「事業承継は、いつ始めればいいのか」。オーナー経営者の方から、最も多くいただく質問のひとつです。「まだ元気だから」と先送りしているうちに、後継者を育てる時間や、株式を少しずつ移す時間がなくなってしまうことがあります。
この記事では、事業承継のタイミングについて、社長の年齢と交代時期のデータ、準備にかかる期間、事業承継税制や贈与税のルール、株価と業績、銀行の見方という5つの物差しから整理します。そのうえで、引退したい年齢から逆算する方法を紹介します。何歳が正解ということはありませんが、逆算すると「今やるべきこと」が見えてきます。
- 2025年に交代した社長の交代前の平均年齢は68.5歳、新社長は52.8歳。社長全体の平均年齢は60.8歳で過去最高
- 後継者の育成と自社株の移転には、少なくとも4〜5年、長いと10年以上かかる。引退の10年前には考え始めたい
- 事業承継税制の特例は2027年12月31日が適用期限で、後継者は贈与の直前に役員であることなどの要件がある。暦年贈与は7年加算になった
- タイミングは、後継者の準備、会社の業績と株価、借入と銀行の見方を重ねて決める。正解は会社と家族によって違う
データで見る、社長交代のタイミング
帝国データバンクの調査によると、社長の年齢と交代の状況は次のとおりです(全国「社長年齢」分析調査(2025年))。
| 項目 | 2025年 |
|---|---|
| 社長の平均年齢 | 60.8歳(35年連続で過去最高) |
| 社長交代率 | 3.84% |
| 交代前の社長の平均年齢(引退年齢) | 68.5歳 |
| 交代後の新社長の平均年齢 | 52.8歳 |
| 60歳以上の社長の割合 | 52.6% |
同社の別の調査では、2025年の後継者不在率は50.1%で、社長の年代別では50代で58.3%、80代以上でも22.2%の会社で後継者が決まっていません(全国「後継者不在率」動向調査(2025年))。
平均すれば、社長は70歳を前に交代し、50代前半の後継者に引き継いでいます。ただし、これは平均です。60代前半で早めに譲る社長もいれば、80代まで現役を続ける社長もいます。
準備にかかる時間
中小企業基盤整備機構の解説は、後継者を決める時期は、経営者の引退時期、後継者の育成期間、自社株の移転に要する期間、側近の育成期間から判断するとしたうえで、能力の習得や自社株の移転には少なくとも4〜5年、長い場合では10年以上かかる場合があるとしています。他社で修業させてから戻す場合は、その期間が5〜10年程度が一般的とされています(J-Net21「後継者の選択と育成」)。
承継の準備を分解すると、次のようになります。
| 準備の中身 | かかる時間の考え方 |
|---|---|
| 後継者を決める(本人の意思確認を含む) | 家族の話し合いが必要。数か月〜数年 |
| 後継者の育成(社内での段階的な権限移譲) | 数年単位。社外での経験を含めると10年を超えることも |
| 株主構成の整理(名義株・分散した株式の集約) | 相手のいる交渉。1〜数年 |
| 自社株の移転(贈与・相続・譲渡) | 暦年贈与なら複数年。株価の動きを見ながら |
| 経営者保証・借入の引継ぎ | 銀行との協議。決算ごとの説明を重ねる |
| 先代の退任と退職金 | 支給の期の利益・資金繰りとあわせて設計 |
何歳で、いつから:引退の年齢から逆算する
引退したい年齢を決めて、そこから逆算すると、今やるべきことが見えてきます。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 引退の10年前 | 後継者候補を考え始める。本人の意思を確かめる。自社株の評価額を把握する。遺言の暫定版を作る |
| 引退の7〜5年前 | 後継者が自社に入る、または役員に就く。株主構成の整理を始める。暦年贈与や相続時精算課税の方針を決める |
| 引退の5〜3年前 | 後継者に部門や新規事業を任せる。銀行への決算説明に同席させる。事業承継税制を使うなら役員期間の要件を満たす |
| 引退の3〜1年前 | 後継者を代表取締役候補として社内外に公表する。経営者保証の扱いを銀行と協議する。退職金の支給計画を立てる |
| 交代の年 | 代表取締役の交代、株式の移転、先代の退任と退職金の支給 |
| 交代後 | 先代は相談役などで助言に回るか、完全に退く。後継者の代での初決算を銀行に説明する |
たとえば70歳での引退を考えるなら、60歳前後から考え始める計算になります。交代前の社長の平均年齢が68.5歳であることを考えると、平均的なペースで交代する会社でも、50代後半から60歳ごろには準備に着手しておきたいところです。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る税制から見たタイミング
事業承継税制の期限と後継者の要件
非上場株式の贈与税・相続税の納税を猶予・免除する事業承継税制の特例措置は、次の期限があります(2026年10月時点)。
- 特例承継計画の提出期限:2027年9月30日(令和8年度税制改正で2026年3月31日から延長)
- 贈与・相続の適用期限:2027年12月31日
贈与で使う場合、後継者は贈与の日に18歳以上で、贈与の時に代表権を持ち、贈与の直前に役員であることなどが要件です(令和7年度改正で、2025年1月1日以後の贈与から「贈与の日まで引き続き3年以上」の要件が緩和されました)(国税庁タックスアンサーNo.4439)。以前のように役員就任から3年待つ必要はなくなりましたが、代表権の移譲や議決権の要件を満たす準備には時間がかかります。期限後の制度のあり方は今後の税制改正で検討される見込みで、現時点では決まっていません。制度の詳細は事業承継税制の特例とは?をご覧ください。
暦年贈与の7年加算と相続時精算課税
2024年1月1日以後の贈与から、暦年課税で贈与した財産のうち相続開始前7年以内のものは、相続税の課税価格に加算されるようになりました(延長された4年間の贈与は合計100万円まで加算しない。経過措置あり)。一方、相続時精算課税には、2024年1月1日以後の贈与から年110万円の基礎控除が設けられ、この部分は相続財産に加算されません(国税庁タックスアンサーNo.4161)。
株式を少しずつ贈与する方法は、長い時間をかけるほど効果が出る仕組みです。始めるのが遅いと、加算の対象になる部分が増えます。使い分けは生前贈与と相続の新ルールや暦年贈与・相続時精算課税で株式を移す方法で解説しています。
評価方法の見直しの議論
非上場株式の相続税評価の方法は、2026年に国税庁の有識者会議で見直しが議論されていますが、2026年10月時点で新しい算式や適用時期は確定していません。現行のルールで株価を把握し、改正の動きを見ながら計画を調整するのが現実的です(非上場株式の評価見直しの最新動向)。
会社の状態から見たタイミング
税制と同じくらい大切なのが、会社の状態です。
| 会社の状態 | 承継への影響 |
|---|---|
| 業績が好調 | 後継者は良い状態で引き継げる。ただし株価が高く、贈与税・相続税は重くなりやすい |
| 業績が一時的に落ち込んでいる | 株価は下がりやすいが、後継者が立て直しの重荷を負う。銀行の評価も厳しい |
| 大型投資・借入の直後 | 返済のピークが後継者の代に来る。保証の引継ぎの交渉が難しくなりやすい |
| 借入の返済が進み、財務が安定 | 保証の解除や後継者への引継ぎを交渉しやすい |
| 先代の退職金を支給する期 | その期は利益と純資産が下がり、株価も下がる。同時に決算書も弱く見える |
後継者側の事情も、タイミングを左右する
会社の状態と同じくらい、後継者の側の事情も大切です。
- 年齢と経験:役員として経営に関わった期間が短いと、社内外の信頼を得るまでに時間がかかる
- 家族の状況:子育てや配偶者の仕事、住む場所の変化が、承継を引き受けられる時期に影響する
- 健康と意欲:先代だけでなく、後継者の心身の状態や、経営を引き受ける覚悟が固まっているか
- 他の候補との関係:兄弟や社内の役員など、他の候補者がいる場合の納得感
先代の引退時期だけで決めると、後継者にとって無理なタイミングになることがあります。先代と後継者の双方の事情を並べて、重なる時期を探すという考え方が現実的です。
株価と決算書の関係
「株価が下がる時期に株式を移す」という考え方はよく聞きますが、株価を下げる要因は、そのまま銀行から見た決算書の弱さでもあります。退職金の支給で大きな赤字を出した翌年に、後継者が新しい借入を申し込む、という順番は避けたいところです。
銀行から見たタイミング
銀行は、代表者の交代を「事業がこの先も続くか」という視点で見ます。著書のモデルでは、決算書を安全性・収益性・成長性・返済能力の4分野・129点満点で点数化し、32点以上を正常先の目安としています。交代の前後で決算書の点数が大きく下がらないよう、退職金の支給や株価対策の時期を調整することが、後継者の代での融資を守ります。
あわせて、後継者を承継の数年前から銀行との面談に同席させ、決算の説明を任せていくと、交代時の信用の引継ぎがスムーズになります。経営者保証の考え方は経営者保証を外す方法をご覧ください。
タイミングの決め方は人による
最後に、よく見られる考え方を並べます。どれが正しいということはありません。
- 早めに譲る:60代前半で代表を譲り、会長として数年支える。後継者が若いうちに経験を積める一方、先代の関わり方の線引きが難しい
- 70歳前後で交代する:平均的な形。準備期間を10年ほど取れれば、育成と株式の移転を並行して進めやすい
- 段階的に移す:代表権、株式、保証、取引先の担当を、数年かけて一つずつ移す。急な交代による混乱が少ない
- 決めきれないうちは、急逝への備えを先に:後継者が決まっていない段階でも、遺言や取締役の構成など、万一に備える準備はできる(オーナー急逝に備えるチェックリスト)
子どもに継がせるかどうか自体の考え方は、子どもに継がせるメリット・デメリットで整理しています。
まとめ
- 2025年の交代前の社長の平均年齢は68.5歳、新社長は52.8歳。社長の平均年齢は60.8歳で過去最高
- 育成と株式移転には4〜5年、長いと10年以上。引退の10年前から逆算して準備を始める
- 事業承継税制の特例は2027年12月31日が適用期限。後継者の役員就任・代表権などの要件から逆算する
- 暦年贈与は7年加算、相続時精算課税は年110万円の基礎控除。株式の贈与は早く始めるほど選択肢が広い
- 株価が下がる時期は、決算書が弱く見える時期でもある。税金と銀行の両方でタイミングを考える
承継のタイミングは、税金の損得だけでは決まりません。後継者の準備、会社の状態、家族の考えを重ねて、ちょうどよい時期を見つけることが大切です。クレフティでは、事業承継・M&A支援の中で、自社株の評価の推移、贈与と事業承継税制の比較、退職金の時期と銀行への影響の試算まで、承継のスケジュールづくりをご支援しています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
