不動産賃貸の法人(資産管理法人)のオーナーにとって、相続や事業承継で問題になるのは自社株の評価です。取引相場のない株式は、会社規模に応じて類似業種比準方式と純資産価額方式を組み合わせて評価しますが、資産の大部分が土地の会社は土地保有特定会社、株式の会社は株式等保有特定会社として、原則として純資産価額方式で評価されます。
不動産法人や、ホールディングス化した持株会社は、この「特定の評価会社」に当たりやすい会社です。この記事では、判定基準と評価方法、判定で注意したい点、公表裁決事例、決算書・銀行との関係、そして2026年に国税庁が示した評価見直しの骨子までを整理します。
- 土地保有特定会社:土地保有割合が大会社(総資産15億円以上の小会社を含む)で70%以上、中会社(不動産賃貸業なら総資産5,000万円以上の小会社を含む)で90%以上
- 株式等保有特定会社:総資産に占める株式・出資・新株予約権付社債の割合が50%以上(会社規模を問わない)
- いずれも原則として純資産価額方式で評価。株式等保有特定会社はS1+S2方式も選択できる
- 判定は相続税評価額ベース。課税時期前3年以内に取得した土地・建物は通常の取引価額で評価する点にも注意
- 判定を免れるための合理的理由のない資産構成の変動は、なかったものとして判定される
取引相場のない株式の評価の基本
国税庁の財産評価基本通達では、同族株主等が取得した取引相場のない株式は、会社規模に応じて次のように評価します(タックスアンサーNo.4638 取引相場のない株式の評価)。
| 会社規模 | 原則的な評価方法 |
|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準方式(純資産価額方式も選択可) |
| 中会社 | 類似業種比準方式と純資産価額方式の併用 |
| 小会社 | 純資産価額方式(併用方式も選択可) |
| 特定の評価会社 | 原則として純資産価額方式 |
類似業種比準方式は、上場している同業種の会社の株価をもとに、配当・利益・簿価純資産の3要素で比準して評価する方法です。不動産の含み益が反映されないため、純資産価額より低くなることが多い評価方法です。特定の評価会社に当たると、この類似業種比準方式が使えなくなります。
土地保有特定会社の判定基準
財産評価基本通達189(3)は、土地保有特定会社を次のように定めています。
| 会社規模の区分 | 対象となる会社(卸売業、小売・サービス業以外の場合) | 土地保有割合 |
|---|---|---|
| 大会社 | 大会社、または総資産価額(帳簿価額)15億円以上の小会社 | 70%以上 |
| 中会社 | 中会社、または総資産価額(帳簿価額)5,000万円以上の小会社 | 90%以上 |
| 小会社 | 総資産価額(帳簿価額)5,000万円未満 | 判定の対象外 |
土地保有割合は、課税時期に評価会社が持つ各資産を相続税評価額で評価した合計額のうち、土地等(土地と土地の上に存する権利)の価額が占める割合です。
不動産賃貸業の法人は従業員が少ないため、会社規模では小会社に区分されることが多く、その場合は総資産の帳簿価額が5,000万円以上なら90%基準、15億円以上なら70%基準で判定します。
判定のポイント
- 建物の割合:一棟の賃貸マンションなら、建物(貸家)の評価額が一定の割合を占めるため、土地保有割合は100%にはならない。一方、貸宅地や駐車場が中心の会社は土地保有割合が高くなりやすい
- 3年以内取得の不動産:純資産価額の計算では、課税時期前3年以内に取得・新築した土地・建物等は、通常の取引価額で評価する(評価通達185)。判定上の土地等の価額も大きくなりうる
- 資産構成の変動:評価通達189のなお書は、課税時期前に合理的な理由もなく資産構成を変動させ、それが特定の評価会社と判定されることを免れるためのものと認められるときは、その変動はなかったものとして判定するとしている。直前に借入れで現預金を増やして割合を下げる、といった操作は認められない
株式等保有特定会社の判定基準
株式等保有特定会社は、総資産(相続税評価額)のうち株式・出資・新株予約権付社債の価額の合計額の割合が50%以上の会社です(評価通達189(2))。平成25年の通達改正前は大会社について25%以上という基準でしたが、現在は会社規模を問わず50%です。
ホールディングス化で持株会社をつくると、持株会社の資産の大部分が子会社株式になり、この基準に該当しやすくなります。子会社株式は、子会社自体を評価通達で評価した価額で計算するため、子会社が不動産の含み益を持っていれば、その分も持株会社の株価に反映されます。
| 区分 | 判定基準 | 評価方法 |
|---|---|---|
| 土地保有特定会社 | 土地保有割合 70%以上(大)/90%以上(中) | 純資産価額方式 |
| 株式等保有特定会社 | 株式等保有割合 50%以上 | 純資産価額方式、またはS1+S2方式 |
| 開業後3年未満の会社等 | 開業後3年未満など | 純資産価額方式 |
S1+S2方式は、株式等以外の部分(S1)を通常の会社規模に応じた方法で、株式等の部分(S2)を純資産価額で評価して合計する方法です。持株会社でも事業会社としての実態がある部分は類似業種比準の考え方を使えます。持株会社をつくる組織再編の税務は株式交換・株式移転で持株会社をつくる税務で解説しています。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る公表裁決事例:土地保有特定会社の判定
平成24年10月9日裁決(国税不服審判所)
- 事案:平成20年に開始した相続で、相続財産に含まれる同族会社(大会社に区分)の株式の評価が争われた。被相続人は同族会社に土地を賃貸し、「土地の無償返還に関する届出書」を提出していた
- 争点の一つ:無償返還届出書が出ている土地について、会社の株式を純資産価額で評価する際に算入する「自用地価額の20%相当額」は、土地保有割合の判定上の「土地等」に含まれるか。また、土地保有割合70%という形式的な基準で評価方式が大きく変わる取扱いに合理性があるか
- 判断:20%相当額は借地権の価額と解され、判定上の土地等の価額から除く定めもないため「土地等」に含まれる。土地保有特定会社を純資産価額で評価する取扱いは時価の算定方法として合理的とされた。そのうえで、土地等の価額は総資産の75%で、土地保有特定会社に該当すると判断(なお、土地の評価など別の争点で処分の一部は取り消されている)
- 一次情報:国税不服審判所 公表裁決事例(平成24年10月9日裁決)
この事例からは、判定は帳簿上の分類ではなく、評価通達で評価した土地等の価額で行うこと、オーナー個人から借りている土地についての借地権相当額のように、決算書には資産として載っていないものも「土地等」に含まれうることが読み取れます。
税務上の扱い:個人と法人の違い
不動産を個人で持つか法人で持つかで、相続のときに評価される対象が変わります。
| 項目 | 個人で保有 | 法人で保有(土地保有特定会社に該当) | 法人で保有(該当しない) |
|---|---|---|---|
| 相続の対象 | 土地・建物 | 株式 | 株式 |
| 評価方法 | 路線価・固定資産税評価額など | 純資産価額方式 | 会社規模に応じた方式 |
| 不動産の含み益 | 評価額にそのまま反映 | 評価差額から法人税額等相当額を控除 | 類似業種比準方式なら反映されにくい |
| 3年以内取得 | 通常どおり評価(評価の見直し案あり) | 通常の取引価額 | 純資産価額の計算部分で通常の取引価額 |
| 小規模宅地等の特例 | 適用可 | 適用不可 | 適用不可 |
純資産価額方式では、相続税評価額による純資産と帳簿価額による純資産の差額(評価差額)に対する法人税額等相当額(現行の評価通達186-2では38%。法人税には地方法人税・防衛特別法人税を含む)を控除できます。個人と法人の相続税の違いは不動産を法人で持つと相続税はどう変わる?、自社株評価の全体像は自社株評価の方法をやさしく解説をご覧ください。
会計上の扱いと表示:決算書と株価評価は別の物差し
株価評価に使う数字の出発点は決算書ですが、決算書そのものは企業会計の基準で作ります。企業会計は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に従って処理し、中小企業では中小企業の会計に関する指針や要領がその中心です(会社法431条、法人税法22条4項)。
- 決算書の土地・建物は取得原価(建物は減価償却後)で計上され、相続税評価額では計上しない
- 株価評価では、BSの各資産を相続税評価額に置き直して純資産価額を計算する
- 土地保有割合の判定も、決算書の比率ではなく相続税評価額での比率で行う
株価を下げるために、実態と異なる資産区分にしたり、必要のない資産を一時的に持ったりすることは、評価通達189のなお書の対象になりえますし、決算書の信頼性も損ないます。決算書の表示区分は取引の実態に沿って判断し、評価の検討は顧問税理士と行うのが基本です。
銀行からの見え方:純資産が厚い会社ほど株価は高い
銀行は、相続税評価の株価ではなく、決算書の純資産や実態の財務を見ます。
- 純資産と株価のジレンマ:利益を積み上げて純資産を厚くすれば、銀行の評価は上がる。一方で、純資産価額方式で評価される会社ほど、株価も上がり相続税の負担が増える。著書のモデルでは、プロパー融資の目安を「正常先+純資産1億円」としており、財務を強くすることと承継の準備は並行して考える必要がある
- 株価対策で財務を傷めない:株価を下げるための大きな費用計上や資産の入替えは、営業利益や純資産を下げ、格付けを落とす可能性がある
- 承継者の個人保証:株式を承継した後継者に個人保証や借入の条件が引き継がれるかも、事前に銀行と相談しておきたい
評価見直しの動き:2026年8月の「骨子」
国税庁が2026年8月20日の有識者会議で示した資料「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」では、会社規模に応じた現在の評価体系を廃止し、一般の会社は残余利益方式(インカムアプローチ)に一本化する方向が示されています。そのうえで、資産の保有・管理を主な目的とする資産管理会社を純資産価額方式で評価する特定の評価会社とし、現在の土地保有特定会社・株式等保有特定会社の区分に代えて、事業承継税制の資産管理会社の基準(特定資産保有割合70%以上または特定収入割合75%以上)を参考にした形式基準を設けることが検討されています。
資料自体が、最終的には税制改正のプロセスで決めるとしており、2026年10月時点では内容も適用時期も未確定です。不動産法人の株価評価に大きく影響しうるため、今後の税制改正の動きを確認していく必要があります。
実務のチェックポイント
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社規模 | 従業員数・総資産(帳簿価額)・取引金額で大・中・小のどれに当たるか |
| 土地保有割合 | 相続税評価額で土地等の割合を試算したか(貸宅地・借地権も含む) |
| 株式等保有割合 | 持株会社・子会社株式・出資の割合は50%未満か |
| 3年以内取得 | 課税時期前3年以内に取得・新築した不動産はないか(通常の取引価額で評価) |
| 資産構成の変動 | 判定直前に合理的理由のない資産の入替えをしていないか |
| 銀行の評価 | 株価対策が、営業利益・純資産・格付けに与える影響を確認したか |
| 制度改正 | 評価見直しの動き(資産管理会社の区分など)を確認しているか |
まとめ
- 土地保有割合が大会社で70%以上、中会社で90%以上の会社は土地保有特定会社、株式等の割合が50%以上の会社は株式等保有特定会社
- どちらも原則として純資産価額方式で評価され、類似業種比準方式が使えなくなる
- 判定は相続税評価額で行い、貸宅地も土地等に含まれる(平成24年10月9日裁決)。判定を免れるための資産構成の変動はなかったものとされる
- 決算書と株価評価は別の物差し。株価対策で営業利益や純資産を傷めると銀行の評価が下がる
- 国税庁は資産管理会社を純資産価額で評価する見直しの骨子を示しており、今後の改正に注意が必要
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