消費税の課税事業者は、法人税・所得税の計算にあたって、税込経理と税抜経理のどちらかを選べます。どちらを選んでも、納める消費税の額は変わりません。それでも不動産会社にとってこの選択が重要なのは、建物を買ったときの消費税をいつ費用にできるかと、決算書の売上高・利益がどう見えるかが変わるからです。
とくに住宅の賃貸が中心の会社は、家賃が非課税で課税売上割合が低いため、仕入れの消費税の多くを控除できません。その「控除できなかった消費税」の扱いが、経理方式によってまったく違ってきます。この記事では、2つの方式の仕組みと、会社のタイプ別にどちらが向くかを整理します。
- 税込経理でも税抜経理でも、納める消費税は同じ。違うのは所得の計算と決算書の見え方
- 免税事業者は税込経理。課税事業者になってから選択できる
- 住宅中心の会社が税抜経理だと、控除できなかった消費税が控除対象外消費税額等になる。資産に係るものは課税売上割合80%未満なら、20万円以上は60か月で費用化(繰延消費税額等)。税込経理なら建物の取得価額に入り耐用年数で償却
- 少額減価償却資産・一括償却資産・交際費の判定も、採用している経理方式の金額で行う
- 税抜経理は売上高・利益から消費税が除かれ、業績の比較がしやすい。銀行への説明では、方式と控除対象外消費税の扱いを一貫させる
税込経理と税抜経理の仕組み
国税庁タックスアンサーNo.6375によると、2つの方式は次のように経理します。
| 項目 | 税抜経理方式 | 税込経理方式 |
|---|---|---|
| 売上げにかかる消費税 | 仮受消費税等(負債)として区分 | 売上高に含める |
| 仕入れ・経費・資産の消費税 | 仮払消費税等(資産)として区分 | 仕入れ・経費・資産の取得価額に含める |
| 期末の処理 | 仮受と仮払を相殺し、差額を未払消費税等(または未収消費税等)に計上 | 納付税額は租税公課(損金・必要経費)。還付税額は収益 |
| 納付税額の損金算入時期 | 損益に出ない(仮受・仮払の清算) | 原則、申告書を提出した日の属する事業年度。期末に未払計上すれば、その期の損金 |
| 控除できなかった消費税 | 控除対象外消費税額等として別に処理 | 取得価額・経費に含まれているので特別な処理は不要 |
選択のルール
「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」(平成元年3月1日直法2-1、いわゆる消費税経理通達)では、法人の取引は原則としてどちらかに統一することとしつつ、売上げなどを税抜経理としている場合には、固定資産等の取得や経費等について税込経理とする併用も認めています。ただし、同じ種類の固定資産ごとに方式を変えることはできず、国税と地方消費税で方式を分けることもできません。
また、免税事業者は、税抜経理で帳簿をつけていても、税込経理方式を適用して所得を計算します(タックスアンサーNo.6375)。
インボイス制度後の税抜経理
令和5年10月1日以後、税抜経理をしている場合でも、適格請求書発行事業者以外の者(免税事業者など)からの課税仕入れには、原則として仮払消費税等を計上できず、対価の額に含めて所得を計算します。令和13年9月30日までの経過措置期間は、従前の仕入税額相当額の一定割合(80%、70%、50%、30%)を仮払消費税等とする扱いになります(タックスアンサーNo.6375)。経過措置の期間と割合は免税事業者からの仕入れの経過措置と不動産取引で整理しています。
不動産会社で差が出る3つの場面
①建物の取得と「控除できなかった消費税」
住宅の家賃は非課税なので、住宅中心の会社は課税売上割合が低くなります。課税売上割合が95%未満、または課税売上高が5億円超の課税期間は、仕入れの消費税の全額は控除できません。さらに、令和2年10月以後は、税抜1,000万円以上の居住用賃貸建物の取得に係る消費税は、原則として仕入税額控除の対象外です(居住用賃貸建物の判定実務)。
このとき、経理方式によって次の違いが生まれます。
| 方式 | 控除できなかった建物の消費税の扱い | 費用化のペース(例:RC造の新築) |
|---|---|---|
| 税込経理 | 建物の取得価額に含まれる | 建物の耐用年数(RC造の住宅用なら47年)で減価償却 |
| 税抜経理(課税売上割合80%未満) | 資産に係る控除対象外消費税額等。20万円以上なら繰延消費税額等として資産計上 | 60か月で損金算入(取得年度は2分の1) |
| 税抜経理(課税売上割合80%以上) | 損金経理すれば、その期に全額損金 | 一括 |
タックスアンサーNo.6921では、控除対象外消費税額等には、居住用賃貸建物の仕入税額控除の制限を受ける取引に係るものも含まれるとされています。つまり、税抜経理の住宅中心の会社では、建物の消費税のうち控除できなかった部分を、47年ではなく5年で費用化していくことになります。詳しい処理は控除対象外消費税額等(資産に係るもの)の処理で扱っています。
費用化が早いことは、税負担の面では早く経費にできる一方、銀行から見ると利益を押し下げる要因にもなります。5年間、まとまった費用が続くことを前提に、決算書の見え方を考えておく必要があります。
②少額資産・交際費の判定
金額基準のある制度は、採用している経理方式による金額で判定します。
| 制度 | 判定の金額 |
|---|---|
| 少額減価償却資産(10万円未満)、一括償却資産(20万円未満)、中小企業者等の特例 | 税抜経理なら税抜金額、税込経理なら税込金額(免税事業者は税込) |
| 交際費等の損金不算入額の計算 | 税抜経理なら税抜金額。ただし控除対象外消費税額等のうち交際費等に係る部分は交際費等に加算(タックスアンサーNo.6917) |
家具家電付き物件の備品や、共用部の小さな設備は、経理方式で判定額が10%変わります。資産の判定の詳細は少額減価償却資産・一括償却資産と「貸付け」の除外をご覧ください。
③還付が出る年
ホテルやテナントビルの取得などで消費税の還付が出る年は、税抜経理なら還付額は未収消費税等として資産に計上され、損益には出ません。税込経理なら、還付額が収益(雑収入など)に計上され、その期の利益を一時的に押し上げます。還付の年の決算書の見え方は旅館・ホテルを取得したときの消費税でも触れています。
裁決事例・裁判例:経理方式は帳簿の実際の処理で判断される
平成4年3月31日裁決:期末に税額を計算しただけでは税抜経理にならない
経理方式は「選んだつもり」では足りず、帳簿で実際にどう処理しているかで判断されます。
事案:請求人は、取得した固定資産について、税抜価額が20万円未満であるとして一時の損金に算入しました。期中の経理は税込で行っていましたが、納付すべき消費税は決算期末に課税売上高と課税仕入高を集計して算出するのだから、自動的に期末一括税抜経理方式を採用したことになる、と主張しました。
判断:審判所は、期末一括税抜経理方式とは、期中に税込で処理した消費税を事業年度末に一括して税抜処理する方式であり、納付すべき消費税を期末に計算することをもって直ちにこの方式を採用したことにはならないとしました。そのうえで、収益に係る取引について税込経理をしている以上、他の科目だけ税抜経理とすることは認められないから、固定資産の取得価額が20万円未満かどうかは税込価額で判断するとしています。
確認先:国税不服審判所 公表裁決事例要旨(裁決事例集No.43・232頁、平成4年3月31日裁決)
裁判例:税込経理も「公正妥当な会計処理の基準」だが、選んだら取得価額は税込(静岡地裁平成7年10月13日判決、東京高裁平成8年10月30日判決)
同じ論点は裁判でも争われています。静岡地裁平成7年10月13日判決(平成4年(行ウ)第9号)は、損益計算で消費税を取引の対価に含める会計処理(税込経理)をしている法人について、当時の少額減価償却資産の基準(法人税法施行令133条、取得価額20万円未満)を税込金額で判定し、損金算入を認めなかった更正処分を適法としました。判決は、消費税を資産の対価や費用に含める方法も、含めない方法とともに一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従ったものとして許容されるとしたうえで、前者を採用した以上は、取得価額も消費税を含めた金額で判断すべきだとしています。控訴審の東京高裁平成8年10月30日判決(平成7年(行コ)第142号)も、同じ判断で更正処分を適法としています。
確認先:裁判所 裁判例検索(静岡地裁平成7年10月13日判決)、裁判所 裁判例検索(東京高裁平成8年10月30日判決)
これらの事例から読み取れるのは、売上げを税込経理にしたまま、資産だけ税抜で判定することはできないという点です。経理方式は、会計ソフトの設定と期末の処理で一貫させ、毎期継続することが前提になります。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る会社のタイプ別:どちらが向くか
| 会社のタイプ | 向きやすい方式 | 理由・注意点 |
|---|---|---|
| 免税事業者(住宅のみの小規模法人・個人) | 税込経理(強制) | 選択の余地なし。課税事業者になったら見直す |
| 住宅中心の課税事業者(課税売上割合が低い) | 物件の取得計画次第 | 税抜なら建物の控除対象外消費税を60か月で費用化。税込なら耐用年数で償却。事務負担と決算書の見え方も比較 |
| テナント中心の課税事業者(課税売上割合が高い) | 税抜経理 | 売上高・利益から消費税が除かれ、業績が比較しやすい。控除対象外消費税が少ない |
| 不動産売買(宅建業)も行う会社 | 税抜経理 | 販売用不動産の原価・粗利が消費税抜きで把握でき、棚卸資産に係る控除対象外消費税額等は損金経理で損金 |
| 個人の不動産所得 | 規模と課税売上の有無で判断 | 所得税でも同様の選択がある。資産に係る控除対象外消費税額等は60か月で必要経費 |
法人と個人の違い
| 項目 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 方式の選択 | 消費税経理通達による | 個人向けの通達(平成元年直所3-8)による。考え方は同様 |
| 資産に係る控除対象外消費税額等(繰延) | 60か月の範囲内で損金経理した金額を損金算入 | 60か月で計算した金額を必要経費に算入(損金経理の要件なし) |
| 資産以外に係るもの | 全額損金(交際費等に係る部分は交際費等に加算) | 全額必要経費 |
会計上の扱いと決算書の表示、銀行からの見え方
会計基準との関係
税務上は、どちらの方式でも納める消費税は同じで、所得の計算上の取得価額や費用化の時期が論点になります。一方、決算書の表示は、企業会計の基準、すなわち一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って判断します。大企業が適用する収益認識に関する会計基準では、消費税は第三者のために回収する額として売上高(取引価格)に含めないこととされているため、事実上税抜方式になります。中小企業ではどちらの方式も実務で使われていますが、選んだ方式を毎期継続することが前提です。
控除対象外消費税額等を決算書のどこに表示するか(販管費の租税公課か、取得価額に含めるか、繰延消費税額等として資産に計上するか)も、税務上の処理と会計上の表示を分けて整理しておく必要があります。どの区分にできるかは取引の実態と会計方針次第なので、顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
銀行からの見え方
| 見られる点 | 税込経理 | 税抜経理 |
|---|---|---|
| 売上高 | 課税売上げの消費税分だけ大きく見える | 消費税抜きの実力値 |
| 営業利益 | 納付税額が租税公課として販管費に入る | 控除対象外消費税額等が費用として出る(繰延なら5年間) |
| 前期との比較 | 消費税の納付額や税率の変化で利益が動く | 比較しやすい |
| 貸借対照表 | 未払消費税は期末に未払計上した場合のみ | 未払消費税等・未収消費税等・繰延消費税額等が表示される |
銀行は、決算書を前期・前々期と並べて見ます。途中で経理方式を変えると、売上高や利益の比較が崩れるため、変更する場合はその旨と影響額を説明できるようにしておきます。著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)」で計算し、10年以内を健全の目安としています。繰延消費税額等の償却は減価償却費とは別の科目で表示されることが多いため、銀行が償却前利益を計算するときに加算されない場合があります。物件を取得した年は、控除対象外消費税の費用化が何年続くかを、決算書の注記や説明資料で補っておくと評価のぶれを抑えられます(減価償却費と銀行の見方)。
実務のチェックポイント
| チェック項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 納税義務 | 免税事業者なら税込経理。課税事業者になった期に方式を決めたか |
| 一貫性 | 売上げと資産・経費の方式が通達の併用ルールの範囲内か。会計ソフトの設定と一致しているか |
| 物件の取得計画 | 住宅中心の会社で建物を取得する予定があるか。税込(耐用年数)と税抜(60か月)の費用化を比較したか |
| インボイス | 税抜経理で、免税事業者からの仕入れの仮払消費税等を経過措置の割合で計上しているか |
| 金額基準 | 少額資産・一括償却資産・交際費を、方式に応じた金額で判定しているか |
| 決算書の説明 | 控除対象外消費税額等・繰延消費税額等の表示と、銀行への説明資料 |
まとめ
- 税込経理と税抜経理で、納める消費税は同じ。違うのは所得の計算と決算書の見え方
- 免税事業者は税込経理。課税事業者は選択でき、売上げを税抜にしたうえでの併用ルールがある
- 住宅中心の会社では、控除できなかった建物の消費税が、税込なら耐用年数、税抜(課税売上割合80%未満)なら60か月で費用化される
- 少額資産・交際費の判定は、採用している方式の金額で行う。売上げを税込にしたまま資産だけ税抜で判定することはできない(平成4年3月31日裁決)
- 銀行には、方式を継続し、控除対象外消費税の費用化の影響を説明できるようにする
経理方式は、物件を買う前に決めておくと選択肢が広がります。クレフティでは、不動産投資家向けサポートの中で、取得計画にあわせた経理方式の検討から、銀行に出す決算書の整理までご相談をお受けしています。
