「社長が51%持っているから、うちの会社は大丈夫」。事業承継のご相談では、こうした言葉をよく聞きます。たしかに過半数を持てば、株主総会の多くの議題を自分だけで決められます。しかし、株式の保有比率ごとの権利を細かく見ていくと、51%では決められないこと、1%や3%の株主でもできることが、意外に多くあります。
この記事では、会社法の条文(e-Gov法令検索で確認した現行の規定)をもとに、1株・1%・3%・10%・3分の1超・過半数・3分の2以上・90%の各ラインで何ができるのかを整理します。あわせて、相続で株式が分かれたときに何が起きるか、相続税の評価や事業承継税制、M&Aや銀行の見方にどう関係するかも解説します。
- 1株でも、決議取消しの訴え・株主代表訴訟・名簿や計算書類の閲覧などができる
- 1%(または300個)で議題の提案、3%で総会の招集請求・会計帳簿の閲覧・役員解任の訴え、10%で会社の解散の訴えができる(取締役会設置会社・非公開会社の場合)
- 過半数で取締役の選任・解任などの普通決議、3分の2以上で定款変更・組織再編などの特別決議を単独で通せる。他の株主が3分の1超を持つと特別決議を止められる
- 90%以上を持つと、特別支配株主として残りの株主から株式を買い取る「株式等売渡請求」が使える
- 相続で株式が分かれると、比率の意味がそのまま「経営権の分割」になる。比率は承継の前に設計しておく
保有比率ごとの権利の一覧と、読むときの前提
株主の権利は、大きく分けると次の2つです。
- 自益権:配当を受け取る権利、残余財産の分配を受ける権利など、株主自身が経済的な利益を受ける権利
- 共益権:株主総会での議決権、帳簿の閲覧、訴えの提起など、会社の経営に関わる権利
この記事で扱う「保有比率ごとの権利」は、主に共益権の話です。比率は原則として議決権の数で数えます。ただし、会社の帳簿の閲覧(会社法433条)や解散の訴え(833条)などは、議決権の割合だけでなく、自己株式を除いた発行済株式数の割合でも要件を満たせるように定められています。
もう一つ大切なのが、会社が公開会社かどうかです。会社法でいう「公開会社」は上場会社のことではなく、株式の全部または一部に譲渡制限がついていない会社を指します。中小企業の多くは、定款ですべての株式に譲渡制限をつけた非公開会社です。非公開会社では、少数株主権の多くについて「6か月前から引き続き保有」という期間の要件がありません(297条2項、303条3項、847条2項など)。株式を相続した人や、株を買ったばかりの人でも、すぐに権利を使えるということです。
なお、比率の多くは定款で株主に有利な方向(低い割合)に緩めることができます。
主な権利を、比率ごとに表にまとめます(取締役会設置会社で、非公開会社の場合を想定しています)。
| 保有比率 | 主な権利 | 条文(会社法) |
|---|---|---|
| 1株以上 | 株主総会決議の取消しの訴え、株主代表訴訟、取締役の違法行為の差止め、株主名簿・計算書類・総会議事録の閲覧、反対株主の株式買取請求 | 831条、847条、360条、125条、442条、318条、116条など |
| 1%以上または300個以上 | 株主総会の議題の提案、議案の要領の通知請求、総会検査役の選任申立て | 303条2項、305条1項、306条1項 |
| 3%以上 | 株主総会の招集請求、会計帳簿の閲覧・謄写、業務執行の検査役の選任申立て、役員解任の訴え | 297条、433条、358条、854条 |
| 10%以上 | 会社の解散の訴え | 833条 |
| 3分の1超 | 特別決議を否決できる可能性(事実上の拒否権) | 309条2項 |
| 過半数 | 普通決議(取締役・監査役の選任、取締役の解任、役員報酬、剰余金の配当など)を単独で可決 | 309条1項、341条 |
| 3分の2以上 | 特別決議(定款変更、合併・会社分割・株式交換、事業譲渡、株式併合、特定の株主からの自己株式取得、相続人等への売渡請求など)を単独で可決 | 309条2項 |
| 90%以上 | 特別支配株主の株式等売渡請求、略式の事業譲渡・組織再編 | 179条、468条、784条、796条 |
1株〜10%:少数株主でも使える権利
1株から使える権利
意外に知られていないのが、1株でも使える権利の多さです。
- 決議取消しの訴え(831条):招集手続きや決議の方法が法令・定款に違反する場合などに、決議の日から3か月以内に訴えることができます。招集通知を一部の株主に送っていなかった、というような手続きの不備は、中小企業で起こりがちです
- 株主代表訴訟(847条):会社が取締役の責任を追及しないとき、株主が会社に代わって訴えを起こすための手続きです。非公開会社では保有期間の要件がありません
- 閲覧の請求:株主名簿(125条)、計算書類(442条)、株主総会の議事録(318条)は株主であれば閲覧を請求できます。取締役会の議事録も「権利を行使するため必要があるとき」に閲覧を請求できますが、監査役設置会社では裁判所の許可が必要です(371条)
1%または300個:議題の提案
取締役会設置会社では、総株主の議決権の1%以上または300個以上の議決権を持つ株主は、「この事項を株主総会の議題にしてほしい」と請求できます(303条2項)。請求は総会の日の8週間前までに行う必要があります。議案の要領を株主に通知するよう求める権利(305条)も同じ要件です。取締役会を置かない会社では、1株の株主でもこれらの権利を持ちます。
3%:帳簿の閲覧と総会の招集
3%は、少数株主が会社の内部に踏み込めるラインです。
- 株主総会の招集請求(297条):議題と招集の理由を示して、取締役に総会の招集を求められます。遅滞なく招集されなければ、裁判所の許可を得て自ら招集できます
- 会計帳簿の閲覧・謄写(433条):決算書ではなく、その元になる帳簿や資料を見る権利です。会社が拒めるのは、権利の確保・行使以外の目的である場合や、競業者である場合など、法律で決められた場合に限られます
- 業務執行の検査役(358条):不正の疑いがあるとき、裁判所に検査役の選任を申し立てられます
- 役員解任の訴え(854条):不正行為などがあるのに解任議案が否決されたとき、総会の日から30日以内に裁判所に解任を求められます
10%:会社の解散の訴え
10%以上を持つ株主は、業務の執行が著しく困難な状況にあり回復できない損害が生じるおそれがあるときなど、「やむを得ない事由」がある場合に、会社の解散を裁判所に請求できます(833条)。株主同士の対立で会社が動かなくなったときの最後の手段で、実際に認められるハードルは高いものの、少数株主にとっては交渉材料になり得ます。
3分の1超・過半数・3分の2以上・90%:会社の意思決定を握るライン
過半数:普通決議
株主総会の普通決議は、議決権の過半数を持つ株主が出席し、その出席株主の議決権の過半数で決めます(309条1項)。定款で定足数を外している会社も多いのですが、取締役・監査役などの役員の選任と解任は、定款でも定足数を3分の1未満にはできません(341条)。
過半数を持てば、取締役を選び、取締役会を通じて代表取締役も決められます。経営の主導権を握るラインといえます。
3分の2以上:特別決議
特別決議は、議決権の過半数(定款で3分の1まで下げられます)を持つ株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上で決めます(309条2項)。対象になるのは、会社の形そのものを変える重要な事項です。
- 定款の変更、資本金の額の減少(一定の場合を除く)
- 合併・会社分割・株式交換・株式移転、事業の全部や重要な一部の譲渡
- 株式の併合、特定の株主からの自己株式の取得
- 監査役の解任、相続人等に対する売渡請求
また、譲渡制限を新たに設ける定款変更などは、さらに厳しい特殊決議(株主の半数以上で、議決権の3分の2以上。309条3項)、株主ごとに異なる扱いをする属人的な定め(109条2項)を設ける定款変更は、総株主の半数以上で総株主の議決権の4分の3以上という要件です(309条4項)。
3分の1超:拒否権
裏返すと、3分の1を超える議決権を持つ株主が反対すれば、特別決議は成立しません(全株主が出席した場合)。M&Aで株式交換や合併をしたい、定款を変えて種類株式を発行したい、というときに、3分の1超の株主が反対すれば先へ進めません。オーナーにとっては「他の株主に3分の1超を持たせない」ことが、株主構成を考える基本になります。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る90%以上:特別支配株主の売渡請求
議決権の90%以上を持つ株主(その株主が100%を持つ会社の分も合算できます)は、特別支配株主として、残りの株主の全員に対し、株式を自分に売り渡すよう請求できます(179条)。対象会社の取締役会の承認などの手続きは必要ですが、株主総会の決議は必要ありません。価格に不満のある株主は、裁判所に売買価格の決定を申し立てることができます。
90%は、事業譲渡や吸収合併などで、相手方の株主総会の決議を省略できる「略式」の手続き(468条、784条、796条)のラインでもあります。
M&Aで買い手が会社を買う場合、通常は100%の取得を求められます。少数株主が残っていると、買収後の意思決定や配当、将来の再編のたびに配慮が必要になるからです。売り手のオーナーが90%以上を持っていれば、売渡請求で残りを集めてから売る道がありますが、3分の2程度なら株式併合(180条、特別決議)を使うことになり、手続きと価格の争いの負担が重くなります。分散した株式を集める方法は、株式併合・特別支配株主の売渡請求(スクイーズアウト)で詳しく扱います。
相続で比率が崩れるとき:セミナーで紹介した3つの場面
2026年9月のセミナーでは、比率の話を相続と結びつけて紹介しました。代表的な場面を3つ挙げます。
「公平に3等分」は経営権の3分割
子ども3人に株式を33.3%ずつ相続させれば、財産としては公平です。しかし経営の面では、誰も過半数を持たず、全員が3分の1に届かない状態になります。2人が組めば過半数と特別決議の3分の2に届き、残る1人は少数株主として3%以上の権利(帳簿閲覧や招集請求)を使えます。財産の公平と経営権の公平は別物だということです。
遺産分割が終わるまでは「準共有」
遺言がない場合、株式は遺産分割が終わるまで相続人全員の共有(株式の場合は「準共有」)になります(民法898条)。共有の株式は、権利を行使する人1人を決めて会社に通知しなければ、原則として権利を行使できません(会社法106条)。
最高裁平成27年2月19日第一小法廷判決(平成25年(受)第650号)は、権利行使者の指定・通知がないまま共有株式の議決権が行使された事案で、その行使が民法の共有に関する規定に従ったものでない場合は、会社が同意しても適法にはならないと判断しました。あわせて、共有株式の議決権の行使は、特段の事情がない限り、持分の価格の過半数で決める管理行為に当たるとしています(当時の民法252条本文。現行は252条1項)。判決の原文は裁判所ウェブサイトで確認できます。相続で共有になった株式の扱いは、相続で共有になった株式の議決権で詳しく取り上げます。
相続人等への売渡請求の「逆転現象」
定款に定めがあれば、会社は相続で株式を取得した人に、株式を会社に売り渡すよう請求できます(174条)。この請求には株主総会の特別決議が必要ですが、請求を受ける相続人本人はその総会で議決権を行使できません(175条2項本文)。
たとえば、創業者の70%を後継者が相続し、残り30%を他の株主が持っている場合、売渡請求の議案では後継者は投票できず、30%の株主だけで決議が成立し得ます。70%を持っていても、その議案ではゼロ票になるということです(他に議決権を行使できる株主がいない場合は例外です)。定款の売渡請求の規定は、少数株主の株式を集めるために置かれることが多いのですが、オーナーの相続のときに逆向きに働くおそれがある点に注意してください。
税務・承継税制・銀行から見た保有比率
相続税評価:会社法とは別の物差し
非上場株式の相続税評価では、財産評価基本通達188により、議決権割合で評価方法が分かれます。
| 判定 | 基準(議決権割合) | 主な評価方法 |
|---|---|---|
| 同族株主 | 株主1人と同族関係者で30%以上(50%超のグループがある会社は50%超) | 原則的評価方式 |
| 中心的な同族株主 | 同族株主1人と配偶者・直系血族・兄弟姉妹・1親等の姻族などで25%以上 | 原則的評価方式 |
| 同族株主のうち少数株主 | 中心的な同族株主がいる会社で、取得後5%未満、中心的な同族株主でなく役員でもない | 配当還元方式 |
| 同族株主がいない会社の少数株主 | グループで15%未満 | 配当還元方式 |
同じ株式でも、取得する人の立場によって評価額が大きく変わります。評価の仕組みは自社株評価の方法で解説しています。原文は国税庁の財産評価基本通達(株式及び出資)で確認できます。
法人税:同族会社の判定
法人税法では、上位3株主グループで発行済株式(自己株式を除く)の50%超を持つ会社を「同族会社」とし(法人税法2条10号)、行為計算の否認などの規定の対象としています。中小企業の多くは同族会社に当たります。
事業承継税制:後継者の議決権要件
非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予(事業承継税制)でも、議決権の割合が要件になります。贈与の場合、後継者は同族関係者とあわせて総議決権の50%超を持ち、後継者が1人なら同族内で筆頭、2〜3人ならそれぞれ10%以上を持ち同族内で上位であることなどが求められます。詳しくは事業承継税制の特例をご覧ください。
銀行・買い手から見た株主構成
銀行は融資の審査で、決算書だけでなく株主構成と後継者も見ています。代表者が過半数を持っていない、相続で株式が分散しそうだ、という会社は、経営の安定性に不安があると受け止められやすくなります。経営者保証の解除や後継者への保証の引継ぎを相談するときも、後継者が議決権をどれだけ持つかは必ず聞かれるポイントです。
M&Aの買い手も同じです。株主が多く、連絡の取れない株主や名義株がある会社は、デューデリジェンスで「株式を100%取得できるか」という点から慎重に見られ、価格や条件に反映されることがあります。
比率を設計するための実務のチェックポイント
- 株主名簿と法人税申告書の別表二(同族会社の判定に関する明細書)を並べ、株主・株数が一致しているか
- オーナー一族で3分の2以上、後継者単独で過半数を確保できているか
- 3分の1超、3%以上、10%以上を持つ株主が誰で、関係は良好か
- 定款に譲渡制限、相続人等への売渡請求、少数株主権の要件の緩和などの定めがあるか
- オーナーの遺言で、株式を誰に何%遺すかが決まっているか
- 株式を持ち合っている会社がないか(相手の議決権の4分の1以上を持たれていると議決権がなくなる。会社法308条1項)
比率を整える方法には、オーナーや会社による買取り、種類株式(議決権制限株式・拒否権付株式)の活用、持株会社の設立、遺言や生前贈与などがあります。どれも、株価・税金・銀行の評価に影響します。比率の目標を決めてから、手段を選ぶ順番が大切です。具体的な方法は、株式が分散しているリスク、少数株主の権利、種類株式を事業承継に使うで順に解説します。
まとめ
- 1株でも、決議取消しの訴えや代表訴訟、名簿・計算書類の閲覧ができる
- 1%(300個)で議題の提案、3%で招集請求・帳簿閲覧・役員解任の訴え、10%で解散の訴え。非公開会社では保有期間の要件がないものが多い
- 過半数で普通決議、3分の2以上で特別決議。他の株主の3分の1超は特別決議の拒否権になる
- 90%以上で特別支配株主の売渡請求が使え、M&Aで100%を集めやすくなる
- 相続税評価(30%・25%・5%など)、法人税の同族会社判定(50%超)、事業承継税制の議決権要件は、会社法とは別の物差しで判定する
- 相続で株式が分かれると、比率がそのまま経営権の分割になる。遺言・売渡請求の規定・後継者の持分は、元気なうちに設計しておく
税理士法人クレフティでは、株主名簿と定款の確認から、株価の試算、株式の集約や承継の手順の設計まで、事業承継・M&A支援としてご相談をお受けしています。初回のご相談は無料で、担当者がお話を伺ったうえで、担当の公認会計士・税理士がご支援します。条文の適用は会社ごとの定款や機関設計で変わるため、具体的な判断は個別にご相談ください。
