自社株の集約は、相続が起きてからでは選べる方法が一気に減ります。株式は相続人の共有になり、遺産分割がまとまるまで議決権の行使にも手間がかかります。少数株主の側でも、高齢の株主が亡くなれば、交渉の相手が相続人の数だけ増えていきます。
この記事では、相続前にやっておく株式の集約計画を、オーナー自身の株式と、親族・元役員などの少数株主の株式に分けて整理します。相続後に使える制度とその期限、贈与や事業承継税制などの税金、遺留分、銀行への影響まで、逆算して計画を立てるための材料をまとめました。
- 相続が起きると株式は相続人の共有になり、権利行使者を決めないと原則として議決権を行使できない
- 計画は2本立て。オーナー株を誰にどう渡すか(遺言・贈与・事業承継税制)と、少数株主の株をどう集めるか(買取り・定款整備)
- 相続後にも、相続人からの取得の特則、売渡請求(1年)、みなし配当の特例(申告期限後3年)などがあるが、期限が短い
- 後継者に株を集めると、ほかの相続人との遺留分の問題が生じる。経営承継円滑化法の民法特例も選択肢
- 株価を下げる手法は銀行格付けも下げる。承継と融資を同じ計画表で管理する
相続が起きると、株式はどうなるか
相続人の共有になる
相続人が複数いると、相続財産は相続人の共有になります(民法898条)。株式も同じで、遺産分割が終わるまでは、相続人全員の準共有です(民法264条)。最高裁平成26年2月25日判決(平成23年(受)第2250号、民集68巻2号173頁)は、共同相続された株式について、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないと述べています(裁判所ウェブサイト)。
共有の株式は、共有者が権利を行使する者1人を定めて会社に通知しなければ、原則として権利を行使できません(会社法106条)。オーナーが過半数を持っていた会社で、相続人の意見が割れて権利行使者が決まらないと、株主総会で取締役を選ぶことすらできなくなります。権利行使者の決め方と判例は相続で共有になった株式の議決権で詳しく解説します。
少数株主の側でも株主が増える
親族や元役員が持つ少数の株式も、その人が亡くなれば相続人に引き継がれます。株主名簿に載っていない相続人と連絡を取り、株式の買取りを交渉するのは、生前の本人と話すよりはるかに大変です。分散のリスクは株式が分散しているリスクで整理しています。
集約計画の全体像
| 時期の目安 | オーナー自身の株式 | 少数株主の株式 | 会社の準備 |
|---|---|---|---|
| 5年以上前 | 後継者を決め、承継の方法(贈与・譲渡・相続)を検討 | 株主名簿と実態を確認。名義株・所在不明株主を洗い出す | 株価を試算し、毎期の推移を見る |
| 3〜5年前 | 贈与や事業承継税制の適用を開始。遺言を作成 | 高齢の株主、3分の1超を持つ株主から買取りの交渉 | 定款の見直し(譲渡制限、売渡請求、種類株式) |
| 1〜3年前 | 残りの株式の承継方法を確定。遺留分への手当て | 残った株式の整理。必要ならスクイーズアウトを検討 | 買取資金と銀行への説明を準備 |
| 相続発生後 | 遺言の執行・遺産分割、権利行使者の指定 | 相続人からの取得、売渡請求 | 代表者の選定、登記、銀行への報告 |
時期はあくまで目安です。オーナーの年齢や健康状態によっては、遺言の作成と株主名簿の確認を最優先で済ませておきます。
オーナー自身の株式をどう渡すか
遺言
もっとも基本的な備えは、株式を誰に相続させるかを遺言で決めておくことです。遺言がなければ、株式は遺産分割協議で分けることになり、まとまるまで共有の状態が続きます。経営者の遺言の書き方は経営者の遺言をご覧ください。
生前贈与と相続時精算課税
生前に後継者へ株式を贈与すれば、相続の時には後継者の株式になっており、共有の問題は起きません。贈与の方法は主に2つです。
| 方法 | 概要 | 注意点 |
|---|---|---|
| 暦年贈与 | 年110万円の基礎控除を超える部分に贈与税 | 相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算(段階的に延長) |
| 相続時精算課税 | 累計2,500万円の特別控除と、年110万円の基礎控除。超える部分は一律20% | 贈与した株式は、相続のときに贈与時の価額で相続財産に加算 |
株価が高い会社では、贈与だけで全株式を移すのは難しく、譲渡や事業承継税制との組み合わせを検討します。詳しくは暦年贈与・相続時精算課税で株式を移す方法で解説します。
事業承継税制
非上場株式の贈与・相続に係る贈与税・相続税の納税を猶予する事業承継税制もあります。特例措置は、特例承継計画を提出したうえで、2027年12月31日までの贈与・相続が対象です。特例承継計画の提出期限は、令和8年度税制改正で2026年3月31日から2027年9月30日に延長されています(2026年10月時点)。制度の概要は事業承継税制の基本をご覧ください。
遺留分への手当て
後継者に株式を集めると、ほかの相続人の取り分が減ります。兄弟姉妹以外の相続人には遺留分があり(民法1042条)、遺留分を侵害された相続人は、侵害額に相当する金銭の支払いを請求できます(民法1046条)。株式そのものを取り戻されるわけではありませんが、後継者が多額の金銭を用意しなければならないことがあります。
経営承継円滑化法には、後継者が贈与で取得した株式を遺留分の算定から除いたり(除外合意)、贈与時の価額で固定したり(固定合意)する民法特例があります。推定相続人全員の合意と、経済産業大臣の確認・家庭裁判所の許可が必要です。後継者以外の相続人との公平は後継者以外の相続人との公平で扱います。どの方法を選ぶかは、家族の事情によって答えが変わります。家族で話し合うための材料として、試算を早めに用意しておくことをおすすめします。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る少数株主の株式をどう集めるか
少数株主の株式は、本人が元気なうちに、話し合いで買い取るのが基本です。買い手によって税金と資金の出どころが変わります。
| 買い手 | 売り手(個人)の課税 | 注意点 |
|---|---|---|
| 後継者個人 | 譲渡所得20.315% | 後継者の立場で時価が見られ、安すぎると贈与税 |
| 会社(自己株式) | みなし配当(総合課税)+譲渡所得 | 特別決議、売主追加請求、分配可能額、源泉徴収 |
| 後継者の持株会社 | 譲渡所得20.315% | 売り手の立場で時価を判定。時価の2分の1未満ならみなし譲渡 |
それぞれの詳しい手続きと税金は、社長個人が少数株主から買い取るときの価格と税金、会社による自己株式の取得、持株会社をつくって株主構成を整理するで解説しています。
あわせて、定款を見直します。全株式に譲渡制限があるか、相続人等に対する売渡請求の定めを置くか、種類株式を使うかを検討します。ただし、売渡請求の定めは、オーナーの株式を相続した後継者にも使われ得るため、オーナー株の承継方法が固まってから判断します(相続人等に対する売渡請求)。
相続が起きた後に使える制度と期限
計画が間に合わずに相続が起きた場合でも、使える制度はあります。ただし、いずれも期限があります。
| 期限 | 手続き・制度 | 根拠 |
|---|---|---|
| 相続の開始を知った時から3か月以内 | 相続の承認・放棄(期間の伸長は家庭裁判所に請求) | 民法915条 |
| 相続の開始を知った日の翌日から4か月以内 | 被相続人の所得税の準確定申告 | 所得税法125条 |
| 相続の開始を知った日の翌日から10か月以内 | 相続税の申告・納付 | 相続税法27条 |
| 会社が相続を知った日から1年以内 | 相続人等に対する売渡請求(定款の定めが必要) | 会社法176条 |
| 相続税の申告期限の翌日以後3年以内 | 発行会社への譲渡でみなし配当としない特例、取得費加算の特例 | 租税特別措置法9条の7、39条 |
| 期限なし(議決権行使の前が要件) | 相続人からの合意による取得で、売主追加請求が及ばない特則 | 会社法162条 |
相続人から会社が株式を買う場合、相続人が株主総会で議決権を行使する前であれば、ほかの株主の売主追加請求が及びません(会社法162条)。また、相続税を納めた相続人が、申告期限の翌日以後3年以内に発行会社へ株式を売れば、みなし配当とせず全額を譲渡所得とする特例があります(国税庁タックスアンサーNo.1477)。相続税の納税資金をつくる方法として、あらかじめ会社の分配可能額と資金を確認しておくと、いざというときに使えます。
株価と銀行のバランス
株式を移す前に「株価を下げる」手法として、役員退職金の支給や、保険・不動産の活用がよく話題になります。しかし、株価を下げる手法は、利益と純資産を減らし、銀行格付けも下げることを忘れないでください。
代表の相亰の著書の銀行格付けモデル(129点満点)では、安全性・収益性・成長性・返済能力の4分野で決算書を点数化します。退職金で大きな赤字を出せば収益性と返済能力の点数が下がり、純資産が減れば安全性の点数も下がります。会社が少数株主から自己株式を買い取っても、純資産と現預金が減ります。
承継の計画表には、株価の推移と並べて、自己資本比率と債務償還年数の推移も載せておくことをおすすめします。債務償還年数は「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で、10年以内が健全の目安です。承継の年に融資の更新が重なるなら、銀行へ事前に計画を説明しておくと、評価のぶれを抑えられます。
まとめ
- 相続が起きると株式は相続人の共有になり、権利行使者を決めないと原則として議決権を行使できない
- 計画はオーナー株の承継(遺言・贈与・事業承継税制)と少数株主の株の集約(買取り・定款整備)の2本立て
- 相続後にも制度はあるが、3か月・4か月・10か月・1年・3年と期限が並ぶ
- 後継者に集めるほど遺留分の問題が大きくなる。民法特例や金銭の手当てを家族で話し合う
- 株価対策と銀行格付けは表裏一体。同じ計画表で管理する
株式を集める方法の全体像は分散した株式を集中させる方法の全体像で整理しています。クレフティの事業承継・M&A支援では、株主名簿の確認、株価の試算、贈与・譲渡・持株会社の比較、銀行への説明まで、相続前の計画づくりをご相談いただけます。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
