「買ったときより値下がりした物件を、このまま持つべきか、思い切って売るべきか」。含み損のある資産を売るべきか持つべきかは、不動産や株式、ゴルフ会員権を持つ会社のオーナーから必ず一度は受けるご相談です。
税金の話だけで考えると、「法人なら売却損で税金が減るから売る」となりがちです。しかし実際の判断では、決算期のタイミング、銀行の実態BSでの見え方、純資産と債務償還年数まで含めて考える必要があります。売ったほうが銀行の評価が良くなる場合もあれば、持ち続けたほうがよい場合もあります。
- 売却すると含み損は売却損として確定する。法人なら他の利益と相殺でき、個人は所得区分ごとに制限がある
- 法人は、売却益や本業の利益が大きい期に売却損を合わせると、その期の税負担を抑えて損失を吸収できる
- 銀行が実態BSで時価に引き直していれば、売っても銀行目線の純資産はほとんど変わらない
- 売却損は特別損失なので経常利益に影響しない。売却代金で借入を返せば債務償還年数が改善することもある
- 収益性があり借入条件も良い資産は、無理に売らない選択もある。売る前に税理士と銀行への説明まで設計する
売却で損を確定させると何が起きるか
含み損は、持っている限り税務上の損失にはなりません(例外的に評価損が損金になる場合は含み損の処理:評価損が損金になる場合・ならない場合で解説しています)。売却すると、含み損は売却損として実現します。ここで、法人と個人で効果が大きく違います。
| 持ち主・資産 | 売却損の使い道 |
|---|---|
| 法人(資産の種類を問わない) | その期の他の利益と相殺できる。相殺しきれない分は青色申告の欠損金として繰り越せる(平成30年4月1日以後に開始した事業年度の欠損金は10年。タックスアンサーNo.5762) |
| 個人・上場株式等 | 上場株式等の譲渡益・申告分離課税を選んだ配当等と通算でき、残りは3年間繰り越せる(No.1474) |
| 個人・土地建物 | 他の土地建物の譲渡益からは控除できるが、給与所得などとは損益通算できない(居住用財産の特例を除く。No.3203) |
| 個人・ゴルフ会員権 | 生活に通常必要でない資産として、他の所得と損益通算できない(No.2250) |
個人で持っている土地建物やゴルフ会員権の場合、売っても税金が減らないことがほとんどです。それでも売る意味があるかどうかは、借入の返済や資金の組み替えといった財務上の効果で判断することになります。ゴルフ会員権の個人・法人の扱いは、ゴルフ会員権を売ったときの税金(個人)と法人のゴルフ会員権の税務で解説しています。
決算期とのタイミング
売却損は「どの期に」出すかで意味が変わる
法人の場合、売却損は売却した期の損金になります。不動産の売却損益は、原則として引渡しの日の属する期に計上します。決算日の直前に契約しても、引渡しが翌期になれば、売却損も翌期のものになります。
| 売却損を出す期 | 起きること |
|---|---|
| 本業の利益や他の物件の売却益が大きい期 | 売却損で利益を吸収し、その期の法人税等を抑えられる。決算書は黒字を保ちやすい |
| 利益がほとんど出ない期 | 決算書は赤字になる。損は欠損金として繰り越せるが、赤字決算の説明が必要になる |
| 融資の申込み直前の期 | 赤字決算や純資産の減少が、審査のタイミングと重なる |
売却のタイミングと決算期の関係は、物件の売却タイミングと決算期、売却益と繰越欠損金の関係は繰越欠損金と物件の売却益は相殺できる?で詳しく解説しています。
「節税のために売る」は順番が逆
売却損で税金が減るのは確かですが、それは結果です。売る理由は、「この資産を持ち続けると財務が良くならない」ことであるべきです。税金を減らすために売却損を出すと、決算書の純資産は減り、銀行の評価が下がることもあります。
銀行の実態BSでどう見えるか
銀行はすでに時価で見ていることが多い
銀行は融資の審査で、決算書の資産を時価に引き直した実態BSをつくることがあります。物件を路線価や収益還元などで評価し直していれば、含み損は売る前から実態純資産から差し引かれています。
そのため、時価どおりに売却できれば、銀行目線の純資産はほとんど変わりません。変わるのは、決算書の数字が実態に近づくことです。決算書の純資産と実態純資産の差が縮まれば、決算書そのものの信頼性が上がります。含み損と実態BSの関係は、含み益・含み損と銀行の実態BSをご覧ください。
売却損は特別損失に表示する
固定資産の売却損は、本業とは関係のない臨時の損失なので、特別損失に表示するのが一般的です。銀行は、本業の稼ぐ力を経常利益で見るので、特別損失は「一時的なもの」として区別して評価されます。表示の考え方は不動産の売却損は特別損失?で解説しています。
純資産と債務償還年数への影響(計算例)
著書のモデルでは、債務償還年数を次の式で計算し、10年以内を健全、20年超を厳しい水準としています。
説明用の例として、次のような会社を考えます。物件Aは簿価1億円、時価7,000万円(売却費用控除後)、借入残高8,000万円で、赤字(経常利益で年100万円のマイナス、減価償却費200万円)の物件です。物件Aを売り、売却代金7,000万円と手元資金1,000万円で借入8,000万円を返済します。
| 項目 | 売却前 | 売却後(翌期の姿) |
|---|---|---|
| 借入金 | 5億円 | 4億2,000万円 |
| 現預金 | 5,000万円 | 4,000万円 |
| 経常利益 | 1,500万円 | 1,600万円 |
| 減価償却費 | 2,000万円 | 1,800万円 |
| 法人税等 | 500万円 | 500万円(簡略化のため据え置き) |
| 債務償還年数 | 15.0年 | 約13.1年 |
| 決算書の純資産 | ― | 売却損3,000万円の分だけ減少(税負担の減少分は戻る) |
売却した期には3,000万円の売却損が特別損失に出ますが、経常利益には入らないので、債務償還年数の計算には直接影響しません。一方、売却損で他の利益を吸収した分、その期の法人税等は減ります。決算書の純資産は減りますが、実態BSではもともと物件Aを7,000万円で見ていたとすれば、銀行目線の純資産はほぼ変わらず、借入の量と返済能力の指標が改善します。
逆に、物件Aが黒字で、借入を返しても年間のキャッシュフローが大きく減るなら、債務償還年数は悪化することもあります。資産ごとに、売った後の数字を計算してから決めるのが基本です。
持ち続けたほうがよい場合もある
次のような場合は、含み損があっても持ち続ける選択が合理的なことがあります。
- 賃料収入などの収益性が高く、キャッシュフローに貢献している
- 借入の金利・期間などの条件が良く、売って返すと今より不利な条件で借り直すことになる
- 売却費用、借入の期限前返済の手数料、建物を売る場合の消費税などのコストが大きい
- 相場の回復が見込める合理的な根拠がある
- 個人で持っていて、売っても損失を税務上使えず、財務上の効果も小さい
筆者自身、2019年に減価償却が速い物件が多く、簿価よりも負債が大きい債務超過の状態に陥り、複数の銀行から融資を止められました。そのとき立て直しの柱にしたのが、毀損した物件の売却、きちんとした納税、現預金の積み増しです。銀行との関係を立て直した結果、2025年までに総投資額82億円まで積み上げ直すことができました。
売る前に税理士と検討すべき点
| 検討項目 | 確認すること |
|---|---|
| 売却損益の計算 | 帳簿価額、売却費用、税務上の加算額(評価損否認など)の有無 |
| 計上する期 | 引渡し日と決算日の関係。同じ期の他の利益・売却益の見込み |
| 法人税等への影響 | その期の税額、欠損金が出る場合の繰越し |
| 消費税 | 建物やゴルフ会員権の売却は課税売上。課税売上割合への影響 |
| 借入の返済 | 売却代金で返済する借入、期限前返済の手数料、担保の解除 |
| 銀行への説明 | 売却の理由、売却後のBS・債務償還年数、決算前に伝えるか |
| 個人の場合 | 所得区分、損失を使える範囲、確定申告の要否 |
まとめ
- 売却すれば含み損は売却損として確定する。法人は他の利益と相殺でき、個人は所得区分ごとの制限がある
- 法人は、利益が大きい期に売却損を合わせるなど、決算期とのタイミングが重要
- 銀行が実態BSで時価に引き直していれば、売っても銀行目線の純資産はほとんど変わらない
- 売却損は特別損失で経常利益に影響しない。借入を返せば債務償還年数が改善することもある
- 収益性や借入条件が良い資産は、持ち続ける選択もある。売る前に数字と説明の準備を
含み損を抱えた資産をどう扱うかは、銀行の評価に直結する財務の判断です。代表の相亰と髙橋が構築した独自の財務設計の手法(クレフティメソッド)をもとに、売った場合・持った場合の決算書と銀行の見え方を比べて検討します。初回のご相談は無料で、担当の営業担当者がお話を伺い、その後は担当税理士または金融機関出身のコンサルタントが対応します。
