会社分割は、会社の事業の一部(または全部)を、別の会社に包括的に承継させる手続です。事業譲渡のように資産や契約を一つずつ移す必要がなく、許認可を引き継げる業種もあるため、事業の切り出し(カーブアウト)、グループ内の再編、不動産と事業の分離などに使われます。
税務では、適格分割か非適格分割かで結果が大きく変わります。適格なら帳簿価額のまま資産を移せますが、非適格なら時価で譲渡したものとして課税されます。この記事では、法人税法の条文と、組織再編をめぐる最高裁判決(ヤフー事件・IDCF事件)、地方税法の非課税要件をもとに、会社分割の税務をM&Aの場面に即して整理します。
- 会社分割には、分割法人が株式を受け取る分社型分割と、株主が株式を受け取る分割型分割がある
- 適格分割の要件は、対価が株式のみであることを前提に、①完全支配関係、②支配関係+事業・従業者の引継ぎ、③共同事業、④単独新設分割型分割(スピンオフ)のいずれか
- 分割後に株式を売る予定があると、資本関係の継続見込みがなく非適格になりやすい。M&Aでは非適格を前提に、時価課税と買い手の資産調整勘定を比べる
- 最高裁平成28年2月29日判決(ヤフー事件・IDCF事件)は、組織再編税制の濫用による税負担の減少を否認した
- 不動産取得税は一定の要件で非課税、登録免許税はかかる。繰越欠損金は分割では引き継げない
会社分割の2つの型と、M&Aでの使われ方
| 型 | 対価(承継会社の株式)を受け取る者 | M&Aでの主な使い方 |
|---|---|---|
| 分社型分割 | 分割法人(元の会社) | 事業を子会社として切り出し、その子会社の株式を買い手に売る |
| 分割型分割 | 分割法人の株主 | 不動産や別事業を兄弟会社として切り離し、本体の株式を売る |
会社法では、既存の会社に承継させる吸収分割と、新しく設立する会社に承継させる新設分割があります。いずれも、分割計画・分割契約を作り、原則として株主総会の特別決議と債権者保護手続を経て行います。
会社分割は包括承継なので、承継の対象となる契約や債務は、相手方の個別の同意がなくても移るのが原則です(契約に特別な条項があれば別です)。また、承継される事業に主として従事する労働者の雇用契約は、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律により承継されます。事業譲渡のように一人ひとりの同意を取る必要がない点は、手続上の大きな違いです。
適格分割の要件
法人税法2条12号の11は、適格分割を「分割対価資産として分割承継法人(またはその完全親法人)のいずれか一の法人の株式以外の資産が交付されないもの」で、次のいずれかに当たるものと定めています。分割型分割では、株式が株主の持株数の割合に応じて交付される必要があります。
| 類型 | 主な要件 |
|---|---|
| ① 完全支配関係がある場合(イ) | 分割法人と分割承継法人の間に完全支配関係(100%)があり、その関係が継続する見込み |
| ② 支配関係がある場合(ロ) | 支配関係(50%超)があり、その継続見込みに加え、(1)分割事業の主要な資産・負債の移転、(2)分割事業の従業者のおおむね80%以上の引継ぎ見込み、(3)分割事業の継続見込み |
| ③ 共同事業を行う場合(ハ) | ②の要件に加え、事業の関連性、事業規模の比率または特定役員の引継ぎ、株式の継続保有などの要件 |
| ④ 単独新設分割型分割(ニ) | 一の法人のみが分割法人となる分割型分割で、事業を新設会社で独立して行うためのもの(スピンオフ) |
ポイントは、①②で求められる資本関係の継続見込みです。分割の時点で、分割後に株式を第三者に売ることが決まっていれば、完全支配関係や支配関係は継続しない見込みとなり、①②には当たりません。第三者との共同事業として③に当たるかを検討する余地はあるものの、オーナー企業の事業を買い手に売るM&Aでは、非適格になる前提で設計するのが現実的です。
適格と非適格で何が変わるか
| 項目 | 適格分割 | 非適格分割 |
|---|---|---|
| 分割法人の譲渡損益 | 生じない(帳簿価額で引継ぎ) | 時価で譲渡したものとして譲渡損益が生じる |
| 分割承継法人の受入価額 | 帳簿価額 | 時価 |
| 資産調整勘定 | 生じない | 事業と主要な資産・負債の移転があれば、時価純資産を超える対価の部分を5年で損金算入 |
| 分割型分割の株主 | みなし配当は生じない | 資本金等の額を超える部分がみなし配当になることがある |
| 繰越欠損金 | 分割承継法人に引き継がれない | 引き継がれない |
繰越欠損金は、合併と違って、適格分割でも分割承継法人には引き継がれません。赤字の事業を分割で切り出しても、その事業が生んだ欠損金を承継先で使うことはできない点に注意が必要です。
M&Aでの3つのパターン
パターン1:事業を子会社に切り出して売る(分社型分割→株式譲渡)
売り手の会社が、売りたい事業を新設分割で子会社に移し、その子会社の株式を買い手に売る方法です。分割後に株式を売ることが予定されているため、通常は非適格分割となり、分割の時点で売り手の会社に移転資産の時価と帳簿価額の差額の譲渡損益が生じます。一方、子会社株式の取得価額は時価になるため、その後に株式を売ったときの譲渡益は小さくなります。
買い手から見ると、承継会社が資産を時価で受け入れ、資産調整勘定を5年で損金算入できる場合があり、事業譲渡と同じような税務上のメリットがあります。許認可や契約を包括的に移せる点では、事業譲渡より手続が軽いこともあります。
パターン2:不動産などを切り離して本体を売る(分割型分割→株式譲渡)
本体の会社が持つ不動産や別の事業を、分割型分割で兄弟会社に移し、オーナーが本体の株式を買い手に売る方法です。切り離した不動産はオーナーの手元に残ります。この場合、どちらの会社の株式を売るか、分割後にどの資本関係が継続する見込みかによって適格判定が変わり得ます。要件の当てはめは細かく、計画の段階で税理士とあわせて確認することが欠かせません。不動産を切り離して売る方法の比較は不動産を会社から切り離してから売る方法で取り上げます。
パターン3:グループ内の再編の後に売る
持株会社の下で、子会社同士の事業を分割で整理してから、一部の子会社を売る場合です。グループ内の再編自体は完全支配関係の中で行われることが多いものの、その直後に売却が予定されていれば、資本関係の継続見込みの判定に影響します。再編と売却の順番と時期を、売却の計画とあわせて組み立てる必要があります。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る組織再編の行為計算否認:ヤフー事件・IDCF事件
組織再編税制には、要件を満たしていても、税負担を不当に減少させる行為や計算を否認できる規定があります(法人税法132条の2)。この規定の意味を示したのが、最高裁判所の平成28年2月29日の2つの判決です。
| 判決 | 事案の概要 | 結論 |
|---|---|---|
| 最高裁第一小法廷 平成28年2月29日判決(平成27年(行ヒ)第75号、民集70巻2号242頁)〔ヤフー事件〕 | 買収した会社を吸収合併して繰越欠損金を引き継ぐにあたり、買収前に親会社の代表取締役社長が対象会社の取締役副社長に就任していた | その就任が132条の2の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たるとされた |
| 最高裁第二小法廷 平成28年2月29日判決(平成27年(行ヒ)第177号、民集70巻2号470頁)〔IDCF事件〕 | 新設分割で設立した会社の株式全部を、分割法人が譲渡する計画を前提として分割が行われた | その分割が132条の2の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たるとされた |
両判決は、「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、組織再編税制の各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものをいうとしました。そして、その判断にあたっては、行為・計算が通常は想定されない手順や方法に基づいたり、実態とはかけ離れた形式を作り出したりするなど不自然なものかどうか、税負担の減少以外にそうした行為・計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由があるかどうか等を考慮する、という枠組みを示しています。
IDCF事件は、分割後に承継会社の株式を売る計画が前提にあった点で、M&Aでの会社分割の使い方と重なります(当時の法令の下での事案です)。分割の目的、手順、時期が事業上の理由で説明できるかを、計画の段階で整理しておくことが重要です。組織再編の重要判例はM&A・組織再編の税務の重要判例で詳しく取り上げます。
最高裁判所第二小法廷 平成28年2月29日判決・平成27年(行ヒ)第177号 法人税更正処分等取消請求事件。裁判所ウェブサイトの判例情報/最高裁判所第一小法廷 平成28年2月29日判決・平成27年(行ヒ)第75号 法人税更正処分取消請求事件。裁判所ウェブサイトの判例情報
不動産取得税・登録免許税・消費税
不動産取得税
会社分割による不動産の取得は、次の要件をすべて満たす分割なら非課税です(地方税法73条の7第2号、地方税法施行令37条の14)。
- 分割対価資産として分割承継法人の株式以外の資産が交付されないこと(分割型分割では、株主の持株割合に応じた交付に限る)
- 分割事業に係る主要な資産・負債が分割承継法人に移転していること
- 分割事業が分割承継法人で引き続き営まれることが見込まれていること
- 分割事業の従業者のおおむね80%以上が、分割承継法人の業務に従事することが見込まれていること
法人税の適格要件と違い、資本関係の継続見込みはこの4つに含まれていません。そのため、法人税では非適格でも、不動産取得税は非課税になる場合があります。ただし、不動産だけを切り出す分割では、事業の移転や従業者の引継ぎの要件を満たすかが問題になります。
登録免許税と消費税
会社分割による不動産の所有権移転の登記には、登録免許税がかかります。国税庁の税額表では、合併による移転は1,000分の4ですが、会社分割は「その他」の区分(1,000分の20)になります。
消費税は、会社分割による資産の移転が包括承継であるため、事業譲渡のように資産ごとに課税されることは通常ありません。この点は事業譲渡との大きな違いですが、分割後の課税事業者の判定には特例があるため、分割承継法人の納税義務もあわせて確認します。事業譲渡の税金との比較は事業譲渡の税金をご覧ください。
会社分割と銀行
会社分割では、分割法人の債権者に異議を述べる機会を与える手続があり、銀行は自行の債権がどちらの会社に残るのか、保証や担保がどうなるのかを確認します。銀行の同意を得ずに進めると、取引関係そのものに影響しかねません。借入の多い会社ほど、早い段階で取引銀行に計画を説明することが大切です。
まとめ
- 会社分割には分社型と分割型、吸収分割と新設分割がある
- 適格分割の要件は、対価が株式のみであることを前提に、完全支配・支配・共同事業・単独新設分割型の4類型
- 分割後に株式を売る予定があると、資本関係の継続見込みがなく非適格になりやすい。M&Aでは時価課税と、買い手の資産調整勘定を比べて設計する
- ヤフー事件・IDCF事件の最高裁判決は、組織再編税制の濫用による税負担の減少を否認した。事業上の理由で手順を説明できるようにしておく
- 不動産取得税は4つの要件で非課税になり得る。登録免許税は2%、繰越欠損金は引き継げない
会社分割は、税金・会社法・労働契約・銀行の調整が同時に進む手続です。クレフティでは事業承継・M&A支援として、分割を使った売却スキームの税務の比較、適格判定の確認、株価への影響の試算をお手伝いしています。グループ再編の考え方は株式交換による持株会社化もご覧ください。初回のご相談は無料で、担当者がお話を伺います。
