兄弟で会社を継ぐ、共同創業者と株を分け合う、取引先や投資家に株主になってもらう。株主が複数いる会社では、株主同士の考えが合わなくなったときに、会社の意思決定が止まったり、株式の扱いで争いになったりします。こうした事態に備えて、株主同士があらかじめルールを決めておくのが株主間契約です。
株主間契約は、上場を目指すスタートアップや合弁会社では一般的ですが、中小企業の事業承継でも、兄弟株主、親族株主、社内の役員株主との関係を整理するうえで役に立ちます。この記事では、株主間契約で決めておくべきことを、定款との違い、条項の種類、事業承継と会社の売却での使い方、価格と税務の注意点、関連する判例とあわせて解説します。
- 定款は会社と全株主を拘束し、株主間契約は契約した株主同士を拘束する。会社法上の効力が必要なものは定款、株主同士の約束は契約、と組み合わせる
- 決めておくべきことは、議決権の行使・役員の指名・重要事項の事前同意・株式の譲渡・相続や退職時の扱い・会社の売却・デッドロック・違反時の効果
- 売却に備えて、ドラッグ・アロング(一緒に売らせる権利)とタグ・アロング(一緒に売る権利)を入れておくと、100%の売却がしやすくなる
- 買取りの価格は、算定方法と算定者まで決めておく。合意した価格でも、税務上の時価と大きく違えば課税の問題が生じ得る
- 退職時に取得価額で譲渡する合意を有効とした最高裁平成7年4月25日判決など、合意の効力は事情次第。理解と同意の記録を残す
株主間契約とは:定款との違い
株主間契約は、株主の一部または全部が、株式や会社の運営について結ぶ契約です。会社自身が当事者に加わることもあります。
| 項目 | 定款 | 株主間契約 |
|---|---|---|
| 拘束される人 | 会社と全株主(将来の株主を含む) | 契約の当事者のみ |
| 決められる内容 | 会社法で認められた事項(譲渡制限、種類株式、属人的な定めなど) | 契約自由の範囲で柔軟に決められる |
| 違反したとき | 違反した決議の効力が争われる | 主に損害賠償・違約金・株式の買取りなどで対応 |
| 変更の手続き | 株主総会の特別決議など | 当事者全員の合意(契約の定めによる) |
| 外部からの見え方 | 登記される事項がある。株主・債権者は閲覧できる | 原則として当事者の間で秘密にできる |
定款の定めは強い効力がありますが、変えるには株主総会の決議が必要で、会社法の枠を超えることはできません。株主間契約は柔軟ですが、当事者以外には効力が及びません。たとえば、株式の譲渡制限そのものは定款に定め(会社法107条・108条)、そのうえで「誰に、どの順番で、いくらで売るか」を株主間契約で決める、という組み合わせが基本です。
種類株式や属人的な定めについては、種類株式を事業承継に使う、属人的株式の活用と注意点で解説しています。
株主間契約で決めておくべきこと
株主間契約の主な条項を整理します。
| 分野 | 条項 | 内容 |
|---|---|---|
| 経営 | 議決権の行使 | 一定の議案について、契約に従って議決権を行使することを約束する |
| 経営 | 役員の指名 | 各株主が指名できる取締役の人数を決め、互いにその選任に賛成する |
| 経営 | 重要事項の事前同意 | 増資、借入、組織再編、事業譲渡、配当、役員報酬など、一定の事項は他の株主の同意を必要とする |
| 経営 | 情報提供 | 経営に関わらない株主に、決算書や月次の数字を提供する |
| 株式 | 譲渡の制限・先買権 | 第三者に売る前に、他の株主に先に買う機会を与える |
| 株式 | コールオプション・プットオプション | 一定の事由で、株式を買い取る権利(コール)・買い取らせる権利(プット) |
| 株式 | 相続・退職・離婚のときの扱い | 株主が亡くなった、役員を退任した、などの場合に、株式を誰がいくらで買い取るか |
| 売却 | タグ・アロング | 他の株主が株式を売るとき、同じ条件で一緒に売れる権利 |
| 売却 | ドラッグ・アロング | 一定割合以上の株主が会社を売るとき、他の株主にも同じ条件で売らせる権利 |
| 紛争 | デッドロックの解消 | 意見が対立して決められないときの手順(協議、第三者の関与、買取りなど) |
| 紛争 | 競業避止・違反時の効果 | 競業の禁止、違反したときの違約金や株式の買取り |
すべてを入れる必要はなく、株主構成と会社の将来像に合わせて選びます。特に中小企業で重要なのは、相続・退職時の扱いと売却時の扱いです。
事業承継での使い方:兄弟株主・親族株主
兄弟で株式を持つ場合
兄弟で株式を分けて相続し、兄が社長、弟が取締役、といった場合、最初は協力していても、代替わりの後に考えが分かれることがあります。株主間契約では、次の点を決めておくと、対立が深刻になる前の歯止めになります。
- 社長を務める株主の議決権行使に、他の株主が一定の範囲で協力すること(役員の選任など)
- 重要事項(会社の売却、多額の借入、組織再編)は、全員の同意を必要とすること
- 一方が会社を離れる場合や亡くなった場合に、他方が株式を買い取れること(コールオプション)と、その価格の算定方法
- 経営に関わらない株主への配当方針と情報提供
兄弟で継ぐことのリスクは兄弟で継ぐ・兄弟が株主になるリスクで詳しく扱います。
相続のときの扱いを決めておく
株主が亡くなると、株式は相続人に引き継がれ、遺産分割までは相続人の共有になります。株主間契約で「株主が死亡したときは、他の株主が相続人から株式を買い取ることができる」と決めておけば、経営に関心のない相続人が株主として残るのを防ぎやすくなります。
ただし、株主間契約は契約の当事者を拘束するもので、相続人がその契約上の地位をどこまで引き継ぐかは、契約の定め方や事情によって争いになり得ます。会社が相続人から株式を買い取る仕組みとしては、定款に定める相続人等に対する売渡請求(会社法174条)もあり、両方を組み合わせて検討します。売渡請求には、オーナー自身の相続のときにも使われ得るという注意点があります。詳しくは相続人等に対する売渡請求をご覧ください。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る会社の売却に備える条項
会社をM&Aで売却するとき、買い手は通常100%の取得を求めます。株主の一部が売却に反対すると、売却そのものが進まなくなります。
ドラッグ・アロングとタグ・アロング
| 条項 | 誰のための条項か | 内容 |
|---|---|---|
| ドラッグ・アロング | 多数派株主・売却を進めたい株主 | 一定割合以上の株主が第三者への売却に合意したとき、他の株主にも同じ条件で株式を売るよう求められる |
| タグ・アロング | 少数株主 | 多数派株主が株式を売るとき、少数株主も同じ条件で一緒に売ることを求められる |
ドラッグ・アロングがあれば、少数株主の反対で売却が止まるリスクを減らせます。ただし、株主間契約は契約上の義務なので、相手が応じない場合は、裁判で履行を求めることになります。オーナー側が90%以上を持っていれば特別支配株主の売渡請求(会社法179条)、3分の2以上なら株式併合(180条)という会社法上の手段もあります。スクイーズアウトの方法は株式併合・特別支配株主の売渡請求で解説します。
タグ・アロングは、少数株主にとって「多数派だけが高く売り抜け、自分だけが知らない買い手のもとに残される」事態を防ぐ条項です。共同経営者や役員に株式を持ってもらうときは、少数株主側の安心材料にもなります。
価格の決め方と税務の注意点
価格の算定方法を具体的に決める
コールオプションや相続時の買取りで最も争いになるのは価格です。「時価で買い取る」とだけ書くと、時価が何を指すかで争いになります。
- 算定の方法(純資産、相続税評価額、DCF法など、または複数の方法の組合せ)
- 算定の基準日(事由が生じた日、直前の決算期末など)
- 算定する人(会社の顧問税理士、当事者が合意した第三者、意見が分かれたときの手順)
- 支払いの方法と期限(一括か分割か、資金を誰が用意するか)
合意した価格と税務上の時価
当事者が合意した価格でも、税務上の時価と大きく違えば課税関係が生じます。個人間の低額譲渡では買った人に贈与税(相続税法7条)、個人から法人への時価の2分の1未満の譲渡では時価による譲渡とみなす規定(所得税法59条)、法人の取引では寄附金や受贈益の問題が生じ得ます。
株主間契約と税務上の時価の関係について、東京高等裁判所平成28年3月24日判決(平成27年(行コ)第371号)は、内国法人が海外の関連法人の新株を額面で引き受けた事案で、株主間の契約によって株主ごとに権利内容に差を設ける旨の合意がされていたとしても、その株式は法人税法施行令上の有利発行の有価証券に当たるとした原判決(東京地裁平成27年9月29日判決)の判断を維持しました(判決の要旨)。株主間の合意があっても、税務上の時価の判断がそれに従うとは限らないことを示す例です。
価格の算定方法を決めるときは、税務上の時価の考え方(相続税評価、所得税・法人税の時価)も踏まえておくことが大切です。株価の仕組みは自社株評価の方法で解説しています。
合意の効力:最高裁平成7年判決
株式の譲渡価格をあらかじめ決めておく合意について、最高裁平成7年4月25日第三小法廷判決(平成3年(オ)第1332号)は、従業員持株制度で取得した株式を、退職時に額面額で取締役会の指定する者に譲渡する合意を、従業員が制度の趣旨・内容を理解して額面額で取得し、配当も受けていたなどの事実関係の下で有効としました(判決の要旨)。合意の効力は、当事者の理解と、取得の経緯・保有中の利益とのバランスなど、事情によって判断されます。契約の説明と同意の記録を残しておくことが大切です。従業員持株会の出口の問題は従業員持株会のメリットと出口の問題で扱っています。
銀行・取引先から見た株主間契約
銀行は、融資の審査で株主構成と経営の主導権を確認します。株主間契約で重要事項に他の株主の同意が必要とされている場合、借入や担保の提供にも株主の同意が必要になることがあり、融資の手続きに影響します。逆に、株主間契約で経営の主導権と承継の手順がはっきりしていれば、後継者や経営体制を説明する材料にもなります。
また、出資を受けた取引先との株主間契約では、取引の継続や競業の制限が定められていることがあります。会社を売却するときは、こうした条項が買い手との取引に影響しないか、デューデリジェンスで確認されます。契約を結んだまま放置せず、株主構成が変わったときには見直してください。
まとめ
- 株主間契約は、株主同士を拘束する契約。会社法上の効力が必要なものは定款、柔軟な約束は契約で、と組み合わせる
- 決めておくべきことは、議決権の行使・役員の指名・重要事項の事前同意・株式の譲渡・相続や退職時の扱い・売却時の扱い・デッドロック・違反時の効果
- 売却に備えて、ドラッグ・アロングとタグ・アロングを検討する。会社法上のスクイーズアウトの手段とも組み合わせる
- 買取価格は、算定方法・基準日・算定者・支払方法まで決める。合意した価格でも、税務上の時価と違えば課税の問題が生じ得る(東京高裁平成28年3月24日判決)
- 合意の効力は事情次第(最高裁平成7年4月25日判決)。説明と同意の記録を残し、株主構成が変わったら見直す
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