運送会社、工務店、不動産会社、旅館、飲食店――許認可がなければ営業できない業種のM&Aでは、許認可を引き継げるかどうかが、スキームの選び方を左右します。引き継げなければ、買い手は新たに許認可を取り直す必要があり、その間は営業できないこともあります。
許認可の承継は、M&Aの方法と業法ごとの規定の組み合わせで決まります。この記事では、e-Gov法令検索で条文を確認しながら、代表的な業種のルールと、実務で押さえるべき点を整理します。
- 株式譲渡は会社が同じなので、許認可は原則そのまま。役員変更などの変更届と、許可要件・欠格事由の確認が中心
- 事業譲渡・合併・会社分割は、業法に承継の規定があるかで決まる。規定がなければ、買い手が新たに取得する必要がある
- 建設業:事前に認可を受ければ、譲渡・合併・分割の日に地位を承継(建設業法17条の2)
- 宅建業:承継の規定がない。合併で消滅すれば廃業等の届出(宅建業法11条)
- 一般貨物運送:譲渡・合併・分割は国土交通大臣の認可がなければ効力を生じない(貨物自動車運送事業法30条)
- 旅館業は承認で承継、飲食店営業許可は譲渡・合併等で承継し届出(食品衛生法56条)
M&Aの方法で変わる許認可の扱い
| 方法 | 許認可を受けている主体 | 基本的な扱い |
|---|---|---|
| 株式譲渡 | 会社のまま変わらない | 原則そのまま。役員・株主の変更に伴う届出、要件の維持を確認 |
| 事業譲渡 | 売り手の会社 → 買い手の会社 | 業法に承継の規定があれば、認可・承認・届出で承継。なければ買い手が新規取得 |
| 合併 | 消滅会社 → 存続会社 | 業法の規定しだい。包括承継でも、許認可は自動的に移るとは限らない |
| 会社分割 | 分割会社 → 承継会社 | 業法の規定しだい |
株式譲渡は、許認可の面では最も手続きが少ない方法です。許認可が事業の中核にある業種で株式譲渡が選ばれやすいのは、このためです。一方、会社に簿外債務などのリスクがある場合は、事業譲渡や会社分割で必要な部分だけを切り出したい、という買い手のニーズもあります。その場合、許認可の承継が可能かが、スキーム選びの決め手になります。
方法ごとの比較はM&Aの流れ、税金の違いは事業譲渡の税金と会社分割の税金で解説しています。
主な業種の承継ルール
条文はe-Gov法令検索で確認したものです(2026年10月時点)。
| 業種 | 根拠法 | 事業譲渡 | 合併・分割 | 相続 |
|---|---|---|---|---|
| 建設業 | 建設業法17条の2・17条の3 | 事前の認可で地位を承継(建設業の全部の譲渡) | 事前の認可で地位を承継 | 死亡後30日以内に認可申請 |
| 宅地建物取引業 | 宅地建物取引業法9条・11条 | 承継の規定なし(買い手が免許を取得) | 承継の規定なし。合併消滅は30日以内に廃業等の届出 | 承継の規定なし。相続人が廃業等の届出 |
| 一般貨物自動車運送事業 | 貨物自動車運送事業法30条・31条 | 国土交通大臣の認可がなければ効力を生じない | 同上(運送事業者が存続する合併などは除く) | 死亡後60日以内に認可 |
| 旅館業 | 旅館業法3条の2・3条の3 | 都道府県知事の承認で地位を承継 | 都道府県知事の承認で地位を承継(営業者が存続する合併は除く) | ― |
| 飲食店営業など(食品衛生法の許可営業) | 食品衛生法56条 | 地位を承継し、遅滞なく届出 | 地位を承継し、遅滞なく届出 | 地位を承継し、届出 |
| 産業廃棄物の収集運搬・処分業 | 廃棄物処理法14条など | 処理業の許可について、建設業法のような地位承継の規定は置かれていない | 同左 | ― |
建設業:「あらかじめ」認可を受ける
建設業法17条の2は、建設業者が許可に係る建設業の全部を譲渡する場合や、合併・分割で建設業の全部を承継させる場合に、あらかじめ認可を受ければ、譲受人や存続会社などが、その日に建設業者としての地位を承継すると定めています。認可をするのは、許可を受けている行政庁(国土交通大臣または都道府県知事)です。
ポイントは次のとおりです。
- 認可は事前に受ける。効力発生日の後に申請しても承継できない
- 対象は建設業の全部。一部の業種だけ、一部の営業所だけを譲渡する場合は、この制度は使えない
- 承継する側も、経営体制や営業所ごとの技術者など、許可の要件を満たしている必要がある
この仕組みができる前は、事業譲渡や合併の後に新たに許可を取る必要があり、空白期間が生じることがありました。いまは事前の認可で空白期間なく承継できますが、行政庁との事前相談や書類の準備に時間がかかるため、スケジュールに余裕を持たせます。
宅建業:承継の規定がない
宅地建物取引業法には、事業譲渡や合併による免許の承継の規定がありません。法人が合併で消滅した場合は、その法人を代表する役員であった者が、30日以内に廃業等の届出をすることとされています(11条1項2号)。
そのため、事業譲渡や合併で宅建業を引き継ぐ場合は、買い手(存続会社)が自ら免許を持っているか、効力発生日までに新たに免許を取得しておく必要があります。株式譲渡であれば会社の免許はそのままですが、役員などの変更には30日以内の変更届が必要です(9条)。事務所ごとに置く専任の宅地建物取引士が退職しないかも、あわせて確認します。
一般貨物運送:認可がなければ「効力を生じない」
貨物自動車運送事業法30条は、一般貨物自動車運送事業の譲渡し・譲受けと、運送事業者である法人の合併・分割について、国土交通大臣の認可がなければその効力を生じないと定めています。認可を受ければ、譲受人などは許可に基づく権利義務を承継します。
ほかの業法と比べて強い規定で、認可を得ないまま事業譲渡契約を実行しても、事業の譲渡としての効力が生じません。ただし、運送事業者が運送事業を経営しない法人を吸収合併して存続する場合などは、認可は不要です(30条2項ただし書)。
旅館業・飲食店
旅館業法は、旅館業の譲渡、営業者である法人の合併・分割について、都道府県知事の承認を受ければ、営業者の地位を承継すると定めています(3条の2・3条の3)。
食品衛生法56条は、飲食店営業などの許可営業者が営業を譲渡した場合や、相続・合併・分割があった場合に、譲受人などが許可営業者の地位を承継し、遅滞なく都道府県知事に届け出ることとしています。事前の承認がいらない一方、届出は忘れずに行います。
承継の規定がない許認可
業法に承継の規定がない許認可は、事業譲渡や合併では引き継げないのが原則です。買い手が新たに許可を取得するまで営業できない、取得に時間がかかる、要件(施設・人員・資本など)を一から満たす必要がある、といった問題が出てきます。こうした業種では、株式譲渡を選ぶか、許可を持つ会社を残す形の組織再編を検討することが多くなります。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る株式譲渡でも確認すべきこと
株式譲渡なら許認可は「そのまま」とはいえ、次の点を確認しないと、思わぬところで許可を失うおそれがあります。
変更届と期限
| 業法 | 届出が必要になる主な変更 | 期限 |
|---|---|---|
| 建設業法11条 | 商号、営業所、役員等、営業所の技術者など(5条1号〜5号の事項) | 30日以内 |
| 宅地建物取引業法9条 | 商号、役員、事務所、専任の宅地建物取引士など(4条1項1号〜5号の事項) | 30日以内 |
株式譲渡に伴って代表者や役員が入れ替われば、変更届が必要になります。他の業法でも、役員の変更や株主の変更に届出を求めるものがあります。
許可要件と欠格事由
株式譲渡でオーナーが役員を退任すると、許可の要件を満たさなくなることがあります。
- 建設業:経営業務の管理を適正に行う体制の要件を、退任するオーナーの経験で満たしていなかったか。営業所の技術者が退職しないか
- 宅建業:専任の宅地建物取引士の人数要件を満たし続けられるか
- 全般:新しく就任する役員が、業法の欠格事由(一定の刑罰を受けた者など)に当たらないか
オーナーが「経営の要件」や「技術者の要件」を一人で担っている会社は珍しくありません。退任の時期を、後任者の手当てができるまで遅らせる、一定期間は顧問や役員として残る、といった調整が必要になることもあります。
実務の進め方:DDから契約・クロージングまで
1. 許認可の一覧をつくる
DDの初期に、会社が持つ許認可をすべて洗い出します。許可番号、許可の種類、有効期限(更新時期)、許可要件を満たしている人(経営・技術の要件者)、過去の行政処分の有無を一覧にします。更新期限がクロージング前後に来る場合は、特に注意が必要です。法務DDの全体像は法務デューデリジェンスをご覧ください。
2. スキームを決める
許認可を引き継げるかどうかで、株式譲渡・事業譲渡・会社分割のどれを選ぶかが変わります。承継の規定がある業法でも、事前の認可・承認に時間がかかるため、行政庁への事前相談をスケジュールに組み込みます。
3. 契約に織り込む
- 前提条件:認可・承認の取得、許可要件者の在籍をクロージングの前提条件にする
- 表明保証:許認可が有効であること、行政処分や違反がないことを売り手が保証する
- 誓約事項:クロージングまでに変更届や申請に協力する義務、要件者の引継ぎへの協力
許認可が事業の価値そのものである会社では、許可を失うリスクは価格に直結します。取引先との契約の承継も同じ構造の問題で、チェンジオブコントロール条項で解説しています。
銀行と従業員から見た許認可
銀行にとって、許認可は返済原資である事業収益の前提です。許可の空白期間が生じれば売上が止まり、資金繰りに直結します。M&Aの資金を借りる場合も、株式譲渡後に既存の借入を継続する場合も、許認可の継続の見通しを説明できるようにしておきます。著書のモデルでは、債務償還年数((借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等))10年以内を健全の目安としていますが、許可を失えばこの前提が崩れます。
従業員にとっても、許可要件を担う技術者や有資格者の処遇は重要です。事業譲渡の場合、従業員は本人の同意なく買い手に移ることはありません。要件者が転籍に応じなければ、許可を維持できないこともあります。従業員の扱いは事業譲渡で従業員はどうなるかで解説しています。
まとめ
- 許認可の承継は、M&Aの方法と業法ごとの規定で決まる。株式譲渡は原則そのまま、事業譲渡・合併・分割は規定しだい
- 建設業は事前の認可で承継、一般貨物運送は認可がなければ譲渡・合併の効力が生じない
- 宅建業は承継の規定がなく、買い手が免許を持つ必要がある。旅館業は承認、飲食店営業許可は承継して届出
- 株式譲渡でも、変更届(建設業・宅建業は30日以内)と、許可要件者の退任・欠格事由に注意
- DDで許認可を一覧にし、行政庁への事前相談と、契約の前提条件・表明保証に織り込む
許認可業種のM&Aのスキーム選び、DD、資金調達のご相談は、事業承継・M&A支援でお受けしています。許認可の申請手続きそのものは行政書士の業務になるため、必要に応じて専門家と連携して進めます。初回のご相談は無料で、担当者がお話を伺います。
