売却・相続

相続放棄が過去最多の32万件、空き家と借金が理由に|3か月の期限、放棄しても残る管理の責任、相続税と生命保険金の扱い

日本経済新聞(2026年10月24日朝刊)が、親などが亡くなったときに遺産を引き継がない「相続放棄」が急増していると報じました。司法統計によると、2025年の新規受理件数は前年比4.8%増の32万3,524件と過去最多で、この10年で7割強増えています。借金だけでなく、使い道がなく管理の負担が続く空き家や土地(いわゆる「負動産」)を継ぎたくないという理由も目立つといいます。

相続放棄は、借金や負動産から身を守る有効な方法ですが、期限が短く、手続きを誤ると放棄できなくなることもあります。この記事では、報道で示された内容を引用しながら、相続放棄の流れと注意点、相続税との関係を整理します。

この記事の結論
  • 相続放棄の新規受理件数は2025年に32万3,524件と過去最多、10年で7割強増加。借金に加え、空き家などの負動産を継ぎたくないという理由が目立つ(日本経済新聞)
  • 相続放棄は、相続を知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述。期限を過ぎたり、遺品整理で財産を処分したりすると単純承認とみなされる
  • 放棄しても、財産を現に占有している場合は保存の義務が残る。順位の高い人が放棄すると、次の順位の親族に相続権が移る
  • 放棄した人は相続税の申告は原則不要だが、基礎控除の人数には含まれる。生命保険金は受け取れるが、非課税枠は使えない

報道で示された内容

項目報道で示された内容
件数2025年の相続放棄の新規受理件数は前年比4.8%増の32万3,524件と過去最多。10年で7割強増加(司法統計)
理由借金などのマイナスの財産を継がないため。加えて、老朽化や立地の悪さで賃貸も売却も難しい家や土地を継ぎたくないという理由が目立つ
相続登記の義務化2024年4月から義務化。不動産の取得を知った日から原則3年以内。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の可能性
財産の調べ方預貯金は通帳やカードから銀行へ、有価証券は取引報告書から証券会社へ。不動産は固定資産税の通知書や、2026年2月施行の「所有不動産記録証明制度」。借金は引き落としの記録や請求書、信用情報機関への照会
手続き家庭裁判所に申請して受理されれば成立。相続人が複数いても一人だけで放棄できる。死亡を知って3か月以内(熟慮期間)。延長の請求には正当な理由が必要
注意点熟慮期間に財産を処分すると単純承認とされる。順位の高い相続人が放棄すると次の人に相続権が移る
放棄後の責任放棄時点で財産を現に占有している人は、次の相続人か相続財産清算人に引き渡すまで責任がある。荷物を保管している場合などは該当する可能性(国土交通省、2023年)
相続税放棄した人は申告・納付が原則不要。基礎控除の法定相続人の数には含む。生命保険金は受け取れるが、みなし相続財産として課税対象で非課税枠の適用外

出典:日本経済新聞「空き家・借金、相続放棄が急増 手続き期限は3カ月」(2026年10月24日朝刊)。

相続放棄の流れ

段階やること注意点
1. 財産の調査預貯金、有価証券、不動産、借金、保証債務を洗い出す不動産は所有不動産記録証明制度、借金は信用情報機関への照会も使える
2. 判断マイナスがプラスを上回るか、引き継ぎたくない不動産があるかプラスの財産だけ選んで相続することはできない
3. 申述家庭裁判所に相続放棄を申述相続を知った時から3か月以内。必要なら期間内に延長を請求
4. 受理家庭裁判所が受理すれば成立受理の前後を問わず、財産を処分しない
5. 親族への連絡次の順位の相続人に知らせる自分が放棄すると、次の順位の人に借金などが移る

ここからは、税理士・公認会計士として、相続のご相談を受けてきた立場からの考えです。

最も多い失敗は、熟慮期間中に財産に手を付けてしまうことです。たとえば、故人の預金を引き出して支払いに使う、価値のある遺品を処分する、といった行為は、相続を受け入れた(単純承認)とみなされるおそれがあります。放棄を考えているなら、まず専門家に相談してから動くことをおすすめします。

放棄しても残る「管理の責任」

相続放棄をしても、空き家の問題から完全に解放されるとは限りません。民法では、放棄した時点で財産を現に占有している人は、次の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで、その財産を保存する義務を負います。

報道によれば、国土交通省は、対象の家屋に自分の荷物を保管している場合などは占有に当たる可能性があるとの考え方を示しています。実家に私物を置いたままにしている場合などは、放棄の前に整理しておくことも考えておくべきでしょう。

相続税との関係

項目相続放棄をした場合の扱い
相続税の申告・納付原則不要
基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)放棄した人も法定相続人の数に含める。控除額は減らない
生命保険金受取人に指定されていれば受け取れる。みなし相続財産として相続税の対象
生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)放棄した人は使えない

借金から逃れるために放棄しても、生命保険金を受け取れば相続税がかかることがあります。保険金の額が大きい場合は、放棄するかどうかとあわせて、相続税の試算もしておくと安心です(相続税対策は早めの準備から)。

不動産投資の税務と融資、まとめて相談できます

代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。

不動産投資家向け税務・融資支援を見る

「不動産だけ手放したい」なら、他の方法も

相続放棄は、すべての財産を手放す手続きです。預貯金は相続したいが、使い道のない土地だけ手放したい、という場合は、次のような方法も考えられます。

方法内容注意点
相続したうえで売却相続登記をして売る古い実家なら、空き家の3,000万円特別控除が使える場合がある(相続した実家は貸すか売るか)
相続土地国庫帰属制度相続した土地を、一定の要件のもとで国に引き取ってもらう建物がある土地などは対象外。審査手数料と負担金(10年分の管理費相当)がかかる
遺産分割で取得者を決める相続人の中で、その不動産を引き受ける人を決める空き家の特例を使うなら、家屋と敷地を同じ人が取得する必要がある(空き家の3,000万円控除、二次相続で「建物だけ」を相続した人は使えない)

どの方法がよいかは、財産の全体像と、借金の有無、相続人の状況によって変わります。

まとめ

  • 相続放棄は2025年に32万件超と過去最多。借金だけでなく、空き家などの負動産を継ぎたくないという理由が増えている
  • 相続を知った時から3か月以内に家庭裁判所へ。期間内に財産を処分すると単純承認とみなされる
  • 放棄しても、財産を占有していれば保存の義務が残る。次の順位の親族への連絡も大切
  • 放棄した人も基礎控除の人数には含まれる。生命保険金は受け取れるが非課税枠は使えない
  • 不動産だけ手放したいなら、売却や相続土地国庫帰属制度など、他の方法も比べて考える

相続財産に不動産や借金が含まれていて、放棄すべきか迷っている方は、お気軽にご相談ください。

よくある質問

相続放棄はいつまでにする必要がありますか?
自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内(熟慮期間)に、家庭裁判所に申述する必要があります。何もせずに期間を過ぎると、プラスの財産もマイナスの財産もすべて引き継ぐ「単純承認」をしたものとみなされます。財産の調査に時間がかかる場合は、期間内に家庭裁判所へ熟慮期間の延長を請求できます。
相続放棄をすると、相続税はどうなりますか?
相続放棄をした人は、原則として相続税の申告や納付は不要です。ただし、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を計算するときの法定相続人の数には、放棄した人も含めます。また、放棄した人が受取人として生命保険金を受け取ることはできますが、みなし相続財産として相続税の対象になり、相続人に認められる非課税枠(500万円×法定相続人の数)は使えません。
相続放棄をすれば、空き家の管理から完全に解放されますか?
必ずしもそうではありません。民法では、放棄した時点でその財産を現に占有している人は、次の相続人や家庭裁判所が選ぶ相続財産清算人に引き渡すまで、財産を保存する義務を負います。たとえば実家に自分の荷物を置いている場合などは、占有に当たる可能性があるとの考え方が国土交通省から示されています。

※本記事は2026年10月24日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
※本記事の無断転載・複製、商用目的での利用はお断りします。引用の際は、出典(税理士法人クレフティ・記事URL)を明記してください。

RELATED

あわせて読みたい

売却・相続

相続した実家は貸すか売るか|空き家の3,000万円特別控除の要件と「貸付けの制限」、取得費加算との選択、銀行の見え方

相続した実家を売るとき使える空き家の3,000万円特別控除(措置法35条3項)は、相続から売却まで一度でも貸すと使えません。昭和56年5月31日以前の建築、1億円以下、相続人3人以上は2,000万円、2027年末までの期限、取得費加算との選択、裁決事例、銀行の見え方を解説します。

2026年10月23日
売却・相続

空き家の3,000万円控除、二次相続で「建物だけ」を相続した人は使えない|非公開裁決と、修正申告のあとに争えないという落とし穴

祖父の相続で土地を、祖母の相続で建物の持分を取得した相続人が、空き家の3,000万円特別控除は使えないと判断された非公開裁決(令和7年9月9日)が報じられました。家屋と敷地の両方を同じ相続で取得する要件、遺産分割で気をつけること、修正申告に応じた後は不服申立てができない点を税理士・公認会計士が解説します。

2026年10月23日
売却・相続

マンション高騰の抑制策、短期売買への課税強化を自民党が検討|土地譲渡益重課の再開で、不動産投資家・不動産会社は何が変わるか

自民党がマンション価格の高騰を抑える政策の検討に入り、1998年から止まっている「土地譲渡益重課制度」の適用再開が例として挙がったと報じられました。今の短期・長期譲渡所得の仕組み、重課が再開された場合に影響を受ける人、今から確認しておくことを税理士・公認会計士が解説します。

2026年10月22日
FREE CONSULTATION

決算書と融資のこと、
まずはお気軽にご相談ください。

初回のご相談は無料です。まずは担当者がお話を伺い、内容に応じて担当税理士や金融機関出身のコンサルタントがご提案します。