M&Aの税務

買い手がのれんを損金にできるスキーム|資産調整勘定の5年償却(法人税法62条の8)と、株式取得では損金にならない理由

M&Aで、相手の会社の純資産よりも高い金額を払うことはよくあります。その差額がいわゆるのれんです。買い手の社長から多いのが「のれん代は経費になるのか」という質問ですが、答えは買い方(スキーム)によって変わります。株式を買えば損金になりませんが、事業譲渡などで一定の要件を満たせば、資産調整勘定として5年間で損金にできます。

この記事では、法人税法62条の8と施行令123条の10の条文、国税庁の明細書(別表十六(十一))、組織再編を使って資産調整勘定を作り出した取引が否認された最高裁判決(IDCF事件)をもとに、のれんを損金にできるスキームと注意点を整理します。

この記事の結論
  • 株式取得では、払った代金は株式の取得価額になり、売却するまで損金にならない。連結上ののれん償却は会計だけの話
  • 非適格合併、非適格分割・現物出資、事業の譲受け(事業と主要な資産・負債のおおむね全部が移転するもの)では、対価が時価純資産を超える部分が資産調整勘定になる(法人税法62条の8、施行令123条の10)
  • 資産調整勘定は、当初計上額を60で割って月数を掛けた額を毎期損金に算入する=5年均等
  • 株式を取得してから100%子会社を合併しても、通常は適格合併になり資産調整勘定は生じない
  • 税負担を減らすために組織再編の形式を作り出すと、行為計算否認(法人税法132条の2)の対象になりうる(最高裁平成28年2月29日判決)
  • 買い手の税務メリットは、売り手の税負担の増加と裏表。価格交渉で双方の手取りを比べる

株式取得では、なぜのれんが損金にならないのか

株式譲渡で会社を買うと、買い手が手に入れるのは株式です。株式は有価証券で、減価償却の対象ではありません。法人税法施行令119条1項1号は、購入した有価証券の取得価額を「購入の代価(購入手数料その他その有価証券の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)」と定めています。払った金額は、のれんに当たる部分も含めて全部が株式の取得価額になり、その株式を売却するまで損金になりません。

項目株式取得の場合の扱い
買い手の帳簿子会社株式(取得価額=購入代価+購入のための費用)
のれん相当額株式の取得価額に含まれたまま。償却できない
対象会社の資産帳簿価額のまま。時価に評価し直されない
連結決算ののれん償却会計上の処理で、税務の損金にはならない
損金になる時期株式を売却したとき(譲渡原価として)

買った後に合併しても、原則は変わらない

「株式を買ってから子会社を合併すれば、のれんを損金にできるのでは」と考える方もいますが、通常はできません。100%子会社との合併は、完全支配関係がある法人間の合併として適格合併になるのが通常で、子会社の資産・負債は帳簿価額で引き継がれ、資産調整勘定は生じないからです。合併の税務は合併で繰越欠損金を引き継げる場合・引き継げない場合でも解説しています。

資産調整勘定とは:法人税法62条の8の仕組み

対象になる取引

法人税法62条の8第1項は、内国法人が非適格合併等により資産・負債の移転を受けた場合に、交付した対価の額が、移転を受けた資産・負債の時価純資産価額を超えるときは、その超える部分のうち政令で定める部分を資産調整勘定とする、と定めています。

ここでいう非適格合併等は、適格合併に当たらない合併、または適格分割に当たらない分割、適格現物出資に当たらない現物出資、事業の譲受けのうち政令で定めるものです。施行令123条の10第1項は、分割・現物出資・事業の譲受けについて、事業と、その事業に係る主要な資産または負債のおおむね全部が移転するものに限っています。工場の機械だけを買う、顧客リストだけを買う、といった取引は対象外です。

計算と償却

項目内容根拠
資産調整勘定非適格合併等の対価 > 時価純資産価額 のときの差額(資産等超過差額を除く)法62条の8第1項、令123条の10第4項
時価純資産価額に含める営業権独立した資産として取引される慣習のある営業権(独立取引営業権)に限る令123条の10第3項
損金算入当初計上額÷60×当期の月数を毎期減額し、損金に算入(5年均等)法62条の8第4項・5項
初年度非適格合併等の日から期末までの月数で計算法62条の8第4項
退職給与負債調整勘定引き継いだ従業員の退職給与債務を引き受けた場合に負債として計上法62条の8第2項1号、令123条の10第7項
短期重要負債調整勘定おおむね3年以内に見込まれる重大な将来の債務の負担を引き受けた場合(取得資産の20%超の損失見込み)法62条の8第2項2号、令123条の10第8項
差額負債調整勘定対価 < 時価純資産価額 のときの差額(いわゆる負ののれん)。60か月で益金に算入法62条の8第3項・7項・8項
明細書計上した事業年度と減額する事業年度の確定申告書に添付令123条の10第9項、別表十六(十一)

国税庁の「別表十六(十一)の記載の仕方」は、当期に損金に算入すべき金額を「当初計上額×当期の月数÷60」で記載することとし、非適格合併等の日を含む事業年度は「非適格合併等の日から当該事業年度終了の日までの期間の月数」とすると説明しています。記載の仕方には令和7年改正前後の規定の区分も設けられており、改正後の取引は最新の様式で確認が必要です(国税庁:別表十六(十一)の記載の仕方(PDF)-ki.pdf))。

毎期の損金算入額 = 資産調整勘定の当初計上額 ÷ 60 × その事業年度の月数

スキーム別の比較

スキーム買い手でのれん相当額は損金になるか売り手側の主な課税
株式譲渡ならない(株式の取得価額)個人株主は譲渡益に20.315%の分離課税
株式取得後に100%子会社を合併通常は適格合併で、資産調整勘定は生じない同上
事業譲渡(事業と主要な資産・負債のおおむね全部)資産調整勘定として60か月で損金売り手の会社に譲渡益の法人税等。建物・設備・のれんは消費税の課税対象
会社分割で事業を新会社に移し、その株式を売る(非適格分割になる場合)新会社で資産調整勘定が生じうる分割の時点で売り手の会社に譲渡益の課税
現金を対価とする合併など(非適格合併)資産調整勘定として60か月で損金被合併法人に譲渡益の課税、株主にみなし配当・譲渡損益

会社分割の後に新会社の株式を第三者に売る予定がある場合、分割の時点で支配関係の継続が見込まれず、非適格分割になるのが一般的です。適格か非適格かの判定は要件が細かいため、組織再編の適格要件の基本と会社分割の税務をご覧ください。

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否認された例:IDCF事件(最高裁平成28年2月29日判決)

資産調整勘定は、組織再編の形式によって生じたり生じなかったりします。そのため、税負担を減らす目的で非適格の形を作り出す取引が問題になりました。

最高裁第二小法廷平成28年2月29日判決(平成27年(行ヒ)第177号、民集70巻2号470頁)の事案では、新設分割で設立された会社(分割承継法人)が、分割は適格分割に当たらないとして資産調整勘定を計上しました。分割後に分割法人がその新会社の株式全部を譲渡する計画を前提としていたためです。

最高裁は、この分割は、翌事業年度以降は損金に算入できなくなる分割法人の未処理欠損金額約100億円を新会社の資産調整勘定に転化させ、以後60か月にわたり償却できるようにするため、本来必要のない株式の譲渡を介在させて、実質的には適格分割というべきものを形式的に非適格としたものだと認定しました。そして、組織再編成に係る行為計算否認の規定(平成22年改正前の法人税法132条の2)にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たると判断しています。

判決は、この「不当に減少させる」の意味について、組織再編税制の規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものをいうとし、その判断に当たっては、

  1. 通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものかどうか
  2. 税負担の減少以外に、そのような行為を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由があるかどうか

などを考慮するとしました。

判決の確認先

最高裁判所第二小法廷 平成28年2月29日判決・平成27年(行ヒ)第177号 法人税更正処分等取消請求事件。裁判所ウェブサイト(判例情報)

第三者との通常のM&Aで、事業の切り出しが取引の目的そのものである場合と、この事件のようにグループ内で税負担の減少を主な目的として手順を組んだ場合とでは、事情が大きく違います。同じ日の最高裁判決(ヤフー事件)を含む組織再編の重要判例はM&A・組織再編の税務の重要判例で取り上げます。

関係会社の間の「営業権の対価」にも注意

名古屋地方裁判所平成27年3月5日判決(平成24年(行ウ)第105号)は、ゴルフ場運営会社が代表者を同じくする法人にゴルフ場の営業権の対価名目で支払った金銭について、両法人の間で営業権の譲渡がされたという事実は認められないとして、寄附金に当たるとした更正処分を適法としました。のれんや営業権の対価は、第三者との交渉で決まった価格であることや、算定の根拠を説明できることが前提になります。

判決の確認先

名古屋地方裁判所 平成27年3月5日判決・平成24年(行ウ)第105号 法人税更正処分等取消請求事件。裁判所ウェブサイト(裁判例情報)

税務メリットは価格にどう効くか

のれんが損金になると、買い手は5年間にわたって法人税等を減らせます。ただし、そのメリットは売り手の税負担の増加と裏表の関係にあります。単純な数字で比べてみます(法人税等の実効税率を仮に30%とし、資産の帳簿価額と時価は同じ、時間価値・消費税・地方税の細かい差は考えないものとします)。

前提株式譲渡事業譲渡
対象会社の時価純資産1億円、価格3億円株式を3億円で取得事業を3億円で譲受け
買い手の損金なし(株式を売るまで)資産調整勘定2億円を5年で損金(年4,000万円)。税負担の軽減は計6,000万円
売り手の課税オーナー個人の譲渡益に20.315%売り手の会社の譲渡益2億円に法人税等(同じ仮定で6,000万円)。さらに、代金をオーナー個人に移すときに課税
消費税株式の譲渡は非課税のれん・建物・設備は課税。買い手は仕入税額控除の対象になるが、資金負担が生じる

この例では、買い手の税負担の軽減(6,000万円)と、売り手の会社の追加の税負担(6,000万円)がちょうど打ち消し合い、売り手にはさらにオーナー個人への移転の課税が残ります。買い手が事業譲渡を望むなら、税務メリットの一部を価格に上乗せしなければ、売り手は応じにくいということです。どちらの形が双方にとって得かは、売り手の繰越欠損金の有無、退職金の組み合わせ、不動産の有無で変わります。事業譲渡と株式譲渡の違いは事業譲渡と株式譲渡の違い、売り手側の手取りの試算は退職金と株式売却の税率の違いをご覧ください。

会計と銀行の見え方

税務の資産調整勘定(60か月)と、会計上ののれん(効果の及ぶ期間にわたり20年以内で償却し、収益力が落ちれば減損)は、期間も金額も一致しないのが普通です。税務と会計の違いはのれんの会計処理と決算書・銀行の見え方で詳しく扱います。

金融機関は、決算書ののれんを、実態の純資産を見るときには差し引いて評価することがあります。のれんが大きい会社は、帳簿上は資産超過でも、実態では純資産が小さく見えるということです。著書のモデルでは、プロパー融資の目安を「正常先+純資産1億円」としていますが、のれんの大きい買収を重ねると、この基準を満たしにくくなります。一方、資産調整勘定の損金算入で税負担が減れば、手元の資金が増え、返済原資は厚くなります。M&A融資の返済期間の考え方はM&A融資の返済期間の考え方、融資の全体像はM&A・買収資金の融資で整理しています。

まとめ

  • 株式取得では、のれん相当額は株式の取得価額に含まれ、売却するまで損金にならない。買った後に100%子会社を合併しても、通常は適格合併で資産調整勘定は生じない
  • 非適格合併、非適格分割・現物出資、事業の譲受け(事業と主要な資産・負債のおおむね全部)では、対価が時価純資産を超える部分が資産調整勘定になる
  • 資産調整勘定は当初計上額÷60×月数で毎期損金に算入(5年均等)。申告書に別表十六(十一)を添付する
  • 形式を作り出して資産調整勘定を生じさせた取引は、法人税法132条の2で否認された(IDCF事件・最高裁平成28年2月29日判決)
  • 買い手の税務メリットは、売り手の税負担の増加と裏表。双方の手取りを比べて価格とスキームを決める

クレフティでは事業承継・M&A支援として、スキームごとの売り手・買い手双方の税負担の試算、株価算定、財務・税務デューデリジェンスをお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士が対応します。

よくある質問

株式を買ってM&Aをした場合、のれん代は損金になりますか?
なりません。株式は有価証券で減価償却の対象ではなく、払った代金は株式の取得価額になり、売却するまで損金になりません(法人税法施行令119条1項1号)。連結決算でのれんを償却しても、それは会計上の処理で、税務の損金にはなりません。また、100%子会社にしたあとで合併しても、通常は適格合併になり資産は帳簿価額で引き継がれるため、資産調整勘定は生じません。
資産調整勘定は、何年で損金にできますか?
当初の計上額を60で割り、その事業年度の月数を掛けた金額を毎期減額し、損金に算入します(法人税法62条の8第4項・5項)。つまり5年間の均等償却です。非適格合併等の日を含む事業年度は、その日から期末までの月数で計算します。計上した事業年度と減額する事業年度の確定申告書には、明細書(別表十六(十一))を添付する必要があります。
事業譲渡なら、どんな場合でも資産調整勘定になりますか?
なりません。事業の譲受けで資産調整勘定の対象になるのは、譲渡した法人の事業と、その事業に係る主要な資産・負債のおおむね全部が移転する場合です(法人税法施行令123条の10第1項)。設備だけを買うような取引は対象外です。また、関係会社の間で実態のない営業権の対価を払ったとして寄附金と認定された裁判例(名古屋地裁平成27年3月5日判決)もあり、価格の根拠を説明できることが前提です。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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