「株価が半分になった」「物件の相場が下がった」「バブル期のゴルフ会員権が紙切れ同然」。こうした含み損の処理についてのご相談は、相場が大きく動いた年ほど増えます。結論から言えば、法人でも個人でも、時価が下がっただけでは、原則として税金は1円も減りません。
含み損が税務上の損になるのは、法人なら法令で定める「評価損の要件」を満たすか売却したとき、個人なら原則として売却したときだけです。一方、会計(決算書)や銀行の目線では、含み損は売る前から見られています。この記事では、税務・会計・銀行の3つの目線で、含み損の扱いを整理します。
- 法人税法33条1項:資産の評価損は原則として損金不算入。例外は政令で定める事実がある場合だけ
- 有価証券は、期末の価額が帳簿価額のおおむね50%を下回り、かつ回復が見込まれないときなどに評価損を計上できる
- 不動産などの固定資産は、災害による著しい損傷、1年以上の遊休、所在する場所の状況の著しい変化などが必要。市況の下落だけでは足りない
- 会計上の減損・評価減は、税務上の要件を満たさなければ申告書で加算する。決算書の純資産は減るが、税金は減らない
- 個人は、含み損は売却するまで損失にならない。売っても所得区分ごとの制限がある
税務の原則:評価損も評価益も、原則として所得に入れない
法人税法は、資産の時価が変わっても、原則としてそれを所得に反映させません。
- 評価益:資産の評価換えをして帳簿価額を増やしても、原則として益金に算入しない(法人税法25条1項)
- 評価損:資産の評価換えをして帳簿価額を減らしても、原則として損金に算入しない(法人税法33条1項)
理由は、時価の上げ下げを自由に所得に反映できると、利益の出た年だけ評価損を計上するといった調整ができてしまうからです。そのため、評価損が損金になるのは、法人税法33条2項と法人税法施行令68条1項が定める事実(いわゆる物損等の事実)がある場合や、会社更生・民事再生などの法的整理の手続で資産の評定が行われる場合などに限られています。
また、33条2項の評価損は、損金経理(決算書で費用・損失として計上すること)で帳簿価額を減額したときに限って認められます。申告書の上だけで評価損を差し引くことはできません。
評価損が損金になる場合・ならない場合
資産の種類ごとに、法人税法施行令68条1項と法人税基本通達(有価証券の評価損、固定資産の評価損)の要件を整理すると、次のようになります。
| 資産 | 評価損が損金になる主な場合 | 損金にならない例 |
|---|---|---|
| 上場株式など(市場有価証券等) | 期末の価額が帳簿価額のおおむね50%を下回り、かつ近い将来の回復が見込まれない(通達9-1-7) | 30%下落、または回復の見込みがある |
| 非上場株式 | 発行法人の資産状態が著しく悪化し(破産・再生手続開始の決定など、または1株当たり純資産が取得時からおおむね50%以上下落)、価額が著しく低下した(通達9-1-9、9-1-11) | 業績が悪いが純資産はあまり減っていない |
| 不動産などの固定資産 | 災害による著しい損傷、1年以上の遊休、本来の用途に使えず他の用途に使用、所在する場所の状況の著しい変化、これらに準ずる特別の事実 | 市況の下落、過度の使用や修理不足による損耗、償却不足、取得価額が高すぎた(通達9-1-17) |
| ゴルフ会員権(預託金制) | 預託金が金銭債権として顕在化した部分は貸倒損失・貸倒引当金の対象(通達9-7-12注) | 取引相場が下がっただけ |
| 棚卸資産(販売用不動産を含む) | 災害による著しい損傷、著しい陳腐化、これらに準ずる特別の事実 | 物価変動、過剰生産、建値の変更などによる値下がり(通達9-1-6) |
なお、売買目的で保有する有価証券は、期末に時価で評価し、評価損益を益金・損金に算入するという別の仕組みになっています。
ゴルフ会員権の裁決事例
国税不服審判所の平成16年1月15日裁決(裁決事例集No.67・464頁、公表裁決事例)は、法人が預託金制ゴルフ会員権の評価換えで評価損を損金に算入した事案です。審判所は、施設を優先的に使える間の会員権は減価償却資産以外の無形固定資産であって有価証券には当たらないとし、単なる取引価格の下落は固定資産の評価損の要件とされていないとして、損金算入を認めませんでした。ゴルフ会員権の処理の詳細は、法人のゴルフ会員権の税務をご覧ください。
不動産の含み損は「遊休」「状況の著しい変化」がポイント
賃貸物件の相場が下がっただけでは評価損は計上できません。たとえば、災害で建物が大きく損傷した、やむを得ない事情で取得から1年以上使っていない、周辺の環境が大きく変わって価値が著しく下がった、といった事実が必要です。該当するかどうかは事実関係によるので、写真、議事録、空室の経緯などの記録を残しておくことが大切です。
会計上の減損・評価減との違い
会計は「回収できない簿価」を落とす
会計(決算書)は、税務とは目的が違います。企業会計では、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に従って決算書をつくります。会社法431条も、株式会社の会計は「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」に従うとしています。
会計の考え方では、時価が著しく下がって回復が見込めない有価証券や、収益性が下がって投資額を回収できない固定資産は、決算書の資産を実態に合わせて切り下げます。これが評価減や減損です。中小企業向けの会計の指針などでも、こうした場合に評価損や減損損失を計上する考え方が示されています。
会計で落としても、税務の要件を満たさなければ申告書で加算
法人税法22条4項は、所得の計算は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従うとしていますが、33条のような別段の定めがある部分は、その定めが優先します。そのため、会計上は減損損失を計上し、税務上は要件を満たさないので申告書(別表四)で加算する、という処理になることがよくあります。加算した金額は、将来その資産を売却したときなどに減算されます。
前述の平成16年裁決でも、法人側は「会計基準に従って評価損を計上した」と主張しましたが、法人税法上認められない評価損を会計基準を根拠に認めることはできないとして退けられています。税務と会計の関係は、税務上の損金と企業会計(GAAP)の違い、賃貸物件の減損については賃貸不動産の減損と税務で詳しく解説しています。
個人は「売るまで損にならない」
個人の場合、含み損の扱いはもっとシンプルで、もっと厳しいものになります。時価が下がっただけでは、必要経費にも損失にもなりません。損失として扱われるのは、原則として売却して譲渡損失が実現したときです。しかも、売っても所得の区分ごとに使い道が制限されます。
| 個人の資産 | 売却損の扱い |
|---|---|
| 上場株式等(証券会社経由の売却) | 上場株式等の譲渡益・申告分離課税を選んだ配当等と損益通算でき、残りは翌年以後3年間繰り越せる(タックスアンサーNo.1474) |
| 土地・建物 | 他の土地建物の譲渡益からは控除できるが、給与所得などとは損益通算できない(居住用財産の特例を除く。No.3203) |
| ゴルフ会員権 | 生活に通常必要でない資産として、他の所得と損益通算できない(No.2250) |
個人の不動産所得でも、賃貸物件の時価が下がったことを理由に必要経費を計上することはできません。建物は減価償却を通じて費用になりますが、それは時価の下落とは別の仕組みです。災害で建物が損傷した場合の損失は、資産損失や雑損控除という別の制度で扱われます。
ゴルフ会員権を個人で売る場合の詳細は、ゴルフ会員権を売ったときの税金(個人)をご覧ください。
決算書と銀行の見え方
銀行は含み損を「売る前から」見ている
税務上は評価損が損金にならなくても、銀行は含み損を無視しません。融資の審査では、決算書の資産を時価に引き直した実態BSで純資産を見ることがあり、含み損はそこで差し引かれます。決算書で純資産がプラスでも、実態BSでは実質債務超過と判断されることもあります。詳しくは含み益・含み損と銀行の実態BSと債務超過でも融資は受けられる?で解説しています。
決算書に「正直に」出すか、出さずに説明するか
会計上の減損や評価減を計上すると、決算書の純資産は減りますが、銀行の実態BSにはもともと反映されていることが多く、評価が急に悪くなるとは限りません。むしろ、資産の実態を決算書に表していることが、決算書への信頼につながる場合もあります。逆に、計上しない場合は、含み損の金額と今後の方針(持ち続けるのか、いつ売るのか)を銀行に説明できるようにしておくことが重要です。
どちらの場合も、評価損・減損損失は臨時の損失なので特別損失に表示するのが一般的で、本業の稼ぐ力を示す経常利益には影響しません。著書のモデルで使う債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)も、経常利益をもとに計算します。税務上の加算額が多いと、申告書の別表を見た銀行から内容を聞かれることもあるので、説明資料を用意しておきましょう。
まとめ
- 法人の評価損は、法人税法33条により原則として損金不算入。政令で定める事実がある場合だけ損金になる
- 有価証券は「おおむね50%下落+回復見込みなし」、固定資産は「災害・1年以上の遊休・所在する場所の状況の著しい変化」などが要件
- 会計上の減損・評価減は、税務の要件を満たさなければ申告書で加算する
- 個人は、含み損は売るまで損失にならない。売っても所得区分ごとの制限がある
- 銀行は実態BSで含み損を売る前から見ている。説明の準備が欠かせない
含み損を「税金を減らす材料」と考えるより、「財務の実態をどう表し、どう解消するか」と考えるほうが、融資の面では結果が良くなります。含み損を抱えた資産の扱いでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。初回のご相談は無料で、担当の営業担当者がお話を伺い、その後は担当税理士または金融機関出身のコンサルタントが対応します。
