買取再販や開発を行う不動産会社にとって、販売用不動産の評価損は避けて通れない論点です。仕入れた物件の相場が下がったとき、決算書で簿価を下げるべきか。下げたら税金は減るのか。銀行はどう見るのか。
結論から言えば、会計上の簿価切下げと、税務上の損金算入は別のルールで決まります。この記事では、会計・税務の扱いを整理し、評価損が否認された裁決事例、決算書の表示区分、銀行から見た在庫の質までを解説します。保有目的による区分(販売用か賃貸用か)そのものは販売用不動産と固定資産の区分で扱っています。
- 会計上は、期末の時価(正味売却価額)が簿価を下回り、金額的重要性があれば簿価を切り下げる(中小企業の会計に関する指針第27項)
- 税務上は、低価法を選定していれば時価との差が所得計算に反映される。原価法なら、災害・著しい陳腐化・これらに準ずる特別の事実がある場合に限り、評価換えと損金経理で損金になる
- 分譲マンション用地の地すべり防止区域指定などが「準ずる特別の事実」に当たらないとされた裁決がある
- 簿価切下額の表示は原則として売上原価、臨時・多額なら特別損失。損金算入の可否と表示区分の両方を顧問税理士と検討する
会計上の扱い:収益性が下がったら簿価を切り下げる
会計上の判断は、企業会計原則や中小企業の会計に関する指針・要領など、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って行います。
中小企業の会計に関する指針(令和7年9月19日修正版)は、棚卸資産について次のように定めています。
- 取得原価を貸借対照表価額とするのが原則。ただし、期末の時価が帳簿価額より下落し、かつ金額的重要性がある場合は、時価で評価する(第27項(1))
- 災害による著しい損傷、著しい陳腐化、これらに準ずる特別の事実が生じた場合は、その事実を反映して帳簿価額を切り下げなければならない(同)
- 時価は、原則として正味売却価額(売却市場の時価から、見積追加製造原価と見積販売直接経費を引いた額)(第27項(2))
上場企業などが適用する企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」も、収益性が低下した場合に正味売却価額まで簿価を切り下げる考え方をとっています。
正味売却価額の考え方(不動産の例)
| 項目 | 金額(仮) |
|---|---|
| 期末に売るとした場合の売却見込額 | 9,000万円 |
| 完成までに必要な追加工事費(未完成の場合) | −800万円 |
| 仲介手数料・広告費など販売直接経費 | −400万円 |
| 正味売却価額 | 7,800万円 |
| 帳簿価額(取得価額+取得費用+工事費) | 8,500万円 |
| 簿価切下額 | 700万円 |
売却見込額は、近隣の成約事例、査定書、販売中の価格と反響などをもとに、根拠を残して見積もります。
税務上の扱い:評価方法で結果が変わる
法人:原価法か低価法か
法人税法上、棚卸資産の評価方法は原価法(個別法・先入先出法・総平均法など)と、低価法(原価法で計算した額と期末の時価のいずれか低い額)から選び、税務署に届け出ます。届出をしない場合は、法定の評価方法(最終仕入原価法による原価法)になります。販売用不動産は1件ごとに管理するため、個別法を選定するのが一般的です。
低価法の「期末の時価」は、期末にその棚卸資産を売却するものとした場合に通常付される価額で、通常は正味売却価額によるとされています(法人税基本通達5-2-11)。
| 評価方法 | 市況の下落による評価減 | 根拠 |
|---|---|---|
| 低価法を選定 | 期末時価との差が評価額の計算に反映される | 法人税法施行令28条1項2号 |
| 原価法を選定(届出なしを含む) | 原則として損金にならない。災害による著しい損傷、著しい陳腐化、準ずる特別の事実がある場合に限り、評価換え+損金経理で損金 | 法人税法33条2項、施行令68条1項1号 |
法人税基本通達9-1-6は、棚卸資産の時価が単に物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情で下がっただけでは、評価損を計上できる事実に当たらないとしています。
評価方法の変更は「事前に」
すでに選定している評価方法を変更するには、新しい方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日までに変更承認申請書を提出し、承認を受ける必要があります(国税庁 手続案内C1-29)。現在の方法を採用してから相当期間(原則3年)を経過していない場合などは、承認されないことがあります。期末に相場が下がってから低価法に切り替えることはできません。
個人:事業所得の棚卸資産
個人で不動産の売買を事業として行っている場合、販売用不動産は事業所得の棚卸資産です。個人も評価方法を届け出ることができ、国税庁の「青色申告の決算の手引き」は、評価方法の例として先入先出法・総平均法・売価還元法・低価法などを挙げ、届出をしていない場合は最終仕入原価法によるとしています。災害による著しい損傷や著しい陳腐化などで通常の価額で販売できないものは、処分可能価額で評価することもできます。
| 項目 | 法人 | 個人(事業所得) |
|---|---|---|
| 評価方法の届出 | 設立事業年度の確定申告期限までに選定・届出 | 事業開始年分の確定申告期限までに届出 |
| 低価法 | 選定可 | 青色申告者は選定可 |
| 原価法での評価損 | 法人税法33条2項の事実がある場合のみ | 災害・陳腐化等で通常の価額で売れない場合など |
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る裁決事例:評価損が認められなかった例
分譲マンション用地の評価損(平成15年4月24日裁決)
- 国税不服審判所 平成15年4月24日裁決(裁決事例集No.65・387頁)
- 事案:建設業を主に営む法人が、分譲マンションの建設用地として取得した土地(棚卸資産)について評価損を計上した。法人は、土地を含む地域が地すべり防止区域に指定されたこと、離れた場所にある同様の傾斜地で土砂崩れがあったことを理由に挙げた
- 判断:分譲マンションの建設に必要な許可を受けており、建設・販売は可能だから、通常の方法で販売できなくなったとはいえない。許可条件は一般的なもので、工法上の難しさや費用は急斜面という土地の性質から生じたもの。土砂崩れで土地に物質的な欠陥が生じたわけでもない。したがって、施行令68条の「準ずる特別の事実」に当たらない
- 一次情報:国税不服審判所 公表裁決事例
帳簿外の棚卸資産の評価損(平成15年3月11日裁決)
- 国税不服審判所 平成15年3月11日裁決(裁決事例集No.65・376頁)
- 事案:婦人服販売業の同族会社が帳簿から除外していた期末の棚卸商品について、翌期に仕入価格を下回る価格で売ったこともあるとして、販売可能な価額で評価すべきと主張した
- 判断:除外した棚卸資産については、法人税法33条2項の評価換えと損金経理による帳簿価額の減額をしていないから、評価損を損金に算入する要件を満たさない
- 一次情報:国税不服審判所 公表裁決事例
実務への示唆
一つ目の裁決は、「売りにくくなった」「価値が下がった」と感じるだけでは足りないことを示しています。原価法のもとで評価損を損金にするには、通常の方法で販売できなくなったといえる客観的な事実が必要です。二つ目の裁決は、事実があっても、決算で評価換えをして損金経理していなければ損金にならないことを示しています。業種は違いますが、手続の要件は販売用不動産でも同じです。いずれも事例に即した判断であり、評価損がすべて否認されるという意味ではありません。
表示区分:売上原価か特別損失か
中小企業の会計に関する指針第29項は、棚卸資産の簿価切下額の表示を次のように定めています。
| 区分 | 表示 |
|---|---|
| 下記以外のもの | 売上原価 |
| 棚卸資産の製造に関連して発生するもの | 製造原価 |
| 臨時の事象に起因し、かつ、多額であるもの | 特別損失 |
市況の変化による通常の切下げは売上原価に入り、売上総利益・営業利益を押し下げます。災害で建築中の物件が大きく損傷した、といった臨時・多額のものは特別損失です。
税務上は損金算入が認められるかが論点になります。一方、決算書の表示区分(売上高か営業外収益か、販管費か特別損失か、資産計上か費用処理か)は、企業会計の基準(GAAP)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。営業利益を守るために、通常の切下げを特別損失に回すことはできません。PL全体の表示区分の考え方は「収益は上に、費用は下に」:PLの表示区分と銀行格付けをご覧ください。
会計と税務がずれたら申告で調整する
原価法を選定している法人が、会計上は簿価を切り下げたものの、税務上の要件を満たさない場合、その切下額は申告書で所得に加算し(損金不算入)、売却した期に減算します。税効果会計を適用する会社では、一時差異として扱います。
銀行からの見え方:在庫の「質」が問われる
販売用不動産は流動資産に入るため、流動比率を押し上げます。しかし銀行は、在庫の金額だけでなく質を見ています。
- 長期間売れていない在庫は、実態BSで掛け目をかけられ、純資産が減額されることがある
- 簿価切下げをしていないと、「含み損を抱えた在庫」と見られ、決算書全体の信頼性が下がる
- 切下げをすれば当期の利益と純資産は減るが、在庫の実態が明らかになり、翌期以降の売却益の見通しが立てやすくなる
著書でも、決算書を磨く定期チェックの項目として、棚卸資産(販売用不動産など)が長期滞留していないかを確認することを挙げています。宅建業として販売用不動産を売れば、売却益は売上高・営業利益に入り、債務償還年数の分母である経常利益を大きく改善します。だからこそ、在庫の回転と評価の実態を、銀行に説明できるようにしておくことが重要です。実態BSの考え方は含み益・含み損と銀行の実態BSで扱っています。
実務のチェックポイント
- 税務上の棚卸資産の評価方法(原価法か低価法か)を、届出書の控えで確認しているか
- 販売用不動産ごとに、取得からの期間、販売活動の状況、売却見込額の根拠を記録しているか
- 正味売却価額を、販売直接経費・追加工事費まで含めて見積もっているか
- 評価損を計上する場合、表示区分(売上原価か特別損失か)の根拠を説明できるか
- 原価法の会社が会計上切り下げた場合、申告書で加算調整しているか
- 評価方法を変える場合、変更しようとする事業年度の開始前に申請しているか
まとめ
- 会計上は、期末の正味売却価額が簿価を下回り、重要性があれば簿価を切り下げる
- 税務上は、低価法を選定していれば時価との差が反映される。原価法では、災害・著しい陳腐化・準ずる特別の事実がある場合に限り、評価換えと損金経理で損金になる
- 地すべり防止区域の指定などが「準ずる特別の事実」に当たらないとされた裁決、評価換えと損金経理がないため損金算入を認めなかった裁決がある
- 表示区分は原則として売上原価、臨時・多額なら特別損失。損金算入の可否と表示区分の両方を、顧問税理士・会計の専門家と検討する
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