「親戚に株を譲りたいと言われたが、どう手続きすればいいのか」「元役員の株主から、第三者に売りたいので承認してほしいという書面が届いた」。中小企業の株式は、ほとんどが譲渡制限株式です。譲渡するには会社の承認が必要で、会社が承認しない場合は、会社か会社が指定した人が買い取る仕組みになっています。
この手続きには、2週間・40日・20日といった厳しい期限があり、対応を誤ると、会社が望まない人が株主になったり、想定外の価格で株式を買い取ることになったりします。この記事では、譲渡制限株式とは何かと、株式譲渡の承認手続きの流れを会社法の条文で整理し、承認のない譲渡の効力や価格をめぐる最高裁の判例、譲渡の税金、M&Aでの注意点まで解説します。
- 譲渡制限株式は、譲渡による取得に会社の承認が必要な株式。すべての株式に譲渡制限がある会社は、会社法上の「公開会社でない会社」になる
- 承認を求められたら、2週間以内に決定を通知しないと承認したものとみなされる。承認しない場合、買取りの通知は40日以内(指定買取人は10日以内)
- 会社か指定買取人が買い取る場合は、1株当たり純資産額×株数を供託し、価格がまとまらなければ20日以内に裁判所に価格の決定を申し立てられる
- 承認のない譲渡も当事者間では有効(最高裁昭和48年6月15日判決)。ただし会社には対抗できない
- 譲渡の価格は、所得税法59条や相続税法7条などの税務上の時価も意識して決める
譲渡制限株式とは
譲渡制限株式とは、譲渡によって株式を取得することについて、会社の承認を必要とする旨を定款で定めた株式です(会社法2条17号、107条1項1号、108条1項4号)。オーナー企業が、知らない第三者や対立する相手が株主になるのを防ぐための仕組みです。
すべての株式に譲渡制限をつけた会社は、会社法上、公開会社でない株式会社(非公開会社)になります。非公開会社には、取締役の任期を最長10年まで延ばせる、少数株主権の多くに保有期間の要件がない、といった違いがあります。
定款で決めておけること
定款では、譲渡制限の内容として、次のような定めを置くことができます(107条2項1号)。
- 承認する機関(取締役会設置会社は取締役会、それ以外は株主総会が原則。定款で代表取締役などにすることも可能。139条1項)
- 一定の場合には承認したものとみなす旨(例:株主同士の譲渡、役員・従業員への譲渡)
また、後から譲渡制限を設ける定款変更は、株主の半数以上で、議決権の3分の2以上の賛成が必要な特殊決議になり(309条3項1号)、反対株主には株式の買取請求権が認められます(116条)。
株式譲渡の承認手続きの流れと期限
株主が第三者に譲渡しようとする場合の流れは、次のとおりです。
| 段階 | 内容 | 期限・ポイント | 条文 |
|---|---|---|---|
| ①承認の請求 | 株主(または取得者)が、譲渡の相手方と株数を示して承認を請求。承認しない場合の会社・指定買取人による買取りもあわせて請求できる | 取得者からの請求は、原則として名簿上の株主と共同で行う | 136条〜138条 |
| ②承認するかの決定と通知 | 取締役会(非取締役会設置会社は株主総会)で決定し、請求者に通知 | 請求の日から2週間以内。通知しなければ承認したとみなされる | 139条、145条1号 |
| ③買取りの決定 | 会社が買う場合は株主総会の特別決議。指定買取人を指定する場合は取締役会(または株主総会)の決議 | 請求者は会社が買う決議で議決権を行使できない | 140条、309条2項1号 |
| ④買取りの通知と供託 | 1株当たり純資産額×株数を供託し、供託を証する書面を交付して通知 | 会社は②の通知から40日以内、指定買取人は10日以内。通知しなければ承認したとみなされる | 141条、142条、145条2号 |
| ⑤価格の協議・決定 | 当事者で協議。まとまらなければ裁判所に価格決定を申し立てる | ④の通知から20日以内。申立てがなく協議もまとまらなければ1株当たり純資産額で確定 | 144条 |
期限はいずれも、定款でより短くすることができます。
注意したいポイント
承認しないなら、資金が要る:会社が承認せず、株主が買取りも請求していれば、会社か指定買取人が必ず買い取ることになります(140条1項)。会社が買い取る場合は、分配可能額の範囲内でしか支払えません(461条1項1号)。分配可能額が足りないなら、オーナーや持株会社を指定買取人にする必要があります。
供託の金額は「1株当たり純資産額」:買取りの通知の際には、1株当たり純資産額(会社法施行規則25条で計算)に株数を掛けた金額を供託しなければなりません(141条2項、142条2項)。最終的な価格とは別に、通知の時点でまとまった資金が必要です。
撤回できる時期が限られる:株主は、会社や指定買取人から買取りの通知を受けた後は、相手の承諾がなければ請求を撤回できません(143条)。旧商法の時代には、最高裁平成15年2月27日第一小法廷決定(平成14年(許)第10号)が、指定された者が売渡しを請求するまでは撤回できると判断しており(決定の要旨)、会社法はこの時期を条文で明確にしています。
議事録と通知の記録を残す:承認や不承認の決定、通知の日付は、後で争いになったときの証拠になります。M&Aのデューデリジェンスでも、過去の株式の移動に承認の手続きがあったかは必ず確認されます。
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事業承継・M&A支援を見る承認のない譲渡は有効か:判例で見る考え方
当事者間では有効、会社には対抗できない
承認を得ないまま、株主が勝手に株式を売ってしまった場合はどうなるでしょうか。
最高裁昭和48年6月15日第二小法廷判決(昭和47年(オ)第91号)は、定款で株式の譲渡に取締役会の承認が必要と定められている場合に、承認を得ないで株式が譲渡されても、譲渡当事者間においては有効だと判断しました。あわせて、株式を譲渡担保に供することも、譲渡制限の対象となる「譲渡」に当たるとしています(判決の要旨)。
一方、会社に対しては、承認がなければ取得者は株主として扱われません。会社法でも、承認を受けていない取得者は、原則として株主名簿の名義書換えを請求できないとされています(134条)。取得者は、会社に対して取得の承認を請求することができ(137条)、ここから先は株主からの請求と同じ流れになります。
実務で起きやすいケース
| ケース | 起きること | 対応 |
|---|---|---|
| 親族間で承認なく株式を移していた | 会社に対しては、譲渡前の株主が株主のまま | 遅れてでも承認の決議を行い、名簿を整える |
| 株式を担保に借入をしていた | 譲渡担保も「譲渡」に当たり、承認が必要 | 担保権者との契約と承認手続きを確認する |
| 株券発行会社で株券を交付していない | 株券発行会社では、株券の交付がなければ譲渡の効力が生じない | 定款で株券を発行する定めがあるか確認する |
株券発行会社かどうかは、登記事項証明書で確認できます。古い会社では、定款上は株券発行会社なのに株券を発行していない、ということもあり、譲渡の効力そのものが問題になります(128条)。
承認しないときの買取価格:判例で見る価格の決まり方
価格の協議がまとまらず、裁判所に申立てがあった場合、裁判所は、承認請求の時の会社の資産状態その他一切の事情を考慮して価格を決めます(144条3項)。実際の決定では、DCF法、収益還元法、純資産法、配当還元法などを、会社の状況に応じて使い分けたり組み合わせたりします。
譲渡制限株式の売買価格について、最高裁令和5年5月24日第三小法廷決定(令和4年(許)第8号)は、会社が譲渡を承認せず、144条2項により売買価格の決定が申し立てられた事案で、鑑定人がDCF法で算定した価格から30%の非流動性ディスカウント(市場性がないことを理由とする減価)を行うことを認めた原審の判断を是認しました。DCF法の算定過程では、類似する上場会社の数値が使われる一方、市場性がないことは考慮されていなかったことが理由とされています(決定原文)。
一方、吸収合併に反対した株主の買取請求で、収益還元法を使った場合については、非流動性ディスカウントは認められないとした最高裁平成27年3月26日第一小法廷決定(平成26年(許)第39号)があります。手続きの種類や算定方法で結論が分かれる点は、株式が分散しているリスクでも紹介しています。
裁判になると、鑑定費用と時間がかかり、価格も見通しにくくなります。価格の考え方を事前に示し、協議でまとめるのが現実的です。
株式譲渡の税金と、価格の決め方
売った人の税金
個人が非上場株式を譲渡して利益が出た場合は、譲渡所得として、他の所得と分けて課税されます(申告分離課税)。税率は、所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%の合計20.315%です(租税特別措置法37条の10)。
ただし、発行会社自身が買い取る場合(会社による買取り)は扱いが違います。支払額のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分は「みなし配当」として配当所得になり、総合課税の対象になります(所得税法25条)。同じ「株を手放す」でも、相手が会社か、オーナーや指定買取人かで、売る人の税負担が大きく変わります。詳しくは会社による自己株式の取得で解説します。
価格が時価とずれると課税関係が生じる
| 当事者 | 時価より低い価格で譲渡した場合 | 時価より高い価格で譲渡した場合 |
|---|---|---|
| 個人→個人 | 著しく低ければ、差額が買った人への贈与とみなされる場合がある(相続税法7条) | 差額が売った人への贈与とみなされる場合がある |
| 個人→法人 | 時価の2分の1未満なら、時価で譲渡したものとみなされる場合がある(所得税法59条)。株主間の利益移転として贈与税の問題も | 法人側で寄附金などの問題が生じ得る |
| 法人→個人 | 差額が、役員なら給与、それ以外なら寄附金などとされ得る | 法人側で受贈益の問題が生じ得る |
税務上の時価は、相続税評価額(財産評価基本通達)をもとに考える場面が多いものの、誰が売り、誰が買うかで考え方が変わります。最高裁令和2年3月24日第三小法廷判決は、個人が法人に株式を譲渡した場合の時価について、譲渡した人の譲渡直前の議決権で同族株主かどうかを判定すべきとしました(判決原文)。株価の仕組みは自社株評価の方法もご覧ください。
M&A・承継で譲渡制限が問題になる場面
M&Aの株式譲渡でも承認が必要
M&Aで会社を株式譲渡で売る場合も、譲渡制限株式であれば会社の承認が必要です。通常は、クロージング(株式の引渡し)の前提条件として、取締役会や株主総会で承認の決議を行い、その議事録を買い手に交付します。売り手が株主全員でない場合は、他の株主の売却も含めて、承認と名簿の書換えがそろって初めて買い手は100%の株主になります。
デューデリジェンスでは、設立以来の株式の移動について、承認の記録、譲渡契約、株券の交付(株券発行会社の場合)、名簿の書換えがそろっているかが確認されます。記録が欠けていると、「過去の譲渡が会社に対して有効だったか」が論点になり、表明保証や価格に影響します。
相続は「譲渡」ではない
相続や合併による取得は、譲渡ではないため、会社の承認は不要です(134条4号)。会社が相続人から株式を買い取りたい場合は、定款に「相続人等に対する売渡しの請求」の定めを置いたうえで、株主総会の特別決議を経て請求します(174条〜177条)。この制度には、オーナー自身の相続のときにも使われ得るという注意点があります。詳しくは相続人等に対する売渡請求で取り上げます。
銀行から見た手続きの整備
銀行が株式の承認手続きの細部まで確認することは多くありませんが、事業承継で後継者に株式を移すときや、株式を担保に入れるとき、M&Aの買収資金を融資するときには、株式の移動が適法に行われていることが前提になります。議事録と名簿を整えておくことは、融資の手続きをスムーズにすることにもつながります。
まとめ
- 譲渡制限株式は、譲渡による取得に会社の承認が必要な株式。承認機関やみなし承認の範囲は定款で決められる
- 承認の請求を受けたら、2週間以内に決定を通知し、承認しない場合は40日以内(指定買取人は10日以内)に供託して買取りを通知する。期限を過ぎると承認したものとみなされる
- 価格がまとまらなければ20日以内に裁判所へ申立て。DCF法での非流動性ディスカウントを認めた最高裁令和5年5月24日決定がある
- 承認のない譲渡も当事者間では有効(最高裁昭和48年6月15日判決)だが、会社には対抗できない
- 譲渡価格は、売る人の税金(20.315%の申告分離課税か、みなし配当か)と、税務上の時価の両方を見て決める
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