オーナーの急逝

相続で共有になった株式の議決権|権利行使者の指定と最高裁判例(平成2年・9年・11年・27年)

オーナーが亡くなり、遺言がなければ、その株式は遺産分割が終わるまで相続人全員の共有になります。会社の議決権の過半数を持っていた株式が共有になると、「誰が、どのように議決権を使うのか」が決まらない限り、取締役の選任すらできなくなることがあります。

この記事では、相続で共有になった株式の議決権について、会社法106条の「権利行使者の指定と通知」の仕組みと、裁判所ウェブサイトで確認できる最高裁判例を時系列で紹介します。そのうえで、会社と相続人が実務でどう動けばよいか、税務上の注意点とあわせて整理します。

この記事の結論
  • 共同相続された株式は当然には分割されず、遺産分割まで相続人の準共有になる(最高裁平成26年2月25日判決)
  • 共有株式は、権利行使者1人を定めて会社に通知しなければ、原則として権利を行使できない(会社法106条)
  • 権利行使者は持分の価格の過半数で決められる(平成9年判決)。全員一致は不要
  • 会社が同意しても、民法の共有規定に従っていない議決権行使は違法。議決権行使も原則として持分の過半数で決める(平成27年判決)
  • 争いを避ける最善策は株式についての遺言。会社側は、指定・通知の書面を受け取り、議事録に記録を残す

相続された株式は「共有」になる

相続人が複数いると、相続財産は相続人の共有になります(民法898条)。株式のように所有権以外の財産権を複数の人で持つ場合は「準共有」と呼ばれ、民法の共有の規定が準用されます(民法264条)。

最高裁平成26年2月25日判決(平成23年(受)第2250号、民集68巻2号173頁)は、株式には剰余金の配当を受ける権利などの自益権と、議決権などの共益権が含まれることから、共同相続された株式は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないと述べています(裁判所ウェブサイト)。たとえば1,000株を相続人2人が2分の1ずつ相続しても、「500株ずつ」になるのではなく、1,000株全体を2人で共有している状態です。

会社法106条:権利行使者の指定と通知

株式が2人以上の共有に属するときは、共有者は、その株式についての権利を行使する者1人を定め、会社にその氏名を通知しなければ、その株式についての権利を行使できません(会社法106条本文)。ただし、会社が権利の行使に同意した場合は、この限りでないとされています(同条ただし書)。

論点ルール根拠
権利行使の方法権利行使者1人を定めて会社に通知する会社法106条本文
権利行使者の決め方共有持分の価格に従い過半数で定める最高裁平成9年1月28日判決、民法252条
会社の同意による権利行使同意があっても、民法の共有規定に従った行使でなければ適法にならない最高裁平成27年2月19日判決
議決権の行使の決め方株式の処分・内容の変更になるなど特段の事情がない限り、持分の価格の過半数で決める最高裁平成27年2月19日判決、民法252条
指定・通知を欠く相続人の訴え特段の事情がない限り、決議不存在確認・合併無効の訴えの原告適格なし最高裁平成2年12月4日判決、平成3年2月19日判決

最高裁判例を時系列で読む

平成2年12月4日判決:指定・通知がなければ訴えも起こせない

事案と判断:株式を相続して準共有している共同相続人が、株主総会決議の不存在確認を求めた事案です。最高裁は、権利行使者の指定と会社への通知を欠く場合、共同相続人は特段の事情がない限り、決議不存在確認の訴えの原告適格を有しないとしました。そのうえで、共有の株式が発行済株式の全部に当たり、共同相続人の一人を取締役に選任する株主総会決議があったとして登記されている事案では、ほかの共同相続人に原告適格を認めています(平成元年(オ)第573号、民集44巻9号1165頁。裁判所ウェブサイト)。

平成3年2月19日判決:合併無効の訴えでも同じ

合併当事会社の株式を準共有する共同相続人の、合併無効の訴えの原告適格が争われた事案です。最高裁は、指定・通知を欠く場合は特段の事情がない限り原告適格はないとしつつ、共有の株式が一方の会社の発行済株式総数の過半数を占めているのに、合併承認決議があったことを前提に合併の登記がされている事案では、原告適格を認めました(平成元年(オ)第1059号、集民162号105頁。裁判所ウェブサイト)。

この2つの判決からは、指定・通知は原則として必要だが、共有株式がなければ決議が成り立たないような場面で、手続きを経ずに決議があったとされた場合には、相続人が争う道が残されている、と読めます。

平成9年1月28日判決:権利行使者は持分の過半数で決める

有限会社の持分が共同相続された事案です。最高裁は、社員の権利を行使すべき者は、共有持分の価格に従い、その過半数をもって定めるとしました(平成5年(オ)第1939号、集民181号83頁。裁判所ウェブサイト)。参照法条には民法252条(共有物の管理)が挙げられています。

この考え方は株式にも当てはまると理解されています。権利行使者を決めるのに相続人全員の一致は不要で、持分の過半数を持つ相続人(またはそのグループ)が決められます。

平成11年12月14日判決:会社の側から議決権行使を認めることはできない(旧商法)

旧商法の時代の事案で、最高裁は、指定・通知を欠くときは、共有者全員が議決権を共同して行使する場合を除き、会社の側から議決権の行使を認めることはできないとしました(平成10年(オ)第866号、集民195号715頁。裁判所ウェブサイト)。

その後、会社法の制定で106条ただし書(会社が同意した場合は指定・通知がなくても権利行使できる)が設けられたため、「会社が同意すれば、共有者の一人でも議決権を行使できるのか」が新たな論点になりました。

平成27年2月19日判決:会社の同意だけでは足りない

事案:特例有限会社(発行済株式3,000株)で、2,000株を持っていた株主が亡くなり、その妹2人が2分の1ずつ共同相続しました。遺産分割は未了で、権利行使者の指定・通知もありませんでした。臨時株主総会で、相続人の一人が2,000株全部の議決権を行使し、残り1,000株の株主とともに、取締役・代表取締役の選任と本店移転の定款変更などを決議しました。会社はこの議決権行使に同意していました。もう一人の相続人は総会に出席せず、決議の取消しを求めました。

判断:最高裁は、106条本文は共有株式の権利行使の方法について民法の共有規定に対する「特別の定め」(民法264条ただし書)を設けたもので、ただし書は会社が同意した場合にこの特別の定めの適用を排除するものだとしました。そうすると、指定・通知を欠いたまま権利が行使された場合に、その権利行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、会社が同意しても適法とはならない。そして共有株式の議決権の行使は、議決権の行使によって直ちに株式が処分されたり、株式の内容が変更されたりするなどの特段の事情のない限り、株式の管理に関する行為として、民法252条本文により持分の価格の過半数で決せられるとしました。

結論:議決権を行使した相続人の持分は2分の1にすぎず、もう一人の相続人は同意していなかったため、過半数で決したとはいえず、議決権行使は不適法。各決議は決議の方法が法令に違反するとして取り消されました(平成25年(受)第650号、民集69巻1号25頁。裁判所ウェブサイト)。

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実務で起きる問題と対応

持分がちょうど半分ずつのとき

平成27年判決の事案のように、相続人2人が2分の1ずつ相続すると、どちらも単独では過半数になりません。2人の意見が一致しなければ、権利行使者も決まらず、議決権も行使できません。オーナーの株式が会社の議決権の過半数を占めていれば、取締役の選任や決算の承認ができない状態が続くことになります。

民法では、所在が分からない共有者がいる場合や、催告しても賛否を明らかにしない共有者がいる場合に、裁判所の決定でほかの共有者の過半数で管理に関する事項を決められる制度(民法252条2項)も設けられています。株式の準共有にどこまで使えるかは個別の検討が必要ですが、相続人の一部と連絡が取れないときの選択肢として知っておくとよいでしょう。

どんな議案なら「特段の事情」に当たるか

平成27年判決は、取締役・代表取締役の選任と本店所在地の変更は、株式の処分や内容の変更には当たらないとしました。一方で、どのような議案が「特段の事情」に当たり、共有者全員の同意(民法251条の変更行為)が必要になるかは、判決では具体的に示されていません。株式の内容そのものを変える定款変更や、組織再編のように株主の地位に大きく影響する議案は慎重な検討が必要です。

会社側の対応

場面会社がすること
相続の発生を知った株主名簿上の株主の死亡を確認し、相続人の範囲と遺言の有無を確認する
株主総会の前権利行使者の指定・通知の書面(誰を指定したか、持分の過半数で決めたことが分かるもの)を受け取る
指定・通知がないまま総会を迎える106条ただし書の同意をする場合は、議決権行使が持分の過半数で決められたことを確認する。確認できなければ、その株式の議決権は数えないことも検討
総会後議事録に、共有株式の議決権行使の扱いを記録しておく

会社にとって、手続きを誤ると決議が取り消されるリスクがあります。とくに、オーナーの株式が大半を占める会社では、決議の取消しは役員体制そのものの不安定につながります。

相続人側の対応

  • 遺産分割の協議と並行して、権利行使者の指定を書面で行い、会社に通知する
  • 権利行使者に、議案ごとにどう議決権を行使するかを相続人間で話し合う
  • 遺産分割が長引きそうなら、会社の運営に必要な議案(役員選任・決算承認)だけでも先に合意する

税務と銀行の視点

相続税申告と遺産分割

相続税の申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月以内)までに遺産分割がまとまらなければ、法定相続分で取得したものとして申告します。非上場株式の相続税の納税猶予(事業承継税制)は、申告期限までに分割されていない株式は原則として対象にできないため、株式の承継先を早く決めることは、税務の選択肢を広げることにもつながります。

株式の評価方法(原則的評価か配当還元方式か)は、相続人ごとの取得後の議決権割合で判定されます。遺産分割で誰がどれだけ取得するかによって、評価額や納税額が変わることがあります。評価の基本は自社株評価の方法をご覧ください。

銀行から見たリスク

株式が共有のまま意思決定が止まると、代表取締役の選定や決算の承認が遅れます。銀行は、経営の継続性と、決算書が適時に確定するかを見ています。代表の相亰の著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算しますが、こうした数字以前に、誰が会社を代表し、誰が返済に責任を持つのかが決まらないこと自体が、融資の更新や新規の借入の障害になります。相続後の銀行対応は口座の凍結・借入・経営者保証はどうなるかで解説しています。

まとめ

  • 共同相続された株式は当然には分割されず、遺産分割まで準共有になる
  • 権利行使には権利行使者1人の指定と会社への通知が必要。権利行使者は持分の価格の過半数で決められる
  • 会社が同意しても、民法の共有規定に従っていない議決権行使は違法になり、決議が取り消され得る(平成27年判決)
  • 指定・通知を欠く相続人は原則として決議を争えないが、特段の事情があれば原告適格が認められる
  • いちばんの備えは株式についての遺言。相続後は、権利行使者の指定を書面で残し、会社は議事録に記録する

オーナーが亡くなった直後の会社の動きは事業オーナーが亡くなったら、次の日から会社はどうなるか、相続前の備えは相続前にやっておく株式の集約計画で解説しています。クレフティの事業承継・M&A支援では、相続で共有になった株式の扱い、株価と相続税の試算、銀行への説明までご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。

よくある質問

相続で共有になった株式の権利行使者は、相続人全員の同意がないと決められませんか?
全員の同意は必要ありません。最高裁平成9年1月28日判決(有限会社の持分の事案)は、権利行使者は共有持分の価格に従い過半数で定めるとしました。法定相続分が2分の1を超える相続人がいれば、その人の意思で権利行使者を決められることになります。持分がちょうど半分ずつの場合などは、過半数を確保できずに決まらないことがあります。
会社が同意すれば、相続人の一人が共有株式の議決権を行使できますか?
会社法106条ただし書は、会社が同意すれば権利行使者の指定・通知がなくても権利行使できると定めています。しかし、最高裁平成27年2月19日判決は、その権利行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、会社が同意しても適法にはならないとしました。議決権の行使は、特段の事情がない限り、持分の価格の過半数で決める必要があります。
権利行使者が決まっていない相続人は、株主総会決議を争えませんか?
原則として、権利行使者の指定と通知を欠く共同相続人は、株主総会決議不存在確認の訴えなどの原告適格を持ちません(最高裁平成2年12月4日判決)。ただし、共有の株式が発行済株式の全部に当たるのに、相続人の一人を取締役に選任する決議があったとして登記されているような特段の事情があれば、ほかの相続人にも原告適格が認められています。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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