売却・相続

売却代金を分割で受け取るときの収益計上時期|引渡時に全額課税の原則、個人の延納制度、回収不能の特例と決算書・銀行の見え方(判例・裁決つき)

物件を売るとき、買主の資金の都合で「代金は頭金と、残りを数年に分けて」という条件になることがあります。親族や取引先への売却、長年の借地人への底地の売却など、相手との関係で分割払いを受け入れる場面も少なくありません。

ここで注意したいのは、代金を分割で受け取っても、税金は原則として物件を引き渡した時に代金全額で計算されることです。手元に入ったお金は頭金だけなのに、税金は全額分。納税資金が足りなくなるおそれがあります。この記事では、分割受取りの場合の収益計上時期の原則、個人の延納制度、代金が回収できなくなった場合の特例、会計上の表示と銀行の見え方を整理します。

この記事の結論
  • 代金を分割で受け取る契約でも、売却損益は原則として引渡しの日(土地建物は契約日も可)に代金全額で計上する。最高裁昭和47年12月26日判決も、長期の割賦弁済でも全額をその年に課税すべきとした
  • 法人の延払基準(代金の受取りに応じて収益を分ける方法)は、平成30年度改正でリース譲渡を除き廃止
  • 個人は、3回以上・2年以上の分割などの要件を満たす延払条件付譲渡なら、申請により5年以内の延納が認められることがある(所得税法132条、利子税・担保が必要)
  • 代金が回収できなくなったら、個人は所得税法64条で所得がなかったものとみなされる。更正の請求は回収不能の事実が生じた日の翌日から2か月以内。期限を過ぎて認められなかった裁決がある
  • 決算書では、1年以内に受け取る分は流動資産、それ以降の分は固定資産(長期未収入金)に区分する。銀行は回収可能性を見ている

原則:引渡しの時に代金全額で計上する

最高裁昭和47年12月26日判決

分割払いの売却で、譲渡所得をいつ課税するかが争われた代表的な判例があります。

  • 裁判所・日付:最高裁判所第三小法廷 昭和47年12月26日判決(昭和41年(行ツ)第102号、民集26巻10号2083頁)
  • 争点:不動産の売買代金が長期の割賦弁済とされている場合、譲渡所得はどの年に課税すべきか
  • 判断:譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその所有者に帰属する増加益を所得として、資産が他に移転するのを機会にこれを清算して課税する趣旨のものと解すべきとした。そのうえで、代金が長期の割賦弁済とされていても、売買契約成立の日に所有権移転登記がされて所有権が確定的に移転していれば、譲渡所得の全額がその年に発生したものとして課税すべきと判断した
  • 出典:裁判所 裁判例検索

現在の通達の考え方

個人の譲渡所得の収入すべき時期は、所得税基本通達36-12により、資産の引渡しの日(選択により契約の効力発生の日)とされています。法人の固定資産の譲渡も、法人税基本通達2-1-14により、引渡しの日(土地建物は契約の効力発生日も可)の事業年度に計上します。どちらも、代金を受け取った時ではなく、資産を引き渡した時が基準です。計上時期の考え方の全体像は物件の売却タイミングと決算期で解説しています。

法人と個人の違い

項目法人個人
計上時期引渡しの日(土地建物は契約日も可)に代金全額で売却損益引渡しの日(契約日も選択可)の年に代金全額で譲渡所得
代金の受取りに応じて分ける方法長期割賦販売等の延払基準は平成30年度改正でリース譲渡を除き廃止(経過措置あり)所得の計算を分ける方法はない
納税を分ける方法特になし(通常の納期限に納付)延払条件付譲渡なら申請により5年以内の延納(所得税法132条)
代金が回収できなくなった場合貸倒損失として損金(貸倒れの要件を満たす場合)所得税法64条で回収不能額に対応する所得はなかったものとみなす(更正の請求)
代金に含まれる利息受取利息として期間に応じて計上譲渡対価と区別して扱う(雑所得とされるのが一般的)
消費税(建物部分)引渡しの時に課税売上げ課税事業者なら引渡しの時に課税売上げ

個人の延納制度:所得税法132条

所得税法132条は、居住者が譲渡所得の基因となる資産の延払条件付譲渡をした場合に、一定の要件を満たせば、税務署長が申請により5年以内の延納を許可できるとしています。

  • 延払条件付譲渡:月賦・年賦などの方法で3回以上に分割して対価を受け取り、引渡しの期日の翌日から最後の賦払金の支払期日までの期間が2年以上あることなどの条件を定めた契約による譲渡
  • 申告:その年分の確定申告書を期限内に提出していること
  • 税額の要件:延払条件付譲渡に係る税額が、申告書に記載された所得税の額の2分の1を超え、かつ30万円を超えること
  • 担保:原則として延納する税額に相当する担保が必要(延納税額が100万円以下で延納期間が3年以下の場合などは不要)

延納した税額には利子税がかかります。延納は「納税を待ってもらう」制度で、譲渡所得そのものが減るわけではありません。

代金が回収できなくなったら:所得税法64条

分割払いの売却で最も怖いのは、買主が途中で払えなくなることです。個人の場合、所得税法64条1項は、譲渡所得などの計算の基礎となった収入金額の全部または一部を回収できなくなった場合には、その回収できない金額に対応する部分の所得はなかったものとみなすとしています。すでに申告・納税を済ませている場合は、更正の請求をして税金を取り戻します。この更正の請求は、所得税法152条により、回収不能の事実が生じた日の翌日から2か月以内にする必要があります。

平成6年11月25日裁決(裁決事例集No.48・100頁):事実上の回収不能でも特例を適用

  • 事案:請求人は、土地を売却して手付金を受け取り、登記に必要な書類を渡したが、残代金として受け取った小切手は白地で、買主には支払う意思も能力もなかった。買主は土地を第三者に転売し、請求人は売買契約を取り消して損害賠償の判決を得たが、買主は服役中で資産もなかった
  • 判断:損害賠償請求権の取得は実質的には土地の譲渡の対価と評価されるから、譲渡所得がなかったことにはならない。しかし、譲渡代金の回収不能には、法律上債権が消滅した場合だけでなく、債務者の資産状況や支払能力からみて回収が事実上不可能な場合も含まれるとされ、所得税法64条1項を適用して原処分の一部が取り消された(国税不服審判所)

平成11年3月5日裁決(裁決事例集No.57・181頁):2か月の期限を過ぎた

  • 事案:農地を譲渡した相手方が、覚書に基づく代替農地の提供を履行しないまま行方不明になった。請求人は、相手方の所在と財産を調査し、回収不能を確認した日から2か月以内に更正の請求をしたと主張した
  • 判断:回収不能となった事実が生じた日は、客観的にみて回収の見込みがないことが確実となった日で判定すべきで、本人が調査・確認を終えた日ではない。相手方が負担することになっていた所得税を請求人自らが納付せざるを得なくなった段階で、相手方に履行する資力がないことを自認したと認められ、その日から2か月を過ぎた更正の請求は認められなかった(国税不服審判所)

実務への示唆:分割払いの売却では、買主の支払状況を継続的に確認し、支払が滞った段階で、回収の見込みと手続の期限を顧問税理士と確認することが大切です。「調べ終わってから」では期限を過ぎてしまうことがあります。いずれも個別の事実関係に基づく判断であり、回収不能の時期は事案ごとに判断されます。

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会計上の処理と決算書の表示

決算書の表示は、企業会計の基準、つまり一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って判断します。中小企業であれば、企業会計原則、「中小企業の会計に関する指針」「中小企業の会計に関する要領」などが中心です。収益の計上時期についても、最高裁平成5年11月25日判決(大竹貿易事件)が、法人税法22条4項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に適合するかという観点で判断しています(裁判所)。

売却損益と未収入金

  • 売却損益:引渡しの時に、代金全額と帳簿価額の差額を固定資産売却損益として計上し、賃貸用の固定資産なら原則として特別損益に表示します
  • 未回収の代金:決算日の翌日から1年以内に受け取る分は流動資産の「未収入金」、それより後に受け取る分は固定資産(投資その他の資産)の「長期未収入金」として区分します(1年基準)
  • 利息:代金とは別に利息を受け取る約定があれば、期間に応じて受取利息(営業外収益)として計上します
  • 回収可能性:回収が危ぶまれる場合は、貸倒引当金の計上を検討します

「資産は上に」と1年基準

著書では、BSの整え方として「資産は上に、負債は下に」という原則を示しています。流動資産÷流動負債=流動比率が銀行の安全性指標として重視されるため、回収見込みの確かな流動資産が厚いほど評価されやすい、という表示区分の話です。

分割払いの売却代金のうち、1年以内に受け取る分は流動資産に表示されます。ただし、1年を超えて受け取る分を流動資産に入れることはできません。どちらに表示するかは支払期日という事実で決まり、見せ方で選べるものではありません。税務上は売却益の計上時期が論点になり、決算書の表示区分は企業会計の基準に沿って判断する必要があります。どの区分にできるかは取引の実態次第ですので、顧問税理士・会計の専門家と検討してください。

銀行からの見え方

利益は出たのに、現預金は増えない

分割払いで物件を売ると、引渡しの期に売却益が計上され、純資産は増えます。一方、手元に入るのは頭金だけで、法人税等の納税資金は先に出ていきます。銀行は、純資産の増加だけでなく、その中身が長期未収入金という回収待ちの資産であることに注目します。

長期未収入金は「回収できるか」で評価される

銀行は、長期未収入金の相手先、回収予定、担保の有無を確認します。相手が親族や関係会社の場合は、実質的に回収されない資産とみなされ、実質的な純資産の計算で差し引かれることもあります。著書でも、役員貸付金や仮払金は銀行から資産として認められずゼロ評価される代表的な勘定として挙げており、関係者への長期の債権は同じような目で見られやすいといえます。

債務償還年数への影響

物件を売っても、代金の大部分が未収入金のままでは、借入金の返済に充てられません。著書のモデルの債務償還年数「(借入金 − 現預金)÷(経常利益 + 減価償却費 − 法人税等)」で見ると、売却で家賃収入(分母)は減るのに、分子の借入金は思うように減らない、ということが起こります。売却物件の残債を一括返済する必要がある場合は、頭金で残債を返せるかを先に確認してください。

関係者への売却で価格や条件をどう決めるかは親族・同族会社への低額譲渡の税金、売却損益の表示は不動産の売却損は特別損失?もあわせてご覧ください。

実務のチェックポイント

タイミング確認すること
契約の検討時引渡し時に代金全額で課税される前提で、頭金で納税資金と残債の返済をまかなえるか試算したか
契約の検討時個人の場合、延払条件付譲渡の延納(3回以上・2年以上の分割、税額要件、担保)を使うか検討したか
契約時分割代金の支払期日、利息、遅延時の扱い、所有権移転の時期を契約書に明記したか
契約時未払い時に備えて、抵当権の設定や所有権留保などの保全策を検討したか
決算時(法人)未収入金を1年基準で流動・固定に区分し、利息を期間に応じて計上したか
決算時(法人)回収可能性を検討し、必要に応じて貸倒引当金を計上したか
支払が滞ったとき回収の見込みと、所得税法64条の更正の請求の期限(回収不能の事実が生じた日の翌日から2か月)を確認したか
銀行への説明長期未収入金の相手先・回収予定・保全策を説明できる資料を用意したか

まとめ

  • 売却代金を分割で受け取っても、売却損益は原則として引渡しの日に代金全額で計上する。最高裁昭和47年12月26日判決も、長期の割賦弁済でも全額をその年に課税すべきとした
  • 法人の延払基準は平成30年度改正でリース譲渡を除き廃止。個人は延払条件付譲渡なら申請により5年以内の延納ができる場合がある
  • 代金が回収できなくなったら、個人は所得税法64条で所得がなかったものとみなされる。更正の請求は回収不能の事実が生じた日の翌日から2か月以内で、期限を過ぎて認められなかった裁決がある
  • 決算書では未収入金を1年基準で区分し、表示区分はGAAPに沿って事実で判断する
  • 銀行は長期未収入金の回収可能性を見ている。頭金で納税と返済をまかなえるか、売却前に試算しておく

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よくある質問

売却代金を5年かけて分割で受け取る契約です。税金も5年に分けて払えますか?
譲渡所得は、原則として物件を引き渡した年に、分割で受け取る代金も含めた全額で計算します。最高裁昭和47年12月26日判決も、代金が長期の割賦弁済とされていても、所有権が移転していれば譲渡所得の全額がその年に発生したものとして課税すべきとしています。ただし個人の場合、一定の要件を満たす延払条件付譲渡なら、申請により5年以内の延納が認められることがあります(所得税法132条)。延納には利子税がかかり、原則として担保も必要です。
法人が分割払いで物件を売った場合、収益は代金を受け取るたびに計上できますか?
現在は原則としてできません。以前は長期割賦販売等について延払基準で収益を分けて計上する方法がありましたが、平成30年度税制改正でリース譲渡を除いて廃止されました(経過措置あり)。不動産の売却は、原則として引渡しの日(土地建物は契約の効力発生日も可)に代金全額で売却損益を計上します。
分割で受け取る予定だった代金が、買主の倒産で回収できなくなりました。払った税金は戻りますか?
個人の場合、譲渡代金の全部または一部が回収できなくなったときは、所得税法64条により、その回収できない金額に対応する所得はなかったものとみなされます。ただし、更正の請求は、回収不能の事実が生じた日の翌日から2か月以内にする必要があります。法人の場合は、貸倒れの要件を満たせば、回収できなくなった事業年度に貸倒損失として損金に算入します。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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