株式の集約や組織再編、スクイーズアウトを進めると、どこかで「その価格は安すぎる」と主張する株主が出てくることがあります。協議がまとまらなければ、最終的には裁判所が株式の価格を決めます。
この記事では、株式の買取価格が裁判で争われた事例のうち、裁判所ウェブサイトで確認できる最高裁判所の決定・判決を中心に、事案の流れ、争点、結論、実務への示唆を整理します。あわせて、会社法の価格決定と税務上の時価が別物であることを示す最高裁判決と公表裁決も紹介します。
- 価格決定の申立てができる手続きは多いが、いずれも期限が短い。期限を過ぎると請求が失効したり、撤回できるようになったりする
- 組織再編の反対株主の「公正な価格」は、再編がなかったらの価格か、シナジーを公正に分配した価格(平成23年・平成24年決定)
- 非流動性ディスカウントは、反対株主の買取請求×収益還元法では不可(平成27年決定)、譲渡制限株式の売買価格決定×DCF法では可(令和5年決定)
- 公正な手続きで決めた価格は、裁判所も尊重する(平成28年決定)。中小企業では独立した株価算定と説明が要になる
- 会社法の価格と税務上の時価は別。税務では売り手の支配力に応じて評価する(令和2年最高裁判決)
裁判所が価格を決める手続き
非上場株式の売買で、裁判所に価格の決定を申し立てられる主な場面は次のとおりです。
| 場面 | 申立ての期限 | 根拠 |
|---|---|---|
| 譲渡制限株式の譲渡を承認せず、会社または指定買取人が買い取る | 買取りの通知から20日以内。申立てがなく協議も調わなければ、1株あたり純資産額で算定 | 会社法144条 |
| 相続人等に対する売渡請求 | 請求の日から20日以内。申立てがなく協議も調わなければ請求は失効 | 177条 |
| 株式併合に反対する株主の買取請求 | 効力発生日から30日以内に協議が調わなければ、その後30日以内 | 182条の5 |
| 合併・事業譲渡などに反対する株主の買取請求 | 効力発生日から30日以内に協議が調わなければ、その後30日以内 | 470条、786条、798条など |
| 特別支配株主の株式売渡請求 | 取得日の20日前の日から取得日の前日まで | 179条の8 |
譲渡制限株式の買取りで期限内に申立てがないと、1株あたり純資産額で価格が決まってしまう点(144条5項)は、意外に知られていません。売渡請求の手続きは相続人等に対する売渡請求、スクイーズアウトは株式併合・特別支配株主の売渡請求で解説しています。
この記事で紹介する判例
この記事で紹介する裁判例です。いずれも裁判所ウェブサイト(courts.go.jp)または国税不服審判所ウェブサイト(kfs.go.jp)で内容を確認しました。
| 裁判例 | 場面 | 結論の要点 |
|---|---|---|
| 最高裁平成23年4月19日決定 | 組織再編の反対株主 | シナジーがなければ「再編がなかったら有したであろう価格」。基準日は買取請求の日 |
| 最高裁平成24年2月29日決定 | 株式移転の反対株主 | シナジーがあれば「公正な比率なら有していた価格」。公正な手続きなら比率は公正 |
| 最高裁平成27年3月26日決定 | 合併の反対株主(非上場) | 収益還元法では非流動性ディスカウント不可。1株80円→106円 |
| 最高裁平成28年7月1日決定 | 二段階買収(上場) | 公正な手続きによる公開買付けなら、取得価格は買付価格と同額 |
| 最高裁令和5年5月24日決定 | 譲渡制限株式の売買価格決定(非上場) | DCF法でも、事情により非流動性ディスカウント30%を認めた |
| 最高裁令和5年10月26日決定 | 合併の反対株主の要件 | 会社宛ての委任状で「否」と記載して返送したことは反対通知に当たる |
| 最高裁平成24年3月28日決定 | 買取請求後の株式の喪失 | 買取請求をした株主が株式を失うと、価格決定の申立ては不適法 |
| 最高裁令和2年3月24日判決 | 税務(所得税法59条) | 譲渡所得課税の時価は、譲渡人の支配力に応じた評価方法で判断 |
| 国税不服審判所令和7年9月10日裁決 | 税務(所得税法59条) | 訴訟上の和解の価格でも、同族関係者間の価格は時価とはいえない |
「公正な価格」の基本:組織再編の反対株主
最高裁平成23年4月19日決定
吸収合併などの組織再編(会社法782条1項の吸収合併等)に反対した株主が買取請求をした事案です。最高裁は、組織再編によってシナジー(相乗効果)などの企業価値の増加が生じない場合、「公正な価格」は、原則として、買取請求がされた日に、組織再編を承認する株主総会決議がされなければその株式が有したであろう価格(いわゆる「ナカリセバ価格」)をいうとしました。上場株式では、その算定にあたり、買取請求日の市場株価や、これに近い一定期間の平均株価を用いることは、裁判所の合理的な裁量の範囲内だとしています(平成22年(許)第30号、民集65巻3号1311頁。裁判所ウェブサイト)。
最高裁平成24年2月29日決定
株式移転に反対した株主の買取請求の事案です。最高裁は、シナジーが生じる場合の「公正な価格」は、株式移転の比率が公正なものであったならば、買取請求日にその株式が有していると認められる価格だとしました。そのうえで、相互に特別の資本関係がない会社間で、情報が適切に開示され、適法に株主総会で承認されるなど一般に公正と認められる手続で行われた場合は、特段の事情がない限り、その比率は公正なものとされるとしています(平成23年(許)第21号、民集66巻3号1784頁。裁判所ウェブサイト)。
この2つの決定から、反対株主の「公正な価格」は、再編による価値の増減を株主にどう分配するかという観点で決まることが分かります。
非上場株式と非流動性ディスカウント
非上場株式は、上場株式のように市場で簡単に売れません。この「売りにくさ」を理由に価格を割り引く(非流動性ディスカウント)ことができるかが、2つの最高裁決定で争われました。
最高裁平成27年3月26日決定:減価はできない
事案:非上場会社(発行済株式338万7,000株、株式の譲渡に取締役会の承認が必要)が吸収合併で消滅することになり、株主総会に先立って反対を通知し、総会でも反対した株主(32万5,950株を保有)が、公正な価格での買取りを請求しました。裁判所が選んだ鑑定人の公認会計士は、収益還元法で将来の純利益の現在価値を約3億6,158万円と算定し、そこから25%の非流動性ディスカウントをして、1株80円としました。第一審・原審ともこれを認めました。
判断:最高裁は、どの評価手法を使うかは裁判所の合理的な裁量に委ねられるとしつつ、一定の評価手法を採用した以上、その手法の内容・性格から考慮することが相当でない要素を考慮してはならないとしました。収益還元法は、将来の純利益を資本還元率で割り戻す方法で、類似会社比準法などと違い、市場の取引価格との比較という要素を含まない。反対株主には企業価値を適切に分配すべきであることも踏まえ、収益還元法で算定した価格をさらに減価することは相当でないとしました。
結論:原決定を破棄し、買取価格を1株106円(約3億6,158万円÷338万7,000株)と決定しました。鑑定料120万円は、鑑定結果と各当事者の主張額との乖離に応じて分担させています(平成26年(許)第39号、民集69巻2号365頁。裁判所ウェブサイト)。
最高裁令和5年5月24日決定:減価できる場合がある
事案:非上場会社2社(株式の譲渡に取締役会の承認が必要)が、株主から譲渡承認請求を受けて承認せず、自ら買い取ることを通知して、会社法144条2項に基づき売買価格の決定を申し立てました。鑑定人はDCF法(将来のフリー・キャッシュ・フローを割り引く方法)で評価額を1株7,524円・6,448円と算定し、30%の非流動性ディスカウントをして5,266円・4,514円としました。DCF法の割引率の計算には、類似する上場会社の数値が使われていました。
判断:最高裁は、144条2項の手続きは、会社が譲渡を承認しない場合に、譲渡を望む株主に譲渡に代わる投下資本回収の手段を保障するためのものだとし、市場性がないことを理由とする減価が相当なら、任意に譲渡される場合と同様に非流動性ディスカウントができるとしました。DCF法を用いても変わらない、としています。ただし、評価額の算定過程で市場性のなさがすでに十分考慮されているなら、さらに減価するのは二重の減価で相当でない。本件では、類似上場会社の数値が使われる一方で市場性のなさが考慮されていた形跡はないとして、30%の減価を認めた原審の判断を正当としました。平成27年決定は「事案を異にし、本件に適切でない」とされています(令和4年(許)第8号、集民270号113頁。裁判所ウェブサイト)。
2つの決定の比較
| 項目 | 平成27年3月26日決定 | 令和5年5月24日決定 |
|---|---|---|
| 手続き | 合併の反対株主の買取請求(785条・786条) | 譲渡制限株式の売買価格決定(144条) |
| 制度の趣旨 | 組織の基礎を変える決議に反対した株主の退出と、企業価値の適切な分配 | 譲渡を承認されなかった株主の投下資本の回収 |
| 評価方法 | 収益還元法 | DCF法(類似上場会社の数値を使用) |
| 非流動性ディスカウント | 不可 | 可(30%)。ただし二重の減価は不可 |
同じ非上場株式でも、どの手続きで、どの評価方法を使うかで結論が変わります。株主に退出を強いる場面では企業価値をそのまま分配する方向、株主が自ら売りたい場面では任意の売買と同じように考える方向、と整理できます。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る公正な手続きと、申立ての要件
最高裁平成28年7月1日決定:公正な手続きで決めた価格は尊重される
上場会社の株式の相当数を持つ株主が公開買付けを行い、その後、全部取得条項付種類株式を使って残りの株式を取得した事案です(平成28年(許)第4号、民集70巻6号1445頁。裁判所ウェブサイト)。最高裁は、独立した第三者委員会や専門家の意見を聴くなど、利益相反による恣意的な意思決定を排除する措置がとられ、応募しなかった株主からも同じ価格で取得することが明示されているなど、一般に公正と認められる手続で公開買付けが行われ、同じ価格で取得した場合には、取引の基礎となった事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情がない限り、裁判所は取得価格を公開買付けの価格と同額とするのが相当だとしました。
中小企業には公開買付けがありませんが、価格を決めるプロセスの公正さが裁判所の判断を左右するという点は共通です。利害関係のない専門家による株価算定、算定方法と前提の開示、任意の買取りの提案といった手順を踏むことが、のちの紛争を防ぎます。
申立ての要件でつまずかないための判例
価格の争い以前に、申立ての要件で決着がつくこともあります。
最高裁令和5年10月26日決定(令和4年(許)第11号、民集77巻7号1860頁。裁判所ウェブサイト)は、吸収合併で消滅する会社が、自社宛ての委任状用紙(賛否欄つき)を株主に送って議決権の代理行使を勧誘し、株主が「否」に〇をつけて返送した事案です。原審は、委任状は代理人への指示にすぎず「反対通知」ではないとして申立てを却下しましたが、最高裁は、委任状の作成・送付の経緯や記載内容から、反対の意思が会社に表明されているといえるときは反対通知に当たるとして、原決定を破棄し差し戻しました。
最高裁平成24年3月28日決定(平成23年(許)第7号、民集66巻5号2344頁。裁判所ウェブサイト)は、買取請求をした株主が、その後に株式を失った場合は、価格決定の申立ての適格を欠き、申立ては不適法になるとしました。
反対株主の買取請求には「株主総会に先立つ反対の通知」と「総会での反対」が必要です(会社法785条2項など)。会社側も株主側も、通知の方法と記録を確認しておく必要があります。
税務上の時価は別物
会社法の価格決定で決まった価格や、当事者が合意した価格が、そのまま税務上の時価として認められるとは限りません。
最高裁令和2年3月24日判決(平成30年(行ヒ)第422号、集民263号63頁。裁判所ウェブサイト)は、個人が非上場株式を法人に1株75円(配当還元方式による額)で譲渡した事案で、所得税法59条の時価は、譲受人ではなく譲渡人の会社への支配力の程度に応じた評価方法で判断すべきだとして、原判決を破棄し差し戻しました。
国税不服審判所令和7年9月10日裁決(国税不服審判所ウェブサイト)は、支配株主と対立して訴訟になった同族株主が、訴訟上の和解で決めた価格で関係法人に株式を譲渡した事案です。審判所は、同族関係者間で個別の事情のもとで成立した価格は、不特定多数の当事者間で通常成立する価額とはいえないとし、中心的な同族株主として会社を小会社として評価した時価の2分の1未満の譲渡に当たるとして、みなし譲渡課税を維持しました。
2つの事例の詳しい内容は社長個人が少数株主から買い取るときの価格と税金で解説しています。
実務への示唆と銀行の見え方
判例から読み取れるポイントを、立場別にまとめます。
- 使う手続きは何か(144条・177条・182条の4・785条など)。手続きごとに価格の考え方が違う
- 利害関係のない専門家による株価算定書があるか。評価方法と前提を説明できるか
- 非流動性ディスカウントを織り込むなら、その手続きで認められるか、二重の減価になっていないか
- 裁判所の決定額が想定より高くなっても、分配可能額と資金が足りるか
- 決まった価格が、売り手・買い手の税務上の時価から大きく外れていないか
少数株主の側から見れば、期限内に申し立てること、反対通知などの要件を確実に満たすことが、もっとも重要です。
会社が買い取る場合、裁判所の決定までには時間がかかり、決定額には法定利率による利息が加わる手続きもあります(会社法182条の5第4項など)。支払額が膨らめば現預金と純資産が減り、自己資本比率や債務償還年数が悪化します。代表の相亰の著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で10年以内を健全の目安としており、買取資金を借入でまかなう場合は、返済計画とあわせて銀行に説明できるようにしておきます。
まとめ
- 価格決定の申立てができる手続きは多く、期限が短い。譲渡制限株式の買取りでは、申立てがないと1株あたり純資産額で決まる
- 組織再編の反対株主の「公正な価格」は、ナカリセバ価格かシナジーを公正に分配した価格
- 非流動性ディスカウントは、平成27年決定(収益還元法・反対株主)で否定、令和5年決定(DCF法・譲渡制限株式)で肯定。手続きと評価方法で結論が違う
- 公正な手続きで決めた価格は尊重される。中小企業では独立した株価算定と説明が要
- 会社法上の価格と税務上の時価は別に検討する
株式の価格をめぐる争いは、時間も費用もかかります。クレフティでは、大手FASで財務DD・バリュエーションを担当してきた公認会計士が在籍しており、事業承継・M&A支援の中で、株価算定、セカンドオピニオン、税務上の時価の検討までご相談をお受けしています。株式を集める方法の全体像は分散した株式を集中させる方法の全体像もご覧ください。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
