「父の代に、取引先や古参の役員にも株を持ってもらった」「相続のたびに、叔父や従兄弟に株が散らばった」。オーナー企業では、このように株式が分散していることが珍しくありません。普段の経営では目立たない問題ですが、相続や事業承継、会社の売却という節目で、一気に表に出てきます。
この記事では、株式が分散している会社のリスクを「意思決定」「相続」「買取請求」「M&A」の4つに分けて、会社法の条文と、株式の価格が争われた最高裁の判断をもとに整理します。あわせて、少数株主から株式を集めるときの税金や、銀行・買い手から見た株主構成の評価、整理の進め方も解説します。
- 株式の分散は、特別決議(3分の2以上)が通らない、相続で株主がさらに増える、買取請求で資金が出ていく、M&Aで100%を集められないという4つのリスクにつながる
- 譲渡制限株式でも、株主が譲渡承認と買取りを請求すれば、会社か指定買取人が買い取ることになり、価格がまとまらなければ裁判所が価格を決める
- 裁判所の価格決定では、市場性がないことを理由とする減価(非流動性ディスカウント)が認められた例も否定された例もある(最高裁平成27年3月26日決定、令和5年5月24日決定)
- 少数株主から安く買うと、所得税法59条(みなし譲渡)や相続税法7条(みなし贈与)の問題が生じ得る
- 株主構成の整理は、相続や売却の直前ではなく、オーナーが元気なうちに計画的に進める
株式が分散するのはなぜか
株式が分散する経緯は、会社によってさまざまです。
| 経緯 | よくある例 | 後で起きやすい問題 |
|---|---|---|
| 設立時の事情 | 旧商法の時代に発起人の人数をそろえるため、親族や知人に名義を借りた | 名義株、真の株主が誰か分からない |
| 協力者への分配 | 創業期の役員・取引先・従業員に株を持ってもらった | 退職・取引終了後も株主として残る |
| 相続 | 創業者の兄弟、その子どもへと相続が重なった | 株主が増え、連絡先が分からなくなる |
| 公平な遺産分け | 子ども全員に同じ割合で株式を相続させた | 誰も過半数を持たず、経営権が割れる |
最初は数人だった株主が、相続を2回、3回と重ねるうちに、十数人、数十人になることもあります。特に、名義を借りただけの株式(名義株)や、連絡の取れない株主(所在不明株主)は、整理に時間がかかります。これらは名義株の見つけ方と整理の方法、所在不明株主の株式の整理で詳しく扱います。
リスク①:会社の意思決定が止まる
株式会社の重要な意思決定は、株主総会で行います。取締役の選任などの普通決議は議決権の過半数で、定款変更、合併・会社分割、事業譲渡、株式併合などの特別決議は出席株主の議決権の3分の2以上で決めます(会社法309条)。
オーナー一族の持株が3分の2に届かず、他の株主が3分の1を超える議決権を持っていると、特別決議を自分たちだけでは通せません。種類株式を導入したい、持株会社をつくりたい、会社を売りたい、という承継の場面で必要になるのが、まさにこの特別決議です。
少数株主にも、会社に関わる権利があります。1株でも株主総会の決議取消しの訴え(831条)や株主代表訴訟(847条)を起こせますし、3%以上を持てば会計帳簿の閲覧(433条)や株主総会の招集請求(297条)ができます。株主との関係が良好なうちは問題になりませんが、相続で代替わりして関係が薄くなると、こうした権利が行使されることがあります。保有比率ごとの権利は株式の保有比率ごとの権利にまとめています。
また、招集通知を全株主に送る、議事録を整える、といった手続きの負担も、株主が増えるほど重くなります。株主数十人の会社で、総会を形だけで済ませてきた場合は、過去の決議の手続きに不備がないかも確認が必要です。
リスク②:相続でさらに分散し、権利行使が難しくなる
株主が亡くなると、その株式は相続人に引き継がれます。遺産分割が終わるまでは相続人全員の共有(準共有)となり(民法898条)、権利を行使する人を1人決めて会社に通知しないと、原則として議決権などを行使できません(会社法106条)。
最高裁平成27年2月19日第一小法廷判決(平成25年(受)第650号)は、共有株式について権利行使者の指定・通知がないまま議決権が行使された事案で、その行使が民法の共有の規定に従ったものでなければ、会社が同意しても適法にはならないと判断しました。株主総会の決議が後から取り消されるおそれがあるということです(判決原文)。
少数株主の相続も同じです。相続人が複数いれば株主はさらに増え、相続人が遠方に住んでいたり、会社のことを知らなかったりすると、連絡すら難しくなります。
相続人等への売渡請求は「両刃の剣」
定款に定めがあれば、会社は相続で株式を取得した人に対し、株式を会社に売り渡すよう請求できます(174条)。請求には株主総会の特別決議が必要で、会社が相続を知った日から1年以内に行わなければなりません(175条・176条)。価格がまとまらないときは、請求の日から20日以内に裁判所に価格の決定を申し立てることができ、申立てがなければ請求は効力を失います(177条)。
少数株主の株式を集めるのに有効な制度ですが、オーナー自身の相続のときにも使える点に注意が必要です。売渡請求の議案では請求を受ける相続人は議決権を行使できない(175条2項)ため、少数株主の側が、後継者の相続した株式に売渡請求をかける構図もあり得ます。定款に定めを置くかどうかは、株主構成全体を見て判断します。詳しくは相続人等に対する売渡請求で取り上げます。
リスク③:株式の買取りを求められ、資金と価格の問題が起きる
非公開会社の株式は市場で売れないため、少数株主が現金化したいと考えたとき、相手は会社かオーナーになりがちです。
譲渡承認請求と会社の買取義務
譲渡制限株式の株主は、第三者に株式を譲り渡したいとき、会社に譲渡の承認を請求できます(136条)。このとき「承認しない場合は、会社または指定買取人が買い取ること」もあわせて請求できます(138条)。会社が承認しないと決めた場合、会社か、会社が指定した指定買取人が株式を買い取らなければなりません(140条)。
会社は請求から2週間以内に承認するかどうかを通知し、承認しない場合は、その通知から40日以内(指定買取人なら10日以内)に買取りの通知をしないと、譲渡を承認したものとみなされます(145条、いずれも定款で短縮可)。知らない第三者が株主になるのを防ぐには、期限内に資金を用意して手続きを進める必要があります。
会社が買い取る場合は、株主総会の特別決議が必要で、請求した株主はその総会で議決権を行使できません(140条2項・3項、309条2項1号)。さらに、会社が支払う金額は分配可能額の範囲内に限られます(461条1項1号)。
価格がまとまらなければ裁判所が決める
売買価格は当事者の協議で決めますが、まとまらなければ、買取りの通知から20日以内に裁判所に価格の決定を申し立てることができます(144条2項)。期間内に申立てがなく協議もまとまらないときは、1株当たり純資産額に株数を掛けた金額が売買価格になります(144条5項)。裁判所は、譲渡承認請求の時の会社の資産状態その他一切の事情を考慮して価格を決めます(144条3項)。
価格の決め方について、最高裁は次のような判断を示しています。
| 決定 | 場面 | 争点 | 判断 |
|---|---|---|---|
| 最高裁平成27年3月26日第一小法廷決定(平成26年(許)第39号) | 吸収合併に反対した株主の株式買取請求 | 収益還元法で算定した価格から、市場性がないことを理由に減価できるか | 減価(非流動性ディスカウント)はできないとして、原決定を破棄し、1株106円と決定した |
| 最高裁令和5年5月24日第三小法廷決定(令和4年(許)第8号) | 譲渡承認をしなかった株式の売買価格(144条) | DCF法で算定した価格から、非流動性ディスカウント(30%)を行えるか | 算定の過程で市場性がないことが考慮されていない本件では、減価できるとした原審の判断を是認した |
同じ「非流動性ディスカウント」でも、手続きの種類や算定方法によって結論が分かれています。令和5年の決定は、平成27年の決定について「事案を異にし、本件に適切でない」と述べています。いずれも決定の原文は裁判所ウェブサイトで確認できます(平成27年決定、令和5年決定)。
裁判になれば、鑑定の費用と時間がかかり、価格も読みにくくなります。株式の買取価格が争われた事例は、株式の買取価格が裁判で争われた事例でさらに詳しく紹介します。
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事業承継・M&A支援を見るリスク④:M&A・事業承継の障害になる
会社を第三者に売る場合、買い手は通常、発行済株式の100%の取得を求めます。少数株主が残ると、買収後の意思決定や配当、将来の組織再編のたびに配慮が必要になるからです。
株式が分散していると、M&Aでは次のような問題が起きます。
- 株主全員から株式譲渡の同意を取り付けるのに時間がかかり、一部の株主が高い価格を求める
- 名義株や所在不明株主があると、デューデリジェンスで「株式を確実に取得できるか」が論点になり、価格の引下げや、売り手による株式の集約を前提条件にされる
- 少数株主から株式を集めるために、株式併合(180条)や特別支配株主の売渡請求(179条)を使うと、価格決定の申立てなどで手続きが長引くことがある
親族内承継でも同じです。後継者に株式を集めたいのに、叔父や従兄弟が株を手放さない、という状況では、事業承継税制の議決権要件を満たせないことがあります。
銀行から見た分散株式
銀行は、融資の審査で株主構成と後継者の状況を確認します。代表者が過半数を持っていない、相続で株式が割れそうだ、という会社は、経営の安定性の面で慎重に見られます。後継者が経営者保証を引き継ぐかどうかを相談する場面でも、後継者が議決権をどれだけ握っているかは重要な確認事項です。株主構成を整理しておくことは、融資の面でもプラスに働きます。
株式を集めるときの税金
分散した株式を集める方法は、大きく「オーナー個人が買う」「会社が買う(自己株式の取得)」「持株会社が買う」の3つです。それぞれ税金の扱いが違います。
| 買い手 | 売り手(個人株主)の税金 | 注意点 |
|---|---|---|
| オーナー個人 | 譲渡所得として申告分離課税 | 時価より著しく低い価格だと、買ったオーナーに贈与税がかかる場合がある(相続税法7条) |
| 発行会社(自己株式の取得) | 資本金等の額を超える部分はみなし配当(配当所得・総合課税)、残りは譲渡所得 | 分配可能額の範囲内でしか買えない。相続で取得した株式は特例あり |
| 持株会社などの法人 | 譲渡所得として申告分離課税 | 時価の2分の1未満の価格だと、時価で譲渡したものとみなされる場合がある(所得税法59条) |
ここで問題になるのが「時価」です。非上場株式の時価について、所得税基本通達59-6は、財産評価基本通達の例によることを条件付きで認めています。
最高裁令和2年3月24日第三小法廷判決(平成30年(行ヒ)第422号)は、会社の代表取締役だった個人が、保有株式を別の法人に配当還元方式の価格(1株75円)で譲渡した事案です。原審は、株式を取得した側が少数株主に当たるから配当還元方式でよいと判断しましたが、最高裁は、譲渡所得の課税は譲渡した人のもとで生じた値上がり益に課税するものだから、譲渡した人の譲渡直前の議決権で判定すべきだとして、原判決を破棄し差し戻しました(判決原文)。
株式を集める場面では、売り手が少数株主か支配株主か、買い手が誰かによって、税務上の時価の考え方が変わります。「配当還元方式の価格なら安全」と決めつけず、売り手・買い手それぞれの立場で課税関係を確認してください。会社による自己株式の取得とみなし配当は、会社による自己株式の取得で詳しく扱います。
分散株式を整理する進め方
- 株主名簿を正確にする:株主名簿、法人税申告書の別表二、過去の増資・譲渡の記録を照らし合わせ、名義株や所在不明株主の有無を確認する
- 現在の株価を試算する:相続税評価(原則的評価・配当還元方式)と、M&Aを想定した価格の両方を出し、買取りの予算感をつかむ
- 集める優先順位を決める:3分の1超を持つ株主、関係が薄くなった株主、相続が近い株主から順に検討する
- 手段を選ぶ:個人・会社・持株会社のどれが買うか、種類株式で議決権だけを整理するか、定款に売渡請求の定めを置くかを比較する
- 銀行と後継者に説明する:資金を借入でまかなう場合は、買取り後の財務と返済計画をあわせて示す
株主との交渉は、関係が良好なうちのほうが進めやすいものです。全体像は分散した株式を集中させる方法の全体像で解説します。株価の仕組みは自社株評価の方法もあわせてご覧ください。
まとめ
- 株式の分散は、意思決定・相続・買取請求・M&Aの4つの場面でリスクになる
- 他の株主が3分の1超を持つと特別決議を通せず、承継や売却に必要な手続きが止まる
- 譲渡承認請求に会社が応じない場合は、会社か指定買取人が買い取る。価格がまとまらなければ裁判所が決め、非流動性ディスカウントの扱いは手続きや算定方法で判断が分かれている
- 少数株主から株式を集めるときは、所得税法59条・相続税法7条や、みなし配当の課税関係を確認する。最高裁令和2年3月24日判決は、譲渡した人の議決権で判定すべきとした
- 名義株・所在不明株主の確認から始め、オーナーが元気なうちに計画的に集約する
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