した場合の損失の扱いは災害による修繕費・災害損失の処理と特別損失、売却損の表示は不動産の売却損は特別損失?をご覧ください。
実務のチェックポイント
- 物件ごとに、使用状況の大幅な変更(長期の空室、用途の転用、使用停止)がないかを毎期確認しているか
- 減損を検討した物件について、時価の根拠(査定書、鑑定、収益還元による試算)を残しているか
- 会計上の減損と、税務上の評価損(施行令68条の事実)を分けて判断しているか
- 建物の減損損失の損金不算入額を、翌期以降の償却限度額の計算に正しく引き継いでいるか
- 土地の減損損失を、売却時に申告で減算できるよう記録しているか
- 銀行に、減損の理由と物件の今後の方針を説明できるか
まとめ
- 中小企業の会計に関する指針では、使用状況の大幅な変更があり、将来使用の見込みがない、または転用しても採算が見込めない場合で、時価が著しく下落していれば減損損失を認識する
- 税務上は原則として損金不算入。施行令68条の事実があり、それによって価額が下がった場合に限り評価損として損金になる
- 建物の損金不算入額は償却費として繰り越され、翌期以降に損金算入される。土地は売却まで損金にならない
- 減損損失は特別損失で、営業利益・経常利益には影響しない。損金算入の可否と表示区分を、顧問税理士・会計の専門家と検討する
物件の減損判断と、銀行への説明を含めた決算書づくりは、不動産投資家向けサービスでご支援しています。
