「叔父が持っている株を、社長の私が個人で買い取りたい。いくらで買えばいいのか」。株式の集約で最初に出てくる疑問です。相手が少数株主なら、配当還元価額という低い評価額があることをご存じの方も多いでしょう。けれども、誰が買うかによって、その価格で問題がないかどうかは変わります。
この記事では、社長や後継者などが少数株主から株式を買い取るときの価格と税金を、売り手・買い手それぞれの立場で整理します。個人が買う場合の贈与税、資産管理会社などの法人が買う場合のみなし譲渡については、最高裁令和2年3月24日判決と、国税不服審判所の公表裁決をもとに解説します。
- 売り手(個人)の税金は、相手が個人でも法人でも譲渡所得として20.315%の分離課税が原則
- 買い手が同族株主の社長個人なら、時価は買い手の立場(原則的評価)で見られやすい。配当還元価額で買うと、差額に贈与税の可能性
- 買い手が法人なら、売り手側で時価の2分の1未満かが問われる。時価は譲渡した株主の支配力で判断する(最高裁令和2年3月24日判決)
- 訴訟上の和解で決めた価格でも、同族関係者間なら時価と認められなかった裁決がある
- 個人での買取りは会社の純資産を減らさないが、買取資金と返済原資の手当てが必要
株式の「価格」は4つある
非上場株式には市場価格がありません。少数株主から買い取るときに検討する価格は、少なくとも次の4つです。
| 価格 | 何に使うか | 特徴 |
|---|---|---|
| 交渉で合意した価格 | 実際の売買価格 | 当事者の事情で決まる。税務上の時価と一致するとは限らない |
| 原則的評価(類似業種比準価額・純資産価額) | 同族株主が相続・贈与で取得したときの評価 | 利益や純資産が大きい会社ほど高くなる |
| 配当還元価額 | 同族株主以外の少数株主が取得したときの評価 | 配当をもとに計算するため、多くの場合は低い |
| 所得税法上の時価(所得税基本通達59-6) | 個人が法人に売るときの判定 | 評価通達の例によるが、譲渡直前の売り手の議決権で判定 |
どの評価方法を使うかは、「株式を取得した人」「株式を手放した人」のどちらの立場で見るかによって変わります。ここが、少数株主からの買取りを難しくしているポイントです。評価方法の基本は自社株評価の方法で解説しています。
個人が個人から買う場合
売り手(少数株主)の税金
個人が個人に株式を売ると、売り手には譲渡所得が生じます。売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いた利益に、20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)の分離課税がかかります。
個人間の売買では、法人に売る場合のような「時価で売ったとみなす」規定は原則としてありません。ただし、時価の2分の1未満の価格で個人に売って損失が出た場合、その損失はなかったものとみなされます(所得税法59条2項)。
買い手(社長)の贈与税
注意が必要なのは買い手です。著しく低い価額で財産を譲り受けた場合、時価との差額は、売り手から贈与を受けたものとみなされます(相続税法7条)。
非上場株式の時価は、実務上、財産評価基本通達に沿って計算されます。そして通達は、評価方式を取得した株主の立場で決める仕組みです。社長や後継者は通常「同族株主」ですから、少数株主から買った株式でも、社長の手元では原則的評価で評価されるのが基本です。
つまり、売り手が少数株主だからといって配当還元価額で買うと、原則的評価額との差額に贈与税がかかる可能性があります。
判例で見る:取得者の立場で評価が分かれる
裁判所の判断も、取得者の立場を重視しています。いずれも裁判所ウェブサイトで確認できる下級審の判決です。
| 裁判 | 事案と判断 | 実務への示唆 |
|---|---|---|
| 東京地裁平成17年10月12日判決(平成15年(行ウ)第214号)裁判所ウェブサイト | 非上場会社の株式の譲受けが相続税法7条の低額譲受に当たるとした贈与税の決定処分について、同族株主以外の株主には配当還元方式で評価する通達の定めは合理的であり、譲渡価格はその評価額を上回っているとして、処分を取り消した | 買い手が本当に同族株主以外なら、配当還元価額を基準に考えられる |
| 千葉地裁平成12年3月27日判決(平成10年(行ウ)第66号)裁判所ウェブサイト | 同族株主以外の株主が贈与で取得した株式について、購入価格と配当還元価額との大きな開きを利用した節税対策として取得されたものであり、形式的に配当還元方式を適用すると実質的な公平を害するとして、時価純資産価額をもとにした更正を適法とした | 制度の開きを利用する目的の取引には、通達どおりの評価が認められないことがある |
後者は、通達によらないことが相当と認められる特別の事情があるとして、配当還元方式が退けられた例です。少数株主からの買取りを、価格の開きを利用する目的で組み立てると、同じ判断を受けるおそれがあります。
法人が個人から買う場合
売り手のみなし譲渡(所得税法59条)
買い手を社長個人ではなく、社長の資産管理会社や持株会社にするケースもあります。個人が法人に、時価の2分の1未満の価格で株式を売ると、売り手は時価で譲渡したものとみなされます(所得税法59条1項2号、所得税法施行令169条)。
この「時価」をどの評価方式で計算するかが争われたのが、次の最高裁判決です。
最高裁令和2年3月24日判決
最高裁判所第三小法廷 令和2年3月24日判決・平成30年(行ヒ)第422号 所得税更正処分取消等請求事件(集民第263号63頁)。裁判所ウェブサイト
事案:大会社に当たる非上場会社の代表取締役だった個人が、保有株式72万5,000株を、1株75円(配当還元方式による額と同額)で有限会社に譲渡しました。譲渡直前、本人の議決権割合は15.88%(同族関係者と合わせて22.79%)で、同族株主(30%以上のグループ)に当たる株主はいない会社でした。税務署長は、類似業種比準方式による時価(異議決定後で1株2,505円)の2分の1未満の譲渡だとして更正処分をしました。
争点:所得税基本通達59-6は評価通達の「例により」算定するとしていますが、少数株主に当たるかどうかを、買い手の取得後の議決権で判定するのか、売り手の譲渡直前の議決権で判定するのか。
判断:最高裁は、譲渡所得課税は売り手のもとで生じた値上がり益に課税するものだから、譲受人の会社への支配力の程度は、譲渡人のもとに生じている増加益の額に影響しないとし、譲渡人の支配力に応じた評価方法を用いるべきだとしました。買い手が少数株主に当たることを理由に配当還元方式で評価した原審の判断は誤りだとして、原判決を破棄し、高等裁判所に差し戻しました(裁判官全員一致。補足意見2つ)。
判決を受けて、国税庁は所得税基本通達59-6を改正し、少数株主に当たるかどうかも株式を譲渡した個人の譲渡直前の議決権の数で判定することを明記しました(国税庁:所得税基本通達59-6)。
公表裁決:訴訟上の和解の価格でもみなし譲渡とされた例
国税不服審判所の令和7年9月10日裁決は、同族会社の株主(創業者の子)が、支配株主と対立して訴訟になり、その訴訟上の和解で決めた価格で、親族が経営する関係法人に株式を譲渡した事案です。
売り手側は、最高裁令和2年判決を引用し、支配株主と厳しく対立して会社を支配していなかったのだから、交渉を尽くし裁判官の勧めもあって合意した価格こそ時価だと主張しました。しかし審判所は、
- 和解による価格は、通常の取引とは異なる個別の事情のもとで同族関係者間で成立した価格であり、不特定多数の当事者間で通常成立する価額とはいえない
- 売り手は譲渡直前に議決権25.8%を持つ中心的な同族株主に当たるから、所得税基本通達59-6により、会社は小会社として評価する
- 株主間の対立状況などを個別に反映させると基準があいまいになるため、形式的に判定する通達の定めは合理的
として、時価の2分の1未満の譲渡に当たると判断し、更正処分と過少申告加算税を維持しました。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る買い手ごとの税金の整理
ここまでの内容を、買い手別にまとめます。
| 買い手 | 売り手の課税 | 買い手の課税 | 時価を見る立場 |
|---|---|---|---|
| 社長・後継者個人(同族株主) | 譲渡所得20.315% | 著しく低い価額なら差額に贈与税(相続税法7条) | 買い手(取得後の議決権) |
| 同族株主以外の個人 | 譲渡所得20.315% | 通常は配当還元価額が基準 | 買い手 |
| 資産管理会社・持株会社など法人 | 時価の2分の1未満なら時価で譲渡とみなす(所得税法59条) | 時価より低く買えば受贈益の問題 | 売り手(譲渡直前の議決権) |
| 発行会社(自己株式) | みなし配当+譲渡所得 | ほかの株主への価値の移転に注意 | 売り手。詳しくは自己株式の取得 |
同じ少数株主の株式でも、個人が買うときは買い手の立場、法人が買うときは売り手の立場で時価を考える、というのがポイントです。実際の取引では、両方の立場で試算してから価格と買い手を決めます。
買取資金と銀行の見え方
個人で買うメリットと負担
社長個人が買い取ると、会社の現預金も純資産も減りません。自己株式として会社が買う場合と違い、決算書と銀行格付けには直接の影響がないのが大きな利点です。
一方で、買取資金は社長個人が用意する必要があります。手元資金が足りなければ、個人の借入や、役員報酬の増額による資金づくりを検討することになります。役員報酬を増やすと会社の利益は減り、個人の所得税・社会保険料は増えるため、全体の手取りで比べます。役員報酬の考え方は役員報酬の決め方をご覧ください。
持株会社で買う場合
持株会社が借入で買い取り、事業会社からの配当で返済する方法もあります。この場合、銀行は持株会社と事業会社をグループ全体で見ます。代表の相亰の著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内を健全の目安としています。買取資金の借入がグループの返済余力を超えないか、事前に試算しておきましょう。持株会社の活用は持株会社をつくって株主構成を整理するで詳しく扱います。
実務の手順と書類
- 株主の立場を確認する:売り手・買い手それぞれが、同族株主、中心的な同族株主、少数株主のどれに当たるかを、譲渡の直前・直後の議決権で確認する
- 株価を試算する:原則的評価、配当還元価額、所得税基本通達59-6による価額を並べる
- 買い手と価格を決める:贈与税・みなし譲渡のリスクと、買い手の資金を比べて決める
- 譲渡承認を受ける:譲渡制限株式なら、会社に譲渡承認を請求し、取締役会(または株主総会)で承認する(会社法136条以下)
- 契約と名義書換え:株式譲渡契約書を作り、代金を支払い、株主名簿の書換えを請求する。株券発行会社なら株券を交付する
- 価格の根拠を残す:株価算定の資料、交渉の記録を保存する
相手が高齢であれば、相続が起きると株主が増え、交渉の相手も増えます。相続の前に進めておく考え方は相続前にやっておく株式の集約計画で解説します。
まとめ
- 売り手の課税は、相手が個人でも法人でも譲渡所得20.315%が原則
- 社長個人が買うときは買い手の立場で時価が見られ、配当還元価額で買うと贈与税のリスクがある
- 法人が買うときは売り手の立場で時価を判定する。最高裁令和2年3月24日判決と、それを受けた通達改正で明確になった
- 訴訟上の和解の価格でも、同族関係者間の取引は時価と認められなかった裁決がある
- 個人で買えば会社の決算書は傷まないが、資金と返済原資の設計が必要
少数株主からの買取りは、価格の決め方ひとつで、売り手にも買い手にも思わぬ課税が生じます。クレフティの事業承継・M&A支援では、立場ごとの株価の試算から、買い手の選び方、資金計画までご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
