「兄は社長、弟は専務。株は半分ずつ」。兄弟で会社を継いだ中小企業でよく見る形です。親としては公平に分けたつもりでも、兄弟が対等な株主になると、意見が割れたときに会社が何も決められなくなることがあります。
この記事では、兄弟で事業承継する場合、兄弟が株主になる場合のリスクを、会社法のルールと公表されている判例で整理します。兄弟から株式を買い取るときの税金と、株主間契約・種類株式などの対策、銀行から見た注意点もあわせて解説します。
- 兄弟で50%ずつ持つと、普通決議(過半数)が成立せず、取締役の選任も決算の承認も止まる「デッドロック」が起きる
- 3%以上で帳簿閲覧、10%以上で解散の訴え。少数株主の兄弟にも強い権利がある
- 相続で株式が共有になると、議決権の行使は原則として持分の過半数で決める(最高裁平成27年2月19日判決)。兄弟の家族まで株主関係が広がる
- 兄弟から株式を買い取ると、みなし贈与・みなし配当など、買い方に応じた税金が生じる
- 対策は「誰が議決権の過半数を持つか」を先に決め、株主間契約・種類株式・会社以外の財産の配分で公平を図ること
兄弟承継でよくある3つの形
兄弟で会社を継ぐ形は、大きく3つに分かれます。
| 形 | 株式の持ち方 | 起きやすい問題 |
|---|---|---|
| 兄弟がともに経営に参加 | 50%ずつ、または60%と40%など | 方針の対立で意思決定が止まる |
| 一方が経営、もう一方は経営に関わらない | 経営しない兄弟も株主として残る | 配当や株式の買取りを求められる。帳簿閲覧などの権利行使 |
| 親の相続で株式が兄弟の共有になる | 遺産分割が終わるまで共有 | 議決権の行使者が決まらず総会が開けない |
どの形でも、問題は兄弟の仲が良いうちは表に出ないことです。対立は、親が亡くなったとき、どちらかが病気になったとき、兄弟それぞれの子どもが会社に入るときに表面化しやすくなります。
会社法から見た「兄弟が株主」のリスク
50%ずつでは何も決まらない
株主総会の普通決議は、議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席株主の議決権の過半数で決まります(会社法309条1項)。取締役の選任・解任も同じく過半数です(341条)。定款の変更や合併などの特別決議は、出席株主の議決権の3分の2以上が必要です(309条2項)。
| 兄・弟の持株比率 | 普通決議 | 特別決議 | 起きること |
|---|---|---|---|
| 50%・50% | どちらも単独では決められない | どちらも単独では決められない | 役員選任・報酬決定・決算承認が止まる(デッドロック) |
| 60%・40% | 兄が単独で決められる | 兄だけでは決められない | 弟は特別決議を止められる(拒否権に近い) |
| 70%・30% | 兄が単独で決められる | 兄が単独で決められる | 弟は少数株主権の行使が中心 |
デッドロックでは、取締役の任期が満了しても後任を選べず、退任した取締役が新任者の就任まで取締役の権利義務を持ち続けるといった不安定な状態になります。保有比率ごとの権利の全体像は株式の保有比率ごとの権利にまとめています。
少数株主の兄弟が持つ権利
経営から外れた兄弟が少数株主として残る場合、次のような権利を持ちます。
- 会計帳簿の閲覧・謄写:議決権または発行済株式の3%以上。請求の理由を明らかにする必要があり、会社は一定の拒絶事由がある場合を除いて拒めません(433条)
- 役員の解任の訴え:議決権の3%以上。役員に不正や重大な法令・定款違反があったのに、解任議案が否決された場合など(854条)。非公開会社では6か月の保有期間の要件がありません
- 会社の解散の訴え:議決権または発行済株式の10%以上。業務の執行が著しく困難で回復できない損害が生じるおそれがあるなど、やむを得ない事由がある場合(833条)
解散の訴えが認められるハードルは高いものの、訴えを起こされるだけで、取引先や金融機関への説明が必要になります。少数株主の権利は少数株主の権利で詳しく解説しています。
「相続人等に対する売渡請求」が兄弟間で使われることも
定款に定めがあれば、会社は相続で譲渡制限株式を取得した人に、株式を会社に売り渡すよう請求できます(174条)。請求するかどうかは株主総会の特別決議で決め、売渡しを請求される側はその決議で議決権を行使できません(175条2項)。
兄弟が株主の会社で兄が亡くなると、弟側が兄の家族に売渡請求をかけ、兄の家族が経営から締め出される、という使われ方をすることもあります。定款にこの条項があるかどうか、一度確認しておいてください。詳しくは相続人等に対する売渡請求をご覧ください。
相続で株式が共有になったときの判例
親が亡くなり遺産分割がまとまらないと、株式は兄弟の共有になります。共有株式の権利は、権利を行使する者1人を決めて会社に通知しなければ行使できません(会社法106条)。
| 裁判所・日付 | 争点 | 判断の要点 |
|---|---|---|
| 最高裁第一小法廷 平成27年2月19日判決(平成25年(受)第650号) | 権利行使者の指定・通知がないまま、共有者の一人が会社の同意を得て議決権を行使した総会決議は有効か | 会社が同意しても、その権利行使が民法の共有に関する規定に従っていなければ適法にならない。議決権の行使は、特段の事情がない限り共有物の「管理」にあたり、持分の価格の過半数で決める |
この判決により、共有株式の議決権は「共有者全員の同意」までは不要で、持分の過半数で決められることが示されました。裏を返せば、兄弟2人が2分の1ずつの法定相続分で共有している状態では、どちらも過半数を持てず、議決権の行使が決まらないことがあります。遺言で株式の取得者を決めておくことが、最も確実な予防策です。
兄弟から株式を買い取るときの税金
対立が深まる前に、経営する側が株式を買い取る、という解決策があります。誰が買うかで税金が変わります。
| 買い手 | 売る兄弟の税金 | 買う側の税金・注意点 |
|---|---|---|
| 社長(個人)が買う | 譲渡所得として約20%(所得税・住民税等)の申告分離課税 | 時価より著しく低い価額だと、差額にみなし贈与(相続税法7条) |
| 会社が買う(自己株式の取得) | 資本金等の額を超える部分がみなし配当(総合課税)、残りが譲渡損益 | 分配可能額の範囲内でしか買えない(財源規制) |
| 会社が買う(相続で取得した株式の特例) | 相続税が課された人が、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売れば、みなし配当とせず譲渡所得として扱う特例(租税特別措置法9条の7) | 相続税額のうち一定額を取得費に加算できる特例もある |
個人どうしの売買でみなし贈与になるかどうかは、買い手(財産を取得した側)の立場で財産評価基本通達を当てはめて判断するのが基本です。一方、売り手が個人で買い手が法人の場合は、時価の2分の1未満での譲渡に所得税法59条の「みなし譲渡」がかかり、株式の時価の判定方法も変わります(最高裁令和2年3月24日判決。詳しくは役員・従業員への承継(MBO・EBO)の資金と株価で解説しています)。
会社による買取りの手続きと税金は自己株式の取得、価格の決め方は社長個人が少数株主から買い取るときの価格と税金をご覧ください。
会社が高く買えば取締役の責任になるか
会社が兄弟から株式を買い取る価格について、取締役の判断はどこまで尊重されるのでしょうか。最高裁第一小法廷平成22年7月15日判決(平成21年(受)第183号)は、子会社株式を払込金額を基準に買い取った事案で、非上場株式の評価額には幅があること、取得の必要性、経営会議での検討や弁護士の意見聴取といった手続きを踏まえ、取締役の善管注意義務違反を否定しました(裁判所「裁判例検索」)。兄弟からの買取りでも、価格の根拠と検討の過程を記録に残すことが、後の紛争を防ぎます。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る兄弟承継を揉めごとにしないための対策
1. 議決権の過半数を持つ人を先に決める
最も大切なのは、「最終的に決める人」を一人に決めておくことです。共同経営でも、どちらかが議決権の過半数、できれば3分の2以上を持つ形にします。経営しない兄弟の公平は、株式ではなく会社以外の財産(預金、不動産、生命保険金)で図るのが基本です。遺留分との関係は後継者以外の相続人との公平で解説しています。
2. 株主間契約で「揉めたときの決め方」を決める
兄弟がともに株主になる場合は、株主間契約で次の点を決めておきます。
- どちらかが退任・死亡したときに、株式を誰が、どの価格の算定方法で買い取るか
- 重要事項(増資、合併、借入の上限など)の決め方
- 配当の方針
- 意見が割れたときの解決手順(第三者の意見を聴く、一方が買い取る仕組みなど)
株主間契約の詳しい内容は株主間契約で決めておくべきことをご覧ください。
3. 種類株式・属人的株式で議決権と財産権を分ける
経営に関わらない兄弟には議決権制限株式(会社法108条1項3号)を持たせ、配当では優先する、という設計も可能です。非公開会社なら、定款で株主ごとに異なる扱いを定める属人的株式(109条2項)も使えます。詳しくは種類株式を事業承継に使うで解説しています。
4. 事業ごと分けるという選択肢
兄弟がそれぞれ別の事業を担っている場合は、会社分割で事業を分け、それぞれが100%株主になる方法もあります。税務上の適格要件や、許認可・取引先との契約の引継ぎを確認しながら進めます。
銀行は兄弟の関係をどう見ているか
金融機関にとって、経営陣の対立は与信判断上の大きなマイナスです。代表者と大株主の意見が割れていると、返済計画の実行力に疑問を持たれます。決算の承認が遅れて決算書の提出が遅れれば、それだけで信用は下がります。
経営者保証の扱いも論点になります。兄弟がともに保証人になっている場合、経営から外れる兄弟は保証の解除を求めるでしょう。後継者だけが保証を引き継ぐには、財務の健全性と、法人と個人の資産の分離を示す必要があります。保証の引継ぎは社内後継者と経営者保証・借入の引継ぎ、保証を外す実務は経営者保証を外す方法でも解説しています。
逆に、株主構成が整理され、「この人が決める」と明確な会社は、銀行から見て安心感があります。株主構成の整理は、承継対策であると同時に、融資を受け続けるための体制づくりでもあります。
まとめ
- 兄弟で50%ずつ持つと、普通決議が成立せずデッドロックになる
- 少数株主の兄弟にも、3%で帳簿閲覧、10%で解散の訴えなどの強い権利がある
- 相続で共有になった株式の議決権は、原則として持分の過半数で決める(最高裁平成27年2月19日判決)
- 兄弟からの買取りは、個人が買うか会社が買うかで税金が変わる。価格の根拠を記録に残す
- 過半数を持つ人を先に決め、株主間契約・種類株式・会社以外の財産で公平を図る
兄弟のどちらが継ぐのか、継がないのかは、それぞれの人生の選択でもあります。クレフティでは、株主構成の現状分析、株価の試算、買取りの税金の比較など、家族で話し合うための材料づくりを事業承継・M&A支援としてお手伝いしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、公認会計士・税理士が具体的な選択肢をご案内します。
