「父の代に、親戚や古くからの役員に株を持ってもらった。いまは誰がどれだけ持っているのか、正確には分からない」。事業承継のご相談で、よく耳にする話です。株式が分散したままでは、承継の手続きもM&Aも進みません。
この記事では、分散した株式を集中させる方法の全体像を整理します。後継者個人・会社・持株会社による買取り、相続人への売渡請求、所在不明株主の整理、株式併合や特別支配株主の売渡請求(いわゆるスクイーズアウト)まで、会社法の手続き、売る側・買う側の税金、価格の決め方、銀行や従業員への影響を、ひとつの表で比べられるようにまとめました。
- 目標は「後継者側で議決権の3分の2以上」。90%以上あれば特別支配株主として残りを強制的に買い取れる
- 方法は大きく、話し合いで買う(個人・会社・持株会社)、制度で買う(売渡請求・所在不明株主)、強制的に集める(株式併合・特別支配株主の売渡請求)の3つ
- 売り手の税金は、個人に売れば譲渡所得(20.315%)、会社に売ればみなし配当(総合課税)が原則。手取りが大きく変わる
- 価格は合意で決められるが、税務上の時価から大きく外れると課税の問題が起きる。裁判になれば裁判所が価格を決める
- 自己株式の取得は純資産を減らし、借入で買えば返済負担が増える。銀行の見え方も同時に試算する
なぜ株式を集中させる必要があるのか
株式会社の重要な意思決定は、株主総会の多数決で行います。誰がどれだけ議決権を持っているかで、経営者が何を決められるかが変わります。保有比率ごとの権利は株式の保有比率ごとの権利で詳しく扱っていますので、ここでは集中化の目標になるラインだけ確認します。
| 議決権の割合 | できること(主なもの) | 根拠 |
|---|---|---|
| 過半数 | 取締役の選任・解任、役員報酬など普通決議 | 会社法309条1項、341条 |
| 3分の2以上 | 定款変更、特定の株主からの自己株式取得、株式併合、組織再編など特別決議 | 会社法309条2項 |
| 90%以上 | 特別支配株主として、ほかの株主全員に株式の売渡しを請求できる | 会社法179条 |
特別決議は「出席した株主の議決権の3分の2以上」で決まるため、欠席者が多いと少ない持株でも可決されることがあります。しかし承継の計画は、全員が出席しても通る割合で考えるのが安全です。
株式が分散していると、次のような問題が起こります。
- 少数株主が3分の1超を持っていると、特別決議を否決できてしまう
- 株主が亡くなるたびに相続で株主が増え、連絡が取れない株主が出てくる
- M&Aで買い手は通常100%の取得を求めるため、一人でも売らない株主がいると話が進まない
- 帳簿閲覧や株主総会の招集請求など、少数株主の権利行使への対応が必要になる
分散のリスクは株式が分散しているリスクでも整理しています。
株式を集める方法の一覧
集中化の方法は、大きく3つのグループに分かれます。
| グループ | 方法 | 相手の同意 | 主な会社法の手続き |
|---|---|---|---|
| 話し合いで買う | 後継者・オーナー個人が買う | 必要 | 譲渡制限株式なら譲渡承認(136条以下) |
| 会社が自己株式として買う | 必要 | 株主総会決議(156条・160条)、財源規制(461条) | |
| 持株会社が買う | 必要 | 譲渡承認。持株会社の資金調達が別途必要 | |
| 制度で買う | 相続人等に対する売渡請求 | 不要 | 定款の定め(174条)と、その都度の特別決議(175条) |
| 所在不明株主の株式の売却・買取り | 不要 | 5年間の通知不到達・配当不受領など(197条) | |
| 強制的に集める | 株式併合 | 不要(反対株主は買取請求) | 特別決議(180条)、端数の処理(235条) |
| 特別支配株主の株式売渡請求 | 不要(価格決定の申立ては可能) | 90%以上の保有、対象会社の承認(179条〜179条の3) |
話し合いで買う
もっとも穏やかなのは、話し合いで買い取る方法です。買い手を誰にするかで、税金も資金の出どころも変わります。後継者個人が買う場合の価格と税金は社長個人が少数株主から買い取るときの価格と税金、会社が買う場合の手続きは会社による自己株式の取得で詳しく扱います。
会社が特定の株主から買う場合は、株主総会の特別決議が必要です(会社法156条1項、160条1項、309条2項2号)。ほかの株主には「自分も売主に加えてほしい」と請求する権利があり(160条3項)、売主となる株主はその決議で議決権を行使できません(160条4項)。ただし、相続人が相続で取得した株式を会社が買う場合は、一定の条件のもとで、ほかの株主のこの請求権が及びません(162条)。
制度で買う
定款に定めておけば、相続などで株式を取得した人に対して、会社が売渡しを請求できます(会社法174条)。請求は、会社が相続を知った日から1年以内に行う必要があります(176条1項)。詳しくは相続人等に対する売渡請求をご覧ください。
連絡がつかない株主については、会社法197条の手続きがあります。通知が5年以上届かず、5年間配当を受け取っていない株主の株式は、競売や、裁判所の許可を得た売却ができ、会社が買い取ることもできます。さらに、経営承継円滑化法には、都道府県知事の認定を受けた非上場の中小企業について、この5年を1年に短縮する特例があります(令和3年8月施行)。手続きの詳細は中小企業庁の所在不明株主に関する会社法の特例の申請マニュアルにまとめられています。
強制的に集める
話し合いでも制度でも集まらない場合の最終手段が、株式併合と特別支配株主の株式売渡請求です。株式併合で少数株主の持株を1株未満の端数にし、端数を金銭で精算すれば、少数株主は株主でなくなります。90%以上を持つ株主は、対象会社の承認を得て、ほかの株主全員に株式の売渡しを請求できます。
どちらも、少数株主には裁判所に価格の決定を申し立てる手段が用意されています。手続きの流れは株式併合・特別支配株主の売渡請求で解説します。
方法ごとの税金の違い
同じ株式を同じ価格で手放しても、誰に売るかで売り手の税金は大きく変わります。
| 売り手 → 買い手 | 売り手(個人)の課税 | 買い手側の主な論点 |
|---|---|---|
| 個人 → 後継者・オーナー個人 | 譲渡所得として分離課税20.315% | 時価より著しく低い価格だと、買い手に贈与税(相続税法7条) |
| 個人 → 持株会社など法人 | 譲渡所得20.315%。時価の2分の1未満なら時価で譲渡したとみなされる(所得税法59条) | 低い価格で買えば受贈益の問題 |
| 個人 → 発行会社(自己株式) | 資本金等の額を超える部分はみなし配当(総合課税、源泉20.42%)、残りは譲渡所得 | 源泉徴収と納付、財源規制、ほかの株主への価値の移転 |
| 相続人 → 発行会社(一定期間内) | 相続税を納めた人は、全額を譲渡所得とする特例(租税特別措置法9条の7) | 届出書の受領と税務署への提出 |
自己株式の取得でみなし配当が生じる仕組みは、所得税法25条1項5号に定められています。配当所得は総合課税なので、ほかの所得が多い株主ほど税率が高くなります。一方で、相続で取得した非上場株式を、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに発行会社へ譲渡した場合は、みなし配当とせず全額を譲渡所得とする特例があります(国税庁タックスアンサーNo.1477)。相続税額がない人には適用されません。
20.315%は、所得税・復興特別所得税15.315%と住民税5%の合計です。令和9年分以後は、復興特別所得税の税率が引き下げられ防衛特別所得税が加わりますが、国税庁の案内では合計の税率は変わらないとされています。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る価格をどう決めるか
当事者の合意と、税務上の「時価」
株式の売買価格は、当事者が合意すれば決められます。ただし非上場株式には市場価格がないため、税務上は「その価格が時価から大きく外れていないか」が問われます。
- 売り手が個人で、買い手が法人の場合、時価の2分の1未満の価格だと、売り手は時価で譲渡したものとみなされます(所得税法59条1項2号、所得税法施行令169条)
- 買い手が個人で、時価より著しく低い価格で買った場合、差額は贈与とみなされます(相続税法7条)
- 会社が特定の株主から低い価格で自己株式を買うと、ほかの株主の持株の価値が上がり、贈与税の問題が生じることがあります(相続税法9条)
税務上の時価をどの方式で計算するかは、売り手と買い手の立場で変わります。最高裁令和2年3月24日判決は、個人が法人に株式を譲渡した事案で、所得税の場面では譲渡した株主の支配力を基準に評価方法を判断すべきだとしました。くわしくは社長個人が少数株主から買い取るときの価格と税金で紹介します。
裁判になったときの価格
売渡請求や反対株主の買取請求で価格がまとまらない場合は、裁判所が価格を決めます。最高裁は、合併に反対した株主の買取価格を収益還元法で算定する場合には非流動性ディスカウント(市場性がないことを理由とする減価)をしてはならない、とした一方(平成27年3月26日決定)、譲渡制限株式の売買価格をDCF法で算定する場合には、事情によって減価できる、としています(令和5年5月24日決定)。手続きによって考え方が違うため、株式の買取価格が裁判で争われた事例もあわせてご覧ください。
銀行・従業員・取引先への影響
株式の集中化は、株主の問題であると同時に、会社の財務にも影響します。
会社が買う場合は、支払った金額だけ純資産が減ります(自己株式は純資産の控除項目)。自己資本比率が下がり、銀行格付けの安全性の評価に響きます。代表の相亰の著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内を健全の目安としています。現預金で買い取れば分子の借入金−現預金が増え、債務償還年数は悪化します。
後継者個人や持株会社が借入で買う場合は、返済の原資をどこから出すかが問題になります。持株会社なら事業会社からの配当、個人なら役員報酬が原資になるため、事業会社の利益計画と一体で考える必要があります。
従業員や取引先に対しては、集中化そのものを公表する必要はありません。ただし、元役員や従業員持株会から買い取る場合は、社内で話が広がることを前提に、目的(承継のため、意思決定を速くするため)を説明できるようにしておきます。
集中化を進める手順
- 株主名簿と実態を確認する:株主名簿、法人税申告書の別表二、過去の増資・譲渡の記録を突き合わせ、名義株や所在不明の株主がいないかを確認します。名義株の整理は名義株とはをご覧ください
- 株価を試算する:相続税評価額(原則的評価・配当還元価額)、所得税法上の時価、会社の実態価値の3つを並べます
- 優先順位をつける:3分の1超を持つ株主、高齢の株主、連絡の取りにくい株主から先に対応します
- 買い手と資金を決める:個人・会社・持株会社のどれが買うか、税金と資金繰り、銀行の見え方を比較します
- 書類を整える:株式譲渡契約書、譲渡承認の議事録、株主名簿の書換え、自己株式なら株主総会議事録と源泉徴収の手続き
相続が起きる前に計画的に進める方法は、相続前にやっておく株式の集約計画で解説します。
まとめ
- 集中化の目標は、後継者側で議決権の3分の2以上、可能なら90%以上
- 方法は「話し合いで買う」「制度で買う」「強制的に集める」の3つ。まず話し合いから始めるのが基本
- 売り手の税金は、個人・法人に売れば譲渡所得、発行会社に売ればみなし配当が原則。相続人には特例がある
- 価格は合意で決められるが、税務上の時価から外れると課税の問題が生じる。裁判では手続きごとに考え方が違う
- 会社による取得は純資産を減らし、借入による取得は返済負担を生む。銀行の見え方を同時に試算する
株式の集中化は、承継やM&Aの「前さばき」です。クレフティの事業承継・M&A支援では、株価の算定から、買い手ごとの税金と資金繰りの比較までご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
