住宅の賃貸が中心の会社は、家賃が非課税のため課税売上割合が低く、仕入れの消費税の多くを控除できません。さらに令和2年10月以後は、税抜1,000万円以上の居住用賃貸建物の取得に係る消費税は、原則として仕入税額控除の対象外です。
税抜経理を採用している会社では、この「控除できなかった消費税」を控除対象外消費税額等として別に処理します。とくに建物などの資産に係るものは、課税売上割合や金額に応じて、その期に一括で費用にするか、繰延消費税額等として60か月かけて費用にするかが決まります。金額が大きいだけに、物件を買った年から数年間の決算書に大きく影響します。この記事では、その仕組みと計算例、決算書と銀行の見え方を整理します。
- 控除対象外消費税額等は、税抜経理で、課税売上高5億円超または課税売上割合95%未満のときに生じる。居住用賃貸建物の控除制限分も含まれる
- 資産に係るものは、①課税売上割合80%以上、②棚卸資産、③一の資産について20万円未満のいずれかなら、損金経理によりその期に一括損金
- それ以外は繰延消費税額等として資産計上し、60か月で損金算入(取得年度は2分の1)
- 個人も同様の区分で、60か月で必要経費。法人のような損金経理の要件はない
- 物件を取得した年から約6期にわたり費用が続く。決算書の表示と、銀行への説明を最初に決めておく
控除対象外消費税額等とは
税抜経理方式では、仕入れや資産の取得にかかる消費税を仮払消費税等として区分します。課税売上割合が95%以上で課税売上高5億円以下なら、原則として全額を仕入税額控除できるので、仮払消費税等は期末に仮受消費税等と相殺されて消えます。
しかし、課税売上高が5億円超、または課税売上割合が95%未満の課税期間は、仕入税額のうち課税売上げに対応する部分しか控除できません。控除できなかった部分は、仮払消費税等のまま残ります。これが控除対象外消費税額等です(国税庁タックスアンサーNo.6921)。
| 経理方式 | 控除できなかった消費税の扱い |
|---|---|
| 税込経理 | 資産の取得価額・経費の額に最初から含まれているので、特別な処理は不要 |
| 税抜経理 | 控除対象外消費税額等として、資産に係るものとそれ以外に分けて処理 |
タックスアンサーNo.6921は、控除対象外消費税額等には、居住用賃貸建物の取得等に係る仕入税額控除の制限の適用を受ける取引に係るものが含まれる、と明記しています。居住用賃貸建物の判定は居住用賃貸建物の判定実務を、経理方式の選び方は税込経理と税抜経理をご覧ください。
資産に係るものの3つの処理
資産に係る控除対象外消費税額等は、次の順番で処理を判定します(法人税法施行令139条の4、所得税法施行令182条の2、タックスアンサーNo.6921)。
| 判定 | 処理 | 法人の要件 |
|---|---|---|
| 課税売上割合が80%以上の事業年度(年分) | その期に全額損金(必要経費) | 損金経理 |
| 棚卸資産に係るもの(販売用不動産など) | その期に全額損金(必要経費) | 損金経理 |
| 一の資産に係る控除対象外消費税額等が20万円未満 | その期に全額損金(必要経費) | 損金経理 |
| 上記のいずれにも当たらない | 繰延消費税額等として資産計上し、60か月で損金(必要経費)算入 | 損金経理した金額の範囲内 |
| (いずれの場合も選択肢として) | 資産の取得価額に算入し、償却費などとして費用化 | — |
注意したいのは、20万円の判定が資産の取得価額ではなく、その資産に係る控除対象外消費税額等の金額で行われる点です。たとえば税抜200万円の設備でも、控除できなかった消費税が20万円未満なら一括損金にできます。
繰延消費税額等の計算
- 取得した事業年度:繰延消費税額等 ÷ 60 × その事業年度の月数 × 1/2
- 翌事業年度以後:繰延消費税額等 ÷ 60 × その事業年度の月数
取得した事業年度は、取得した月にかかわらず「月数×2分の1」です。期首に取得しても期末に取得しても、初年度に費用にできる額は同じになります。
個人の場合は、60で除した額に、その年において業務を行っていた期間の月数を乗じた金額を必要経費に算入し、取得した年分はその2分の1とされています。法人のような損金経理の要件はありません。
資産以外に係るもの
修繕費・管理費・広告費などの経費に係る控除対象外消費税額等は、法人も個人もその期に全額損金(必要経費)です。ただし、法人では交際費等に係る部分は交際費等の額に加算して、損金不算入額を計算します(タックスアンサーNo.6917)。
計算例:住宅中心の会社が新築RCマンションを取得した場合
3月決算の法人が、建物部分税抜3億円(消費税3,000万円)の新築RC造賃貸マンションを取得したとします。建物は居住用賃貸建物に該当し、消費税3,000万円は全額が仕入税額控除の対象外です。課税売上割合は80%未満とします。
| 事業年度 | 税抜経理(繰延消費税額等) | 税込経理(建物の取得価額に算入) |
|---|---|---|
| 1期目(取得年度) | 3,000万円 ÷ 60 × 12 × 1/2 = 300万円 | 3,000万円 × 定額法償却率0.022(47年)= 66万円(期首取得の場合) |
| 2〜5期目 | 各期 600万円 | 各期 66万円 |
| 6期目 | 残り 300万円 | 66万円 |
| 合計 | 3,000万円を6期で費用化 | 3,000万円を47年で費用化 |
(建物本体の取得価額3億円の減価償却は、どちらの方式でも別途行います。数字は仕組みを示すための仮の例です。)
税抜経理なら、控除できなかった消費税を約5年で費用にでき、税込経理なら47年かけて費用にすることになります。税額の総額は変わりませんが、利益と税金が出るタイミングが大きく違います。
なお、居住用賃貸建物には、取得後3年以内に課税賃貸用に転用したり売却したりした場合に、第3年度の課税期間に控除できなかった税額の一部を加算する調整があります(消費税法35条の2)。調整対象固定資産・課税売上割合の変動の調整は調整対象固定資産と課税売上割合の著しい変動で扱っています。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る法人と個人の違い
| 項目 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 根拠 | 法人税法施行令139条の4 | 所得税法施行令182条の2 |
| 一括損金の要件 | 80%以上・棚卸資産・20万円未満のいずれか+損金経理 | 80%以上・棚卸資産・20万円未満のいずれか(損金経理の要件なし) |
| 繰延消費税額等 | 60か月の範囲内で損金経理した金額を損金算入 | 60で除した額×業務期間の月数を必要経費に算入 |
| 取得年度 | 月数按分の2分の1が限度 | 同じく2分の1 |
| 申告書 | 法人税申告書の明細書で計算 | 収支内訳書・青色申告決算書の必要経費に含める |
法人は、損金経理(決算書で費用に計上すること)が要件です。繰延消費税額等の償却を決算で計上し忘れると、その期の損金にはなりません。国税庁の通達の解説では、資産に係る控除対象外消費税額等の一部について損金経理をしなかった場合、その部分は翌事業年度以後に繰延消費税額等として損金算入するという考え方が示されています。決算整理の段階で、計上漏れがないかを確認しておきたいところです。
会計上の扱いと決算書の表示、銀行からの見え方
決算書のどこに表示するか
税務上は、控除対象外消費税額等がいつ損金(必要経費)になるかが論点です。一方、決算書での表示は、企業会計の基準、すなわち一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って判断します。法人税法22条4項も、損金の額は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算するとしています。
| 項目 | 表示の例 |
|---|---|
| 繰延消費税額等(未償却残高) | 投資その他の資産(長期前払消費税等など)として固定資産に表示 |
| 繰延消費税額等の償却額 | 販売費及び一般管理費(租税公課など)として表示するのが一般的 |
| 資産以外に係るもの・一括損金分 | 販管費(租税公課など) |
| 取得価額に算入した場合 | 建物などの取得価額に含め、減価償却費として表示 |
控除対象外消費税額等は、資産の取得に付随して毎回生じうる性格の費用です。金額が大きいからといって、実態に合わない区分にすることはできません。税務上は損金算入が認められるかが論点になる一方、決算書の表示区分(販管費か、営業外費用や特別損失か、資産計上か費用処理か)は、企業会計の基準(GAAP)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。表示区分の考え方は「収益は上に、費用は下に」とはでも扱っています。
銀行からの見え方
| 見られる点 | 繰延消費税額等があるときに起きること |
|---|---|
| 営業利益・経常利益 | 取得後約5年間、償却額が販管費を押し上げる。ICRや債務償還年数の分母が小さくなる |
| 償却前利益 | 銀行が減価償却費だけを足し戻す場合、繰延消費税額等の償却は加算されないことがある |
| 純資産 | 繰延消費税額等は資産に計上されるが、換金性がないため、実態純資産の計算で評価しない銀行もある |
| 比較可能性 | 取得した年の前後で利益水準が変わるため、物件取得の影響を分けて説明する必要がある |
著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)」で計算し、10年以内を健全の目安としています。繰延消費税額等の償却は現金の支出を伴わない費用なので、銀行に説明するときは減価償却費と同じく現金の出ない費用であること、あと何期続き、いくら残っているかを一覧にして示すと、返済能力を正しく評価してもらいやすくなります(減価償却費と銀行の見方)。
実務のチェックポイント
| チェック項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 発生の有無 | 税抜経理で、課税売上割合95%未満または課税売上高5億円超か |
| 資産と経費の区分 | 控除対象外消費税額等を、資産に係るものとそれ以外に分けたか |
| 一括損金の判定 | 課税売上割合80%以上か、棚卸資産か、一の資産で20万円未満か |
| 繰延の計算 | 60か月・取得年度2分の1で計算し、損金経理(決算計上)したか |
| 居住用賃貸建物 | 控除制限分を控除対象外消費税額等に含めたか。第3年度の調整の可能性を管理しているか |
| 交際費 | 交際費等に係る控除対象外消費税額等を交際費等に加算したか |
| 表示 | 未償却残高と償却額の表示科目を毎期そろえているか |
| 銀行説明 | 繰延消費税額等の残高と今後の償却予定を一覧にしているか |
まとめ
- 控除対象外消費税額等は、税抜経理で課税売上割合95%未満などのときに生じ、居住用賃貸建物の控除制限分も含まれる
- 資産に係るものは、80%以上・棚卸資産・20万円未満なら一括損金、それ以外は繰延消費税額等として60か月(取得年度は2分の1)
- 20万円の判定は、資産の取得価額ではなく控除対象外消費税額等の金額で行う
- 法人は損金経理が要件。個人は同様の計算で必要経費に算入
- 物件取得から約6期、費用が続く。決算書の表示をそろえ、銀行には残高と償却予定で説明する
控除できなかった消費税は、物件を買った後の数年間の決算書を左右します。クレフティでは、不動産投資家向けサポートの中で、取得前の経理方式の検討から、繰延消費税額等を含めた決算書の作成、銀行への説明資料づくりまでご相談をお受けしています。
