社長が持つ自社株を後継者に移す方法は、大きく「売る」「贈与する」「相続で渡す」の3つです。このうち自社株の贈与は、後継者に買取資金がいらず、社長が元気なうちに株主構成を固められる方法として、親族内承継でよく使われます。
この記事では、暦年贈与と相続時精算課税で自社株を移す方法を、国税庁の公表資料で確認した税率・控除額と計算例で整理します。あわせて、贈与した株式の評価が裁判で争われた事例と、会社の手続き、銀行から見た注意点もお伝えします。
- 自社株の贈与には、暦年課税(年110万円の基礎控除)と相続時精算課税(2,500万円の特別控除+年110万円の基礎控除、税率20%)の2つの方式がある
- 令和6年1月1日以後の贈与から、暦年課税の相続財産への加算期間が段階的に7年へ延び、相続時精算課税にも年110万円の基礎控除ができた
- 株価が上がる見込みなら精算課税、少しずつ時間をかけて移すなら暦年課税、が基本の考え方。ただし精算課税は一度選ぶと暦年課税に戻れない
- 評価の仕組みを形式的に利用した贈与は、配当還元方式の否認や総則6項で、通達以外の方法により評価された裁判例がある
- 贈与は株主名簿の話だけでは終わらない。後継者の議決権、ほかの相続人の遺留分、銀行の見方をセットで設計する
自社株を贈与で移す2つの方式
贈与税には、毎年の贈与ごとに課税する暦年課税と、贈与時に一定の税を納め、相続のときに精算する相続時精算課税の2つがあります。どちらを使うかは、贈与者(社長)ごと・受贈者(後継者)ごとに選びます。
| 項目 | 暦年課税 | 相続時精算課税 |
|---|---|---|
| 控除 | 年110万円の基礎控除 | 年110万円の基礎控除+特別控除2,500万円(累計) |
| 税率 | 10%〜55%の累進税率(直系尊属から18歳以上への贈与は特例税率) | 控除後の金額に一律20% |
| 対象者 | 誰からでも、誰にでも | 贈与の年の1月1日に60歳以上の父母・祖父母から、18歳以上の子・孫へ |
| 相続のときの扱い | 相続開始前の一定期間の贈与を加算(令和13年以後の相続は7年) | 贈与時の価額(基礎控除を除く)をすべて加算 |
| 手続き | 110万円を超えたら翌年2月1日〜3月15日に申告 | 最初の年に「相続時精算課税選択届出書」を提出 |
| 選択の取消し | ― | できない(その贈与者からの贈与はずっと精算課税) |
出典:国税庁タックスアンサー No.4408「贈与税の計算と税率(暦年課税)」、No.4103「相続時精算課税の選択」、No.4161「贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」
令和6年からの改正で変わったこと
令和5年度税制改正により、令和6年1月1日以後の贈与から次の2点が変わりました。
- 暦年課税の加算期間の延長:相続開始前3年以内だった加算期間が、段階的に7年に延びます。令和9年1月1日以後の相続から延長が始まり、令和13年1月1日以後の相続で7年になります。延長された4年分の贈与は、合計100万円までは加算されません
- 相続時精算課税の基礎控除の新設:毎年110万円までは贈与税がかからず、相続財産への加算もされません
改正前は「精算課税を選ぶと、少額の贈与もすべて相続財産に足し戻される」ことが使いにくさの理由でしたが、この点がかなり改善されました。
税額はいくらか:計算例で比べる
ここでは、後継者が社長の子(18歳以上)で、ほかに贈与を受けていない前提で計算します。
暦年課税(特例税率)
| 贈与する株式の評価額 | 基礎控除後 | 税率・控除額 | 贈与税 |
|---|---|---|---|
| 500万円 | 390万円 | 15%・10万円 | 48.5万円 |
| 1,000万円 | 890万円 | 30%・90万円 | 177万円 |
| 3,000万円 | 2,890万円 | 45%・265万円 | 1,035.5万円 |
1,000万円を一度に贈与すると177万円ですが、500万円ずつ2年に分ければ48.5万円×2=97万円です。暦年課税は金額を分けて、年数をかけるほど負担が下がる仕組みです。その代わり、社長の相続開始が近いと、加算期間内の贈与は相続財産に戻されます。
相続時精算課税
評価額1億円の株式を一度に贈与した場合の計算です。
相続のときには、贈与時の価額から基礎控除を差し引いた9,890万円が相続財産に加算され、相続税額から1,478万円が差し引かれます(相続税額より多く納めていれば還付)。ポイントは、加算されるのは贈与時の価額で、その後に株価が3億円になっても、相続税の計算では9,890万円のままだという点です。
逆に、贈与の後に業績が悪化して株価が下がっても、高い贈与時の価額で加算されます。精算課税は「株価がこれから上がる」と見込める会社に向いた制度です。
「株価が低い年」に贈与するという考え方
自社株の相続税評価額は、類似業種比準方式・純資産価額方式などで計算し、直前期の利益・配当・純資産の影響を受けます。計算方法は自社株評価の方法で詳しく解説しています。そのため、次のような年は株価が一時的に下がることがあります。
- 先代の社長に役員退職金を支給した年(利益と純資産が同時に減る)
- 大規模な修繕や設備の除却で、一時的な損失が出た年
- 業界全体の上場株価(類似業種の株価)が下がった年
実態のある取引の結果として株価が下がった年に、まとまった株式を贈与するのは一般的な実務です。ただし、退職金は役員としての勤続・功績に見合う金額であることが前提で、実際に退職していないと否認されるリスクがあります。退職金を使った承継の進め方は事業承継のタイミングでも触れています。
事業承継税制との使い分け
株価が高く、暦年課税でも精算課税でも税負担が重い場合は、法人版事業承継税制(特例措置)で贈与税の納税を猶予する方法があります。国税庁のタックスアンサー No.4439 によれば、特例措置は平成30年1月1日から令和9年12月31日までの贈与・相続等が対象で、特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日までとされています。後継者が代表権を持つことなど要件が多いため、早めの検討が必要です。制度の概要は事業承継税制の解説をご覧ください。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る贈与した株式の評価が争われた裁判例
自社株の贈与では、「どの評価方式を使うか」で税額が大きく変わります。裁判所の裁判例検索で確認できた、贈与株式の評価が争われた事例を紹介します。
| 裁判所・日付 | 事案の要点 | 結論 |
|---|---|---|
| 千葉地裁 平成12年3月27日判決(平成10年(行ウ)第66号) | 同族株主以外の株主が持つ取引相場のない株式を、配当還元方式で評価して贈与税を申告した | 節税目的で取得された株式に配当還元方式を形式的に適用すると、納税者間の実質的な公平を著しく損なうとして、時価純資産価額方式による更正を適法とした。節税にならなかったので贈与は錯誤で無効、という主張も退けた |
| 大阪地裁 平成16年8月27日判決(平成12年(行ウ)第5号)/大阪高裁 平成17年4月14日判決(平成16年(行コ)第94号) | 有限会社への出資で、払込額を資本金と資本準備金に1対99で振り分け、配当還元方式の評価額を著しく低くした出資持分を贈与した | 1対99の振り分けは評価額を低くする目的と認定し、通達どおりの配当還元方式は採用できないとした。一方、受贈者は会社を支配していないとして純資産価額方式も妥当でないとし、払込額全額を資本金とみて配当還元方式の考え方で評価。更正処分は一部取消し |
| 最高裁 令和4年4月19日判決(令和2年(行ヒ)第283号) | 借入金で購入した賃貸マンションを、通達どおり路線価等で評価して相続税を申告した | 通達評価額と鑑定評価額に大きな開きがあり、相続税の負担軽減を意図した取引だったことなどから、鑑定評価額で課税しても平等原則に反しないとした |
出典:裁判所「裁判例検索」千葉地裁平成12年3月27日、大阪地裁平成16年8月27日、大阪高裁平成17年4月14日、最高裁令和4年4月19日
裁判例から読み取れること
3つの事例に共通するのは、評価の仕組みを使うためだけに作られた形は、通達どおりの評価が認められないことがある、という点です。最高裁の事案は不動産ですが、財産評価基本通達の総則6項(通達どおりの評価が著しく不適当な場合の定め)が問題になった点で、自社株の評価にも同じ考え方が及びます。詳しくはタワーマンション節税と最高裁判決でも解説しています。
一方で、大阪の事例のように、裁判所が当局の主張をそのまま認めるとは限らず、事実関係に応じた評価がされます。大切なのは、取引の目的と経緯を説明できることです。
贈与の手続き:会社側でやること
自社株の贈与は、親子で契約書を交わすだけでは完了しません。会社法の手続きが必要です。
- 贈与契約書を作る:口約束の贈与は、履行が終わるまで解除できます(民法550条)。書面にし、贈与者・受贈者の双方が署名します
- 譲渡承認を受ける:定款に譲渡制限がある場合、取締役会や株主総会で贈与による取得を承認します
- 株主名簿を書き換える:株券発行会社の場合は株券の交付も必要です
- 贈与税の申告をする:110万円を超える場合や精算課税を選ぶ場合は、翌年3月15日までに申告します
- 法人税申告書の別表二を更新する:期末の株主構成が、名簿・議事録・申告書で一致するようにします
株式を移したつもりでも、配当を社長が受け取り続けている、後継者が贈与を知らない、といった状態だと、相続のときに名義株(名義だけ後継者で、実質は社長の株)と判断されるおそれがあります。名義株の整理は名義株とはで解説しています。
ほかの相続人と銀行から見た注意点
遺留分は贈与で消えない
後継者に株式を集中させると、ほかの子との間で不公平が生じます。相続人に対する生前贈与は、原則として相続開始前10年間の分が遺留分の計算に入ります(民法1044条)。株価が上がった後の相続で、ほかの相続人から遺留分侵害額を請求されると、後継者は金銭で支払う必要があります。対策としては、経営承継円滑化法の民法特例(除外合意・固定合意)や、ほかの相続人に渡す財産の確保があります。詳しくは後継者以外の相続人との公平をご覧ください。
銀行は「誰が株を持っているか」を見ている
贈与そのものは会社の決算書を変えません。しかし金融機関は、株主構成と経営者保証の引継ぎを確認します。後継者が過半数の議決権を持ち、代表者として保証人になる段取りが見えていると、融資の継続について話がしやすくなります。逆に、株は先代のまま、代表だけ交代という状態では、誰が最終的な意思決定者なのかが分かりにくくなります。
また、株価を下げるために大きな赤字を出すと、銀行格付けにも影響します。著書のモデルでは、決算書を安全性・収益性・成長性・返済能力の4分野・129点満点で点数化しており、退職金による赤字は収益性と返済能力の点数を下げます。贈与のタイミングは、税額と格付けの両方を試算して決めてください。
まとめ
- 自社株の贈与は、暦年課税と相続時精算課税のどちらかを、贈与者・受贈者ごとに選ぶ
- 令和6年以後、暦年課税は加算期間が7年へ延び、精算課税には年110万円の基礎控除ができた
- 株価が上がる見込みなら精算課税、時間をかけて移すなら暦年課税が基本。精算課税は撤回できない
- 評価の仕組みを形式的に利用した贈与は、配当還元方式の否認や総則6項で、通達以外の方法により評価された裁判例がある
- 譲渡承認・株主名簿・申告書をそろえ、名義株と疑われない形で移す。遺留分と銀行への影響も同時に設計する
クレフティでは、自社株の評価、贈与の方式と時期の比較、後継者の議決権と遺留分を踏まえた承継計画づくりを、事業承継・M&A支援としてお手伝いしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺ったうえで、公認会計士・税理士が具体的な試算をご案内します。
