建設・不動産

建設業(総合工事業・工務店)の動向と経営のポイント|上限規制・価格転嫁・経審と、銀行が見る決算書

建設業は、公共事業から住宅、工場・物流施設まで幅広い需要に支えられた、地域経済の中心となる産業です。国の見通しでは建設投資は増え続けている一方で、担い手の高齢化、2024年4月から適用された時間外労働の上限規制、資材価格や労務費の上昇と、経営を取り巻く条件は大きく変わっています。

この記事では、建設業(総合工事業・工務店)の経営を、統計と制度の数字で整理したうえで、中小建設会社の決算書の特徴、銀行が融資で見るポイント、建設業特有の税務、事業承継までを、税理士・公認会計士の立場から解説します。

この記事の結論
  • 建設投資は2026年度に81兆4,700億円(前年度比2.9%増)の見通し。一方で就業者は477万人(2024年)とピーク時の約7割まで減り、55歳以上が36.7%を占める
  • 2024年4月から時間外労働の上限規制が適用され、改正建設業法は2025年12月12日に全面施行。労務費の基準と、受注者側の原価割れ契約の禁止で、「安く・短く」受ける経営は続けにくくなった
  • 決算書では未成工事支出金・未成工事受入金・完成工事未収入金の動きが要。銀行は工事台帳との整合で、利益の実態と粉飾の有無を見る
  • 税務では収益の計上時期(完成引渡基準か工事進行基準か)、工事の期ずれ、一人親方へのインボイスの経過措置(2026年10月から70%)が論点
  • 承継では、建設業許可の事前認可と、経営体制・技術者の要件を誰が満たすかを早めに設計する

建設業の今:投資は増えても、人と時間が足りない

まず、統計で業界の現状を確認します。

指標数字出典・時点
建設投資(名目)2026年度 81兆4,700億円(前年度比2.9%増)。政府26兆6,000億円、民間54兆8,700億円国土交通省「令和8年度(2026年度)建設投資見通し」
同・前年度2025年度(見込み)79兆1,800億円(前年度比6.8%増)同上
建設業許可業者数483,700業者(前年同月比0.9%増)。ピークの2000年3月末から19.5%減国土交通省「建設業許可業者数調査の結果について」(2025年3月末、2025年5月公表)
建設業就業者数685万人(1997年)→ 477万人(2024年)国土交通省「改正建設業法『令和7年12月施行分』説明会」資料(総務省「労働力調査」による)
就業者の年齢構成55歳以上36.7%、29歳以下11.7%(2024年)同上
建設工事費デフレーター(建設総合)2026年6月分 125.9(前年同月差4.8ポイント上昇)国土交通省「国土交通月例経済(令和8年9月号)」
建設工事の元請受注高2026年7月 7兆1,398億円(前年同月比1.4%減)同上(建設工事受注動態統計調査)

出典:国土交通省「令和8年度(2026年度)建設投資見通し 概要」、同「建設業許可業者数調査の結果について」、同「改正建設業法『令和7年12月施行分』説明会」資料、同「国土交通月例経済(令和8年9月号)概況」

建設投資の金額は増えていますが、その一部は資材や労務費の上昇による「単価の上昇」です。建設工事費デフレーターは1年で約5ポイント上がっています。売上が伸びていても、施工量や利益が同じだけ伸びているとは限らない点に注意が必要です。

時間外労働の上限規制と「工期」の問題

建設業には、2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されました。原則は月45時間・年360時間で、特別な事情があっても年720時間以内、時間外と休日労働の合計で月100時間未満・2〜6か月平均80時間以内などの上限があります。災害の復旧・復興の事業には一部の例外があります(厚生労働省「建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制」)。

中小建設会社にとっての問題は、残業で吸収していた工程の遅れを、工期の延長か人員の追加でしか埋められなくなったことです。工期が延びれば現場経費がかさみ、人を増やせば固定費が上がります。どちらも、見積もりと契約の段階で織り込まなければ利益を削ります。

改正建設業法:価格転嫁の「ルール」ができた

2024年6月14日に公布された改正建設業法(令和6年法律第49号)は、段階的に施行され、2025年12月12日に全面施行されました。中小建設会社に関係の深い内容は次のとおりです(国土交通省の説明会資料による)。

  • 契約前:資材高騰など請負代金に影響する事象(リスク)の情報を、受注者から注文者へ提供することを義務化。資材が高騰したときの請負代金の「変更方法」を契約書の記載事項に(2024年12月施行)
  • 契約後:資材高騰が現実になり、受注者が変更協議を申し出たときは、注文者は誠実に協議に応じる努力義務(公共工事の発注者は義務)
  • 労務費:中央建設業審議会が2025年12月2日に「労務費に関する基準」を作成・勧告。著しく低い労務費による見積りや見積り依頼を禁止
  • 原価割れ契約・工期ダンピング:総価で原価に満たない金額での契約や、著しく短い工期での契約を、受注者側にも禁止(2025年12月12日施行)

つまり、「仕事を取るために赤字覚悟で受ける」「工期を詰めて受ける」ことが、受注者にとっても法令違反になりうる時代になりました。逆にいえば、見積書に労務費や資材の根拠を示し、変更協議を申し出ることが制度で後押しされているということです。価格転嫁は交渉力の問題だけでなく、書類の問題になっています。

中小建設会社の収益構造と決算書の特徴

中小企業庁「中小企業実態基本調査」(令和6年調査・令和5年度決算実績)によると、中小企業(法人)の建設業の売上高経常利益率は4.71%(中小企業全体は4.37%)、自己資本比率は47.59%(同44.40%)でした。平均で見れば、中小建設業の収益性・安全性は全産業並みかやや上回ります。ただし平均の裏には、公共工事中心の安定した会社と、少数の元請に依存する工務店との大きなばらつきがあります(中小企業庁「中小企業実態基本調査」)。

建設業の決算書は「勘定科目」が違う

建設業の決算書は、一般の会社と勘定科目の名前が異なります。銀行や経審は、これらの科目の動きを見ています。

一般の会社建設業の決算書中身と、銀行が見るポイント
売上高完成工事高完成・引渡しした工事の請負金額。期末直前の完成工事の集中に注意
売上原価完成工事原価材料費・労務費・外注費・経費。外注費の比率が高いのが特徴
売掛金完成工事未収入金完成したが未入金の工事代金。回収が遅れている工事がないか
仕掛品未成工事支出金未完成の工事に投じた原価。膨らみすぎは原価の付け替えや粉飾を疑われる
前受金未成工事受入金着手金・中間金など、完成前に受け取った工事代金
買掛金工事未払金材料・外注先への未払い

建設業の利益は、工事1件ごとの粗利の積み上げです。工事台帳(工事別の原価管理)がしっかりしている会社は、どの工事で利益が出て、どこで赤字になったかを説明できます。逆に、原価を工事ごとに集計していない会社では、決算のたびに未成工事支出金の金額が「調整弁」になりがちで、利益の信頼性が下がります。

銀行は建設業のどこを見るか

運転資金:「立替え」の大きさを説明できるか

建設業の資金繰りの特徴は、材料費や外注費の支払いが先に来て、工事代金の入金が後になることです。着手金・中間金を受け取れる工事は立替えが小さく、完成後一括払いの工事や元請の支払サイトが長い工事は立替えが大きくなります。

(完成工事未収入金+受取手形+未成工事支出金)−(工事未払金+支払手形+未成工事受入金)

銀行はこの計算をもとに、運転資金の融資が必要な水準かどうかを判断します。受注が増える局面では立替えも増えるため、「受注が増えたから運転資金が要る」ことを、工事別の入出金予定で示せるかが大切です。計算の考え方は運転資金の融資はいくらが目安?で解説しています。

未成工事支出金と粉飾の見分け

銀行の審査担当者が建設業の決算書でまず確かめるのが、未成工事支出金が売上や工事の進み具合に比べて増えすぎていないかです。赤字工事の原価を翌期の工事に付け替えると、今期の利益は良く見えますが、未成工事支出金が膨らみます。工事台帳、受注残の一覧、主要な工事の契約書と照らし合わせられる状態にしておくと、決算書の信頼性が上がります。

債務償還年数と経審の「点数」

著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、10年以内が健全、20年超は厳しいと見られます。建設業は重機や車両を持つ会社を除けば設備は比較的軽く、利益の水準がそのまま債務償還年数に効きます。

公共工事を受注する会社は、経営事項審査(経審)も意識します。経審の経営状況分析(Y点)は、純支払利息比率、負債回転期間、総資本売上総利益率、売上高経常利益率、自己資本対固定資産比率、自己資本比率、営業キャッシュフロー、利益剰余金の8つの指標で決まります。銀行の格付けと見ている数字がかなり重なるため、借入を減らし、利益を残し、自己資本を厚くすることは、融資と経審の両方に効きます。

なお、経審の有効期間は審査基準日(決算日)から1年7か月です。公共工事の受注を途切れさせないためには、決算後なるべく早く決算書を確定させる必要があります(国土交通省 関東地方整備局「経営事項審査制度の概要」)。点数のために利益を無理に大きく見せる処理は、銀行には実態との差として見抜かれます。決算書の整え方は決算書を銀行に出す前のチェックも参考にしてください。

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建設業特有の税務・会計の論点

収益の計上時期:完成引渡基準と工事進行基準

建設工事の売上は、原則として目的物を引き渡した日に計上します(完成引渡基準)。ただし法人税では、次の要件をすべて満たす「長期大規模工事」は、工事進行基準(工事の進み具合に応じて各期に売上・原価を計上する方法)が強制されます(法人税法64条1項、国税庁「収益及び費用の帰属時期の特例」)。

  • 着手の日から引渡しの期日までの期間が1年以上
  • 請負の対価の額が10億円以上
  • 対価の2分の1以上が、引渡しの期日から1年を経過する日後に支払われることになっていない

中小の工務店の工事の多くはこの要件に当たらず、完成引渡基準によるのが一般的です。長期大規模工事以外の工事でも、工事進行基準の方法で経理すれば、その方法によることができます(同条2項)。また、一つの契約でも、建物ごとなど部分的に完成・引渡しをして代金を受け取る約束がある場合は、その部分ごとに売上を計上します(部分完成基準)。

完成引渡基準では、大きな工事の引渡しが決算日の前か後かで、その期の売上と利益が大きく変わります。利益の波は銀行の評価や経審の点数にも影響するため、工事の引渡し予定と決算期の関係は、事前に把握しておきたいところです。

消費税と印紙税

消費税も、原則として工事の引渡しの時に課税されます。法人税で工事進行基準により売上を計上している場合は、消費税も工事進行基準で申告することができます(国税庁タックスアンサーNo.6161)。

建設工事の請負契約書の印紙税には、記載金額100万円超の契約書について令和9年3月31日まで軽減措置があります。詳しくは不動産売買契約書・工事請負契約書の印紙税を参照してください。

一人親方への外注とインボイス

建設業は、一人親方などの個人の外注先が多い業種です。インボイスの登録をしていない外注先への支払いは、経過措置で仕入税額相当額の一定割合しか控除できず、その割合は2026年10月1日から2028年9月30日までは70%に下がりました(それまでは80%)。また、2026年10月1日以後に開始する課税期間からは、一の相手方からの仕入れが年1億円を超える部分に経過措置が使えません。外注先の登録状況と取引額を一度洗い出し、単価交渉や消費税の負担を見積もっておきましょう(免税事業者からの仕入れの経過措置)。

税務調査で見られやすいところ

建設業の税務調査では、期末をまたぐ工事の売上・原価の期ずれと、外注費か給与かの区分がよく論点になります。外注先の実態が従業員と変わらない場合、給与と認定されて源泉所得税や消費税の問題になることがあります。外注契約書、請求書、指揮命令の実態を整えておくことが大切です。

事業承継・M&A:許可と技術者をどう引き継ぐか

国土交通省によると、2024年度に認可された建設業の承継は1,060件で、そのうち事業の譲渡・譲受けが81.9%を占めました(前掲「建設業許可業者数調査の結果について」)。2020年10月に始まった承継の認可制度は、建設業の事業承継やM&Aの手段として定着しつつあります。

承継の方法建設業許可の扱い注意点
株式譲渡(親族・社員・第三者への株式の移転)会社は変わらないため許可は残る役員の変更届。経営体制や営業所の技術者の要件を、退任するオーナーや退職者で満たしていないか
事業譲渡・合併・分割あらかじめ認可を受ければ、建設業者の地位を承継(建設業法17条の2)対象は建設業の全部。効力発生日から逆算して申請
個人事業主の相続死亡後30日以内に認可を申請(同17条の3)相続人が許可要件を満たしている必要がある

出典:国土交通省 関東地方整備局「事業承継等の事前認可制度」ほか

建設会社の承継で一番難しいのは、許可の要件を誰が満たすかです。社長自身が経営経験の要件を満たし、ベテラン社員が営業所の技術者を兼ねている会社では、その人が退くと許可そのものが危うくなります。さらに、経審の技術力の評価も、資格を持つ技術者の人数で変わります。後継者や若手の資格取得、経営経験を積ませる役職への登用は、承継の数年前から計画的に進める必要があります。M&Aでの許認可の扱いは許認可はM&Aで引き継げるかで詳しく整理しています。

もう一つの論点は、経営者保証と、取引銀行との関係です。建設会社は工事の立替資金を短期の融資で回していることが多く、後継者が保証を引き継ぐかどうかは銀行との交渉になります。承継の準備としては、利益と自己資本を積み上げ、経営者保証を外せる財務に近づけておくことが、後継者の負担を軽くします。

経営者が今やっておきたいこと

  • 工事台帳で、工事ごとの粗利と原価を毎月把握している
  • 未成工事支出金・完成工事未収入金の残高を、工事別の一覧で説明できる
  • 見積書に労務費・資材費の根拠を示し、資材高騰時の「変更方法」を契約書に入れている
  • 時間外労働の上限を前提に、工期と人員の計画を立てている
  • 工事別の入出金予定(資金繰り表)を作り、運転資金の必要額を銀行に説明できる
  • 債務償還年数と自己資本比率を把握し、経審の点数と合わせて目標を決めている
  • 一人親方など外注先のインボイス登録状況と、取引額を把握している
  • 経営経験・技術者の要件を満たす人の後任を、数年単位で育てている

運送業の動向とポイントは運送業(一般貨物自動車運送業)の動向と経営のポイントで解説しています。

まとめ

  • 建設投資は2026年度に約81.5兆円と増加が続く見通しだが、資材・労務費の上昇分も含まれ、担い手は減り続けている
  • 時間外労働の上限規制と改正建設業法で、「安く・短く」受ける経営は難しくなり、根拠を示した価格転嫁が求められる
  • 決算書では未成工事支出金・未成工事受入金・完成工事未収入金の動きが要。工事台帳との整合が、銀行と経審の信頼につながる
  • 税務では収益の計上時期、期ずれ、外注費の区分、インボイスの経過措置の縮小に注意する
  • 承継では、許可の認可手続きと、経営体制・技術者の要件を満たす人材の育成を早めに始める

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よくある質問

建設業の会社が、銀行から運転資金を借りやすくするには何が大切ですか?
工事ごとの入金と支払いの時期を一覧にした資金繰り表と、工事台帳を用意することです。建設業は、材料費や外注費を先に払い、工事代金は完成後に入る「立替え」が生じやすい業種です。どの工事のために、いつまで、いくら必要かを示せると、銀行は運転資金として判断しやすくなります。決算書の未成工事支出金や完成工事未収入金が、工事台帳と一致していることも重要です。
中小の工務店でも、工事進行基準で売上を計上しなければなりませんか?
法人税で工事進行基準が強制されるのは、工期1年以上、請負金額10億円以上などの要件をすべて満たす「長期大規模工事」です。それ以外の工事は、原則として目的物を引き渡した日に売上を計上する方法(完成引渡基準)によることができ、要件を満たせば工事進行基準を選ぶこともできます。どちらを採るかで各期の利益が変わるため、銀行や経審への影響も含めて顧問税理士と相談して決めましょう。
建設業許可は、事業承継やM&Aで引き継げますか?
株式譲渡なら会社自体が変わらないため、許可はそのまま残ります。ただし、経営体制や営業所の技術者の要件を退任するオーナーや退職する社員で満たしていた場合は、許可の維持に影響します。事業譲渡や合併・分割では、あらかじめ認可を受ければ建設業者としての地位を承継でき、個人事業主が亡くなった場合は、死亡後30日以内に相続の認可を申請する必要があります。

※本記事は2026年10月20日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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