「持株は5%しかないのに、元役員の叔父が帳簿を見せろと言ってきた」「株主総会で、聞いたこともない議案を出すと言われた」。オーナー企業では、親族や元役員などの少数株主との関係が、ある日突然、経営の課題になることがあります。
少数株主は、株主総会の多数決では勝てません。そのかわり会社法は、少数株主が会社の経営を監視し、不正を正すための権利を用意しています。この記事では、少数株主の権利のうち、実務でよく問題になる会計帳簿の閲覧、株主提案、株主代表訴訟、役員解任の訴え、会社の解散の訴えを取り上げ、条文と最高裁判例をもとに解説します。オーナー側がどう備えるか、税務・銀行・M&Aへの影響もあわせて整理します。
- 少数株主の権利は、1株から使える権利(代表訴訟・決議取消し・閲覧など)と、一定の比率が必要な権利(3%で帳簿閲覧・招集請求・解任の訴え、10%で解散の訴え)に分かれる
- 非公開会社では、多くの権利に6か月の保有期間の要件がない。相続で株主になった人もすぐに使える
- 会計帳簿の閲覧は、法定の拒否事由がなければ断れない。株式の売却価格を算定する目的の請求は、特段の事情がない限り正当とされた(最高裁平成16年7月1日判決)
- 権利の行使は、多くの場合「株式を適正な価格で買い取ってほしい」という要求の入口になる。最終的な解決は株式の買取りが中心
- 対立の予防には、配当方針・情報提供・役員報酬の根拠を整えることが有効。役員報酬の水準は、税務(過大役員給与)と代表訴訟の両面から見られる
少数株主の権利の全体像
会社法の株主の権利は、1株でも行使できる「単独株主権」と、一定の議決権割合や株式数が必要な「少数株主権」に分かれます。中小企業の多くを占める非公開会社(すべての株式に譲渡制限がある会社)を前提に、主な権利を整理します。
| 権利 | 必要な比率 | 条文(会社法) | 実務で起きること |
|---|---|---|---|
| 株主名簿・計算書類・株主総会議事録の閲覧 | 1株 | 125条、442条、318条 | 決算書の開示を求められる |
| 取締役会議事録の閲覧 | 1株(監査役設置会社は裁判所の許可が必要) | 371条 | 取引や報酬の決定過程を確認される |
| 株主代表訴訟 | 1株 | 847条 | 取締役の責任を追及される |
| 取締役の違法行為の差止め | 1株 | 360条 | 取引や資産の処分を止めるよう求められる |
| 株主総会決議の取消しの訴え | 1株 | 831条 | 招集手続の不備を突かれる |
| 議題の提案・議案の要領の通知 | 取締役会設置会社は1%以上または300個以上 | 303条、305条 | 総会に株主側の議案が出る |
| 株主総会の招集請求 | 3%以上 | 297条 | 臨時総会の開催を求められる |
| 会計帳簿の閲覧・謄写 | 3%以上 | 433条 | 帳簿・証憑の開示を求められる |
| 業務執行の検査役の選任 | 3%以上 | 358条 | 裁判所が選んだ検査役が調査する |
| 役員解任の訴え | 3%以上 | 854条 | 解任議案の否決後、裁判で解任を求められる |
| 会社の解散の訴え | 10%以上 | 833条 | 会社そのものの解散を求められる |
いずれも、定款でより低い比率に緩めることはできますが、厳しくすることはできません。比率ごとの権利の全体像は株式の保有比率ごとの権利にまとめています。
会計帳簿の閲覧:3%で会社の中身が見える
何が見られるのか
会計帳簿の閲覧請求(433条)では、決算書ではなく、その元になる総勘定元帳・仕訳帳や、請求書・契約書などの関連資料が対象になります。株主は請求の理由を明らかにする必要がありますが、会社は次の場合を除き、拒むことができません(433条2項)。
- 株主の権利の確保・行使に関する調査以外の目的で請求したとき
- 会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求したとき
- 請求者が会社と実質的に競争関係にある事業を営み、またはこれに従事するとき
- 知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき(過去2年以内に通報したことがあるときを含む)
判例:何が「正当な目的」で、何が拒否事由か
帳簿閲覧の拒否について、最高裁は次の判断を示しています。いずれも旧商法の時代の事件ですが、現在の会社法433条の解釈でも参照されています。
| 判例 | 争点 | 判断 | 実務への示唆 |
|---|---|---|---|
| 最高裁平成16年7月1日第一小法廷判決(平成15年(受)第1104号) | ①請求の理由を裏づける事実の立証が必要か ②譲渡制限株式の適正な価格を算定する目的の請求は、正当な目的といえるか | ①理由は具体的に記載する必要があるが、その事実の存在を立証する必要はない ②株式を譲渡しようとする株主が適正な価格を算定する目的でした請求は、特段の事情がない限り、拒否事由に当たらない | 「株を売りたいから会社の価値を知りたい」という請求は、原則として拒めない |
| 最高裁平成21年1月15日第一小法廷決定(平成20年(許)第44号) | 競業関係を理由に拒むには、株主に情報を競業に使う意図が必要か | 株主が会社と競業をなす者であるなどの客観的事実があれば足り、主観的な意図は必要ない | 競業関係は客観的な事実で判断される。同業を営む親族株主には注意 |
判決の要旨は裁判所ウェブサイトで確認できます(平成16年判決、平成21年決定)。
平成16年の判決は、少数株主の典型的な動機を正面から認めたものといえます。少数株主が株式を手放したいとき、まず帳簿を見て価値を確かめ、そのうえで会社やオーナーに買取りを求める、という流れは珍しくありません。帳簿閲覧の請求は、買取交渉の入口と考えて対応するのが現実的です。
見られて困らない帳簿にしておく
帳簿を見られて問題になるのは、オーナー個人の支出が会社の経費になっている、関係会社との取引の条件があいまい、役員報酬や退職金の決定記録がない、といった点です。これらは税務調査でも指摘されやすく、M&Aのデューデリジェンスでも必ず確認されます。少数株主対策というより、会社の帳簿を誰に見られても説明できる状態にしておくことが基本です。
株主提案と株主総会の招集請求
議題の提案と議案の要領の通知
取締役会設置会社では、総株主の議決権の1%以上または300個以上を持つ株主は、総会の日の8週間前までに、一定の事項を議題にするよう請求できます(303条2項)。提出しようとする議案の要領を他の株主に通知するよう求めることもできます(305条)。取締役会を置かない会社では、1株の株主でもこれらの権利を持ちます。
株主提案では、取締役の選任・解任、配当の増額、役員報酬の上限の引下げなどが出されることがあります。オーナーが過半数を持っていれば可決はされませんが、他の株主に議案が通知され、総会で説明を求められることになります。
招集請求:3%で臨時総会を開かせる
3%以上の株主は、議題と招集の理由を示して株主総会の招集を請求でき、会社が遅滞なく招集しなければ、裁判所の許可を得て自ら招集できます(297条)。「総会を開いていない」「決算の承認が形だけ」という会社では、こうした請求をきっかけに、過去の手続きの不備が問題になることもあります。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る株主代表訴訟と役員解任の訴え
株主代表訴訟:1株から取締役の責任を追及できる
取締役が会社に損害を与えたとき、責任を追及するのは本来は会社です。しかし、オーナーと取締役が一体の会社では、会社が自ら訴えることは期待できません。そこで、株主が会社に対して訴えの提起を請求し、会社が60日以内に訴えを起こさないときは、株主が会社のために訴えを起こせる仕組みが株主代表訴訟です(847条1項・3項)。非公開会社では、保有期間の要件もありません(847条2項)。
代表訴訟は、訴訟の目的の価額の算定について財産権上の請求でないものとみなされるため(847条の4第1項)、請求額が大きくても申立ての手数料は一定です。一方、被告の取締役は、訴えが悪意によるものであることを疎明すれば、株主に担保を立てるよう求めることができます(847条の4第2項・3項)。
中小企業で代表訴訟の対象になりやすいのは、次のような取引です。
- オーナーやその親族の会社との取引で、会社に不利な条件になっているもの
- 業績に見合わない高額の役員報酬や退職金
- 回収の見込みのない役員・関係会社への貸付け
役員解任の訴え:3%・30日以内・会社と役員の双方が被告
役員の職務に関し不正の行為や法令・定款に違反する重大な事実があったのに、解任議案が株主総会で否決されたときは、3%以上の株主は、総会の日から30日以内に、裁判所に役員の解任を請求できます(854条)。この訴えは、会社と役員の双方を被告としなければなりません(855条)。
広島高等裁判所平成15年2月19日判決(平成14年(ネ)第397号)は、旧法下の取締役解任請求で、出訴期間内に会社だけを被告として訴え、期間経過後に取締役を被告とする訴えを追加した事案について、出訴期間の遵守の効力は認められないとして、訴えを不適法とした原判決を維持しました(判決原文)。期限と被告の選び方が厳格に扱われることがわかります。
会社の解散の訴え:10%の最後の手段
10%以上の株主は、次のいずれかの場合で「やむを得ない事由」があるときに、会社の解散を裁判所に請求できます(833条1項)。
- 業務の執行において著しく困難な状況に至り、会社に回復することができない損害が生じ、またはそのおそれがあるとき
- 会社の財産の管理・処分が著しく失当で、会社の存立を危うくするとき
典型は、50%対50%で株式を持つ2つの株主グループが対立し、取締役も選べず会社が動かなくなった、というデッドロックの状態です。解散は会社そのものをなくす重い結論なので、認められるハードルは高いと考えられていますが、少数株主にとっては「株式を買い取ってもらえないなら解散を求める」という交渉の材料になり得ます。株主が2つのグループに割れる株主構成は、承継の段階でつくらないことが何よりの予防です。
税務・銀行・M&Aから見た少数株主
役員報酬・配当と税務
少数株主との対立の原因として多いのが、「オーナー一族は高い報酬を受け取っているのに、配当は出ない」という不満です。
| 論点 | 税務 | 少数株主との関係 |
|---|---|---|
| 役員報酬 | 定期同額給与などの要件を満たし、不相当に高額でなければ損金になる(法人税法34条) | 業績に比べて高額だと、代表訴訟や株主提案の対象になりやすい |
| 配当 | 損金にならない。非上場株式の配当は、支払時に所得税等が源泉徴収され、原則として総合課税 | 無配が続くと、少数株主の不満がたまりやすい |
| 株式の買取り | 会社が買えばみなし配当、オーナーや法人が買えば譲渡所得。著しい低額・高額は贈与税・所得税の問題が生じる | 対立の最終的な解決手段になることが多い |
役員報酬は、税務上の損金算入の要件と、株主に説明できる根拠(職務の内容、業績、同業の水準)の両方を備えておくのが基本です。報酬の決め方は役員報酬の決め方でも解説しています。
銀行から見た少数株主との対立
銀行は、株主間の紛争や訴訟の有無を、融資の審査で確認します。訴訟が起きていれば、決算書の注記や面談で説明を求められ、経営の安定性の面で慎重に見られることがあります。少数株主が帳簿閲覧で入手した資料が外部に出るリスクもあり、銀行との信頼関係にも関わります。
M&Aでは「少数株主を残さない」が前提
会社を売却する場合、買い手は100%の取得を求めるのが通常です。少数株主と対立したままでは、株式を集めること自体が難しくなり、価格の交渉でも足元を見られます。売却を考えるなら、関係が良好なうちに株式を集めておくことが重要です。分散した株式のリスクは株式が分散しているリスク、オーナー個人が買い取るときの価格と税金は社長個人が少数株主から買い取るときで詳しく扱います。
オーナー側の備え:チェックリスト
- 株主総会・取締役会を、招集から議事録まで法令・定款どおりに行っているか
- 役員報酬・退職金・関係者との取引について、決定の記録と根拠を残しているか
- 配当方針(無配の理由を含む)を、株主に説明できるか
- 帳簿閲覧や招集請求を受けたときの窓口と、期限・拒否事由の確認手順を決めているか
- 少数株主が株式を手放したいときの買取りの方針(誰が・どの価格の考え方で)を決めているか
- 新たに株主を迎えるときは、株主間契約で売却時のルールや情報提供の範囲を決めているか
少数株主の権利は、適正に経営している会社にとって脅威ではありません。むしろ、手続きや記録の不備が、権利の行使をきっかけに表に出ることが問題です。株主間のルールづくりは株主間契約で決めておくべきことでも解説します。
まとめ
- 少数株主には、1株から使える権利と、3%・10%などの比率が必要な権利がある。非公開会社では保有期間の要件がないものが多い
- 会計帳簿の閲覧は、法定の拒否事由がなければ断れない。株式の売却価格を算定する目的の請求は原則として正当とされ(最高裁平成16年7月1日判決)、競業関係は客観的な事実で判断される(最高裁平成21年1月15日決定)
- 代表訴訟は1株から起こせ、役員解任の訴えは3%・30日以内・会社と役員の双方が被告、解散の訴えは10%以上が必要
- 対立の原因になりやすい役員報酬・配当は、税務上の要件と株主への説明の根拠をそろえておく
- 最終的な解決は株式の買取りが中心。売却や承継の前に、関係が良好なうちに株主構成を整えておく
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