事業譲渡は、会社の事業を、資産・負債・契約ごとに買い手へ移す方法です。株式譲渡と違って、譲渡する資産の一つひとつに消費税の課税・非課税の判定が必要になります。建物や設備、在庫、のれんには消費税がかかり、土地や売掛金にはかかりません。買い手が借入金を引き受けた場合は、その分も対価に入ります。
金額が大きいだけに、区分を誤ると、売り手は納める消費税を、買い手は控除できる消費税を間違えることになります。この記事では、事業譲渡の消費税を、資産ごとの判定、のれんと負債引受けの扱い、対価の区分、売り手の課税売上割合、買い手の仕入税額控除の順に、公表裁決事例と計算例で解説します。法人税を含めた事業譲渡の税金の全体像は事業譲渡の税金をご覧ください。
- 事業譲渡は資産の個別の譲渡として扱われる。建物・設備・車両・在庫・のれん・ソフトウェアは課税、土地・売掛金・有価証券は非課税
- 買い手が引き受けた負債も対価になる(平成20年12月15日裁決)。現金の支払が差額だけでも、「現金+負債」を区分して計算する
- 対価は契約書で資産の区分ごとに決める。区分がなければ時価の比率で按分。契約書の価額が尊重された裁決もある
- 売り手は、土地などの非課税資産の譲渡で課税売上割合が下がることがある(売掛金の譲渡は計算に入れない)
- 買い手は、インボイスの受領、用途区分、住宅用建物の制限、免税事業者でないかを確認する
資産ごとに課税・非課税を判定する
事業譲渡では、事業を構成する資産ごとに、消費税の課税・非課税を判定します。
| 区分 | 主な資産 | 根拠・ポイント |
|---|---|---|
| 課税 | 建物・附属設備・構築物 | 土地と一括で譲渡しても、建物部分は課税 |
| 課税 | 機械・器具備品・車両 | 帳簿価額ではなく、譲渡の対価の額に課税 |
| 課税 | 棚卸資産(在庫) | 商品・製品・仕掛品・原材料 |
| 課税 | のれん(営業権)、ソフトウェア、商標権・特許権などの無形資産 | 帳簿に載っていないのれんも、対価を払えば課税 |
| 非課税 | 土地(借地権などの土地の上に存する権利を含む) | 消費税法別表第二 |
| 非課税 | 売掛金・貸付金などの金銭債権、有価証券 | 消費税法別表第二 |
| 対象外 | 現金・預金そのもの、引き継がせる負債 | ただし負債の引受けは対価の一部になる |
| 内容で判定 | 敷金・保証金(賃借人の地位の移転) | 返還される部分は資産の譲渡等に当たらないのが一般的。契約の内容で確認 |
のれんは「目に見えない」ものですが、事業譲渡の対価のうち、個別の資産の時価を超えて支払う部分は、無形資産の譲渡として課税の対象です。買い手が税務上、資産調整勘定として5年で償却する部分(法人税法62条の8)と、消費税の課税対象になるのれんの対価は、金額の考え方が近いことが多いものの、制度の目的が違うため、契約書と申告書で整合しているか確認しておきます。のれんの法人税の扱いは買い手がのれんを損金にできるスキームで解説しています。
負債の引受けも対価になる(裁決事例)
事業譲渡では、買い手が売り手の借入金や買掛金、未払金を引き受け、現金で払うのは差額だけ、という契約がよくあります。このとき、消費税の対価をどう考えるかが争われたのが次の裁決です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 裁決 | 国税不服審判所 平成20年12月15日裁決(裁決事例集No.76 475頁) |
| 事案 | 個人事業者が法人成りにあたり、事業用の資産と負債を新設法人に引き継いだ |
| 請求人の主張 | 組織的・有機的な一体である「営業」それ自体を一つの資産としてとらえるべきで、現物出資に当たる |
| 審判所の判断 | 消費税法には、資産と負債が一体となった「営業」を一つの課税対象とする規定はない。引継ぎは現物出資ではなく、法人が引き受けた負債の額を対価とした課税資産の譲渡に当たる |
国税不服審判所 平成20年12月15日裁決(裁決事例集No.76 475頁)。公表裁決事例
この考え方からすると、事業譲渡の対価は、買い手が支払う現金と、買い手が引き受ける負債の合計です。これを、課税資産と非課税資産の価額で区分します。
計算例
次の事業譲渡を考えます(金額は税抜、消費税率10%の単純な例です)。
| 譲渡する資産 | 対価の区分 | 課税・非課税 |
|---|---|---|
| 建物 | 3,000万円 | 課税 |
| 機械・備品 | 1,000万円 | 課税 |
| 在庫 | 1,500万円 | 課税 |
| のれん | 3,500万円 | 課税 |
| 土地 | 2,000万円 | 非課税 |
| 売掛金 | 1,000万円 | 非課税 |
| 合計 | 1億2,000万円 |
買い手は借入金2,000万円を引き受け、現金1億円を払う契約です。対価の合計は「現金1億円+負債2,000万円=1億2,000万円」で、課税資産の対価は9,000万円です。消費税は900万円で、買い手はこれを本体の対価とは別に売り手に支払い、売り手が申告・納付します。買い手は、要件を満たせば900万円を仕入税額控除できます。
「現金で払うのは1億円だけだから、課税資産は1億円から按分すればよい」と考えると、課税資産の対価を小さく計算してしまいます。負債を引き受ける契約では、とくに注意が必要です。
対価の区分:契約書に書くことが基本
合理的に区分されていないときは時価で按分
課税資産と非課税資産を同じ相手に同時に譲渡した場合、対価が合理的に区分されていないときは、それぞれの資産の時価の比率で按分します(消費税法施行令45条3項)。逆に言えば、契約書で合理的に区分していれば、その金額が基準になります。
裁決事例:契約書の価額が尊重された例と、名目にかかわらず対価とされた例
| 裁決 | 事案 | 判断 |
|---|---|---|
| 平成20年5月8日裁決(裁決事例集No.75 711頁) | 土地とともに取得した建物の課税仕入れの対価をいくらとみるか | 売買契約書に記載された建物の価額は当事者の意思を表示したもので、不合理な点もないとして、契約書の建物価額によるべきとした |
| 平成22年9月21日裁決 | 請負代金の一部が法人税法上は寄附金とされる場合の消費税の対価 | 当事者間で取り決めた実際の取引額として受け取った金額であれば、法人税で寄附金とされる部分があっても、消費税の対価の額に含まれる |
| 平成3年3月27日裁決(裁決事例集No.41 219頁) | 営業権を譲り受けた後に、売買価額を修正する覚書を交わして追加で支払った | 営業権の売買は当初の契約で完結しており、追加の支払は営業権の対価ではなく、譲渡人への寄付金とされた(法人税の事案) |
平成20年5月8日裁決は、契約書の価額が合理的なら尊重されることを示しています。一方、平成3年3月27日裁決は、後から対価を修正して追加で払うと、その支払が対価として扱われないことがあると示しています。事業譲渡で価格調整やアーンアウトを置く場合は、当初の契約で調整の方法を定めておくことが大切です。土地と建物の按分の考え方は土地と建物の価額の按分が争われた事例で詳しく取り上げています。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る売り手の注意点:課税売上割合と簡易課税
課税売上割合が下がることがある
売り手の会社は、事業譲渡をした課税期間に、土地などの非課税資産の譲渡対価を受け取ります。課税売上割合(課税売上高÷総売上高)の分母が大きくなり、割合が下がると、その課税期間の仕入税額控除が減ることがあります。
| 資産 | 課税売上割合の計算での扱い |
|---|---|
| 課税資産(建物・設備・のれんなど) | 分子と分母の両方に入る |
| 土地 | 分母にだけ入る(割合を下げる) |
| 売掛金(資産の譲渡等の対価として取得した金銭債権) | 計算に入れない(消費税法施行令48条2項2号) |
| 有価証券 | 譲渡対価の5%を分母に入れる(同条5項) |
課税売上割合が95%未満になると、課税仕入れの全額は控除できず、個別対応方式か一括比例配分方式で計算します(課税売上高が5億円を超える事業者は95%以上でも同様)。土地の多い事業を譲渡する場合は、譲渡の時期と課税期間の関係を事前に確認し、必要なら課税売上割合に準ずる割合の承認申請も検討します。
簡易課税を選択している場合
売り手が簡易課税を選択しているなら、事業用の固定資産の譲渡は、事業区分の判定が必要です。事業用の固定資産の譲渡は原則として第四種事業として扱われるため、本業の事業区分と異なるみなし仕入率になることがあります。どの区分になるかは、税理士と個別に確認してください。
インボイスの交付
売り手が適格請求書発行事業者なら、買い手が仕入税額控除を受けるために、課税資産の対価と税額を記載した適格請求書を交付します。事業譲渡契約書そのものに必要事項を記載して適格請求書とする方法もあります。
買い手の注意点:仕入税額控除を受けるために
確認すること
| 確認事項 | 内容 |
|---|---|
| 適格請求書の受領 | 売り手が適格請求書発行事業者か。契約書・請求書に登録番号、課税資産の対価、税率、税額があるか |
| 用途区分 | 個別対応方式なら、譲り受けた資産を課税売上げのみに使うか、共通用かを取得の日の状況で判定 |
| 住宅用建物の制限 | 住宅の貸付けに使う建物で、一定の高額なもの(居住用賃貸建物)は、仕入税額控除ができない(消費税法30条10項) |
| 調整対象固定資産 | 税抜100万円以上の建物・設備などは、取得後3年目の課税期間までに課税売上割合が著しく変動すると、控除額の調整が必要になることがある |
| 自社が課税事業者か | 免税事業者なら控除できない。新設会社で譲り受けるなら事前に確認 |
賃貸住宅を含む事業を譲り受ける場合、用途区分が争われた裁決もあります。平成24年1月19日裁決は、住宅の貸付けに使っている建物を販売用として取得した場合でも、課税仕入れの用途区分は課税用ではなく共通用に当たると判断しています(公表裁決事例)。用途区分は、課税仕入れを行った日の状況で判定するのが原則です(消費税法基本通達11-2-20)。
新しい会社で譲り受ける場合
買い手が、事業譲渡の受け皿として新しく会社を設立することもあります。合併や会社分割には、被合併法人・分割法人の基準期間の課税売上高をもとに納税義務を判定する特例(消費税法11条・12条)がありますが、事業譲渡にはこうした特例がありません。資本金1,000万円未満の新設法人は、原則として設立当初の課税期間は免税事業者になり得るため、そのままでは譲受けの際に払った消費税を控除できません。設立時の消費税の判定は新設法人の消費税で解説しています。課税事業者の選択届出の時期や、高額な資産を取得した場合の拘束(高額特定資産の特例)まで含めて、譲受けの前に計画しておきましょう。
資金繰りへの影響
事業譲渡の消費税は、対価とは別に買い手が売り手に支払い、買い手は申告で控除または還付を受けます。還付を受けるまでの間、買い手は消費税分の資金を立て替えることになるため、買収資金の融資を受ける場合は、消費税分のつなぎ資金も計画に入れておく必要があります。M&Aの資金調達の考え方はM&Aの買収資金の融資をご覧ください。
- 譲渡する資産を一覧にし、課税・非課税・対象外に区分したか
- のれんの対価を含め、資産の区分ごとの対価を契約書に書き、根拠を残したか
- 引き受ける負債を対価に含めて計算したか
- 売り手の課税期間の課税売上割合はどう変わるか。簡易課税の事業区分は確認したか
- 適格請求書の交付方法を決めたか
- 買い手が課税事業者か。用途区分、住宅用建物の制限、調整対象固定資産を確認したか
- 消費税分の資金(立替え・つなぎ資金)を手当てしたか
まとめ
- 事業譲渡は資産の個別の譲渡。建物・設備・在庫・のれんは課税、土地・売掛金・有価証券は非課税
- 引き受けた負債も対価になる(平成20年12月15日裁決)。現金だけで按分すると課税資産を小さく計算してしまう
- 対価は契約書で資産の区分ごとに決める。合理的な契約書の価額は尊重される(平成20年5月8日裁決)。後からの追加払いは対価と扱われないことがある(平成3年3月27日裁決)
- 売り手は課税売上割合の低下と簡易課税の事業区分、インボイスの交付に注意する
- 買い手は、仕入税額控除の要件、用途区分、住宅用建物の制限、免税事業者でないか、消費税分の資金を確認する
事業譲渡の消費税は、契約書の書き方ひとつで売り手・買い手双方の税額が変わります。クレフティでは事業承継・M&A支援として、譲渡資産の区分と対価の配分、売り手・買い手の消費税の試算、契約書の確認をお手伝いしています。初回のご相談は無料で、担当者がお話を伺います。
