企業価値と株価

会社が持つ不動産と企業価値|含み益・含み損はM&A価格と相続税評価でどう扱われるか(裁決・判例つき)

本社の土地、工場、賃貸ビル、社宅、遊休地。中小企業の中には、事業そのものより会社が持つ不動産のほうが価値が大きいという会社も少なくありません。こうした会社を売る、あるいは承継するときに問題になるのが、不動産の含み益・含み損です。

会社が持つ不動産は、帳簿価額・時価・相続税評価額という3つの値段を持っています。どの値段で見るかによって、株価も、税金も、銀行の評価も変わります。この記事では、M&Aの価格と相続税評価で不動産がどう扱われるかを、国税不服審判所の裁決と最高裁判決も紹介しながら整理します。

この記事の結論
  • 会社の不動産は「帳簿価額」「時価」「相続税評価額」の3つの値段を持つ。目的によって使う値段が違う
  • M&Aでは不動産を時価に置き直すことが多い。ただし含み益の全額は上乗せされず、税金相当額や事業用か非事業用かで扱いが変わる
  • 相続税評価では、会社が3年以内に取得した土地・建物は通常の取引価額で評価する。行き過ぎた対策は総則6項で否認されることがある
  • 株式譲渡と事業譲渡では、不動産にかかる税金(不動産取得税・登録免許税・消費税)が大きく違う
  • 銀行は不動産の含み損益を反映した実態BSで会社を見る

会社の不動産は「3つの値段」を持つ

値段意味使われる場面
帳簿価額(簿価)取得価額から減価償却を引いた、決算書の金額決算書、法人税の計算、簿価純資産法
時価市場で売れる価格(不動産鑑定、取引事例、収益還元)M&Aの時価純資産法、銀行の実態BS
相続税評価額土地は路線価など、建物は固定資産税評価額をもとにした評価自社株の相続税評価(純資産価額方式)

土地は取得した時期によって、帳簿価額と時価が大きく違うことがあります。昔に買った土地は含み益、高い時期に買った土地や地方の物件は含み損を抱えていることがよくあります。建物は、減価償却で帳簿価額が下がっていく一方、相続税評価額(固定資産税評価額)は帳簿価額とは別に決まります。

含み益・含み損の基本的な考え方は含み益・含み損と銀行の実態BSでも整理しています。

M&Aの価格では、不動産はどう扱われるか

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」参考資料2は、時価純資産法について、資産・負債をすべて時価評価するのではなく、株式価値への影響が大きく、比較的時価が把握しやすい不動産や有価証券など一部の資産・負債だけを時価評価する「修正簿価純資産法」を用いるケースも多いとしています。中小M&Aで、不動産の時価がいかに重要かが分かります。

ただし、含み益をそのまま株価に上乗せできるかというと、そうとは限りません。

論点考え方
含み益にかかる税金株式譲渡なら不動産は会社に残り、将来売れば会社に法人税等がかかる。買い手はその税金相当額を差し引いて考えることがある
事業用か非事業用か本社・工場など事業に使う不動産は、事業の収益力(EBITDAなど)の中で評価される。遊休地や投資用の物件は、事業価値とは別に足すことが多い
賃料の正常化オーナー個人の土地を会社が借りている場合、相場との差で利益を引き直す
含み損時価純資産が減り、株価は下がる。修繕の先送りや土壌・遵法性の問題があれば、さらに減額要因になる

計算例:含み益の扱いで株価はこれだけ変わる

説明用の単純な例で確認します。簿価純資産が1億円の会社が、帳簿価額5,000万円・時価2億円の遊休地を持っているとします。含み益は1億5,000万円です。

考え方株式価値の目安
簿価純資産法1億円
含み益を全額足す2億5,000万円
含み益から税金相当額を引いて足す(説明用に税率30%と仮定)2億500万円

含み益の扱いだけで、株式価値の目安に1億5,000万円もの幅が出ます。売り手は「時価で足してほしい」、買い手は「税金分は引きたい」「そもそも土地は要らない」と考えるのが普通で、ここが交渉の大きな論点になります。

DCF法の考え方でも、遊休不動産は事業のキャッシュ・フローを生まない非事業用資産として、事業価値に別途加えるのが一般的です(DCF法を中小企業に使うときの注意点)。

不動産の「中身」はDDで確認される

買い手は、不動産の価値を登記や固定資産税の通知書だけで判断しません。権利関係(借地・共有・担保)、建築基準法などの遵法性、土壌汚染、修繕の状況などを不動産DDで確認します。問題が見つかれば、価格の引下げや売却前の是正を求められます。詳しくはM&Aでの不動産DDで扱います。

相続税評価では、不動産はどう扱われるか

親族内の相続・贈与では、自社株は財産評価基本通達で評価します。純資産価額方式では、会社が持つ土地を路線価など、建物を固定資産税評価額で評価し直し、含み益(評価差額)の38%を差し引きます(2026年4月1日以後の相続・贈与。それより前は37%)。基本は自社株評価の方法をご覧ください。

ここで重要なのが、次の2つのルールです。

  • 3年ルール:会社が課税時期前3年以内に取得・新築した土地・建物は、路線価などではなく「通常の取引価額」で評価する(財産評価基本通達185)
  • 土地保有特定会社:総資産に占める土地等の割合が一定以上の会社は、原則として純資産価額方式だけで評価する(詳しくは土地保有特定会社・株式等保有特定会社の株価評価)

公表されている裁決・判例

不動産を持つ会社の株式評価をめぐっては、次のような裁決・判決が公表されています。

裁決・判決争点判断
国税不服審判所 平成10年6月5日裁決(裁決事例集No.55 581頁)相続開始の約2年前に取得した建物の「通常の取引価額」を、帳簿価額とするか鑑定評価額とするか鑑定の根拠に不相当な点はなく、鑑定評価額を通常の取引価額とした
国税不服審判所 平成18年4月11日裁決(裁決事例集No.71 606頁)3年以内に取得した代替資産を、圧縮記帳後の帳簿価額で評価できるか圧縮記帳後の価額は法人税法上のもので、客観的な交換価値を示すものとは認められない
国税不服審判所 平成8年6月27日裁決(裁決事例集No.51 638頁)借入で会社を設立し、著しく低い価額で現物出資して評価差額を作った場合に、法人税額等相当額を控除できるか相続税の負担を不当に軽減する目的と推認され、控除しないで評価しても違法ではない
最高裁第三小法廷 令和4年4月19日判決(令和2年(行ヒ)第283号)借入で購入した賃貸マンション2棟を、通達評価額ではなく鑑定評価額で課税できるか相続税の負担軽減を意図した購入・借入れで、通達評価では課税価格の合計額が6億円超から約2,826万円に下がり相続税が0円になっていた。鑑定評価額での課税は平等原則に反しない

最高裁判決の事案は、個人が直接持っていた不動産についてのものですが、財産評価基本通達の定めどおりの評価でも、実質的な租税負担の公平に反する特段の事情があれば通達によらない評価が認められるという枠組みは、会社の株式の評価にも及びます。判決の詳しい内容はタワマン節税の最高裁判決と総則6項をご覧ください(判決文は裁判所ウェブサイト)。

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株式譲渡と事業譲渡で、不動産の税金は大きく違う

不動産を持つ会社を売るときは、どの手法で売るかで税金が大きく変わります。

項目株式譲渡(会社ごと売る)事業譲渡・不動産の個別売却
不動産の名義会社のまま。移転しない買い手に移転する
不動産取得税・登録免許税不動産の移転がないため、原則かからない買い手側にかかる
消費税株式の譲渡は非課税建物は課税、土地は非課税
含み益への課税売り手株主の株式譲渡益として課税。会社の含み益は会社に残る売り手の会社に譲渡益として法人税がかかる
買い手が引き継ぐリスク過去の税務・労務・簿外債務も含めて引き継ぐ契約で選んだ資産・負債だけ

不動産を多く持つ会社は、株式譲渡のほうが買い手の取得コストを抑えやすい一方、会社の過去のリスクも一緒に引き継がれます。売り手としては、事業に必要のない不動産を売却前に切り離すという選択肢もあります。考え方は不動産を会社から切り離してから売る方法と不動産M&A(株式譲渡)の仕組みと税金で解説しています。

銀行は「実態BS」で不動産を見る

銀行は、決算書の帳簿価額だけでなく、不動産の時価を反映した実態BSで会社の財務を評価します。含み益があれば実質的な純資産が厚く、含み損があれば薄く見られます。

代表の相亰自身、2019年に複数の銀行から融資を止められた経験があります。減価償却が速い物件が多く、貸借対照表上の資産の簿価より負債のほうが大きい債務超過の状態になっていたことが原因でした。簿価と時価のずれは、売却の場面だけでなく、融資の場面でも会社の評価を左右します。

M&Aで不動産を持つ会社を買う側も、銀行は不動産部分とのれん部分を分けて返済の見通しを確認することがあります。不動産の担保価値が明確なら、融資の組み立ても考えやすくなります。M&A融資の返済期間の考え方はM&A融資の返済期間の考え方で扱います。

まとめ

  • 会社の不動産は「帳簿価額」「時価」「相続税評価額」の3つの値段を持つ。どの場面の話かを分けて考える
  • M&Aでは不動産を時価に置き直すが、含み益の全額が上乗せされるわけではない。税金相当額、事業用か非事業用かで扱いが変わる
  • 相続税評価では、3年以内に取得した不動産は通常の取引価額。評価差額を人為的に作る対策は、裁決や最高裁判決で否認されている
  • 株式譲渡と事業譲渡では、不動産取得税・登録免許税・消費税の負担が大きく違う
  • 銀行は含み損益を反映した実態BSで会社を見る。不動産の整理は、売却・承継・融資をまとめて設計する

クレフティでは、不動産を持つ会社の株価算定、M&Aと相続税評価の比較、売却手法ごとの税負担の試算をお手伝いしています。初回のご相談は無料で、担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士が対応します。詳しくは事業承継・M&A支援をご覧ください。

よくある質問

会社の土地に含み益があれば、その分だけ株式は高く売れますか?
含み益の全額が上乗せされるとは限りません。株式譲渡で会社ごと引き継ぐ場合、将来その土地を売れば会社に法人税等がかかるため、買い手は含み益にかかる税金相当額を差し引いて考えることがあります。また、本社や工場など事業に使っている不動産は、事業の収益力の中で評価され、含み益を別に足さないこともあります。
相続の直前に会社で不動産を買えば、株価は下がりますか?
すぐには下がりません。財産評価基本通達185により、会社が課税時期前3年以内に取得・新築した土地・建物は、路線価などではなく通常の取引価額で評価します。さらに、相続税の負担軽減を目的とした借入による不動産購入について、最高裁(令和4年4月19日判決)は通達評価を上回る鑑定評価額での課税を認めました。3年経てば必ず安全というわけでもありません。
含み損のある不動産を持つ会社でも、M&Aで売れますか?
売れる可能性はあります。含み損は時価純資産を減らすため株式の価格は下がりますが、事業そのものに収益力があれば買い手はつきます。売却前に不動産を切り離す、事業譲渡で必要な資産だけを渡すなどの方法もあります。ただし、手法によって法人税・消費税・不動産取得税・登録免許税の負担が変わるため、比較してから決めることが大切です。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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