「長男に会社を継がせたい。でも、株を全部長男に渡すと、次男や長女との公平が保てない」。自社株が財産の大半を占めるオーナーにとって、これは事業承継で最も悩ましい問題の一つです。株式を子どもたちに均等に分ければ、経営権まで分かれてしまいます。
この悩みに対する選択肢の一つが、種類株式です。議決権のない株式や、重要な決議に拒否権を持つ株式を使えば、財産としての株式と経営権を分けて承継できます。この記事では、種類株式を事業承継に使う方法を、会社法の条文、国税庁が示した相続税の評価方法、導入の手続き、銀行やM&Aでの見られ方とあわせて解説します。
- 種類株式は、配当・議決権・譲渡制限・取得条項・拒否権など、株式の内容を株式ごとに変えられる制度(会社法108条)。事業承継では議決権制限株式と拒否権付株式(黄金株)がよく使われる
- 後継者に議決権のある株式、他の相続人に議決権のない株式を渡せば、財産の配分と経営権の集中を両立しやすくなる
- 相続税の評価は、無議決権株式・拒否権付株式とも原則として普通株式と同じ。無議決権株式には、条件つきで5%を減額し議決権株式に加算する方法がある(国税庁の文書回答)
- 黄金株は強力な分、先代の判断能力の低下や相続で経営が止まるリスクがある。取得条項などの出口を必ず設計する
- M&Aや融資の場面では、種類株式の内容と種類株主総会の要否が確認される。導入前に将来の出口まで考える
種類株式とは:株式の中身を変えられる制度
会社法では、次の事項について内容の異なる2種類以上の株式を発行できます(108条1項)。
| 号 | 内容 | 事業承継での使い方の例 |
|---|---|---|
| 1号・2号 | 剰余金の配当・残余財産の分配 | 議決権のない株式に、配当を優先して渡す |
| 3号 | 株主総会で議決権を行使できる事項(議決権制限株式) | 後継者以外の相続人に、議決権のない株式を渡す |
| 4号 | 譲渡の制限 | 種類ごとに譲渡制限をかける |
| 5号 | 株主が会社に取得を請求できる(取得請求権付株式) | 議決権のない株主に、換金の道を用意する |
| 6号 | 一定の事由で会社が取得できる(取得条項付株式) | 株主の死亡や退職時に、会社が株式を取得できるようにする |
| 7号 | 株主総会の決議で全部を取得できる(全部取得条項付種類株式) | 少数株主の整理などに使われる |
| 8号 | 一定の決議に種類株主総会の決議も必要(拒否権付株式) | 先代が持ち、重要事項に拒否権を残す |
| 9号 | 種類株主総会で取締役・監査役を選任(非公開会社のみ) | 合弁などで役員の選任権を分ける |
事業承継で中心になるのは、3号の議決権制限株式と、8号の拒否権付株式です。それぞれに6号の取得条項を組み合わせることで、将来の出口を用意します。
なお、公開会社では、議決権制限株式は発行済株式総数の2分の1以下に抑えなければなりませんが(115条)、中小企業の多くを占める非公開会社には、この制限はありません。
議決権制限株式:財産と経営権を分ける
典型的な使い方
オーナーが自社株を100株持ち、子どもが3人いる場合を考えます。
| 方法 | 長男(後継者) | 次男 | 長女 | 経営権 |
|---|---|---|---|---|
| 普通株式を均等に相続 | 34株(議決権34%) | 33株(33%) | 33株(33%) | 誰も過半数を持たず、2人が組めば特別決議も可能 |
| 普通株式は長男、他は無議決権株式 | 普通株式34株(議決権100%) | 無議決権株式33株 | 無議決権株式33株 | 長男が単独で特別決議まで可能 |
2つ目の方法なら、財産としての株式は3人で分けつつ、議決権はすべて後継者に集まります。無議決権株式に配当の優先権をつければ、経営に関わらない相続人にも、配当という形で会社の利益が届きます。
議決権がない株主にも残る権利
無議決権株式の株主にも、株主としての権利の一部は残ります。議決権がないので、総会の議決権を前提とする権利(議題提案、招集請求など)は使えませんが、株主代表訴訟、決議取消しの訴え、計算書類の閲覧などは、議決権の有無と関係なく行使できるものがあります。また、会計帳簿の閲覧(433条)や解散の訴え(833条)は、議決権の割合だけでなく発行済株式数の割合でも要件を満たせる規定になっています。議決権がない株主との関係を軽く見ないことが大切です。少数株主の権利は少数株主の権利で解説しています。
取得請求権・取得条項で出口をつくる
議決権のない株主は、会社の経営に関われないうえ、非上場株式は売る先もありません。「持っていても意味がない」という不満が生まれやすいため、株主が会社に取得を請求できる権利(5号)や、一定の時期に会社が取得できる条項(6号)をつけておくと、将来の整理がしやすくなります。ただし、会社が取得するときは財源規制がかかり、株主の側にはみなし配当の課税が生じ得ます。
拒否権付株式(黄金株):先代が見守る仕組み
拒否権付株式は、株主総会や取締役会の決議事項のうち定款で定めたものについて、その種類株主総会の決議がなければ効力が生じない株式です(108条1項8号、323条)。1株でも持てば、定めた事項について拒否権を持つことから、「黄金株」と呼ばれます。
使い方の例
先代が普通株式の大半を後継者に贈与し、自分は拒否権付株式を1株だけ持つ、という方法です。拒否権の対象を「取締役の選任・解任」「合併・事業譲渡」「定款変更」などに絞れば、日常の経営は後継者に任せつつ、会社の行方を左右する決定には先代が関与できます。
黄金株のリスク
| リスク | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 先代の判断能力の低下 | 種類株主総会が開けず、重要な決議がすべて止まる | 取得条項をつけ、一定の事由で会社が取得できるようにする |
| 先代と後継者の対立 | 先代が拒否権を使い、後継者の経営が進まない | 拒否権の対象を限定する。あらかじめ期限を決める |
| 相続 | 黄金株が後継者以外の相続人に渡ると、経営の妨げになる | 遺言で後継者に遺す。死亡を取得事由にする |
| M&A | 買い手は拒否権の存在を嫌う | 売却前に会社が取得して消却する手順を決めておく |
非上場株式の納税猶予(事業承継税制)を使う場合は、後継者以外の人が拒否権付株式を持っていないことが要件の一つになっています。黄金株を先代が持ち続ける設計と事業承継税制は、両立しない場合があるため注意してください。制度の詳細は事業承継税制の特例をご覧ください。
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事業承継・M&A支援を見る相続税・贈与税の評価:国税庁の文書回答
種類株式の相続税評価について、国税庁は、中小企業庁からの照会に対する平成19年2月26日付の文書回答で、事業承継で使われる3つの類型の評価方法を示しています(国税庁「相続等により取得した種類株式の評価について」)。
| 類型 | 評価の取扱い |
|---|---|
| 配当優先の無議決権株式(第一類型) | 配当優先の有無は、類似業種比準方式では株式の種類ごとの配当金で計算する。議決権の有無は、原則として考慮しない。同族株主が相続などで取得した場合は、条件を満たせば、原則的評価額から5%を控除し、その額を議決権のある株式に加算する方法を選べる |
| 社債類似株式(第二類型) | 配当優先・累積、残余財産は発行価額まで、一定期日に発行価額で償還、議決権なし、などの条件を満たす株式は、発行価額で評価する |
| 拒否権付株式(第三類型) | 拒否権を考慮せず、普通株式と同様に評価する |
無議決権株式の5%控除を選ぶための主な条件は、相続税の法定申告期限までに遺産分割が確定していること、その会社の株式を相続などで取得した同族株主全員が、この方法を選ぶことに同意する届出書を提出することなどです。5%を減らした分は、議決権のある株式(多くは後継者が取得)に加算されるため、相続人全体での評価額の合計は変わりません。
つまり、種類株式を使っても、相続税評価そのものはほとんど下がらないということです。種類株式は税金を減らす道具ではなく、経営権の配分を整える道具だと考えてください。自社株の評価の仕組みは自社株評価の方法で解説しています。
遺留分との関係
民法上の遺留分の計算では、相続税評価とは別に、財産の価額をどう見るかが問題になります。議決権のない株式は、議決権のある株式より価値が低いと主張される可能性もあり、税務上の評価と民法上の評価が一致するとは限りません。後継者以外の相続人との公平は、後継者以外の相続人との公平(遺留分と民法特例)で詳しく扱います。
種類株式を導入する手続き
種類株式を導入するには、次の手続きが必要です。
- 定款変更:発行する種類株式の内容と発行可能種類株式総数を定款に定める。株主総会の特別決議が必要(309条2項11号)
- 発行または内容の変更:新たに種類株式を発行する(募集株式の発行、株式無償割当てなど)か、既存の株式の一部を種類株式に変更する
- 登記:種類株式の内容と数を登記する
既存の普通株式の一部を種類株式に変える方法は、株主間の公平に関わるため、実務上は、対象となる株主の同意に加えて、他の株主全員の同意を得て行うのが一般的です。株主が多い会社では、新たに種類株式を発行する方法のほうが進めやすい場合もあります。いずれも、司法書士・弁護士と手順を確認しながら進めてください。
導入時の税務の注意点
- 種類株式を後継者や他の相続人に新たに発行する場合、払込金額が時価より低いと、既存株主から新株主への利益の移転として贈与税の問題が生じることがあります
- 先代から後継者・他の子どもへ贈与する場合は、種類ごとに評価した価額で贈与税を計算します
- 会社が将来、取得条項・取得請求権で株式を取得するときは、株主側にみなし配当が生じ得ます
銀行・M&Aから見た種類株式
銀行の見方
銀行は、種類株式があること自体を問題視するわけではありません。確認されるのは、誰が実質的に経営を決めているかです。後継者が普通株式で議決権の大半を持ち、拒否権付株式の対象が限定されていれば、後継者を経営者として評価しやすくなります。反対に、高齢の先代が広い範囲の拒否権を持ち続けていると、意思決定が止まるリスクとして説明を求められることがあります。
M&Aでは種類株主総会の要否が論点に
会社を売却するときは、種類株式の存在が手続きを複雑にします。
- 合併・株式交換などで、ある種類の株主に損害を及ぼすおそれがあれば、その種類株主総会の決議が必要になる(322条)
- 拒否権の対象に組織再編や株式の譲渡承認が含まれていれば、拒否権付株式の株主の賛成がなければ進められない
- 買い手は、買収後に種類株式が残ることを嫌い、売却前に普通株式への転換や会社による取得・消却を求めることが多い
種類株式を導入するときは、「将来売る可能性」「その時に誰の同意が必要か」まで想定して内容を決めることが大切です。株主構成の全体像は株式の保有比率ごとの権利も参考にしてください。
まとめ
- 種類株式は、配当・議決権・取得条項・拒否権などを株式ごとに変えられる制度。事業承継では議決権制限株式と拒否権付株式が中心
- 後継者に議決権のある株式、他の相続人に無議決権株式を渡せば、財産の配分と経営権の集中を両立しやすい。配当優先や取得請求権で、無議決権株主の不満に備える
- 相続税評価は原則として普通株式と同じ。無議決権株式の5%控除(議決権株式への加算)は条件つきの選択肢で、評価額の合計は変わらない
- 黄金株は強力だが、先代の判断能力の低下・対立・相続で経営が止まるリスクがある。取得条項などの出口を必ず設計し、事業承継税制との関係も確認する
- M&Aでは種類株主総会や拒否権が手続きの障害になり得る。導入前に将来の出口まで決めておく
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