M&Aの税務

M&Aの印紙税・登録免許税・不動産取得税|株式譲渡・事業譲渡・合併・会社分割の移転コスト比較

M&Aの税金というと、売り手の譲渡益課税に目が向きがちです。けれども、会社や事業を移すときには、印紙税・登録免許税・不動産取得税という「移転のコスト」もかかります。特に不動産を持つ会社では、取引の形によって数百万円単位の差がつくこともあります。

この記事では、M&Aの代表的な4つの形(株式譲渡・事業譲渡・合併・会社分割)について、どの税金がどれだけかかるのかを、国税庁と東京都主税局の資料で確認して整理します。具体的な試算例と、資金繰り・銀行への影響もあわせて解説します。

この記事の結論
  • 株式譲渡は、株主が替わるだけなので、不動産の登録免許税・不動産取得税はかからず、株式譲渡契約書も原則として印紙税の課税文書ではない
  • 事業譲渡は、不動産を個別に移すため、登録免許税(売買:原則2%、土地は令和11年3月31日まで1.5%)と不動産取得税がかかり、契約書は第1号文書になる
  • 合併は、登録免許税0.4%、不動産取得税は非課税、合併契約書の印紙税は4万円
  • 会社分割は、一定の要件で不動産取得税が非課税になるが、登録免許税は原則2%
  • 移転コストは、売り手の手取り・買い手のリスク・のれんの扱いとあわせて比較する

取引の形ごとの税金の全体像

まず、4つの形でどの税金がかかるかを一覧にします。

税目株式譲渡事業譲渡合併会社分割
印紙税(契約書)原則かからない第1号文書(契約金額に応じて)第5号文書:4万円第5号文書:4万円
登録免許税(不動産の所有権移転)かからない売買:原則2%(土地は1.5%の軽減あり)0.4%原則2%
不動産取得税かからないかかる非課税一定の要件で非課税
登録免許税(商業登記)役員変更などのみ役員変更などのみ資本金増加:0.15%など資本金増加・設立:0.7%など
消費税株式の譲渡は非課税建物・設備・のれん等は課税不課税(包括承継)不課税(包括承継)

株式譲渡は、会社そのものは変わらず、不動産も会社の名義のままなので、移転コストがほとんどかかりません。逆に事業譲渡は、資産を一つずつ売買する形なので、不動産を移すたびに登録免許税と不動産取得税がかかります。

印紙税:契約書ごとの扱い

国税庁の「印紙税額一覧表」(令和8年6月現在)で、M&Aに関係する文書を確認します。

文書区分印紙税額
株式譲渡契約書課税文書に列挙なし原則不要
事業譲渡契約書第1号文書(営業の譲渡に関する契約書)記載された契約金額に応じて200円〜60万円
合併契約書第5号文書4万円
吸収分割契約書・新設分割計画書第5号文書4万円
不動産売買契約書第1号文書(令和9年3月31日までは軽減税率)契約金額に応じて
買収ローンの金銭消費貸借契約書第3号文書契約金額に応じて
株式の譲渡代金の受取書第17号文書(売上代金以外の受取書)200円

ポイントは次のとおりです。

  • 第1号文書は「不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約書」で、株式の譲渡は含まれていません
  • 合併契約書は会社法に規定する合併契約、吸収分割契約書・新設分割計画書は会社法に規定するものに限って第5号文書です。新設分割計画書は本店に備え置くものに限り課税されます
  • 国税庁の質疑応答事例「吸収分割契約書・新設分割計画書の範囲」では、吸収分割契約書に承継財産として不動産の記載があっても、それだけで「不動産の譲渡に関する契約書」には当たらないとされています
  • 株券等の譲渡代金は「売上代金」から除かれるため、受取書は売上代金以外の受取書(200円)として扱われます

契約書の通数と写し

印紙税は、課税文書1通ごとにかかります。売り手と買い手がそれぞれ原本を持つ場合は、2通とも課税対象です。一方、原本をコピーしただけの写しは原則として課税されませんが、写しに当事者が署名・押印するなど、契約の成立を証明する目的で作成したものは課税文書になることがあります。事業譲渡契約書のように税額が大きくなる文書は、原本を1通だけ作成して一方が保管し、他方は写しを持つ方法も検討されます。

電子契約で締結した場合は、紙の文書を作成しないため、印紙税はかかりません(電子契約と印紙税)。不動産売買契約書の印紙税の基本は不動産の契約書と印紙税で解説しています。

登録免許税:不動産と商業登記

不動産の所有権移転登記

国税庁タックスアンサー「No.7191 登録免許税の税額表」(令和8年4月1日現在)によれば、土地の所有権移転登記の税率は次のとおりです。課税標準は原則として固定資産課税台帳の登録価格です。

移転の原因税率
売買1,000分の20(令和11年3月31日までは1,000分の15)
相続、法人の合併、共有物の分割1,000分の4
その他(贈与・交換など)1,000分の20

建物の売買による移転は1,000分の20です。0.4%の低い税率は「相続、法人の合併、共有物の分割」に限られており、会社分割による移転はこの区分に含まれないため、原則として2%になります。土地の1.5%の軽減も「売買」が対象なので、会社分割には使えません。

商業登記

合併や会社分割では、会社の登記にも登録免許税がかかります(同タックスアンサー)。

登記の種類税率最低額
合併による株式会社の設立・資本金の増加1,000分の1.5(一定の部分は1,000分の7)3万円
分割による株式会社の設立・資本金の増加1,000分の73万円
資本金の増加(一般)1,000分の73万円
取締役・代表取締役などの変更1件3万円(資本金1億円以下の会社は1万円)-

株式譲渡でも、クロージングで役員が入れ替われば、役員変更の登記が必要です。

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不動産取得税:合併は非課税、会社分割は要件つき

不動産取得税は都道府県の税金です。東京都主税局の不動産取得税のQ&Aによれば、法人の合併による取得は非課税、会社分割による取得は一定の要件に当たる場合に非課税とされています(地方税法73条の7第2号)。非課税を受けるには、原則として申告が必要です。

会社分割の非課税要件は、法人税の適格分割に近い内容で、分割の対価として承継会社の株式以外の資産を交付しないこと、分割事業の主要な資産・負債が移転すること、分割事業がおおむね80%以上の従業者とともに引き継がれ、継続する見込みであることなどです。要件の詳細と手続きは、不動産の所在地を所管する都道府県税事務所で確認してください。

事業譲渡や現物出資で不動産を取得した場合は、原則として課税されます。東京都主税局の不動産取得税のページによれば、税率は本則4%ですが、令和9年3月31日までの取得については土地と住宅が3%、宅地等は課税標準が価格の2分の1になる特例があります。非住宅の建物(事務所・店舗・工場など)は4%です。

試算例:不動産を持つ会社をどの形で移すか

本社ビルを持つ会社を例に、不動産の移転コストを比べてみます。固定資産税評価額は、土地(宅地)1億円、建物(事務所)5,000万円とします(令和9年3月31日までに取得、各特例を前提とした概算)。

項目株式譲渡事業譲渡合併会社分割(非課税要件を満たす場合)
登録免許税(土地)0円150万円(1億円×1.5%)40万円(1億円×0.4%)200万円(1億円×2%)
登録免許税(建物)0円100万円(5,000万円×2%)20万円(5,000万円×0.4%)100万円(5,000万円×2%)
不動産取得税(土地)0円150万円(1億円×1/2×3%)0円0円
不動産取得税(建物)0円200万円(5,000万円×4%)0円0円
合計0円600万円60万円300万円

同じ不動産でも、取引の形によって0円から600万円まで差が出ます。実際には、これに司法書士の報酬や、事業譲渡の場合の消費税(建物・設備・のれんなどの課税資産に係るもの)が加わります。消費税は、買い手が課税事業者で仕入税額控除を受けられれば最終的な負担にはなりにくいものの、支払時の資金負担は発生します。

なお、売り手側では、株式の譲渡は消費税の非課税取引で、課税売上割合の計算では譲渡対価の5%だけを分母に入れます(消費税法施行令48条5項)。法人が子会社株式を売る年は、課税売上割合が下がって仕入税額控除が減ることがあるので注意してください。

移転コストをどう交渉に反映するか

移転コストは、誰が負担するかを契約で決めます。一般的には、不動産の移転に係る登録免許税や不動産取得税は買い手が負担することが多いものの、事業譲渡を選ぶ理由が売り手側にある場合(一部の事業だけを売りたい、会社は残したいなど)は、価格交渉の材料になります。

なお、株式譲渡は税金のコストが小さい分、会社法の手続きを確実に行う必要があります。株券発行会社では株券の交付が譲渡の効力要件で(会社法128条1項)、譲渡制限株式であれば会社の承認手続きも必要です(譲渡制限株式と株式譲渡の承認手続き)。税金がかからない取引でも、手続きの不備は後で大きな問題になります。

判断の材料は、移転コストだけではありません。

  • 株式譲渡:コストは小さいが、買い手は会社の過去の税務・法務リスクを引き継ぐ。表明保証と補償で手当てする
  • 事業譲渡:コストは大きいが、買い手はリスクを切り離せ、のれんを資産調整勘定として損金にできることがある(買い手側の税務)
  • 合併・会社分割:コストは中間。適格要件を満たすかどうかで法人税の扱いも変わる(組織再編の適格要件の基本)

銀行から見ると、移転コストは買収資金に上乗せされる一時的な支出です。買収ローンを申し込むときは、株式の代金だけでなく、登録免許税・不動産取得税・専門家報酬・消費税の立替えまで含めた総所要資金で資金計画を作ると、審査がスムーズです。不動産の取得にかかる税金の基本は不動産取得税と登録免許税、不動産を持つ会社のM&Aは不動産M&Aもご覧ください。

まとめ

  • 株式譲渡は不動産の名義が変わらず、登録免許税・不動産取得税はかからない。株式譲渡契約書も原則として印紙税の課税文書ではない
  • 事業譲渡は不動産を個別に移すため、登録免許税(売買2%、土地は令和11年3月31日まで1.5%)と不動産取得税(土地・住宅3%、非住宅4%、宅地は課税標準1/2)がかかる
  • 合併は登録免許税0.4%、不動産取得税は非課税、契約書の印紙税は4万円
  • 会社分割は一定の要件で不動産取得税が非課税になるが、登録免許税は原則2%で、非課税の申告が必要
  • 移転コストは、売り手の手取り・買い手のリスク・のれんの扱いと並べて比較し、総所要資金で資金計画を作る

クレフティでは、M&Aの取引の形の比較、印紙税・登録免許税・不動産取得税を含めた移転コストの試算、買収資金の計画と銀行への説明まで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。

よくある質問

株式譲渡契約書に収入印紙は必要ですか?
株式の譲渡に関する契約書は、印紙税法の課税文書(第1号文書の不動産・営業の譲渡など)に列挙されていないため、原則として印紙税はかかりません。ただし、契約書の中に金銭の貸付け(消費貸借)など他の課税事項が含まれていると、その部分で課税文書に該当することがあります。また、株式の譲渡代金の受取書は、売上代金以外の受取書として200円の印紙が必要になる場合があります。
会社分割で不動産を移すと、不動産取得税はかかりますか?
一定の要件を満たす会社分割による不動産の取得は、不動産取得税が非課税になります(地方税法73条の7第2号)。要件は、分割の対価として承継会社の株式以外の資産を交付しないことや、分割事業の主要な資産・負債の移転、従業者の引継ぎ、事業の継続の見込みなどで、非課税を受けるには原則として申告が必要です。登録免許税は、合併(0.4%)と違い、会社分割による所有権移転は原則2%です。
不動産を持つ会社を売るなら、株式譲渡と事業譲渡のどちらがよいですか?
移転コストだけを見れば、不動産の名義が変わらない株式譲渡のほうが、登録免許税・不動産取得税がかからず有利です。ただし、事業譲渡には、買い手が過去の税務・法務リスクを引き継がない、のれんを損金にできるといった利点もあります。移転コスト、売り手の手取り、買い手のリスクを並べて比較し、交渉の中で決めるのが現実的です。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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