税のしるべ(2026年10月19日)が、国税不服審判所の公表裁決(令和8年1月14日付)を報じました。インターネットでフィギュアやカプセルトイなどのキャラクターグッズを販売していた個人事業者の仕入れの一部について、税務署が「私的に収集する目的の購入(家事関連費)」として必要経費から外した処分を、審判所が全部取り消したという内容です。
ネット物販や転売(せどり)では、扱う商品が自分の趣味と重なることがよくあります。この裁決をもとに、Q&A形式で判断のポイントと、経費を守るための記録の残し方を整理します。
- 税務署は、仕入先の納品書に具体的な商品名・単価・数量の記載がない中古商品について、販売した事実が認められず私的な収集目的だとして、セットで仕入れた分の全額を必要経費から外した
- 審判所は、その商品も事業の販売サイトで販売していたと推認され、販売目的を否定する証拠もないとして、家事関連費には当たらず全額が必要経費と判断。所得税・消費税の処分をすべて取り消した
- 納税者の主張が認められたとはいえ、品名や単価のない納品書が争いの原因になった。仕入れと販売を商品ごとに結びつけられる記録を残しておくことが、何よりの備えになる
Q1. どんな事案だったのですか?
税のしるべの報道によれば、事案の概要は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 事業 | インターネットのサイトで、フィギュア、カプセルトイなどのキャラクターグッズを販売する個人事業。令和3年6月に法人化に伴い個人事業を廃業 |
| 仕入れ | 娯楽施設を運営する仕入先から、クレーンゲームやカプセルトイの景品などの「流通限定商品」と、古書などの「中古商品」を購入 |
| 納品書の記載 | どちらか一方だけを買った月は具体的な商品名を記載。両方をセットで買った場合は、流通限定商品の商品名に続けて中古商品をひとまとめの表記にするだけで、中古商品の商品名や、それぞれの単価・数量は記載されていなかった |
| 税務署の処分 | セットで仕入れた中古商品は販売した事実が認められず、私的に収集する目的の購入(家事費)。セットの仕入金額は事業の経費と家事費が混ざった家事関連費で、事業の分を明らかに区分できないから、全額を必要経費に入れられない。消費税の仕入税額控除も同様に否認 |
| 審判所の判断 | 中古商品も事業のサイトで販売していたと推認され、販売目的を否定する証拠もないから家事費ではない。流通限定商品も実際に販売していた。セットの仕入金額は家事関連費に当たらず、全額が必要経費。処分をすべて取り消し |
出典:税のしるべ「【公表裁決】原処分庁が家事上の経費と事業上の経費が混在と主張も退け、処分を取消し」(2026年10月19日)。令和8年1月14日付の公表裁決。
Q2. 「家事関連費」とは何ですか?
個人事業者の支出のうち、事業のための部分と、私生活のための部分が混ざっている費用を「家事関連費」といいます。所得税法では、家事関連費は原則として必要経費になりません。事業を行ううえで必要な部分を明らかに区分できる場合に限り、その部分だけを経費にできます(所得税法45条1項1号)。自宅の一部を事務所に使う場合の家賃などが典型例です。
| 区分 | 例 | 必要経費 |
|---|---|---|
| 家事費(私生活の費用) | 私的なコレクションの購入、生活費 | ならない |
| 家事関連費(混ざっている費用) | 自宅兼事務所の家賃、私用もある車の費用 | 事業の部分を明らかに区分できれば、その部分だけなる |
| 事業の費用 | 販売するための商品の仕入れ | なる |
今回、税務署は「セットの仕入れは、販売用と私的コレクション用が混ざった家事関連費で、区分できない」と主張しました。審判所は、そもそも私的な購入とは認められないとして、セットの仕入れは家事関連費ではなく、全額が事業の費用だと判断しています。
Q3. 何が決め手になったのですか?
報道された判断のポイントは、次の2つです。
- 中古商品も、事業の販売サイトで販売していたと推認されたこと。販売目的で仕入れたことを否定するだけの証拠もなかった
- 流通限定商品は、実際にサイトで販売していたこと。事業に直接かかった費用といえる
つまり、「仕入れた物を事業で売っていた」ことが、販売サイトの記録などから認められたことが決め手です。
Q4. 自分の事業で気をつけることは?
ここからは、税理士・公認会計士としての考えです。今回は納税者の主張が認められましたが、審査請求まで争うには時間と手間がかかります。そもそも疑われないための記録づくりが大切です。
| 気をつけること | 具体的な対応 |
|---|---|
| 仕入れの記録 | 仕入先に、品名・数量・単価が分かる納品書や請求書を出してもらう。「一式」「セット」の表記だけにしない |
| 仕入れと販売のつながり | 商品ごとに、仕入れた日・仕入値・販売した日・販売価格が追える管理表をつくる。販売サイトの出品・販売の履歴も保存する |
| 私物との区別 | 自分のコレクション用に買う物は、事業の仕入れとは別の支払い方法・別の記録にする。事業の在庫と私物を同じ場所に混ぜて保管しない |
| 在庫の管理 | 期末に売れ残った商品は在庫として数え、仕入れの全額をその年の経費にしない |
| 消費税 | 仕入税額控除には帳簿と請求書などの保存が必要。品名や金額が分からない書類は、控除の根拠として弱くなる |
特に、趣味と事業が重なる分野(フィギュア、トレーディングカード、ブランド品、古書、骨董など)では、「本当に売るために買ったのか」が税務調査で確認されやすいと考えておくべきです。トレカなどの売却の税金については、オンラインくじで当てたトレカを売ったら確定申告は必要?も参考にしてください。
Q5. 法人化した後も同じですか?
この事案の事業者は、個人事業を法人化した後に、個人時代の申告について調査を受けています。法人化しても、個人事業のときの帳簿や書類の保存義務はなくなりません。法人化のタイミングで、個人時代の記録をまとめて保管しておくことが大切です。法人化の判断については個人事業から法人化するタイミングで解説しています。
まとめ
- 税務署は、品名・単価の記載がない中古商品の仕入れを「私的な収集目的」として、セットの仕入れの全額を経費から外していた
- 審判所は、販売サイトで販売していたと推認されることなどから、家事関連費には当たらず全額が必要経費と判断し、処分をすべて取り消した
- 趣味と重なる商品の物販では、仕入れと販売を商品ごとに結びつける記録、品名・単価の分かる納品書、私物との区別が、経費を守るための備えになる
- 法人化した後も、個人時代の記録の保存は必要
ネット物販や転売の経理・税務、法人化のタイミングについて確認したい方は、お気軽にご相談ください。
