M&Aの税務

M&Aの買い手側の税務|株式の取得費、のれん(資産調整勘定)、買収ローンの利息と否認リスク

M&Aの税務というと、売り手の手取りの話が中心になりがちです。けれども、買い手側の税務を理解していないと、買収後に「思っていたより税金が多い」「利益が出ているのに資金が足りない」ということが起こります。

買い手にとっての主な論点は、①株式の取得費(取得価額に何を含めるか)、②のれん(会計と税務で扱いが違う)、③買収資金の借入利息(損金にできるか、否認されないか)の3つです。そして、どれも「株式を買うのか、事業を買うのか」で答えが変わります。

この記事では、買い手側の税務をこの3つの論点で整理し、判例、買収後の決算書と銀行の見え方まで解説します。

この記事の結論
  • 株式取得ではのれんの税務上の償却はなく、取得費は売却するまで損金にならない。事業譲渡では資産調整勘定を5年で損金算入できることがある
  • 株式の取得価額には、購入のために要した費用(手数料など)を含める
  • 会計ののれんは、日本の会計基準では20年以内で規則的に償却し、減損の対象にもなる。会計と税務のズレを理解しておく
  • 買収ローンの利息は原則損金だが、過大支払利子税制と行為計算否認に注意。判例では借入れの目的と条件の合理性が問われた
  • 銀行は、のれんと買収ローンを抱えた決算書を実質純資産と返済能力で見る

株式を買うか、事業を買うかで税務が変わる

買い手側の税務は、取引の形で大きく変わります。

項目株式取得(株式譲渡)事業譲渡
買い手が取得するもの対象会社の株式個々の資産・負債・契約
のれんの税務上の扱い償却なし(株式の取得価額に含まれたまま)事業と主要な資産・負債のおおむね全部の移転など一定の要件を満たせば、資産調整勘定として5年(60か月)で損金算入
資産の取得価額対象会社の帳簿価額のまま(ステップアップなし)時価で取得(償却資産は新たに償却)
消費税株式の譲渡は非課税課税資産(建物・設備・のれん等)に消費税がかかる
不動産の移転コスト不要(会社の所有のまま)登録免許税・不動産取得税がかかる
対象会社の過去の税務リスク会社ごと引き継ぐ原則として引き継がない

株式取得は手続きが簡単で、許認可や契約もそのまま使えることが多い一方、過去の税務リスクも会社ごと引き継ぎ、のれんの税務上の償却もありません。事業譲渡は、のれんを損金にでき、リスクを遮断しやすい反面、消費税や不動産の移転コストがかかり、契約の巻き直しも必要です。移転コストはM&Aの印紙税・登録免許税・不動産取得税、売り手側から見た事業譲渡の税金は事業譲渡の税金で解説しています。

株式の取得価額に何を含めるか

購入のために要した費用は取得価額に

法人が購入した有価証券の取得価額は、「購入の代価(購入手数料その他その有価証券の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)」とされています(法人税法施行令119条1項1号)。株式を買うための仲介手数料などは、支払った期の費用にはならず、株式の取得価額に含めて、売却するまで損金にならないのが原則です。

M&Aで支払う費用のうち、どこまでが「購入のために要した費用」に当たるかは、実務上よく論点になります。

費用考え方の目安
M&A仲介会社・FAへの成功報酬株式の購入のための費用として、取得価額に含めるのが基本
株式譲渡契約書の作成に係る弁護士報酬購入のための費用として取得価額に含める方向で検討
デューデリジェンス費用調査の時期・目的(買うかどうかを決めるための調査か、取得が決まった後の手続きか)で判断が分かれる
買収ローンの手数料株式の取得価額ではなく、借入れの費用として期間に応じて処理するのが一般的

金額が大きいほど、判断の違いが税額に影響します。契約書と請求書で、何の業務に対する報酬なのかを区分して残しておくことが大切です。

株式取得では対象会社の資産の簿価は変わらない

株式を時価で買っても、対象会社が持つ不動産や設備の帳簿価額は変わりません。含み益のある不動産を持つ会社を株式で買い、後で会社がその不動産を売れば、買収前からの含み益にも法人税等がかかります。その税負担は、株式の価格交渉の段階で織り込んでおく必要があります(会社が持つ不動産と企業価値)。

のれん:会計と税務のズレ

会計上ののれん

日本の会計基準(一般に公正妥当と認められる会計基準、GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)では、企業結合で生じたのれんは、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって規則的に償却し、収益力が落ちれば減損処理の対象にもなります。株式取得の場合、のれんが表に出るのは連結財務諸表であり、単体の決算書には子会社株式が計上されます。

税務上ののれん(資産調整勘定)

税務では、非適格合併や、事業と主要な資産・負債のおおむね全部が移転する事業譲渡など(非適格合併等)で、支払った対価が移転を受けた資産・負債の時価純資産を超える場合、その超える部分のうち一定のものを資産調整勘定とし、60か月で均等に減額して損金に算入します(法人税法62条の8)。逆に、時価純資産のほうが大きい場合は差額負債調整勘定として、同じく60か月で益金に算入します。

項目会計(日本基準)税務
株式取得連結上ののれん:20年以内で償却、減損あり償却なし(株式の取得価額)
事業譲渡・非適格合併のれん:20年以内で償却、減損あり資産調整勘定:60か月で均等に損金算入
減損処理収益力が落ちれば減損原則として損金にならない

会計と税務で償却期間が違うため、事業譲渡では「会計の利益より税務の所得が小さい」期間が5年間続き、その後は逆になります。税効果会計を適用しない中小企業では、この差が決算書の利益と納税額のズレとして表れます。

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買収資金の借入利息と否認リスク

原則は損金、ただし2つの規定に注意

事業のための借入れの利息は、原則として損金になります。買い手の会社が自ら借りて株式を買えば、その利息は買い手の損金です。ただし、次の2つの規定に注意が必要です。

  • 過大支払利子税制(租税特別措置法66条の5の2):対象純支払利子等の額のうち、調整所得金額の20%を超える部分を損金不算入とする制度(財務省「過大支払利子税制の概要」)。一定の少額の場合などは適用されません
  • 同族会社等の行為計算否認(法人税法132条):同族会社の行為・計算で、法人税の負担を不当に減少させる結果となるものを否認できる規定

ユニバーサルミュージック事件:利息の否認は違法とされた

項目内容
判決最高裁 令和4年4月21日第一小法廷判決(令和2年(行ヒ)第303号)
事案国際的な音楽グループの組織再編で、日本に設立された合同会社が、グループ会社から約866億円を年6.8%で借り入れ、国内の関連会社の株式を買い取り、その後に利益の出ていた会社を合併した。支払利息は各期で約39億〜44億円となり、益金の過半に相当した
処分税務署長は132条1項を適用し、支払利息の損金算入を否認
争点借入れが「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たるか
結論当たらない。否認は違法として、国の上告を棄却

最高裁は、132条1項の「不当に減少させる」とは、行為・計算が経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものをいうと示しました。そのうえで、組織再編の一環としての借入れについては、①一連の取引が通常は想定されない手順や方法によるなど不自然か、②税負担の減少以外に合理的な事業目的があるか等を考慮すると判断しています。

本件では、グループの資本関係の整理、日本を統括する会社の設立、為替リスクの軽減などの目的があり、借入金は株式の購入代金に限って使われ、利率や返済期間も予想される利益に基づいて決められていたことなどから、経済的合理性を欠くとはいえないとされました。

この判決から、買い手が学べるのは次の点です。

  • 買収ローンは、使途(株式の購入代金)を限定し、借入額が使途に見合っていることを示せるようにする
  • 利率や返済期間は、対象会社の収益計画に基づいて決め、その根拠を残す
  • 税負担の減少以外の事業目的を、取締役会の資料などで説明できるようにする

なお、同じ組織再編の分野では、非適格分割で計上した資産調整勘定が132条の2で否認されたIDCF事件(最高裁平成28年2月29日)もあります。詳しくは組織再編の適格要件の基本をご覧ください。

買収後の最初の決算で確認すること

株式取得の場合、対象会社の税務は買収後も続きます。最初の決算では、次の点を確認しておきましょう。

  • 事業年度と申告の連続性:決算期を親会社に合わせて変更する場合、変更前後の事業年度の申告漏れがないか
  • 中小法人等の判定:資本金5億円以上の大法人の100%子会社になると、軽減税率や欠損金の控除限度などの中小法人向けの特例が使えなくなる
  • 売り手への役員退職金:クロージングに合わせて支給した場合、その金額が不相当に高額でないか(過大な部分は損金不算入)
  • グループ法人税制:100%子会社との間の資産の譲渡や寄附は、損益の繰延べや損金不算入の対象になる

DDで見つかった論点は、表明保証や価格調整で手当てしたうえで、買収後の申告で確実に処理します(税務DDで見られるポイント)。

買収後の決算書と銀行の見え方

買収後、買い手の決算書には「子会社株式」や「のれん」、そして「買収ローン」が並びます。銀行はこれをどう見るでしょうか。

まず実質純資産です。のれんは換金できる資産ではないため、銀行が実質的な純資産を見るときには、のれんや子会社株式の一部を割り引いて評価することがあります。買収で借入れが増え、資産側がのれん中心だと、実質的には自己資本比率が大きく下がって見えます。

次に返済能力です。私の著書では、債務償還年数を(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)で計算し、10年以内を健全の目安としています。のれんの償却は現金の支出を伴わないため、減価償却費と同様に足し戻して見る銀行が多いものの、扱いは銀行によって異なります。買収前に、対象会社の利益を加えた後の債務償還年数を試算し、何年で買収ローンを返せるかを説明できるようにしておきましょう。

買収資金の調達方法はM&Aの資金調達、税務と会計の基本的な違いは税務と会計の違い(GAAP)も参考にしてください。

まとめ

  • 買い手の税務は株式取得か事業譲渡かで変わる。株式取得ではのれんの税務上の償却はなく、事業譲渡では資産調整勘定を60か月で損金算入できることがある
  • 株式の取得価額には購入のために要した費用を含める。DD費用などは時期と目的で判断が分かれるので、内訳を残す
  • 会計ののれんは20年以内で償却・減損。会計と税務のズレが数年続く
  • 買収ローンの利息は原則損金。ユニバーサルミュージック事件では否認が違法とされたが、使途・条件・事業目的の合理性が詳しく検討された
  • 銀行は実質純資産と債務償還年数で買収後の会社を見る。買収前に試算しておく

クレフティでは、買い手側として、株式取得と事業譲渡の比較、取得価額と資産調整勘定の試算、買収ローンの条件と返済計画、税務DDまで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。

よくある質問

株式譲渡で会社を買った場合、のれんは税務上償却できますか?
できません。株式取得の場合、買い手の帳簿に計上されるのは子会社株式であり、その取得価額は売却するまで損金になりません。連結財務諸表を作る場合に会計上ののれんが生じても、税務上の償却はありません。事業譲渡や非適格合併で事業を買った場合は、一定の要件のもとで資産調整勘定(税務上ののれん)を計上し、5年(60か月)で損金に算入できます。
M&A仲介会社やFAに払った報酬は、経費になりますか?
株式を取得するための費用は、原則として株式の取得価額に含めます(法人税法施行令119条1項1号)。取得価額に含めた部分は、株式を売却するまで損金になりません。どこまでが「購入のために要した費用」に当たるかは、契約の内容や支払の時期、取得の意思決定との関係で判断が分かれるため、契約書と請求書の内訳を残し、顧問税理士と確認してください。
買収資金を借りた場合、その利息は損金になりますか?
事業のための借入れの利息は、原則として損金になります。ただし、対象純支払利子等の額が調整所得金額の20%を超える部分を損金不算入とする過大支払利子税制や、同族会社等の行為計算否認(法人税法132条)が問題になることがあります。ユニバーサルミュージック事件の最高裁判決(令和4年4月21日)では、グループ内借入れの利息の否認が違法とされましたが、借入れの目的や条件の合理性が詳しく検討されています。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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