消費税

免税事業者からの仕入れの経過措置と不動産取引|令和8年10月から70%、1億円の上限が建物購入に与える影響

インボイス制度の下では、適格請求書発行事業者(インボイス登録事業者)でない相手からの仕入れは、原則として仕入税額控除ができません。ただし、制度開始から一定期間は、仕入税額相当額の一定割合を控除できる経過措置があります。

この経過措置は、令和8年度の税制改正で、控除割合が段階的に見直されるとともに、一の相手方からの仕入れは年1億円までという上限が設けられました(改正前は10億円)。不動産取引では、個人や免税事業者の法人から事業用物件を買う、免税事業者のオーナーから事務所・店舗を借りる、一人親方の工事業者に修繕を頼む、といった場面で影響が出ます。賃貸借契約とインボイスの基本はインボイス制度と賃貸借契約で扱ったので、この記事では経過措置の割合と上限が不動産取引にどう効くかに絞って整理します。

この記事の結論
  • 免税事業者等からの課税仕入れは、経過措置で令和8年10月〜令和10年9月は70%、その後50%→30%、令和13年10月以降は0%
  • 令和8年10月1日以後に開始する課税期間からは、一の相手方からの仕入れが税込で年1億円を超える部分は経過措置の対象外(改正前10億円)
  • 事業用ビルやホテルを個人・免税法人から買う取引は、建物部分が1億円を超えると控除できる額が大きく減る
  • 宅建業者が販売用(棚卸資産)として建物を買う場合は、帳簿のみの保存で仕入税額控除できる特例がある
  • 経過措置を使うには、帳簿への記載と区分記載請求書等と同様の書類の保存が必要。税抜経理では、仮払消費税等も経過措置の割合分だけ

経過措置の割合と上限

国税庁の令和8年度税制改正の資料によると、免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置は次のとおりです。

課税仕入れを行った期間控除できる割合改正前の予定
令和5年10月1日〜令和8年9月30日仕入税額相当額の80%80%
令和8年10月1日〜令和10年9月30日70%50%(令和11年9月30日まで)
令和10年10月1日〜令和12年9月30日50%0%
令和12年10月1日〜令和13年9月30日30%0%
令和13年10月1日以後0%0%

一の相手方につき年1億円の上限

一の適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れ(経過措置の対象となるもの)の税込金額の合計額が、その年または事業年度で1億円を超える場合、超えた部分には経過措置が適用されません。改正前は10億円でした。

この上限の見直しは、令和8年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。控除割合が「課税仕入れを行った日」で決まるのに対し、上限は「課税期間の開始日」で決まる点に注意が必要です。

会社の決算期(課税期間)70%が適用される仕入れ1億円の上限が適用される課税期間
12月決算(1月開始)令和8年10月1日以後の仕入れ令和9年1月1日開始の課税期間から
3月決算(4月開始)令和8年10月1日以後の仕入れ令和9年4月1日開始の課税期間から
9月決算(10月開始)令和8年10月1日以後の仕入れ令和8年10月1日開始の課税期間から
個人事業者(暦年)令和8年10月1日以後の仕入れ令和9年分から

経過措置を使うための要件

経過措置の適用を受けるには、次の2つが必要です(国税庁「インボイス制度に関するQ&A」問113)。

  • 帳簿:通常の記載事項に加えて、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨(「80%控除対象」「70%控除対象」など)を記載する
  • 請求書等:免税事業者等から受け取った、区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等を保存する

不動産の売買では、売買契約書や精算書で記載事項を満たすことが多いですが、建物と土地の内訳、消費税相当額の記載があるかを確認しておく必要があります。

不動産取引での影響

場面相手方経過措置の影響
事業用ビル・店舗・ホテルの購入個人(非事業者を含む)、免税事業者の法人、登録していない課税事業者建物部分の消費税が経過措置の割合だけ控除。1億円超の部分は対象外
住宅(居住用賃貸建物)の購入同上もともと居住用賃貸建物は原則控除不可なので、影響は限定的
販売用建物の購入(宅建業者)適格請求書発行事業者以外の者帳簿のみの保存で控除できる特例の対象(下記)
事務所・店舗の賃借、サブリースの借上げ免税事業者のオーナー家賃の消費税が経過措置の割合だけ控除。年1億円超の家賃は通常少ない
修繕・原状回復工事一人親方、小規模な工務店工事代金の消費税が経過措置の割合だけ控除
仲介手数料・コンサル報酬登録していない個人の仲介業者など同上

事業用物件の購入:1億円の上限が効く

建物部分が大きい事業用物件を、インボイス登録をしていない売主から買う場合を考えます。

  • 建物の消費税相当額:3億3,000万円 × 10/110 = 3,000万円
  • 1億円の上限が適用されない場合(70%):3,000万円 × 70% = 2,100万円を控除
  • 1億円の上限が適用される場合:1億円 × 10/110 × 70% ≒ 636万円のみ控除。残りの2億3,000万円分は経過措置の対象外

(数字は仕組みを示すための仮の例です。課税売上割合が低い場合は、さらに控除額が減ります。)

控除できなかった消費税は、税込経理なら建物の取得価額に、税抜経理なら控除対象外消費税額等または取得価額に含まれます。物件価格の交渉や、売主にインボイス登録を求めるかどうかは、この差額を踏まえて判断することになります。売主側にとっても、インボイス登録をすれば建物の譲渡に消費税の納税義務が生じるため、条件の交渉になることがあります(建物を売ったときの消費税)。

宅建業者が販売用の建物を買う場合

国税庁のQ&Aでは、宅地建物取引業を営む者が、適格請求書発行事業者でない者から棚卸資産として建物を購入する場合は、請求書等の交付を受けることが困難な取引として、一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められるとされています。帳簿には、通常の記載事項に加えて、相手方の住所または所在地と、特例の対象となる旨を記載します。

この特例は、販売用の建物(棚卸資産)に限られます。同じ宅建業者でも、自社で賃貸する目的で固定資産として購入する場合は対象外で、経過措置(と1億円の上限)の問題になります。販売用か保有用かの区分は販売用不動産と固定資産の区分をご覧ください。

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税務上の扱い:法人と個人の違い、経理方式

項目法人個人事業者
経過措置の割合課税仕入れを行った日で判定(同じ)同じ
1億円の上限事業年度ごとに、一の相手方からの税込合計で判定。令和8年10月1日以後開始の事業年度から年ごとに判定。令和9年分から
簡易課税・2割特例・3割特例簡易課税なら仕入れのインボイスの有無は納税額に影響しない(2割特例は令和8年9月30日の属する課税期間まで)簡易課税、令和9年分・令和10年分は3割特例の対象となり得る(要件あり)

税抜経理での仮払消費税等

国税庁タックスアンサーNo.6375によると、税抜経理をしている場合、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れは、経過措置期間中、従前の仕入税額相当額の一定割合(80%、70%、50%、30%)を仮払消費税等とし、残額を取引の対価の額として所得を計算します。たとえば70%の期間に税込110万円の工事を免税事業者に発注すれば、仮払消費税等は7万円、修繕費(または資産の取得価額)は103万円です。

また、経過措置期間中に消費税相当額を区分して経理しなかったときは、仮払消費税等はないものとして所得を計算することも認められています(同)。経理方式の比較は税込経理と税抜経理、控除できなかった消費税の処理は控除対象外消費税額等(資産に係るもの)の処理で扱っています。

会計上の扱いと決算書の表示、銀行からの見え方

決算書への出方

税務上は、仕入税額控除がいくら認められるかと、控除できなかった部分が取得価額・経費のどちらに入るかが論点です。一方、決算書の表示は、企業会計の基準、すなわち一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って判断します。会社法431条も、株式会社の会計は「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」に従うものとしています。

経過措置の縮小で控除できない消費税が増えると、修繕費や管理費は実質的にその分だけ高くなり、建物の取得価額も大きくなります。どの科目・区分で表示するかは取引の実態次第です。経過措置の割合が変わる令和8年10月の前後で費用が増えて見える場合は、その理由を説明できるようにしておきます。

銀行からの見え方

見られる点経過措置の縮小で起きること
営業利益免税事業者への外注・家賃が多い会社は、控除できない消費税の分だけ費用が増える
物件の取得価額事業用物件を非登録の売主から買うと、控除できない消費税が取得価額に乗る。利回りの計算にも影響
資金計画消費税の還付や控除を前提にした資金計画は、1億円の上限で崩れることがある
取引先の管理主要な取引先の登録状況を把握しているかは、管理体制の評価にもつながる

著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)」で計算し、10年以内を健全の目安としています。控除できない消費税は利益と現預金の両方を減らすため、大型の物件取得の前には、経過措置の割合と1億円の上限を織り込んだ資金計画を銀行と共有しておくと安心です。

実務のチェックポイント

チェック項目確認する内容
相手方の登録状況売主・貸主・工事業者・仲介業者が適格請求書発行事業者か(公表サイトで確認)
割合の判定課税仕入れを行った日(引渡日など)が、80%・70%・50%・30%のどの期間か
1億円の上限自社の課税期間の開始日が令和8年10月1日以後か。一の相手方からの年間税込合計が1億円を超えるか
購入目的宅建業者の販売用建物なら帳簿のみ保存の特例、保有用なら経過措置
帳簿と書類「70%控除対象」などの記載、区分記載請求書等と同様の事項が記載された契約書・請求書の保存
経理税抜経理で仮払消費税等を経過措置の割合で計上しているか(または区分しない処理で統一しているか)
価格交渉売主・貸主の登録の有無を、物件価格や家賃の条件に織り込んだか

まとめ

  • 免税事業者等からの仕入れの経過措置は、令和8年10月から70%、令和10年10月から50%、令和12年10月から30%、令和13年10月以降は0%
  • 令和8年10月1日以後に開始する課税期間から、一の相手方からの仕入れは年1億円が経過措置の上限(改正前10億円)
  • 非登録の売主から事業用物件を買う取引は、建物部分が1億円を超えると控除額が大きく減る
  • 宅建業者が販売用として建物を買う場合は、帳簿のみ保存の特例がある
  • 帳簿の記載と書類の保存が要件。税抜経理では仮払消費税等も経過措置の割合分だけ

経過措置は、物件の取得や大きな工事のタイミングで影響が大きくなります。クレフティでは、不動産投資家向けサポートの中で、取引相手のインボイス登録状況を踏まえた消費税の試算から、銀行に出す資金計画の作成までご相談をお受けしています。

よくある質問

令和8年10月から、免税事業者からの仕入れはどれだけ控除できますか?
令和8年度の税制改正により、令和8年10月1日から令和10年9月30日までは仕入税額相当額の70%、令和10年10月1日から令和12年9月30日までは50%、令和12年10月1日から令和13年9月30日までは30%を控除でき、その後は0%になります。改正前は令和8年10月から3年間50%の予定でした。
個人から事業用のビルを買う場合、建物の消費税は控除できますか?
売主が適格請求書発行事業者でない場合、原則として控除できませんが、経過措置により一定割合を控除できます。ただし、令和8年10月1日以後に開始する課税期間からは、一の相手方からの課税仕入れが税込で年(事業年度)1億円を超える部分には経過措置を使えません。建物部分が1億円を超える取引では、控除できる額が大きく減ります。
宅建業者が販売目的で個人から建物を買う場合も、経過措置の割合しか控除できないのですか?
宅地建物取引業を営む者が、適格請求書発行事業者でない者から、棚卸資産(販売用)として建物を購入する場合は、一定の事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除が認められる特例があります。自社で使う固定資産として購入する場合は対象外なので、購入目的の区分が重要です。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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