売却・相続

空き家の3,000万円控除、二次相続で「建物だけ」を相続した人は使えない|非公開裁決と、修正申告のあとに争えないという落とし穴

税のしるべ電子版(2026年10月21日)が、空き家の3,000万円特別控除が使えないと判断された非公開裁決(令和7年9月9日付)を報じました。祖父の相続(一次相続)で土地を、祖母の相続(二次相続)で建物の持分を取得した相続人が、建物を取り壊して土地を売却したケースです。

この裁決には、相続した実家を売るときに知っておきたい2つの論点が含まれています。1つは、空き家の特例は「家屋と敷地の両方を同じ相続で取得した相続人」しか使えないこと。もう1つは、税務調査で修正申告に応じた後は、その内容について不服申立てができないことです。この記事では、報道された裁決の内容を整理し、遺産分割と税務調査で気をつけたい点を解説します。空き家の特例の全体像は、相続した実家は貸すか売るかで解説しています。

この記事の結論
  • 空き家の3,000万円特別控除(措置法35条3項)の対象は、被相続人から、相続や遺贈で家屋と敷地の両方を取得した相続人に限られる。家屋だけ、敷地だけを取得した相続人は対象外
  • 裁決では、二次相続で祖母から建物の持分だけを取得した相続人について、祖母の相続では敷地を取得していないため特例は使えないと判断された。特例は厳格に解釈すべきとされ、「遺産分割の方法で不公平が生じる」との主張も退けられた
  • 税務調査で修正申告に応じると、その内容について不服申立てはできない。誤りがあれば「更正の請求」で争うことになる
  • 将来売る可能性がある実家は、遺産分割の段階で、誰が家屋と敷地をまとめて取得するかを検討しておきたい

報道された裁決の内容

税のしるべの報道によれば、事案の経緯と審判所の判断は次のとおりです。

項目内容
一次相続(祖父)相続人は請求人、請求人の兄、祖母の3人。遺産分割で、土地は請求人と兄が2分の1ずつ取得。建物は請求人と兄が10分の1ずつ、祖母が10分の8を取得
二次相続(祖母)請求人と兄が、祖母の建物の持分10分の8を共同で取得
売却建物を取り壊したうえで、令和5年に土地を売却
税務調査翌年、税務署の調査で空き家の特例は適用できないと指摘され、請求人は同日に修正申告書を提出。過少申告加算税が課された
請求人の主張祖母は一次相続で相続放棄をしておらず、土地の持分がゼロでも土地を取得したと考えるべき。通達どおりなら遺産分割の方法で不公平が生じ、憲法の平等原則に反する。修正申告は、高圧的な勧奨でパニックになり、不服申立てができると誤解して提出したもので、錯誤により取り消すべき
審判所の判断①特例は政策的に税額を減らすものなので、文言どおり厳格に解釈すべき。対象は家屋と敷地の両方を取得した相続人に限られる。請求人は祖母の相続で敷地を取得していないため対象外
審判所の判断②更正の請求ができた以上、法定の方法以外で錯誤を主張することは許されない。加算税の賦課決定は取り消されない

出典:税のしるべ電子版「【非公開裁決】二次相続で建物と敷地の両方を取得していない、特例対象の相続人に該当せず」(2026年10月21日)。令和7年9月9日付の非公開裁決。

なお、この裁決で適用されたのは令和5年の改正前の規定です。ただし、「相続等により家屋と敷地の両方を取得した相続人」という要件は、改正後も変わっていません。

論点1:家屋と敷地の両方を「同じ相続で」取得する必要がある

空き家の特例は、亡くなった人が住んでいた古い家屋とその敷地を、相続した人が一定の期間内に売った場合に、譲渡所得から最高3,000万円(2024年以後の譲渡で相続人が3人以上なら1人2,000万円)を差し引ける制度です。

国税庁の通達(措置法通達35-9)は、この特例の対象となる相続人を「相続又は遺贈により、被相続人居住用家屋と被相続人居住用家屋の敷地等の両方を取得した相続人」に限るとしています。家屋だけ、または敷地だけを取得した相続人は含まれません。

この事案では、特例の対象となる「被相続人」は祖母です。請求人は、祖母の相続で建物の持分は取得しましたが、土地は祖父の相続ですでに取得していたもので、祖母の相続では取得していません。そのため、祖母から家屋と敷地の両方を取得したとはいえない、と判断されました。

取得の状況空き家の特例
同じ相続で、家屋と敷地の両方を取得対象になりうる(他の要件も満たす必要あり)
その相続で家屋だけを取得(敷地は前からの所有)対象外
その相続で敷地だけを取得(家屋は前からの所有)対象外
一次相続で敷地、二次相続で家屋を取得二次相続の被相続人から見て、敷地を取得していないため対象外(今回の裁決)

請求人は「遺産分割の方法によって不公平が生じる」と主張しましたが、審判所は、政策的に税額を減らす特例は文言を離れて広げて解釈することは許されない、として退けています。

論点2:修正申告に応じた後は、不服申立てができない

もう1つの論点は、税務調査で修正申告に応じた後の争い方です。

手続き内容争い方
修正申告納税者が自ら、税額を増やす申告をする自分の申告なので、不服申立て(再調査の請求・審査請求)はできない。誤りがあれば更正の請求
更正(税務署の処分)税務署が税額を決める不服申立てができる
更正の請求申告した税額が多すぎた場合に、減らすよう求める法定申告期限から原則5年以内

税務調査の最後に、調査担当者から修正申告をすすめられることがあります。その際、「修正申告をすると不服申立てはできないが、更正の請求はできる」といった内容を記載した文書が交付されます。この事案でも、請求人は文書を受け取り、受領の署名をしていました。

請求人は、高圧的に提出を求められてパニックになった、不服申立てができないことを理解できなかった、と主張しましたが、審判所は、更正の請求という法定の方法で争えた以上、錯誤を理由に修正申告を取り消すことはできないと判断しました。

不動産投資の税務と融資、まとめて相談できます

代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。

不動産投資家向け税務・融資支援を見る

実務で気をつけたいこと

ここからは、税理士・公認会計士として、また自らも不動産を相続・売却する立場からの考えです。

遺産分割の段階で、将来の売却を考えておく

一次相続では、配偶者が家屋を、子どもが土地を取得するといった分け方がよく行われます。しかし、この分け方をすると、配偶者が亡くなった二次相続で子どもが家屋を取得しても、空き家の特例は使えません。実家を将来売る可能性があるなら、遺産分割のときに、特例を使いたい相続人が家屋と敷地をまとめて取得できるかを検討しておくことが大切です。相続人の人数(3人以上なら上限2,000万円)や、共有にするかどうかも、あわせて考えます。

税務調査で修正申告をすすめられたら、その場で決めない

調査担当者の指摘に納得できない場合は、その場で修正申告書に署名せず、税理士に相談してから判断することをおすすめします。指摘に納得できないまま修正申告をすると、その後は不服申立てで争えず、更正の請求で争うことになります。逆に、税務署が更正の処分をした場合は、再調査の請求や審査請求で争うことができます。どちらの手続きを選ぶかで、その後の争い方が変わります(税務調査で見られるポイント、更正の請求とは)。

特例は「要件どおり」に読む

空き家の特例に限らず、税額を減らす特例は、文言どおり厳格に解釈されるのが原則です。「趣旨からすれば使えるはず」という考え方は、通らないことが多いと考えておくべきです。特例を使う前提で売却を進める場合は、要件を一つずつ確認し、迷うものは事前に税理士に相談してください。

まとめ

  • 空き家の3,000万円特別控除は、被相続人から家屋と敷地の両方を相続等で取得した相続人だけが使える
  • 一次相続で敷地、二次相続で家屋を取得した場合は、二次相続で敷地を取得していないため対象外と判断された
  • 税額を減らす特例は厳格に解釈され、遺産分割の方法による不公平という主張は通らなかった
  • 修正申告に応じた後は不服申立てができず、更正の請求で争うことになる。納得できない指摘には、その場で応じず専門家に相談を
  • 将来売る可能性がある実家は、遺産分割の段階で、誰が家屋と敷地をまとめて取得するかを検討しておく

相続した実家の売却や、遺産分割の分け方を一度確認したい方は、お気軽にご相談ください。

よくある質問

空き家の3,000万円控除は、建物か土地のどちらかだけを相続した人でも使えますか?
使えません。この特例の対象は、亡くなった人(被相続人)から、相続や遺贈で家屋とその敷地の両方を取得した相続人に限られます。報道された裁決では、祖父の相続で土地を、その後の祖母の相続で建物の持分を取得した相続人について、祖母の相続では敷地を取得していないため、特例の対象にならないと判断されました。
税務署の調査で修正申告をすすめられ、提出した後で間違いに気づいたらどうすればよいですか?
修正申告は自分で行った申告なので、その内容について不服申立て(再調査の請求や審査請求)はできません。誤りがあった場合は、法定申告期限から原則5年以内に「更正の請求」をして、税額を減らすよう求めることになります。報道された裁決でも、更正の請求ができた以上、錯誤を理由に修正申告を取り消すことは認められないと判断されています。
将来、空き家の特例を使えるようにするために、遺産分割で気をつけることはありますか?
特例を使いたい相続人が、同じ相続で家屋と敷地の両方を取得するように分けることが大切です。家屋は配偶者、土地は子どもというように分けると、次の相続(二次相続)で家屋を取得しても、敷地はその相続で取得していないため特例は使えません。遺産分割の段階で、将来売却する可能性と特例の要件をあわせて検討してください。

※本記事は2026年10月23日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

RELATED

あわせて読みたい

売却・相続

相続した実家は貸すか売るか|空き家の3,000万円特別控除の要件と「貸付けの制限」、取得費加算との選択、銀行の見え方

相続した実家を売るとき使える空き家の3,000万円特別控除(措置法35条3項)は、相続から売却まで一度でも貸すと使えません。昭和56年5月31日以前の建築、1億円以下、相続人3人以上は2,000万円、2027年末までの期限、取得費加算との選択、裁決事例、銀行の見え方を解説します。

2026年10月23日
売却・相続

マンション高騰の抑制策、短期売買への課税強化を自民党が検討|土地譲渡益重課の再開で、不動産投資家・不動産会社は何が変わるか

自民党がマンション価格の高騰を抑える政策の検討に入り、1998年から止まっている「土地譲渡益重課制度」の適用再開が例として挙がったと報じられました。今の短期・長期譲渡所得の仕組み、重課が再開された場合に影響を受ける人、今から確認しておくことを税理士・公認会計士が解説します。

2026年10月22日
売却・相続

相続税の取得費加算の特例と納税資金のための売却|3年10か月の期限、計算方法、自社株を会社に売る場合

相続した不動産を相続税の申告期限の翌日以後3年以内に売ると、納めた相続税の一部を取得費に加算できます。期限の数え方、計算式と数値例、代償金を払った場合、争いが長引き期限を過ぎた平成11年の裁決、相続した自社株を発行会社に売る特例、決算書と銀行の見え方まで解説します。

2026年10月18日
FREE CONSULTATION

決算書と融資のこと、
まずはお気軽にご相談ください。

初回のご相談は無料です。まずは担当者がお話を伺い、内容に応じて担当税理士や金融機関出身のコンサルタントがご提案します。