日本経済新聞(2026年10月18日)の「霞が関ノート」欄は、非上場株式の新しい評価方法をめぐって、国税庁と経済産業省の意見が対立していることを報じました。中小企業のオーナーにとって、自社株の評価は相続税・贈与税の額を左右する最大の要素です。「うちの株価は上がるのか」「いつから変わるのか」と不安に思われた方も多いでしょう。
この記事では、非上場株式の評価見直しの最新動向を、報道の要点と、国税庁の有識者会議資料、経済産業省の意見書などの一次情報で整理します。「これまでの議論の流れ」と「現時点で確定していないこと」を分けて書きますので、判断の材料にしてください。
- 国税庁は2026年4月から有識者会議を開き、8月に残余利益方式を軸とする見直しの骨子を示した
- 案は、会社規模による区分を廃止し、簿価純資産+数年分の超過収益で評価するもの。純資産が厚く、収益性の高い会社ほど評価が上がりやすい
- 経済産業省は9月の意見書で「政府の政策の方向性に逆行する」と指摘し、日本商工会議所も反対を表明している
- 日本経済新聞(2026年10月18日)によると、首相は国会で「ゼロベースで検討する」と答弁し、議論の場は与党税制調査会に移る見通し
- 2026年10月時点で、方式の採用、算式の前提、適用時期はいずれも未確定。現行ルールでの株価把握が先決
報道の要点:何が起きているのか
日本経済新聞(2026年10月18日、「霞が関ノート」欄)によると、要点は次のとおりです。
- 国税庁が示した非上場株式の新しい評価方法の案に対し、経済産業省が「政府の政策の方向性に逆行する」とする意見書を公表した
- 新方式は利益などを簡素な算式に当てはめるもので、利益を上げるほど相続税評価が高くなる仕組みに経産省が異論を唱えた。日本商工会議所の試算では、税額が5倍になるケースもあるとされる
- 財務相は、2027年末に期限を迎える事業承継税制とあわせて検討すると述べた。首相は10月7日の衆議院本会議で「ゼロベースで検討する」と答弁した。今後の議論の場は与党税制調査会に移る見通し
以下では、この報道の背景を、公表されている一次資料で確認していきます。
これまでの議論の流れ
| 時期 | 出来事 | 出典 |
|---|---|---|
| 2024年11月 | 会計検査院が、評価方式の間で評価額にかい離があり、規模の大きな会社ほど評価額が相対的に低く算定されること、配当還元方式の還元率が金利水準に比べ高いおそれがあることなどを指摘 | 国税庁「有識者会議の開催について」 |
| 2026年4月16日 | 国税庁が「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の開催を公表 | 同上 |
| 4月20日〜7月3日 | 第1回〜第4回会議。相続税法22条の「時価」の考え方、現行方式の課題などを議論 | 各回の議事要旨 |
| 8月20日 | 第5回会議で「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」を机上配付 | 国税庁資料 |
| 9月16日 | 第6回会議で、残余利益方式による評価水準の試算を提示。日本商工会議所の委員、経済産業省・中小企業庁が意見書を提出 | 国税庁資料・意見書 |
| 10月7日 | 首相が衆議院本会議で「ゼロベースで検討する」と答弁 | 日本経済新聞(2026年10月18日) |
国税庁の「有識者会議の開催について」によれば、会議は会計検査院の指摘を踏まえ、「相続税法の時価主義の下、適正な評価制度の在り方を検討するため」に開かれたものです。各回の資料と議事要旨は、国税庁の「審議会・研究会等」のページで公開されています(第6回の議事要旨は、本稿執筆時点で作成中と表示)。
国税庁の骨子:何を変えようとしているのか
8月の「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」は、4つの柱で構成されています。
- 規模に応じた評価体系の廃止と評価方式の一本化:類似業種比準方式と純資産価額方式に基づく評価体系を廃止し、評価方式を原則一本化
- 株式の評価は企業価値総額を前提:上場会社との比較ではなく、評価会社全体の価値から評価
- インカムアプローチ(残余利益モデル)の導入:規模によらず、評価会社全体の価値を算定する
- 純資産価額方式・配当還元方式の見直し:適用対象や算式を見直す
現行と案の違いを整理すると、次のようになります。
| 項目 | 現行 | 国税庁の見直しイメージ(案) |
|---|---|---|
| 原則的評価 | 会社規模(大・中・小)で類似業種比準方式と純資産価額方式を組み合わせる | 規模によらず残余利益方式 |
| 計算の考え方 | 上場会社の株価と配当・利益・簿価純資産を比較/資産を相続税評価額に洗い替え | 法人税法上の簿価純資産に、過去5年程度の平均利益から計算した超過収益(マイナスもあり)を加減 |
| 純資産価額方式 | 小会社の原則、特定の評価会社 | 資産管理会社・組織再編直後の会社などに限定する方向 |
| 配当還元方式 | 同族株主以外などの株主 | 対象を「特定の少数株主」に縮小する方向(親族の範囲の縮小、議決権・株式の保有割合3%未満など) |
| 利益操作への対応 | 一部(特定の評価会社の判定など) | 役員報酬・役員退職金、オペレーティングリースなどの補正を検討 |
| 子会社株式 | 簿価で評価会社に反映 | 完全支配関係の子会社は適正な価額に修正して反映する方向 |
残余利益方式では、期待される利益(簿価純資産×還元率)を上回る利益を上げている会社は簿価純資産より高く、下回る会社や赤字の会社は簿価純資産より低く評価されます。現行の類似業種比準方式でも利益は評価に入りますが、案では純資産の厚さと収益力が直接、評価額に反映される点が大きな違いです。
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国税庁の試算(第6回会議)
9月の第6回会議の資料では、令和2年分から5年分の申告から抽出した1,378社について、加算期間5年、還元率8%と仮定した試算が示されました。しんしゃく率を0.7〜1.0の幅で置いた結果、現行の申告評価額以下となる会社の割合は、小会社で約51〜78%、大会社で約16〜28%とされています(しんしゃく率が低いほど割合が高い)。裏を返せば、大会社の多くは評価額が上がる試算です。
日本商工会議所の意見
日本商工会議所の委員が第6回会議に提出した意見書は、残余利益方式による評価体系の抜本的な変更そのものに反対する立場を明記しています。意見書では、日本商工会議所の試算として、4割超の企業で評価額が上昇し、個社によっては上昇幅が2〜5倍になること、時間の経過とともに上昇幅が拡大する傾向があることが示されています。また、通達の変更で税負担が増えることは租税法律主義の観点から問題だとも指摘しています。
経済産業省・中小企業庁の意見書
経済産業省・中小企業庁などが9月16日付で提出した「『取引相場のない株式の評価』見直しに係る意見」の主な内容は次のとおりです。
- 会計検査院は規模区分間の公平性の課題を指摘したが、規模区分や類似業種比準方式そのものが不適切とまでは指摘していない。租税回避への対処も、まず現行方式の枠内で検討する余地がある
- 新方式では、資産規模の大きい企業や収益性の高い企業ほど評価額が著しく増大する見込みで、事業承継計画の前提を覆し、納税資金のための資産売却や廃業につながるおそれがある
- 企業の収益拡大が承継時の負担増に直結するため、成長投資を抑制するおそれがあり、「政府の政策の方向性に逆行するものであると言わざるを得ない」
- 第6回の国税庁資料の分析は規模別の中央値を示すのみで不十分であり、業種や経営状況に応じた具体的な試算・検証を行い、拙速に結論を出すべきではない
経済産業省は、令和9年度税制改正要望でも、評価方式の見直しは企業の成長や事業承継を阻害しないよう慎重な検討が必要だとし、あわせて事業承継税制の「抜本見直し」を要望しています(財務省「令和9年度税制改正要望(経済産業省)」)。
現時点で確定していないこと
2026年10月時点で、次の点はいずれも決まっていません。
| 項目 | 状況 |
|---|---|
| 残余利益方式を採用するかどうか | 骨子は案の段階。最終的には税制改正プロセスで決定するとされている |
| 還元率・しんしゃく率・加算期間 | 試算は還元率8%、加算期間5年、しんしゃく率0.7〜1.0の「仮定」。還元率は第7回以降の論点とされた |
| 適用時期と経過措置 | 公表資料では示されていない |
| 事業承継税制との関係 | 日本経済新聞によると、財務相は2027年末に期限を迎える事業承継税制とあわせて検討すると述べた |
| 議論の場 | 日本経済新聞によると、与党税制調査会に移る見通し |
日本商工会議所の意見書が指摘するように、通達の変更で税負担が大きく変わること自体が、租税法律主義との関係で議論になっています。仮に見直しが行われる場合でも、経過措置や事業承継税制の扱いがどうなるかで、オーナーへの影響は大きく変わります。
「新方式で株価が○倍になる」と断定する情報には注意してください。 試算の前提が変われば結果は大きく変わり、方式そのものが採用されない可能性もあります。
オーナーがいま備えておくこと
制度の行方がわからない中でも、次の準備は無駄になりません。
- 現行ルールで株価を把握する:類似業種比準価額・純資産価額・配当還元価額を計算し、数期分の推移を見る(非上場株式の相続税評価の基本)
- 案の考え方で概算してみる:法人税法上の簿価純資産と過去5年の利益から、どの程度の水準になり得るかを幅で把握する
- 事業承継税制の期限を確認する:特例措置は2027年12月31日までの贈与・相続が対象で、特例承継計画の提出期限は2027年9月30日(事業承継税制の特例の期限と今やるべきこと)
- 行き過ぎた対策をしない:評価を下げるためだけの取引は、評価通達6項(総則6項)で否認されることがある(総則6項と株式評価)
銀行の視点からも一言添えます。案のように純資産と収益力が評価に直結すると、「財務を強くするほど株価が上がる」という関係がいっそう強まります。けれども、純資産を厚くし、利益を出し続ける会社は、銀行からの評価も高く、融資を受け続けられる会社です。「払った税金の2倍、会社は強くなる」というのが私の考えです。評価額を下げるために会社を弱くするのではなく、強い会社を、どの時期に、どの方法で引き継ぐかを家族で話し合うことが、制度がどう決まっても役に立つ備えになります。
現行の評価方法の解説は自社株評価の方法もあわせてご覧ください。
まとめ
- 国税庁の有識者会議は、会計検査院の指摘を受けて2026年4月に始まり、8月に残余利益方式を軸とする骨子を示した
- 案は、規模区分を廃止し、簿価純資産+超過収益で評価する。純資産が厚く収益性の高い会社ほど評価が上がりやすい
- 経済産業省は「政府の政策の方向性に逆行する」との意見書を出し、日本商工会議所も反対。日本経済新聞(2026年10月18日)によると、首相は「ゼロベースで検討する」と答弁した
- 方式の採用、還元率などの前提、適用時期は未確定。議論は与党税制調査会に移る見通し
- 現行ルールでの株価把握、事業承継税制の期限の確認、行き過ぎた対策を避けることが、いまできる備え
クレフティでは、現行ルールでの自社株評価と、見直し案の考え方による概算の比較、事業承継税制を使うかどうかの検討まで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
