「株を後継者に集めたいが、後継者個人には買い取るお金がない」。こうした場面で検討されるのが、持株会社(ホールディングス)を使った株主構成の整理です。
ただし、持株会社をつくれば自動的に株主構成が整理されるわけではありません。持株会社のつくり方には大きく2つの型があり、株式移転・株式交換で上に置く型は株主構成をそのまま引き継ぎ、持株会社が株式を買い取る型は買取資金と税金の負担を伴います。この記事では、2つの型の違い、会社法の手続き、税金、株式の評価、銀行からの見え方を整理します。
- 株式移転・株式交換で持株会社を上に置いても、株主構成はそのまま持株会社に移る。分散の解消にはならない
- 分散を解消するのは、後継者が出資した持株会社が株式を買い取る型。資金は借入、返済は事業会社からの配当が基本
- オーナーが持株会社に売るときの時価は、売り手の立場(所得税基本通達59-6)で判定され、相続税評価より高くなりやすい
- 100%子会社からの配当は全額益金不算入。一方、持株会社の株式は株式等保有特定会社として評価されることがある
- 銀行はグループ全体で見る。配当で返済できるかを債務償還年数で試算してから実行する
持株会社をつくる2つの型
| 項目 | 上に置く型(株式移転・株式交換) | 買取型(持株会社が株式を買う) |
|---|---|---|
| つくり方 | 株式移転で持株会社を新設、または既存の会社と株式交換 | 後継者などが出資して持株会社を設立し、事業会社の株式を買い取る |
| 株主構成 | 事業会社の株主が、そのまま持株会社の株主になる | 持株会社の株主は後継者など。売った株主は株主でなくなる |
| 分散の解消 | しない(少数株主も持株会社の株主になる) | する(買い取った分だけ) |
| 資金 | 原則不要(対価は持株会社の株式) | 買取資金が必要(借入が多い) |
| 売った株主の税金 | 適格なら課税の繰延べ | 譲渡所得(20.315%) |
| 主な使いどころ | グループの整理、事業ごとの子会社化 | 後継者への支配権の移転、少数株主からの買取り |
上に置く型:株式移転・株式交換
株式移転(会社法772条)は、既存の会社が新しい持株会社をつくり、自社の株式をすべて持株会社に取得させる手続きです。株式交換(767条)は、既存の会社同士で、一方が他方の株式をすべて取得する手続きです。どちらも、事業会社の株主は、持ち株に応じて持株会社の株式を受け取ります。
つまり、事業会社にいた少数株主は、持株会社の少数株主になるだけです。株主構成の分散そのものは解消しません。上に置く型は、事業会社を100%子会社にしてグループを整理したい場合や、複数の事業を子会社に分ける場合に向いています。
買取型:後継者の持株会社が株式を買う
後継者が出資して持株会社を設立し、その持株会社が、オーナーや少数株主から事業会社の株式を買い取る方法です。買取資金は金融機関からの借入でまかない、事業会社からの配当で返済するのが一般的な形です。
この型なら、売った株主は株主でなくなり、持株会社を通じて後継者に支配権が集まります。後継者個人が多額の資金を用意する必要はありませんが、持株会社の借入と、その返済を支える事業会社の利益が前提になります。
会社法の手続き
株式移転・株式交換は、組織再編として株主総会の特別決議が必要です(会社法309条2項12号)。反対株主には株式買取請求権があり(株式移転は806条)、価格がまとまらなければ裁判所に申し立てられます。株式交換では、完全親会社となる会社の規模などによって、株主総会を省略できる簡易・略式の手続きもあります(784条、796条)。
買取型では、事業会社の株式が譲渡制限株式であれば、持株会社への譲渡について会社の承認が必要です(136条以下)。売り手が多いときは、株主ごとに株式譲渡契約を結び、譲渡承認、株主名簿の書換えを進めます。
どちらの型でも、事業会社の従業員の雇用契約や取引先との契約の当事者は事業会社のままです。ただし、取引先との契約や借入の契約に、株主の変更(支配権の移動)を通知・承諾事項とする条項が入っていることがあるため、主要な契約は事前に確認します。
税金のポイント
上に置く型:適格かどうか
株式移転・株式交換が税法上の適格要件を満たせば、株主は持株会社株式を受け取っても譲渡益に課税されず、課税が繰り延べられます(所得税法57条の4)。持株会社株式以外の資産(金銭など)を交付しないこと、完全支配関係や支配関係の継続などが要件です。
非適格になると、株主に課税が生じるほか、事業会社が持つ一定の資産について時価評価が問題になることがあります。不動産などの含み益が大きい会社は、適格要件の確認が欠かせません。不動産を持つ会社の株式交換は株式交換で不動産会社をホールディングス化するでも取り上げています。
買取型:売り手の時価は「売り手の立場」で
オーナーや少数株主が持株会社(法人)に株式を売ると、売り手は譲渡所得として20.315%の分離課税を受けます。注意したいのは価格です。
個人が法人に、時価の2分の1未満の価格で売ると、時価で譲渡したものとみなされます(所得税法59条1項2号)。この時価は、所得税基本通達59-6により、評価通達の例によりつつ、次のような条件で計算します。
- 同族株主・少数株主に当たるかは、売り手の譲渡直前の議決権で判定する(最高裁令和2年3月24日判決を受けて明確化)
- 売り手が中心的な同族株主なら、会社を小会社として評価する
- 純資産価額の計算では、評価差額に対する法人税額等相当額を控除しない
- 会社が持つ土地や上場株式は、譲渡の時の価額で評価する
つまり、オーナーが自分の株式を後継者の持株会社に売るときの時価は、相続税の評価より高くなりやすいのです。安く売れば売り手にみなし譲渡課税、時価で売れば持株会社の借入が膨らむ、というバランスを考える必要があります。最高裁判決と公表裁決の内容は社長個人が少数株主から買い取るときの価格と税金で詳しく解説しています。
配当で返済するときの税金
持株会社が事業会社から受け取る配当は、受取配当等の益金不算入の対象です(法人税法23条)。
| 持株会社の持株割合など | 益金不算入の額 |
|---|---|
| 完全子法人株式等(配当の計算期間を通じて完全支配関係) | 全額 |
| 関連法人株式等(3分の1超) | 配当の額から負債利子相当額を控除した額 |
| 上記以外(5%超3分の1以下) | 50% |
| 非支配目的株式等(5%以下) | 20% |
買取型で100%を取得すれば、配当は原則として全額益金不算入になり、持株会社側で法人税がかからずに返済原資を受け取れます。ただし、事業会社の側では配当は損金にならないため、事業会社の法人税は通常どおり課税されます。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る持株会社の株式の評価
持株会社をつくると、オーナー家が将来相続するのは持株会社の株式になります。その評価で注意したいのが株式等保有特定会社です。
総資産(相続税評価額)に占める株式等の割合が50%以上の会社は、株式等保有特定会社として、原則として純資産価額方式で評価されます(納税者の選択で「S1+S2」方式も可)。事業会社の株式しか持たない持株会社は、通常これに当たります。不動産を持つ会社は、土地の割合によって土地保有特定会社に当たらないかも確認します。評価の基本は自社株評価の方法をご覧ください。
純資産価額の計算では、事業会社株式の含み益(評価差額)から法人税等相当額(2026年4月1日以後の相続・贈与は38%)を控除できるのが原則です。ただし、株式交換・株式移転などで著しく低い価額で受け入れた株式の含み益については、その控除が制限される定めがあります(評価通達186-2)。
また、通達どおりの評価でも、「著しく不適当」と認められれば財産評価基本通達の総則6項によって別の方法で評価されることがあります。最高裁令和4年4月19日判決(令和2年(行ヒ)第283号、裁判所ウェブサイト)は、借入で購入した賃貸不動産について通達評価を上回る価額での課税を適法としました。持株会社化も、承継の目的と経済的な合理性を説明できる形で進めることが大切です。
銀行からの見え方
持株会社と事業会社は、銀行からはグループ全体として見られます。買取型では、持株会社の借入が増え、その返済は事業会社の配当に頼ることになります。
代表の相亰の著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内を健全、20年超は厳しいとしています。持株会社の買取資金の借入を加えたグループの債務償還年数が、どの程度になるかを先に試算します。
| 銀行が見る点 | 確認すること |
|---|---|
| 返済原資 | 事業会社が、借入返済に必要な配当を毎年出せる利益水準か |
| 事業会社の財務 | 配当を出した後も、自己資本比率や現預金が十分に残るか |
| 担保・保証 | 持株会社の借入に、事業会社株式の担保や経営者保証を求められるか |
| 説明資料 | グループの資金の流れ(配当→返済)と、承継の目的を説明できるか |
M&Aで会社を買うときの融資と構造は似ています。買収資金の調達の考え方はM&Aの買収資金の融資も参考になります。
クレフティでは、事務所としてホールディングス化を支援してきた実績があり、税務の検討と並行して、グループ全体の資金計画と銀行への説明資料づくりまでご相談をお受けしています。
進め方の手順
- 目的を決める:分散の解消か、グループの整理か、後継者への支配権の移転か
- 型を選ぶ:上に置く型か、買取型か。両方を組み合わせることもある
- 株価を試算する:相続税評価、所得税法上の時価、持株会社株式の評価(株式等保有特定会社など)
- 資金計画をつくる:借入額、配当の水準、返済期間、事業会社の財務への影響
- 手続きと契約を確認する:株主総会決議、適格要件、譲渡承認、主要な契約の支配権条項
- 銀行に説明する:グループの資金の流れと承継の目的を事前に伝える
株式を集める方法全体の中での位置づけは分散した株式を集中させる方法の全体像、相続の前に進める計画は相続前にやっておく株式の集約計画で解説しています。
まとめ
- 株式移転・株式交換で持株会社を上に置いても、株主構成はそのまま移る
- 分散の解消には、後継者の持株会社が株式を買い取る型を使う。資金は借入、返済は配当が基本
- オーナーが持株会社に売るときの時価は売り手の立場で判定され、高くなりやすい
- 100%子会社からの配当は全額益金不算入。持株会社株式は株式等保有特定会社として評価されることが多い
- 銀行はグループ全体で見る。配当で返済できるかを先に試算する
持株会社化は、税金・会社法・資金計画が一体となった取引です。クレフティの事業承継・M&A支援では、型の選択から株価の試算、資金計画、銀行への説明までご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
