「子どもに会社を継がせるべきか」。オーナー経営者にとって、最も大きく、最も答えの出にくい問いのひとつです。会社を守りたい気持ちと、子どもには自分の人生を選んでほしいという気持ちは、どちらも本物だからです。
この記事では、子どもに会社を継がせるメリット・デメリットを、会社・家族・税金・銀行の4つの視点から整理します。最新の調査データと制度を確認しながら、社内承継やM&Aと比べた判断の材料を示しますが、どれが正解かは会社と家族によって違います。結論を押しつけるのではなく、家族で話し合うための材料としてお読みください。
- 社長の就任経緯は、2025年(速報値)で内部昇格36.1%・同族承継32.3%。子どもへの承継は「当たり前」ではなくなったが、いまも主要な選択肢
- メリットは、株式を贈与・相続で渡せる、準備期間を長く取れる、所有と経営を一致させやすいこと
- デメリット・課題は、贈与税・相続税、他の相続人との公平(遺留分)、経営者保証の引継ぎ、本人の意思と適性
- 正解は人による。継ぐ・継がない・いったん社内に任せる・売るといった複数の道を並べて比べることが大切
データで見る、親族内承継のいま
帝国データバンクの「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」によると、社長が交代した企業の就任経緯は次のとおりです。
| 就任経緯 | 2024年 | 2025年(速報値) |
|---|---|---|
| 内部昇格 | 35.0% | 36.1% |
| 同族承継 | 35.7% | 32.3% |
| M&Aほか | 19.2% | 20.6% |
| 外部招聘 | ― | 7.6% |
後継者が決まっている企業の後継者候補の属性(2025年)は、「非同族」が41.0%、「子ども」が29.7%、「親族」が24.6%、「配偶者」が4.7%でした(帝国データバンク)。
数字から読み取れるのは、子どもに継がせることが唯一の道ではなくなったということです。同時に、後継者候補の3割近くはいまも子どもであり、親族内承継が重要な選択肢であることに変わりはありません。
子どもに継がせるメリット
| 視点 | メリット |
|---|---|
| 会社 | 経営理念や取引先との関係を引き継ぎやすい。長期的な視点で経営されやすい |
| 準備 | 早い時期から後継者として育てられる。準備期間を長く取れる |
| 株式 | 贈与・相続で渡せるため、後継者が買取資金を用意しなくてよい |
| 税金 | 事業承継税制(特例措置)を使えば、一定の要件のもとで贈与税・相続税の納税を猶予・免除できる |
| 所有と経営 | 株式(所有)と経営を同じ人に集めやすく、意思決定が速い |
| 関係者 | 取引先や従業員に「オーナー家が続く」という安心感を与えることがある |
特に大きいのは、株式を無償で移せる点です。社内の役員に承継する場合や外部に売る場合は、株式の対価を誰かが払わなければなりません。子どもへの承継では、その資金の問題が、税金の問題に置き換わります。
デメリットと課題
中小企業基盤整備機構の「経営ハンドブック」でも、親族内承継の課題として、株式や事業用資産の贈与・相続に伴う税負担、相続による株式の分散、債務・保証・担保の承継が挙げられています(J-Net21「事業承継をサポートする仕組み」)。
| 課題 | 中身 |
|---|---|
| 贈与税・相続税 | 業績が良い会社ほど株価が高く、後継者の税負担が重い |
| 他の相続人との公平 | 株式を後継者に集めると、他の子どもとの間で遺留分の問題が生じる |
| 経営者保証 | 銀行から後継者に保証を求められることがある。家族が保証のリスクを負う |
| 本人の意思と適性 | 本人が望んでいない、あるいは別の分野に適性がある場合、本人にも会社にも負担になる |
| 社内の受け止め | 古参の役員や従業員が、若い後継者を経営者として認めるまでに時間がかかる |
| 事業承継税制のリスク | 猶予の取消し事由に当たると、猶予された税額と利子税を納めることになる |
税負担については、株価対策を急ぎすぎると、利益や純資産を減らして銀行の評価を下げる副作用があります。承継と融資は同じ決算書で評価されることを忘れないでください。
親族内承継で起きやすいトラブルと、その予防
親族内承継の難しさは、会社の問題と家族の問題が重なることです。よく見られるトラブルと、予防の考え方を整理します。
| 起きやすいトラブル | 背景 | 予防の考え方 |
|---|---|---|
| 相続で株式が兄弟に分かれ、経営方針で対立する | 遺言がなく、法定相続分で株式を分けた | 遺言や生前贈与で株式を後継者に集め、他の相続人には別の財産を考える |
| 後継者以外の子どもから遺留分を請求される | 自社株が財産の大半を占めている | 金銭で払う原資を用意するか、民法特例の合意を検討する(遺留分と民法特例) |
| 先代が代表を譲った後も決裁を続ける | 権限の線引きがあいまい | 代表交代の時点で、先代が助言する範囲を社内に示す |
| 後継者の配偶者や家族が、会社との関わり方に戸惑う | 承継の負担が家族に共有されていない | 経営者保証や働き方を含め、家族を交えて話す |
| 名義株や所在不明の株主が相続のたびに増える | 昔の株主構成を整理していない | 承継の前に株主名簿を確認し、集約を進める(分散した株式を集中させる方法) |
どのトラブルも、承継が始まってからでは手当てが難しくなります。承継を決める前の段階で、株主構成と家族の財産の全体像を把握しておくことが、もっとも効果のある予防です。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る税金・株価・手取りで比べる
親族内承継・社内承継・外部への売却(M&A)を、お金の面で比べると次のようになります。
| 項目 | 子どもへの承継(親族内) | 役員・従業員への承継(社内) | 外部への売却(M&A) |
|---|---|---|---|
| 株式の価格 | 財産評価基本通達で評価(交渉はない) | 当事者の交渉。税務上の時価との関係に注意 | 買い手との交渉で決まる |
| 主な税金 | 子どもに贈与税・相続税 | 売るオーナーに譲渡所得税(株式の譲渡は原則20.315%) | 売るオーナーに譲渡所得税(同) |
| オーナー家の手元に残るもの | 株式(会社そのもの) | 売却代金 | 売却代金 |
| 資金の論点 | 後継者の納税資金 | 後継者の買取資金(借入が多い) | 買い手の資金。オーナー側は不要 |
| 使える制度 | 事業承継税制(特例措置) | 事業承継税制(親族外でも可)、公的融資 | 中小M&Aガイドラインなど |
事業承継税制の特例措置は、特例承継計画の提出期限が2027年9月30日、贈与・相続の適用期限が2027年12月31日です(2026年10月時点)。制度の詳細と注意点は事業承継税制の特例とは?で解説しています。M&Aの選択肢は外部に売却するメリット・デメリットで整理します。
銀行・従業員・取引先から見た親族内承継
銀行は「後継者の信用」を時間をかけて見る
銀行は、後継者が経営者として返済を続けられるかを、決算書と人物の両面から見ます。著書のモデルでは、決算書を安全性・収益性・成長性・返済能力の4分野・129点満点で点数化し、32点以上を正常先の目安としています。数字が良くても、後継者が銀行と接点を持っていなければ、新しい代表者の信用は一から作ることになります。
承継の数年前から、後継者を銀行との面談に同席させ、決算の説明を任せていくと、交代後の融資や保証の交渉がスムーズになります。経営者保証の考え方は経営者保証を外す方法をご覧ください。
従業員と取引先は「誰が決めるのか」を見ている
従業員や取引先にとって大切なのは、後継者が誰かということ以上に、いつ、どのように経営が引き継がれるのかが見えることです。早めに後継者を公表し、役職と権限を段階的に移していくと、受け入れられやすくなります。後継者の育て方は後継者の育て方と社内での立ち位置で解説します。
正解は「人による」:よくある4つのパターン
子どもへの承継について、ご家族の状況は本当にさまざまです。よく見られるパターンを並べてみます。
- 子どもが継ぎたいと言っている:早めに役員に就け、株式の移転と経営の交代を数年かけて進める。事業承継税制を使う場合は、贈与の直前に役員であること・代表権を持つことなどの要件と、2027年12月31日の期限を逆算して準備する
- 子どもは継ぎたくない、または別の道に進んでいる:本人の人生を尊重し、社内承継やM&Aを検討する。株式は家族で持ち、経営は社内の役員に任せる方法もある(所有と経営を分ける承継)
- 子どもがまだ若い・決めかねている:いったん信頼できる役員に経営を任せ、将来子どもが望めば引き継ぐ「中継ぎ」の形もある。社外で経験を積んでから判断するという選択もある(子どもには先に外で修業させるべきか)
- 子どもが複数いる:1人に株式を集めるか、兄弟で分けるかで、将来の意思決定と相続の公平が変わる(兄弟で継ぐ・兄弟が株主になるリスク)
どのパターンでも共通するのは、親が先に答えを決めてしまわないことです。子どもに継ぐ意思を確かめないまま株式を贈与してしまうと、後から戻すのは容易ではありません。
家族で話し合うときの問い
話し合いの材料として、次の問いを家族で共有してみてください。
- 子ども本人は、会社と自分の将来について、どう考えているか
- 会社の10年後の姿(市場、取引先、従業員)は、どう見えるか
- 継ぐ場合、継がない場合、売る場合で、オーナー家の手元には何が残るか
- 後継者以外の家族に、何をどう遺すか(公平と納得)
- 経営者保証や借入を、家族がどこまで引き受けられるか
- 決めるまでの間に社長に万一があった場合、会社はどうなるか(オーナー急逝に備えるチェックリスト)
まとめ
- 社長の就任経緯は、2025年(速報値)で内部昇格が同族承継を上回った。子どもへの承継は数ある選択肢のひとつになっている
- メリットは、株式を贈与・相続で渡せる、長く準備できる、所有と経営を一致させやすいこと
- 課題は、税負担、他の相続人との公平、経営者保証、本人の意思と適性
- お金の面では、親族内は後継者の税金、社内承継は買取資金、M&Aは売却代金と譲渡所得税が論点になる
- 正解は人による。継ぐ・継がない・中継ぎ・売るを並べて、家族で話し合う
子どもに継がせるかどうかは、税金の計算だけでは決まりません。けれども、それぞれの道で何が起きるのかを数字で並べることは、家族の話し合いを助けます。クレフティでは、事業承継・M&A支援の中で、親族内承継・社内承継・M&Aそれぞれの税金、株価、手取り額、銀行への影響を比較する材料づくりをご支援しています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
