上場していない会社の株式には、市場の株価がありません。そこで、相続や贈与で取得した非上場株式(取引相場のない株式)は、国税庁の財産評価基本通達(以下「評価通達」)が定める方法で評価します。オーナー経営者の相続財産の中で、自社株は最も大きな財産であることが多く、その評価額が相続税の額を大きく左右します。
この記事では、非上場株式の相続税評価の基本として、①誰が取得するか(株主の区分)、②どんな会社か(会社規模と特定の評価会社)、③どう計算するか(3つの方式)を、評価通達の条文に沿って整理します。あわせて、評価方法の選択が争われた公表裁決・判例と、2026年に始まった見直しの議論にも触れます。
- 評価方法は、株主の区分(同族株主等か、少数株主か)と会社規模(大・中・小)で決まる
- 同族株主等は原則的評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式とその併用)、少数株主は配当還元方式
- 株式や土地の保有割合が高い会社などは特定の評価会社として、原則として純資産価額方式
- 配当還元方式を使うために株主構成を整えた事案は、否認された裁決が複数ある
- 法人への譲渡では、譲渡人の支配力で評価する(最高裁令和2年3月24日判決)。相続税評価と同じではない
ステップ1:株主の区分で「原則的評価」か「配当還元」かが決まる
評価通達188は、次のような株主が取得した株式を「同族株主以外の株主等が取得した株式」とし、配当還元方式で評価するとしています。
| 会社の状況 | 配当還元方式の対象となる株主 |
|---|---|
| 同族株主のいる会社 | 同族株主以外の株主 |
| 同族株主のいる会社 | 中心的な同族株主がいる場合で、中心的な同族株主以外の同族株主のうち、取得後の議決権が5%未満の者(役員等を除く) |
| 同族株主のいない会社 | 株主の1人とその同族関係者の議決権の合計が15%未満の株主 |
| 同族株主のいない会社 | 議決権15%以上のグループに属するが、中心的な株主がいる場合で、取得後の議決権が5%未満の者(役員等を除く) |
ここで「同族株主」とは、株主の1人とその同族関係者(法人税法施行令4条に定める特殊の関係のある個人・法人)の議決権の合計が30%以上(50%超のグループがいる会社では50%超)である場合の、その株主と同族関係者をいいます。「中心的な同族株主」は、同族株主の1人と、その配偶者・直系血族・兄弟姉妹・1親等の姻族などの議決権の合計が25%以上である場合のその株主です。
オーナーの家族が会社を支配している一般的な同族会社で、後継者が株式を相続する場合は、ほぼ原則的評価方式になります。株主の区分の考え方は株式の保有比率ごとの権利もあわせてご覧ください。
ステップ2:会社規模(大・中・小)の判定
原則的評価方式の場合、次に会社規模を判定します。評価通達178の基準は次のとおりです(従業員数70人以上なら大会社)。
| 規模 | 総資産価額(帳簿価額)と従業員数 | 直前期末以前1年間の取引金額 |
|---|---|---|
| 大会社 | 卸売業20億円以上、小売・サービス業15億円以上、それ以外15億円以上(いずれも従業員35人以下を除く) | 卸売業30億円以上、小売・サービス業20億円以上、それ以外15億円以上 |
| 中会社 | 卸売業7,000万円以上、小売・サービス業4,000万円以上、それ以外5,000万円以上(いずれも従業員5人以下を除く) | 卸売業2億円以上、小売・サービス業6,000万円以上、それ以外8,000万円以上 |
| 小会社 | 上記未満、または従業員5人以下 | 上記未満 |
従業員70人未満の会社は、「総資産価額と従業員数」で見た区分と「取引金額」で見た区分のうち、大きいほうで判定します。中会社はさらに、類似業種比準価額を使う割合(L)が0.90・0.75・0.60の3段階に分かれます。従業員数は、直前期末以前1年間継続して勤務した従業員(週30時間未満の者を除く)を1人とし、それ以外は年間労働時間を1,800時間で割って数えます。
ステップ3:3つの評価方式
| 方式 | 算式の考え方 | 主に使う場面 |
|---|---|---|
| 類似業種比準方式(評価通達180) | 類似業種の上場会社の株価×(配当・利益・簿価純資産の3要素の比準割合の平均)×しんしゃく率(大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5) | 大会社の原則、中会社の併用 |
| 純資産価額方式(評価通達185) | (相続税評価額による純資産-評価差額×38%)÷発行済株式数 | 小会社の原則、特定の評価会社、他の方式より低い場合の選択 |
| 配当還元方式(評価通達188-2) | 年配当金額÷10%×(1株当たり資本金等の額÷50円)。年配当金額が2円50銭未満・無配は2円50銭 | 少数株主(ただし原則的評価額が上限) |
会社規模ごとの組み合わせは、大会社は類似業種比準方式(純資産価額方式の選択可)、中会社は「類似業種比準価額×L+純資産価額×(1-L)」、小会社は純資産価額方式(L=0.50の併用方式の選択可)です。
純資産価額方式で控除する評価差額に対する法人税額等相当額の割合は、令和8年度の通達改正で38%(法人税に地方法人税・防衛特別法人税を含めた税率等の合計)とされています。また、株式の取得者とその同族関係者の議決権の合計が50%以下の場合は、中会社・小会社の純資産価額を80%に減額する取扱いがあります(評価通達185ただし書)。会社が課税時期前3年以内に取得した土地・建物は、通常の取引価額で評価します。
計算例を含めた詳しい解説は、自社株評価の方法をご覧ください。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る特定の評価会社:純資産価額方式が原則になる会社
次のような会社は「特定の評価会社」として、原則として純資産価額方式で評価します(評価通達189)。
- 比準要素数1の会社(配当・利益・簿価純資産のうち2つが0の状態が続く会社など)
- 株式等保有特定会社(総資産に占める株式等の割合が50%以上)
- 土地保有特定会社(土地等の割合が大会社70%以上、中会社90%以上など)
- 開業後3年未満の会社、比準要素がすべて0の会社
- 開業前・休眠中の会社、清算中の会社
不動産を多く持つ会社は、土地保有特定会社に当たらないかを最初に確認してください(土地保有特定会社の株式)。また、課税時期の前に合理的な理由なく資産構成を変えて株式等保有特定会社の判定を免れたと認められる場合は、その変動はなかったものとして判定します(評価通達189なお書き)。
公表裁決・判例:評価方法の選択はどう争われたか
評価方法の選択をめぐっては、多くの公表事例があります。代表的なものを紹介します。
| 裁決・判決 | 争点 | 結論 |
|---|---|---|
| 平成9年7月4日裁決(裁決事例集No.54) | 相続税の負担軽減を目的に取得した株式に配当還元方式を使えるか | 使えない。発行会社が毎月算定・通知していた時価純資産ベースの単価で評価 |
| 平成10年1月29日裁決(裁決事例集No.55) | 配当還元方式で評価されることを利用して贈与税の負担軽減を図る目的で取得した株式 | 配当還元方式は使えず、時価純資産価額を基に評価 |
| 平成23年9月28日裁決(公表裁決) | 株主である法人を同族関係者から外し、議決権15%未満として配当還元方式を使えるか | その法人は創業家の強い支配下にあり、法人税法施行令4条6項により同族関係者に当たるとして、配当還元方式を否定 |
| 平成24年10月9日裁決(公表裁決) | 相当の地代・無償返還届出のある土地の20%相当額は、土地保有特定会社の判定上「土地等の価額」に含まれるか | 含まれる |
| 最高裁 令和2年3月24日第三小法廷判決(平成30年(行ヒ)第422号) | 個人が法人に株式を譲渡した場合、少数株主に当たるかを譲受人と譲渡人のどちらで判定するか | 譲渡所得の課税では譲渡人の支配力の程度に応じた評価方法を用いるべきとして、配当還元方式を認めた原判決を破棄し差戻し |
| 令和7年9月10日裁決(公表裁決) | 親族の会社に、訴訟上の和解で決めた価額で株式を譲渡した場合の時価 | 譲渡人が中心的な同族株主に当たるため小会社として評価通達の例により算定し、時価の2分の1未満の譲渡と判断 |
配当還元方式は「例外」であることを忘れない
平成9年と平成10年の裁決は、いずれも配当還元方式を「単に配当を期待する少数株主のための特例的な評価方法」と位置づけ、租税負担の軽減を目的とした株式の取得には適用できないと判断しました。平成23年の裁決は、株主である法人を形式上は同族関係者でないように見せていても、その法人の設立経緯や議決権の行使の状況などから、実質的に創業家の支配下にあると認め、同族関係者に含めています。
譲渡のときは「譲渡人の目線」で評価する
最高裁令和2年3月24日判決は、大会社の代表取締役だった個人(同族関係者と合わせて議決権約22.8%)が、株式を法人に1株75円(配当還元価額)で譲渡した事案です。原審は、譲受人の法人が少数株主に当たることを理由に配当還元価額を時価としましたが、最高裁は、譲渡所得の課税は譲渡人の下で生じた値上がり益を清算するものだから、譲渡人の会社への支配力の程度に応じた評価方法を用いるべきだとして、原判決を破棄しました。
令和7年9月10日裁決も、この考え方に沿って、株主間の対立があったとしても、評価通達の画一的な判定基準には合理性があるとしています。親族間・関係会社間で株式を売買するときは、相続税の評価とは別に、譲渡の場面のルールで時価を確認してください(社長個人が少数株主から買い取るときの価格と税金)。
評価額と銀行の見え方、見直しの動き
類似業種比準方式は、利益と簿価純資産が大きいほど評価額が上がります。純資産価額方式も、資産の含み益が大きいほど上がります。つまり、銀行から高く評価される会社ほど、株価も高くなるのが基本です。株価を下げるために利益や純資産を削れば、私の著書で紹介している銀行格付けモデル(129点満点)の収益性・安全性の点数も下がります。承継の計画は、株価と銀行格付けを同じ決算書で試算しながら立てることが大切です。
なお、国税庁は2026年4月から有識者会議を開き、会社規模の区分を廃止して残余利益方式に一本化する見直し案を示していますが、2026年10月時点で確定していません。最新の動向は非上場株式の評価見直しの最新動向で整理しています。
まとめ
- 非上場株式の評価は、株主の区分→会社規模→評価方式の順で決まる
- 同族株主等は原則的評価方式(類似業種比準・純資産価額・併用)、少数株主は配当還元方式(原則的評価額が上限)
- 会社規模は従業員数・総資産・取引金額で判定し、大きいほうの区分を採る。株式・土地の多い会社は特定の評価会社に注意
- 配当還元方式を使うための株主構成の操作は、否認された裁決がある。同族関係者は実質で判定されることがある
- 法人への譲渡では、譲渡人の支配力で評価する(最高裁令和2年3月24日)。相続税評価とは使い分ける
クレフティでは、自社株の評価(株主区分・会社規模の判定を含む)、親族間・関係会社間の株式の売買価格の検討、承継計画と銀行格付けへの影響の試算まで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
