株主名簿を見直すと、「この株主の住所に送った招集通知が、何年も戻ってきている」「亡くなったと聞いたが、相続人が誰か分からない」という株主が見つかることがあります。いわゆる所在不明株主です。
所在不明株主がいても、日常の経営に支障はないかもしれません。しかし、会社を売却するとき、持株会社をつくるとき、後継者に株式を集めるときには、株主全員の株式を整理できるかどうかが問題になります。この記事では、所在不明株主の株式を整理する会社法197条の手続きと、期間を1年に短縮できる経営承継円滑化法の特例、会社が買い取るときの財源と税金、他の整理方法との比較を解説します。
- 会社からの通知・催告が5年以上継続して届かず、5年間継続して配当を受け取っていない株主の株式は、競売または裁判所の許可を得た売却ができる(会社法197条)
- 手続きの前に、3か月以上の異議期間を定めて公告し、株主に個別に催告する(198条)。会社自身が買い取ることもできるが、分配可能額の範囲内に限られる
- 経営承継円滑化法の特例で、都道府県知事の認定を受けた中小企業は、5年を1年に短縮できる(2021年8月施行)
- 「無配の会社」は配当不受領の要件を満たせないのでは、という点や、名義株・相続人の存在など、事前に確認すべき点が多い
- M&Aや承継の直前ではなく、時間に余裕があるうちに着手する
所在不明株主が問題になる場面
所在不明株主は、次のような経緯で生まれます。
- 設立時や増資時に株主になった知人・取引先と、長年連絡を取っていない
- 株主が転居したが、会社に住所変更の届けがなかった
- 株主が亡くなり、相続人が会社に名乗り出ていない
- 名義だけ借りた株主(名義株)で、名義人本人も株主である意識がない
普段は困らなくても、次の場面では問題になります。
| 場面 | 何が困るか |
|---|---|
| M&A(株式譲渡) | 買い手は100%の取得を求める。所在不明株主の株式を取得できない |
| 持株会社の設立(株式交換・株式移転) | 招集通知や手続きが届かない株主がいると、手続きの適法性に不安が残る |
| 後継者への株式の集約 | 特別決議に必要な議決権や、事業承継税制の要件の判定が不安定になる |
| 株主総会の運営 | 招集通知を送り続ける必要があり、議決権を行使されないため定足数に影響することもある |
会社法には、通知・催告が5年以上継続して届かない株主には、通知・催告をしなくてよいという規定があります(196条1項)。ただし、これは通知の手間を省けるだけで、株主の権利がなくなるわけではありません。株式そのものを整理するには、197条の手続きが必要です。分散した株式のリスク全体は株式が分散しているリスクで解説しています。
会社法197条の手続き:要件と流れ
要件
会社が所在不明株主の株式を競売・売却できるのは、次の両方を満たす株式です(197条1項)。
- その株主に対する会社からの通知・催告が、5年以上継続して到達しないこと(196条1項などで通知・催告を要しないとされるもの)
- その株主が継続して5年間、剰余金の配当を受領しなかったこと
2つ目の要件は、「配当を出したが受け取られなかった」場合だけでなく、無配が続いている場合も含むのかが論点になります。無配の会社で手続きを使えるかについては、実務上の考え方を手続きの前に確認しておく必要があります。
流れ
| 段階 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| ①要件の確認 | 通知・催告の返送記録(5年以上)、配当の記録(5年間)を確認する | 196条、197条1項 |
| ②売却方法の決定 | 競売するか、市場価格のない株式について裁判所の許可を得て売却するかを決める。会社が買い取る場合は、株数と代金の総額を取締役会(取締役会がなければ株主総会)で決める | 197条2項〜4項 |
| ③公告と個別の催告 | 利害関係人が異議を述べることができる旨などを公告し、株主と登録株式質権者に個別に催告する。異議期間は3か月以上 | 198条1項・2項 |
| ④裁判所の許可 | 非上場株式を競売以外の方法で売却するには、裁判所の許可が必要。取締役が2人以上いれば、許可の申立てには全員の同意が必要 | 197条2項 |
| ⑤売却・代金の交付 | 売却代金を株主に交付する。所在不明なので、実務上は供託などで管理する | 197条1項 |
株券を発行している会社では、異議期間内に異議がなければ、期間の末日に株券は無効になります(198条5項)。
個別の催告は、株主名簿に記載された住所あてに発しなければならず、ここでは通知を省略できるという196条1項の規定は適用されません(198条2項・4項)。届かないことが分かっていても、手続きとして催告を送る必要があるということです。
売却価格と裁判所の許可
非上場株式には市場価格がないため、裁判所の許可を得て、競売以外の方法(会社や第三者への売却)で売却するのが一般的です。許可の申立てでは、売却価格が妥当であることを示す必要があり、実務では株価の算定書を添付することが多くなっています。価格が低すぎると、所在不明株主の利益を害するとして問題になり得るため、相続税評価だけでなく、会社の実態に即した価格の検討が必要です。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る経営承継円滑化法の特例:5年を1年に短縮
5年という期間は、承継を急ぐ会社にとっては長すぎます。そこで、2021年(令和3年)8月に施行された改正経営承継円滑化法で、所在不明株主に関する会社法の特例が設けられました(中小企業庁「経営承継円滑化法による支援」)。
特例の内容
認定を受けた会社(特例株式会社)では、197条の要件が次のように読み替えられます(経営承継円滑化法15条1項)。
| 要件 | 会社法197条 | 特例 |
|---|---|---|
| 通知・催告の不到達 | 5年以上継続して到達しない | 1年以上継続して到達しない |
| 配当の不受領 | 継続して5年間 | 継続して1年間 |
認定の要件
特例を使うには、上場会社等以外の中小企業である株式会社が、次のいずれにも当たることについて認定を受ける必要があります(同法12条1項1号ホ)。認定は法律上は経済産業大臣の認定ですが、申請は会社の主たる事務所がある都道府県に行います。
- 代表者が、年齢、健康状態その他の事情により、継続的かつ安定的に経営を行うことが困難で、会社の事業活動の継続に支障が生じていること
- 一部の株主の所在が不明であることにより、代表者以外の人(後継者)に経営を円滑に承継させることが困難であること
特例を使うときの追加の手続き
特例を使う場合は、会社法198条の公告・催告に先立って、特例としての公告と個別の催告(異議期間は3か月以上)を行う必要があります(同法15条2項)。この期間内に異議が出た場合や、催告が株主に届いた場合は、特例は使えません(同条3項)。期間は短くなりますが、手続きは二段階になる点に注意してください。
中小企業庁は、特例の申請マニュアルを公表しています。最新の様式と手順は、申請先の都道府県と中小企業庁の資料で確認してください。
会社が買い取るときの財源と税金
財源規制
会社が所在不明株主の株式を買い取る場合(197条3項)、自己株式の取得として、株主に交付する金銭の総額は分配可能額を超えてはなりません(461条1項)。分配可能額が足りない会社は、オーナーや後継者、持株会社などが買い手になることを検討します。
税金
| 買い手 | 所在不明株主側の課税 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 会社(自己株式の取得) | 支払額のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分がみなし配当(配当所得)、残りは譲渡所得 | みなし配当部分は、会社に源泉徴収の義務が生じ得る。代金の管理方法とあわせて確認する |
| オーナー・後継者(個人) | 譲渡所得 | 価格が時価より著しく低いと、買った人に贈与税の問題が生じ得る |
| 持株会社などの法人 | 譲渡所得 | 時価の2分の1未満なら、時価で譲渡したものとみなされる場合がある(所得税法59条) |
所在不明株主との間では価格の交渉ができないため、税務上も説明できる価格で手続きを進めることが大切です。会社による自己株式の取得の仕組みとみなし配当は会社による自己株式の取得で、株価の考え方は自社株評価の方法で解説しています。
他の整理方法との比較
所在不明株主の株式を整理する方法は、197条の手続きだけではありません。
| 方法 | 内容 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 所在の調査 | 住民票・戸籍の調査で現住所や相続人を探し、直接交渉する | まず最初に行う。相続人が見つかれば買取交渉ができる |
| 会社法197条(特例を含む) | 5年(特例は1年)の要件を満たした株式を売却・買取り | 所在が本当に分からない株主が少数いる場合 |
| 不在者財産管理人の選任 | 家庭裁判所に不在者財産管理人を選んでもらい、管理人と株式の売買を行う(民法25条以下) | 197条の要件を満たさない場合 |
| 特別支配株主の売渡請求・株式併合 | オーナー側が90%以上なら売渡請求(179条)、3分の2以上なら株式併合(180条)で、少数株主の株式をまとめて現金化する | 所在不明株主以外の少数株主も含めて一気に整理したい場合 |
スクイーズアウト(売渡請求・株式併合)では、所在不明株主の分の代金は供託などで管理することになります。手続きの選び方は、所在不明株主の数、他の少数株主の状況、オーナー側の議決権によって変わります。詳しくは株式併合・特別支配株主の売渡請求で解説します。
また、所在不明とされた株主が、実は名義株の名義人だった、というケースもあります。名義株の整理は名義株の見つけ方と整理の方法をご覧ください。
M&A・銀行から見た所在不明株主
M&Aでは、所在不明株主がいると、買い手は100%の株式を取得できません。株式譲渡契約で、クロージングまでに売り手の責任で所在不明株主の株式を整理することが前提条件にされたり、整理が終わるまでクロージングが延びたりします。197条の手続きは、5年の要件の確認、3か月以上の異議期間、裁判所の許可と、少なくとも数か月はかかります。売却を考え始めたら、早めに株主名簿の確認から着手することをおすすめします。
銀行は、所在不明株主の有無を直接問うことは多くありませんが、事業承継や持株会社化に伴う融資を相談するときには、株式の集約の計画が確認されます。整理の手順と見通しを説明できれば、承継の計画の信頼性も高まります。
まとめ
- 所在不明株主の株式は、通知・催告が5年以上届かず、5年間配当を受領していなければ、会社法197条で競売・売却・会社による買取りができる
- 手続きには、3か月以上の異議期間を定めた公告と個別の催告、非上場株式なら裁判所の許可が必要。会社が買う場合は分配可能額の範囲内
- 経営承継円滑化法の特例で、認定を受けた中小企業は期間を1年に短縮できる。特例の公告・催告が追加で必要
- 会社が買えばみなし配当と源泉徴収、個人・法人が買えば譲渡所得と時価の問題がある。価格は税務上も説明できる水準で
- 所在の調査、不在者財産管理人、スクイーズアウトなど他の方法と比較し、売却や承継の直前ではなく早めに着手する
税理士法人クレフティでは、株主名簿と通知の記録の確認、株価の算定、会社と個人のどちらが買うかによる税金の比較まで、事業承継・M&A支援としてご相談をお受けしています。初回のご相談は無料で、担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士がご支援します。裁判所への申立てや特例の認定申請は、弁護士・司法書士と連携して進めます。
