決算書と銀行格付け

含み益・含み損と銀行の実態BS|決算書に出ない物件の価値を、税務・会計・銀行の3つの目線で整理

「決算書では純資産がプラスなのに、銀行からは『実質は債務超過ですね』と言われた」。不動産会社では珍しくない話です。理由は、含み益・含み損が決算書には出ず、銀行は物件を評価し直した実態BSで会社を見ているからです。

含み益・含み損は、税務・会計・銀行で、それぞれ扱いが違います。この記事では、3つの目線を整理したうえで、実態BSを良くするために何ができるかを解説します。

この記事の結論
  • 会計上、賃貸用の固定資産は取得原価が基本で、含み益は計上しない。含み損は、減損や販売用不動産の簿価切下げに当たる場合に限って反映する
  • 税務上は、資産の評価益は原則として益金不算入(法人税法25条1項)、評価損は原則として損金不算入(同33条1項)。例外は政令で定める事実がある場合だけ
  • 銀行は土地を路線価など、建物を再調達価格などで評価し直した実態BSで純資産を見る。簿価が時価を大きく上回る物件は、銀行評価で引き下げられる
  • 含み損益を表に出すのは主に「売却」。売る時期・表示区分・銀行への説明を、顧問税理士と事前に検討する

含み益・含み損とは何か

含み益・含み損は、物件の時価と、決算書に載っている帳簿価額(簿価)の差です。

  • 時価 > 簿価 … 含み益(決算書に出ない価値)
  • 時価 < 簿価 … 含み損(決算書に出ない損)

不動産では、取得から年数がたつほど、簿価と時価がずれていきます。建物は減価償却で簿価が下がる一方、土地は償却しないため、買ったときの価格のまま残ります。都心の土地は値上がりで含み益が出やすく、地方の築古物件や特殊な設備は含み損が出やすい傾向があります。

3つの目線の違い

目線含み益含み損根拠
会計(中小企業)計上しない減損・簿価切下げに当たる場合に計上取得原価主義、中小企業の会計に関する指針
税務(法人)評価益は原則として益金不算入評価損は原則として損金不算入(政令で定める事実がある場合のみ損金)法人税法25条・33条
税務(個人)課税されない必要経費にならない売却したときに譲渡所得で精算
銀行(実態BS)評価方法次第で加算減額して純資産から差し引く銀行ごとの内部基準

会計:取得原価が基本

ここでいう会計は、企業会計原則や中小企業の会計に関する指針・要領など、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)です。賃貸用の土地・建物は取得原価で計上し、時価が上がっても評価益は計上しません。

時価が下がった場合も、すぐに簿価を下げるわけではありません。中小企業の会計に関する指針(令和7年9月19日修正版)は、固定資産について、資産の使用状況に大幅な変更があった場合に減損の可能性を検討し、将来使用の見込みが客観的にない、または用途を転用したが採算が見込めない場合で、かつ時価が著しく下落しているときに減損損失を認識するとしています(第36項)。販売用不動産は棚卸資産として、期末の時価(正味売却価額)が簿価を下回り、金額的重要性がある場合に時価で評価します(第27項)。詳しくは賃貸不動産の減損と税務、販売用不動産の評価損(低価法)と税務をご覧ください。

税務上の扱い:法人と個人の違い

法人:評価益も評価損も、原則として所得に入れない

法人税法25条1項は資産の評価益を原則として益金に算入しないとし、33条1項は評価損を原則として損金に算入しないとしています。評価損の例外は、33条2項と法人税法施行令68条1項が定める事実がある場合です。固定資産では、災害による著しい損傷、1年以上にわたる遊休、本来の用途に使えず他の用途に使用したこと、所在する場所の状況の著しい変化などが挙げられています。

法人税基本通達9-1-17は、固定資産の評価損が損金にならない例として、過度の使用や修理の不十分による著しい損耗、償却不足、取得時の事情などで取得価額が同種の資産より高いこと、などを挙げています。「高く買いすぎた」「市況が下がった」だけでは評価損は損金になりません。

個人:売却するまで何も起きない

個人の不動産所得では、時価の下落を必要経費にする仕組みはありません。含み益も含み損も、売却したときに譲渡所得として精算されます。個人の土地・建物の譲渡損失は、原則として他の所得と損益通算できない点にも注意が必要です。

場面法人個人
時価が下がった原則、損金にならない必要経費にならない
含み損のまま売却売却損は損金(他の所得と相殺)譲渡損失は原則として他の所得と通算できない
含み益のまま売却売却益は益金(法人税)譲渡所得(所有期間で税率が変わる)
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銀行からの見え方:実態BSで純資産を見直す

銀行は、決算書の貸借対照表をそのまま使うのではなく、資産を自行の基準で評価し直した実態BSで純資産を見ます。著書では、銀行BSは「最悪の場合に換金できる額」を積み上げたものだと理解するとわかりやすい、と説明しています。

資産銀行の評価の例起きやすいこと
土地路線価などで評価都心では時価より大きく低く評価されることがある
建物再調達価格から経過年数を考慮して評価簿価と乖離しやすい
太陽光などの設備ゼロに近い評価簿価があっても資産と見られない
役員貸付金・仮払金ゼロ評価が多い純資産がその分だけ減る
長期滞留した販売用不動産掛け目をかける在庫の質が問われる

数値例:決算書と実態BSの差

数字は説明のための仮のもので、銀行の評価方法は銀行・物件によって違います。

項目決算書(簿価)実態BS(銀行の評価の例)差
都心の土地2億円1億2,000万円(路線価ベース)−8,000万円
建物1億5,000万円1億3,000万円(再調達価格ベース)−2,000万円
太陽光設備2,000万円0円−2,000万円
役員貸付金1,000万円0円−1,000万円
現預金3,000万円3,000万円0円
資産合計4億1,000万円2億8,000万円−1億3,000万円
借入金など負債3億円3億円0円
純資産1億1,000万円−2,000万円−1億3,000万円

この例では、決算書上は純資産が1億円を超えていても、実態BSでは2,000万円の実質債務超過です。土地の評価のように、時価との差が「含み益」であっても銀行評価では減額される部分と、設備や役員貸付金のように資産として見てもらえない部分が重なると、差は大きくなります。

この結果、会計上は純資産がプラスでも、実態BSでは実質債務超過になることがあります。逆に、評価の方法によっては含み益が加わり、実態の純資産が決算書より大きく見えることもあります。実質債務超過の見られ方は債務超過でも融資は受けられる?、自己資本比率の実質の見方は自己資本比率の目安で扱っています。

実態BSは格付けの「安全性」に効く

著書のモデルでは、格付けは129点満点で、安全性が34点を占めます。純資産や自己資本比率は、実態BSを基準に見られることが多いため、含み損の大きい物件や、ゼロ評価される資産が多い会社は、ここで点を落とします。プロパー融資の目安とされる「正常先+純資産1億円」も、実態で見られると考えておくべきです。純資産の積み上げ方は不動産事業者が純資産1億円を目指す道筋をご覧ください。

含み損益を表に出すのは「売却」

含み益・含み損は、決算書上は売却したときに初めて実現します。

  • 含み益のある物件を売る:売却益が利益になり、税金を払った残りが純資産に積み上がる。借入を返済すれば債務償還年数も改善する
  • 含み損のある物件を売る:売却損で純資産は減るが、実態BSの「見えない損」が消え、借入の返済で債務償還年数が改善しうる

著書では、債務償還年数を改善する方法として、繰上返済はほとんど効かず、物件の売却が最も直接的に効くとしています。また、売却でキャピタルゲインが出る年に合わせて含み損を抱えた物件を損切りするなど、「利益の波」を計画的にコントロールする考え方も示しています。

売却損益の表示区分も検討が必要

売却損益は、保有目的や事業の実態によって、売上高・売上原価で表示するもの(販売用不動産)と、特別利益・特別損失で表示するもの(固定資産)に分かれます。税務上は損金算入が認められるかが論点になります。一方、決算書の表示区分(売上高か営業外収益か、販管費か特別損失か、資産計上か費用処理か)は、企業会計の基準(GAAP)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。売却損の表示は不動産の売却損は特別損失?で詳しく解説しています。

実務のチェックポイント

  • 物件ごとに、簿価・時価の目安・残債・含み損益を一覧にし、少なくとも半期に一度は更新しているか
  • 銀行がどの方法で評価しそうか(路線価、再調達価格など)を踏まえて、実態BSを自社でも試算しているか
  • 役員貸付金・仮払金など、ゼロ評価されやすい勘定が残っていないか
  • 含み損の大きい物件を、売却・入替えの候補として定期的に検討しているか
  • 評価損を計上する場合、法人税法施行令68条の事実に当たるかを確認し、会計と税務の差を申告で調整しているか
  • 含み益を銀行に伝えるとき、評価の根拠資料と、売却時の税金を添えているか

著書では、物件ごとの時価評価、残債、含み損益、主要指標を1枚のシートにまとめ、毎月更新しておくことを勧めています。銀行から資料を求められたとき、すぐに出せる状態にしておくことが、信頼につながります。

まとめ

  • 含み益・含み損は、時価と簿価の差。会計上は取得原価が基本で、含み損は減損・簿価切下げに当たる場合に限って反映する
  • 税務上、法人の評価益は原則として益金不算入、評価損は原則として損金不算入。個人は売却するまで何も起きない
  • 銀行は物件を評価し直した実態BSで純資産を見る。会計上プラスでも実質債務超過になることがある
  • 含み損益を表に出すのは主に売却。売却の時期、税務上の損金算入、決算書の表示区分を、顧問税理士・会計の専門家と事前に検討する

実態BSを踏まえた物件の入替えと決算書づくりは、不動産投資家向けサービスでご支援しています。

よくある質問

物件の時価が下がったら、評価損を計上して税金を減らせますか?
原則としてできません。法人税法は資産の評価損を原則として損金に算入しないとしており(33条1項)、例外は災害による著しい損傷、1年以上の遊休、本来の用途に使えず他の用途に使用したこと、所在する場所の状況の著しい変化など、政令で定める事実がある場合に限られます。単なる市況の下落は該当しません。個人の不動産所得でも、時価の下落だけで必要経費にはなりません。
含み益がある物件は、銀行の評価でプラスになりますか?
銀行や物件によります。銀行は実態BSを作るとき、土地を路線価などで、建物を再調達価格などで評価し直すことが多く、時価が簿価を上回る部分を資産として加えることもあれば、評価の方法によっては含み益が見えないこともあります。含み益を伝えたいなら、根拠となる評価資料(査定書、収益還元による試算など)と、売却した場合の税金も示すと説得力が増します。
含み損のある物件は売却したほうがよいのですか?
一概には言えません。売却すれば含み損は売却損として実現し、法人なら損金になりますが、純資産は減ります。一方、借入を返済できれば債務償還年数が改善し、実態BSの「見えない損」もなくなります。売却損を出す期と、他の利益が出る期の組み合わせ、銀行への説明まで含めて、顧問税理士と事前に検討することが大切です。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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