企業価値と株価

のれんの会計処理と税務|20年以内の償却・減損、資産調整勘定の5年償却と、決算書・銀行の見え方

M&Aで会社や事業を買うと、多くの場合、買収価格は相手の純資産より高くなります。この「純資産を超えて払った部分」がのれんです。のれんは、ブランド、顧客基盤、人材、ノウハウなど、貸借対照表に載っていない「稼ぐ力」への対価と考えられています。

のれんは、会計と税務でルールが違います。会計では20年以内に規則的に償却し、価値が落ちれば減損します。税務では、取引の形によって5年で損金になる場合と、まったく損金にならない場合があります。さらに銀行は、のれんを独自の目線で評価します。この記事では、のれんの会計処理と税務、決算書と銀行の見え方を、買い手の立場で整理します。

この記事の結論
  • のれんは「買収価格 − 受け入れた資産・負債の時価純資産」。目に見えない稼ぐ力への対価
  • 会計では、20年以内の効果の及ぶ期間で規則的に償却し、収益力が落ちれば減損する
  • 税務では、事業譲渡・非適格合併などなら資産調整勘定として60か月(5年)で均等に損金。株式を買っただけでは損金にならない
  • 中小企業が株式譲渡で買った場合、個別の決算書には「子会社株式」として載り、のれんは出てこない
  • 銀行は、のれんを実態の純資産から除いて見ることが多い。一方、償却費は返済能力の計算で足し戻す

のれんとは何か

のれんは、次のように計算します。

のれん = 買収の対価 −(受け入れた資産の時価 − 引き受けた負債の時価)※買収の対価が時価純資産を下回る場合は「負ののれん」になる

たとえば、時価純資産が1億円の事業を3億円で買えば、のれんは2億円です。M&Aの価格は、正常化した利益(正常EBITDA)の何年分かで考えることが多いため、利益に比べて純資産が小さい会社ほど、のれんは大きくなります。価格の考え方は正常EBITDAとはと株式価値と事業価値の違いをご覧ください。

のれんが「決算書に出る」取引と「出ない」取引

取引の形買い手の個別の決算書税務
事業譲渡受け入れた資産・負債とのれんを計上要件を満たせば資産調整勘定(5年で損金)
合併(非適格)受け入れた資産・負債とのれんを計上要件を満たせば資産調整勘定
株式譲渡(株式を買う)子会社株式を取得価額で計上。のれんは出ない株式の取得価額。償却できない
株式譲渡+連結財務諸表連結上でのれんを計上・償却税務には影響しない

中小企業の多くは連結財務諸表を作らないため、株式譲渡で会社を買うと、のれんは「子会社株式」の中に埋もれて見えなくなります。それでも、払った金額のうち時価純資産を超える部分がのれんに相当することに変わりはありません。

会計のルール:20年以内の償却と減損

日本の会計基準(企業結合に関する会計基準)では、のれんは資産に計上し、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却します。金額に重要性が乏しい場合は、発生した年度の費用にすることもできます。負ののれんは、原則として発生した年度の利益として処理します。

償却期間は「効果の及ぶ期間」で決める

償却期間は、20年以内で自由に選べるわけではなく、のれんの効果が続くと見込まれる期間で決めます。買収価格の前提にした事業計画の期間、顧客との取引が続く見込み、技術の陳腐化の速さなどが判断材料になります。

償却期間を短くすると償却期間を長くすると
毎年の償却費が大きく、営業利益が小さく見える毎年の償却費が小さく、営業利益が大きく見える
減損のリスクは相対的に小さい業績が計画に届かないと減損のリスクが大きい

減損:買収時の期待どおりに稼げないとき

買収した事業の収益力が、買収時の想定より大きく落ちた場合は、固定資産の減損の会計基準に沿って、のれんの帳簿価額を回収できる金額まで減額します(減損損失)。株式譲渡で買った場合も、子会社の財政状態が悪化して株式の実質価額が著しく下がれば、子会社株式の評価の見直しが必要になります。

のれんの償却期間や減損の判断は、決算書の表示に直結する会計上の判断です。会社法431条は「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」に従うことを求めており、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿った処理が必要です。一方、法人税法22条4項も「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って所得を計算するとしていますが、損金になるかどうかは法人税法の個別の規定で決まります。会計と税務の関係は税務上の損金と企業会計(GAAP)の違いで詳しく解説しています。

なお、上場企業などからは、のれんを償却しない扱いを認めるよう求める声もあり、会計基準の設定の場で議論が続いてきました。2026年10月時点で、日本の会計基準の「規則的に償却する」というルールは変わっていません。

株主構成の整理から、承継・売却まで一緒に考えます

M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。

事業承継・M&A支援を見る

税務のルール:資産調整勘定の5年償却

税務では、会計ののれんとは別に、資産調整勘定という仕組みがあります。

非適格合併や、事業とその主要な資産・負債のおおむね全部を移す事業譲渡などで、払った対価が受け入れた資産・負債の時価純資産を超える場合、その差額は資産調整勘定となります。資産調整勘定は、当初の金額を60で除して、その事業年度の月数を掛けた金額を毎年減額し、損金に算入します(法人税法62条の8第4項)。つまり、会計上の償却期間が10年でも20年でも、税務上は5年で均等に損金になります。

計算例:会計と税務で償却がずれる

事業譲渡でのれん1億円が生じ、会計上10年で償却したとします(税務上も同額の資産調整勘定が生じたと仮定)。

年度会計上の償却費税務上の損金(資産調整勘定の減額)申告書での調整
1〜5年目毎年1,000万円毎年2,000万円毎年1,000万円を減算
6〜10年目毎年1,000万円なし毎年1,000万円を加算

最初の5年間は、決算書の利益より税務上の所得が小さくなり、法人税が軽くなります。6年目以降は逆に、決算書では償却費が出ているのに税務上は損金にならず、税負担が重く見えます。キャッシュ・フロー計画は税務の5年償却で、決算書の見え方は会計の償却期間で、別々に試算しておく必要があります。

株式を買っただけでは損金にならない

株式譲渡で会社を買った場合、払った金額は子会社株式の取得価額になり、税務上ののれん(資産調整勘定)は生じません。のれんに相当する部分を損金にしたい場合は、事業譲渡や、買収後の合併の税務上の扱いを事前に検討する必要があります。考え方は買い手がのれんを損金にできるスキームで解説しています。

ただし、税負担を減らすことだけを目的に組織再編の形を作ると、否認されることがあります。最高裁第二小法廷平成28年2月29日判決(平成27年(行ヒ)第177号、IDCF事件)は、分割承継法人の株式を分割直後に譲渡する計画を前提とした新設分割について、資産調整勘定を生じさせて損金に算入するための行為として、組織再編成に係る行為計算の否認規定(法人税法132条の2)の適用を認めました(裁判所ウェブサイト)。スキームは事業上の目的とセットで設計することが欠かせません。

銀行から見たのれん

実態の純資産からは外して見られやすい

のれんは、売って現金にできる資産ではありません。そのため銀行は、決算書を実態に引き直して見るとき、のれんを資産から除いたり、大きく割り引いたりして純資産を評価することがあります。決算書では資産超過でも、のれんを除くと債務超過に近い、という会社は、追加の融資で慎重に見られます。

代表の相亰の著書では、プロパー融資の目安を「正常先+純資産1億円」としています。M&Aで買収を重ねる会社は、のれんを除いた純資産でこの水準に届いているかを意識しておくとよいでしょう(純資産1億円の壁)。

償却費は返済能力の計算で足し戻す

一方で、のれんの償却費は、現金が出ていかない費用です。著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で返済能力を見ますが、のれんの償却費も減価償却費と同じように足し戻して返済原資を考えるのが一般的です。償却で営業利益が小さく見えても、キャッシュ・フローで返済できることを説明できれば、融資の評価は大きく崩れません。考え方は減価償却費と銀行の見方もご覧ください。

減損は「計画どおりに稼げていない」サイン

注意したいのは減損です。のれんの減損は、買収時の事業計画を下回ったことを決算書で示すことになります。銀行は、減損の金額そのものより、その原因と今後の計画を確認します。M&A融資の返済期間を考えるときも、のれん部分は不動産などの資産部分と分けて、収益から返せる期間を見積もります(M&A融資の返済期間の考え方)。

クレフティでは、専門職の会社(年商5,000万円)の9,000万円のM&Aで、政府系金融機関と地方銀行の協調融資により、買収資金と統合後の運転資金を調達したご支援の事例があります。のれんを含む買収の場合、買収後の決算書がどう見えるかを事前に示しておくことが、融資の説明の要になります。

買収の前に確認しておきたいこと

のれんの処理は、買収が終わってから考えるのでは遅く、価格とスキームを決める段階で試算しておくべきものです。

  1. のれんの見込み額:買収価格と、DDで確認した時価純資産の差額はいくらか
  2. スキームと税務:株式譲渡か事業譲渡か。資産調整勘定が生じるか、要件を満たすか
  3. 会計上の償却期間:買収価格の前提にした事業計画の期間と整合しているか
  4. 買収後3〜5年の決算書の見え方:償却費を入れた営業利益、のれんを除いた純資産、債務償還年数
  5. 減損の兆候を早めにつかむ仕組み:月次の業績を、買収時の計画と比べて管理する

買い手側の税務全体は買い手側の税務で扱います。

まとめ

  • のれんは「買収の対価 − 時価純資産」。株式譲渡で買った中小企業の個別の決算書には、子会社株式として載る
  • 会計では20年以内の効果の及ぶ期間で規則的に償却し、収益力が落ちれば減損する
  • 税務では、事業譲渡・非適格合併などなら資産調整勘定として5年で損金。株式を買っただけでは損金にならない
  • 会計と税務の償却のずれは、キャッシュ・フロー計画と決算書の見え方の両方で試算する
  • 銀行は、のれんを実態の純資産から外して見る一方、償却費は返済能力の計算で足し戻す

クレフティには、大手FASや監査法人でM&Aの財務・会計を担当してきた公認会計士・税理士が在籍し、買収スキームごとののれんの会計・税務の比較や、買収後の決算書・融資への影響の試算をお手伝いしています。初回のご相談は無料で、担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。詳しくは事業承継・M&A支援をご覧ください。

よくある質問

会社を株式譲渡で買ったとき、買い手の決算書にのれんは出てきますか?
買い手が連結財務諸表を作らない中小企業の場合、個別の決算書には買収した会社の株式が「子会社株式」として取得価額で計上され、のれんという科目は出てきません。のれんが表に出るのは、事業譲渡や合併で資産・負債を直接受け入れた場合や、連結財務諸表を作る場合です。ただし、子会社の業績が悪化して株式の実質価額が大きく下がれば、子会社株式の評価の見直しが必要になることがあります。
のれんの償却費は、税金の計算でも経費になりますか?
取引の形によって違います。事業譲渡や非適格合併などで生じたのれんは、税務上は資産調整勘定として、会計上の償却年数とは関係なく60か月(5年)で均等に損金になります(法人税法62条の8)。一方、株式を買っただけでは税務上ののれんは生じず、取得価額は株式の帳簿価額になるため、償却して損金にすることはできません。
のれんが大きいと、銀行の評価は下がりますか?
下がる方向に働くことが多いと考えてください。のれんは換金できる資産ではないため、銀行は実態のバランスシートを見るときに、のれんを資産から除いたり大きく割り引いたりして純資産を評価することがあります。一方で、のれんの償却費は現金が出ていかない費用なので、返済能力を見るときには減価償却費と同じように足し戻して考えるのが一般的です。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

RELATED

あわせて読みたい

企業価値と株価

年買法(時価純資産+利益×年数)とは|中小企業M&Aでの使われ方と、知っておきたい限界

中小企業のM&Aでよく使われる年買法(時価純資産に数年分の利益を足す方法)を、中小企業庁の中小M&Aガイドラインの記述と計算例で解説。加算する利益の種類と年数の決まり方、EV/EBITDA倍率法との違い、成長性や資産の偏りを反映しにくいといった限界、相続税の営業権評価との違いまで整理します。

2026年10月18日
企業価値と株価

企業価値の前提になる事業計画の妥当性|DCF法で株価が大きく変わる理由と、買い手・銀行が見るポイント

DCF法の株価は、事業計画の数字しだいで大きく変わります。最高裁令和8年9月30日決定で示された理論株価の幅、金融庁が示す「実現可能性の高い」計画の考え方をもとに、売上・利益・設備投資・運転資本の前提の作り方、買い手のDDでの検証、銀行の見方、売り手が準備すべきことを解説します。

2026年10月18日
企業価値と株価

取引先が集中している会社の評価と売り方|1社依存は株価をどう下げるか、価格を守る契約と準備

売上の多くを1社や少数の取引先に頼る会社は、M&Aで評価が下がりやすくなります。取引先の集中が株価に効く仕組み(倍率・割引率・正常EBITDA)、買い手がDDで見る契約のチェンジ・オブ・コントロール条項、アーンアウトや表明保証での対応、2026年施行の取適法、売る前にできる準備を解説します。

2026年10月18日
FREE CONSULTATION

決算書と融資のこと、
まずはお気軽にご相談ください。

初回のご相談は無料です。まずは担当者がお話を伺い、内容に応じて担当税理士や金融機関出身のコンサルタントがご提案します。